甘粕正彦が見た未来がISだった件   作:雨着

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先日発売したイカベイでお気に入りのシーン

クラウディア「そ、そんな……ジャガイモがないドイツ料理なんて何をどうすればいいんですか。それじゃあ礼儀正しいヴィルヘルムみたいで、気持ち悪いことになっちゃいますよっ」
ヴィルヘルム「喧嘩売ってんのかこのやろうッ!」

※久しぶりに甘粕成分があります。ご注意下さい。


第十八話 悩み

 篠ノ之箒は織斑一夏と幼馴染である。

 同時にそれ以上の、つまりは男と女という想いを持っていた。

 

 ずっと幼い頃から抱き続けたそれはしかして当の本人には一切伝わっていない。気づかれないようにした、というわけではないが、しかしそれが織斑一夏という少年である。

 だから彼女は六年前、とある剣道での大会に優勝したら付き合って欲しいという約束をしたことがあった。それは当時今よりもまだ子供だったからこそ言える一言であり、今同じことをできるかと言われれば厳しい。色々と成長してしまった今では羞恥心がどうしても勇気の邪魔をしてしまう。それを言えば、当時の彼女は今よりも勇気を持っていたことになるが、それはまた別の話。彼女が一夏に対して約束を持ちかけたのは、自分が優勝できるからと信じていたところが大きいだろう。過大評価ではなく、それだけの実力を箒は持っていたし、誰もが彼女の優勝を疑わなかった。

 

 だが、彼女は優勝することはなかった。

 何故か。それは彼女の姉、篠ノ之束が原因である。

 

 当時、彼女が発表したISは発表段階ですでに兵器への転用が危ぶまれており、束本人は勿論、彼女の家族は全員保護という形で政府主導の転居を余儀なくされた。簡単に言えば、監視である。独自で兵器を作れる人間を放置するほど日本の政府は平和ボケをしていない。

 そして間の悪いことにその転居を申し渡されたのが、箒の剣道の試合当日だったのだ。

 おかげで箒は参加不可。一夏とロクな挨拶もできないまま、引っ越すことになった。

 その後も重要人物という名目から自由が効かず、一夏とは電話どころか手紙ですら連絡を取ることもできなかった。西へ東へと引越しは続き、落ち着いた時など一度もない。そして、気づけば両親とは離れて暮らすようになり、元凶である姉といえばいつの間にか姿を消していた。それによって箒はさらなる聴取、そして監視が続けられ正直参っていた状態だった。

 

 そんな中で剣道だけは続けていたのは、それが一夏との唯一の繋がりだと思えたから。

 剣道をしてればいつか一夏とまた会えるんじゃないか。そんな淡い希望を抱きながら。

 そして、それは見事に叶った。

 

 

「久しぶり。六年振りだけど、箒ってすぐに分かったぞ」

 

 

 六年という月日が経っていながら一夏は箒のことを忘れていなかった。それがどれだけ嬉しかったか、恐らく一夏は知らないだろう。正直なところ、彼の前で涙を流さなかったのが奇跡だったのだが。

 けれど、再会は良いことばかりではない。一夏は六年という年月の中ですっかり剣道を忘れていた。箒が彼との唯一の繋がりだと思っていた剣道を、だ。それがどうしようもなく悲しくて、悔しくて……だからこそ、彼に稽古を付けた時、箒は少々……というか、かなり乱暴にしてしまった。

 それについては箒自身も反省している。

 けれども、と箒は思う。一夏にも問題があったのではないか、と。

 自分との繋がりである剣道をあっさりやめてしまい、軟弱になった彼は正直見るに耐えなかった。そして何より腹立たしいのはそんな彼の周りに自分以外の少女達がいることだ。

 セシリアに鈴。二人が一夏に想いを寄せているのは箒にはすぐにわかった。何故なら彼女達は自分によく似ているのだから。

 けれども彼女達と箒では圧倒的なまでの違いがあった。

 

 代表候補生であり、一夏と同じ専用機持ち。

 

 その壁はとても大きく、高いものだ。

 練習をするにしても特訓をするにしても専用機を持っていない箒より彼女達の方が断然有利なのは自明の理。そしてそこから交友が深まればそれだけ箒が不利になるのも自然な話だ。

