甘粕正彦が見た未来がISだった件   作:雨着

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久々の投稿……だというのにISが全く関係ないとは、これいかに。
※今回の話は本編と一切関係ない……であろう話。所謂IF話、番外編です。ご注意下さい。



番外編 あったかもしれない過去

「神様。私は決して、貴方に慈悲を請いたりはしません」

 

 かつてそんなことを誓った少年がいた。

 やがて少年は青年となり、青年は男となり、男は王となった。

 王は兵士達に、戦士達に言う。

 

「戦え、皆戦え、皆、神のために戦え。

 神は助けを乞う者を助けたりしない。

 慈悲を乞う者を救ったりしない。

 それは祈りではなく、神に陳情しているだけだ、死ねばよい。

 戦え、皆、戦え。戦いとは祈りそのものだ。

 呆れかえる程の祈りの果てに神は降りてくる、神の王国(エルサレム)は降りてくる!

 百人のために一人が死ね、千人のために十人が死ね、万人のために百人が死ね。

 ならば億土の神の世界のために この私の小さな世界が燃え堕ちても、その果てに神は降りてくる、それは私の祈りの果ての神の王国だ。

 皆で戦え、裂けて砕けて割れて散る、戦い(いのり)戦い(いのり)戦い(いのり)の果てに