 実際、先日の事件の時、専用機持ちである彼女達は一夏と共に戦っていた。

 それが即ち恋愛に繋がるかと言われれば難しい話だが、しかし共に戦うという意味は大きい。何せ、背中を預け合うのだから。

 一夏と共に戦う彼女達を見て箒は自分がそこにいないことに苛立ちを感じた。

 どうして自分が一夏の隣にいないのだろうか、と。

 だから彼女は叫んだのだ。

 

 

「男なら……男なら、そのくらいの敵に勝てなくてなんとする!」

 

 

 それは彼女なりの声援であり、支援。

 専用機を持たない彼女からしてみれば、それが精一杯。これが単なる試合ならば問題はない。むしろ褒められるべきことなのだろう。

 けれどもそこは戦場。一瞬の油断や隙が命取りになる。

 幸いなことに箒は助かったが、少し間違えば彼女は生きていなかっただろう。

 箒は思った。自分は一夏のためならば命を賭けることができる、と。だからこそ、あんな危険を冒してまで声援にいったのだと。

 けれどもそれが単なる自己満足でしかないことを彼女はすぐに思い知らされた。

 

 

「ウラー・インピェーリア!!」

 

 

 倒したはずのISから出現した化物の暴走。そこは正しく地獄だった。

 専用機持ちである三人がまるで虫のようにあしらわれ、ISが相手だというのに出現した化物はそんなものなど知ったことかと言わんばかりに彼らを蹂躙していった。

 常識から外れ、世界が崩壊した瞬間とも言うべき光景がそこにはあった。

 セシリアが吹き飛ばされ、鈴が戦闘不能になり、一夏もまた化物の攻撃を浴びせられていた。

 助けなければ……その言葉が頭を巡り巡るもしかして箒の体は一向に動こない。否、動けない。当然だ。目の前にある惨状を見てそこに突っ込んでいくことなどできるわけがない。

 何故なら自分は専用機持ちではないのだから。

 何故なら自分は怪物に立ち向かう力を持っていないのだから。

 だから行きたいけれども行けない。行けるわけがない。それが自然。それが当然。何も間違ってはなく、正しい判断だ。

 そのはずだ。そのはずなのに……。

 

 

「馬鹿かあんたはッ、何簡単に諦めてるのよッッ!!」

 

 

 一人の少女がそんな箒の思考を覆す。

 

 

「生き残るのが難しいから? 死んだ方が楽だから? だからさっさと諦める? ふざけるなよボケッ、人生舐めるのも大概にしろッ!!」

 

 

 それは箒のような単なる声援ではない。

 彼女、世良聖はその身で怪物に特攻し、ボロボロになりながら、脅威を理解しても、しかして絶望を瞳に宿していなかった。

 

 

「逃げるな、甘えるな、立ち向かえッ!! 男だろうが女だろうが、関係ない。自分は人間だと言い張るのなら、生きてそれを証明して見せろ、織斑一夏ッ!!」

 

 

 血を流しながらのその言葉に箒は唖然とする他なかった。

 彼女の言葉には重さがある。熱意が、覚悟が、そして決意が篭っていた。あんなものを見せられて、それが単なる言葉に過ぎないと、何の役にも立たない強がりであると断じることなどできるわけがない。

 そして同時に、自分の行動が、言葉が、いかに軽いものなのかを思い知らされた。

 箒のそれは単なる自分の想いを伝えただけ。悪く言えば、ただの一方通行でしかない。相手のことなどお構いなし。自分の想いを口にしただけで、それで何かをやった気になっていたのだ。

 けれど、聖は違う。

 彼女は自らの想いを、決意を、覚悟を示すためにその身体を使って行動に表した。その姿は誰から見ても彼女の想いが本物であり、その上で一夏を導こうとしていたのがわかるはずだ。

 そう、箒と聖の最大の違いはそこだ。

 身体を張って、血まみれになりながらも自らの在り方を見せつける聖に対し、箒がしたことと言えば何だ?

 ただ言いたいことを言っただけ。そんな『空虚』な代物に一体何が宿るというのだろうか。

 

 結局のところ、だ。

 箒は今までただ自分の我が儘を一夏に押し付けていただけだった。

 

「……、」

 

 夕刻の屋上。無言で沈む太陽を見つめる彼女からは近づきがたい空気が放たれている。それだけ真剣、かつ深刻なまでに今の彼女は落ち込んでいた。

 例え幼馴染である少年だとて、今の彼女に近づくのは少々勇気が必要だろう。正直なところ、彼女にとってそれはありがたい。今は誰とも話したくはない。特に幼馴染である少年とは。

 

 しかし、だ。

 

「少し、よろしいかな」

 

 この学園にはそんなものお構いなしに語りかけてくるような馬鹿がいるのだ。

 ふと箒が振り向くと、そこにいたのは威風堂々とした雰囲気を醸し出している少女……否、人間ともいうべき知人が立っていた。

 

「甘粕……」

 

 甘粕真琴。箒のクラスメイトであり、クラス全員にある意味で一目置かれている生徒。

 クラスで最初の挨拶の時の言葉。あれは大勢のクラスメイトの記憶に残っているはずだ。無論、箒もあの時の様子は今でも思い出せる。

 今の世界の在り方についての持論。そしてISを扱う者の覚悟について。言い方としては少々、というかかなりアレだったが、少なくとも箒は彼女の言っていることは間違ってはいないと思った。

 ISをファッションか何かにしか思っていない……そんな連中よりも遥かに現実を見つめ、そしてそれを乗り越えんとする度量を感じさせるのだ。

 それは凄いと思うし、素晴らしいとも取れる。

 けれども、何故だろうか……箒は彼女にどこか近寄りがたい何かも感じていた。

 

「何か用か」

「用。用、か。いや、特にこれと言って私はお前に求めるものは今のところ何もない。ただ、話しかけたのはほかでもない、何やら悩んでいる様子だったのでな。老婆心ながら少々気になったのだ」

「……、」

「余計な世話、だとでも言いたげな顔だな」

 

 不敵に笑みを浮かべる甘粕に箒は少々苛立ちを隠せずにいた。

 

「……悪いが、今は誰かと話す気分じゃないんだ。放っておいてくれ」

 

 突き放すような言葉。大方の人間ならば眉間にしわを寄せることもあるだろうが、生憎と彼女の目の前にいる少女はそんな言葉でどうこうなる人間ではない。

 

「なるほど。一人になって考えたい、ということか。何やら鬱屈している感情があるようだな。だが、お前くらいの年頃の娘ならば、誰でもそういった感情は持つはずだ。特別、どこかおかしなところがあるわけではない。実に健全であり、普通だと感じる」

 

 甘粕の言葉に箒はお前も同い年だろうが……と反論したかったが、ここは敢えて何も言わない。

 

「だが、そんな普通なお前だからこそ、感じている悩みがある……その原因は先日の襲撃事件と関係しているのだろう?」

「っ!? どう、して……」

「お前の様子を見れば分かる。先日の事件から何やら暗い顔ばかりしていたからな」

 

 まるでお前の全てを見透かしていると言わんばかりな口調である。

 そう、この感じだ。

 目の前にいるのは自分と同い年の少女であり、容姿は……認めたくはないが、箒よりも断然大人びている。

 けれども彼女には美しい、とか可憐だ、などという言葉は似合わない。いや、表現的に間違っている、と行った方がいいだろう。

 一言で言い表すのなら、怖いのだ。

 何かとてつもなく大きな存在……それでいてそんな彼女と話していると自分が何かに巻き込まれそうな、そんな危機感。

 

「不躾な問いだとは思うが、敢えて聞こう……何をそんなに悩んでいる? 何か助言を求めるのなら、労は惜しまんが?」

 

 不敵に笑み。けれどもそれは、決してこちらをほくそ笑んでいる、というものではないだろう。

 だが、それを理解した上で箒は未だ拒否の姿勢を崩さない。

 

「結構だ……話したところで、信じてもらえる話ではない」

「信じてもらえない、か。確かにな。その様子で何を話したところで誰もお前を信じようとはしないだろう」

「何……」

 

それはどういう意味だ……そんな視線を浴びせるが、しかし甘粕は全く歯がにしていない。それがどうしたと言わんばかりな表情を浮かべながら甘粕はいう。

 

「どれだけ荒唐無稽な話であろうと、そこに信念と覚悟があるのなら、人は有無を言わず信じるものだ。例えそれが空想上の御伽噺のようなものでもだ。しかし逆を言えば、例え真実であったとしても相手に伝えようという想いがなければ空虚な言葉となり、誰も信じることはない。そして、今のお前は相手に信じてもらおうという気概が全く感じられない。信じてもらえない、とはつまりそういうことだ」

 

 理路整然とした言い分に箒は何も答えられない。口調や態度はいつも通り上から目線のように感じられるが、しかし甘粕の言っていることに間違いはない。

 そう、間違いはないのだ。

 それ故に箒は苛立ちを隠せずにいた。

 

「ま、話したくないと言うのならば無理やり聞き出そうとする程、私という人間も野暮ではない。一人になって黄昏る……ああいいとも。そういう風に静かに考えたい時もあるだろう。否定はせん。好きにすればいい」

 

 そう言いながら甘粕は背を向け、そのまま立ち去ろうとする。

 これで邪魔者はいなくなる。また一人になれる。そもそもそのために箒は甘粕を邪険に扱っていたのだ。故にこれは彼女の思い通りの展開。

 そのはずだったのだが。

 

「甘粕っ!!」

 

 不意が箒は去っていく甘粕の背中に声をかけると彼女はぴたりとその場に止まった。

 

「……一つ。聞きたいことがある」

「何だろうか」

「お前は……自分を情けないと感じたことはあるか?」

 

 箒の言葉にふむっ、と言った具合の表情を浮かべながら甘粕は振り向いた。

 そんな彼女に箒は続けていう。

 

「私は……つい先日、自分が情けない思う出来事にあった。最初は力がないから仕方がないと思っていたんだ。けれど、自分と同じ様に力のないはずの者が、身を挺してまで戦う姿を見て、それが間違いなんだと気づかされた」

 

 それはある種の告白だった。

 抽象的すぎて、事情を知らない人間からしてみれば何を言っているのかさっぱりな話。しかし、そんな箒の言葉を甘粕は笑うわけでも、難しい顔をするわけでもなく、ただ真剣に耳を傾けていた。

 

「同時に恥ずかしいとさえ感じた。自分は自分なりに何かをやった。これ以上できないのは仕方のないことで、当たり前なんだと……勝手に言い訳を並べて逃げていたんだ。それがどうしようもなく悔しいんだ」

 

 専用機を持っていなかったから……そんな理由で箒は何もしなかった。しようと思わなかった。恐怖に震え、身体が動かないのは自然なことなのだと思い込もうとした。

 それが、彼女にとってはとてつもなく屈辱的なものだった。

 

「私は……私は、どうすればいいんだろうか」

「さぁな。知らんよ」

 

 箒の言葉をしかし甘粕は一刀両断で切り伏せた。

 

「おいおい、何をそんなに驚いている。私が何か気の利いた言葉をかけるとでも思ったのか? 悪いが、私は野暮ではないが、気の利いた人間でもないのでな。そもそもすぐに他人に答えを求めるのはいかがなものかと思うぞ? お前、私が何か言えばそれが正解だとでも? それは些か早計であると言わざるを得んな」

 

 二人は違うのだ。人格、趣味趣向、向かっている方向すら異なっている。だからこそ意見が大切だ、という言い分も正しくはあるが、しかし今の箒に何かを言えば、彼女はきっとそのままのことをやるだろう。そこに自分の意思や意見などない。オウム返しのようなやり方では意味がない。

 しかし。

 

「とは言えそちらの質問に答えない、というのは気が引ける。故に最初の質問には答えよう――――無論、情けないと思うことはある」

 

 きっぱりと。何の迷いもなく甘粕は言い放った。

 それはある意味清々しいと表現できるものだった。

 

「私とて人間だ。間違いを犯すこともあれば、恥をかくこともある。それを情けないと思う心も持っている。故に貴様の気持ちが分からないわけではないのは事実だ。だが、私はそこで立ち止まらない。間違いを犯したのならばそれを正せばいいし、恥をかいたのならば次はかかないよう努力するまでだ」

 

 それは当たり障りのない、どこにでもありそうな言葉。実際甘粕にとっても当たり前のことを口にしているにすぎないのだろう。

 けれど、何故だろうか。彼女が口にすることで、とても説得力があると思えるのは。

 

「甘粕……」

「先程も言っただろう。意見を聞くのはいいとしても、他人に答えをすぐに求めるな。悩み、考え、その上で自らの答えを導き出せ。それこそが人間が人間たる証なのだから」

 

 目の前にある獲物に食らいつくことなど獣でもできることだ。

 一つの問いに対し、考えて考えて考え抜く。それができるのは人間だけだ。ならばこそ、甘粕は言うのだ。自分で考えろ、と。

 それはある種突き放したモノと言えるかもしれないが、しかしそれこそが彼女なりの導きと言えるのかもしれない。

 

「……ん?」

 

 甘粕は自分の携帯が鳴っていることに気がつくとポケットから取り出した。そしてそれを見ながら箒に言い放つ。

 

「すまんが電話が入った。私はここで失礼するとしよう」

「ああ……呼び止めて悪かったな」

「何、元々話かけたのはこちらだ。気にする必用はない。それに……良いことを聞くことができた」

「?」

 

 何を言っているのかいまいち理解できない表情を浮かべる箒に対し、甘粕は不敵な笑みを浮かべて告げる。

 

「ではな、ホウキ。お前がお前自身の答えを見つけ出せることを願っているよ」

 

 言いながらそのまま立ち去る甘粕は、最後の最後まで甘粕真琴らしいものだった。

 そんな彼女の背を見ながら、箒は一言。

 

「私自身の答え、か……」

 

 未だ晴れぬ想いと共に呟く言葉は、彼女自身にしか聞こえていなかった。

 

 *

 

 屋上から下りる階段。

 そこでゆっくりと降りていく甘粕は携帯を片手に会話をしていた。

 

「珍しいこともあるものだ。そちらからかけてくるとはな。ああ用件は分かっている。先日の一件はやりすぎだと言いたいのだろう?」

 

『彼女』の言い分は常識的に考えれば一理ある。『彼女』の目的からすれば甘粕が後付けしたアレはあまりにも想定外の出来事だったのだろう。その存在を認識していても『彼女』からしてみればアレは予想外のことであり、それ故に怒っているのだ。

 だが。

 

「しかしな、正直なところを言えば私としてはアレでも少し物足りないと思っている。ああ、勘違いしてもらっては困るが、何もあの時立ち向かっていった彼女……そしてそれに看過された彼らの輝きを侮辱するわけではない。むしろ、その逆だ。彼女、彼らの輝きはあんな程度で評価されるものではない。もっともっと、輝けるはずだ。それこそ、私自身が介入すべきだとも思ったよ」

 

 あの時、あの瞬間、彼女が、彼らが放った輝きは確かに甘粕が見たいと思っていたもの。人間が持つ勇気(ひかり)であり覚悟(きぼう)だ。そして甘粕はそれをもっと見てみたかった。そのためにはもっと過酷な窮地を、試練を容易しておく必要がある。

 そう。例えば甘粕自身、とか。

 だが、それはまだだ。

 

「けれど今はまだ、私が出て行く場面ではない。私はご先祖様と同じでやりすぎるとついやってしまうからな。いやはや、介入したい衝動を押さえつけるのは存外大変だった」

 

 世良聖が言っているように甘粕真琴という少女は馬鹿である。故に歯止めが利かなくなればどこまでも走り続け、突き抜け続けてしまう。それが自分にとっても他人にとってもロクでもないことになってしまうのは分かっていた。

 もしも彼女があの戦いに介入していたら……いやそれは敢えて何も言うまい。

 

「計画を次の段階に移行するか、か。ああ、そうだな。彼女達の実力の確認も取れた。ならば問題はないだろう」

 

 否。この程度で問題があっては困る。

 何せ、先日のアレは単なる序章。前座に過ぎない。

 これから始まるであろう本当の地獄(しれん)を乗り越えてもらうためにも手を抜くわけにはいかないのだ。

 

「ああ、またその内連絡を取るということだな。了解した……ああ、そうだ。一つ言い忘れていたことがある。妹を大事にするのはいいが、あまり過保護にしているとロクなことにはならんぞ。ではな」

 

 言いながら携帯を切る甘粕。彼女には分かっていた。あの瞬間、タイミング良く彼女の携帯がかかってきたことが意味するものについて。恐らくではあるが、甘粕という人間に自分の妹が接触することを心配したため。

 しかし、それは人として当然の行動であり、いくら『天災』であろうと身内のことは感がているものだ。

 だが、時すでに遅し。

 

「束よ……お前の妹も、もしかすれば見所があるかもしれんぞ?」

 

 既に『天災』の妹は馬鹿の標的となっていたのだから。




甘粕成分足りてますかね? 足りていると信じたい……。
はい、というわけで今回は箒がメインでした。色々と影が薄かったので、今回はメインを張らせてもらいました。これで彼女にも今後何かしらの影響があると信じたいですね……。
そして本当は乱入したかった馬鹿、もとい甘粕。彼女の性格からしてみればそれが自然だと思うんです。
さて、次回からは二巻突入……と言いたいですが、その前に番外編らしきものを書きたいと思います。
それでは!!

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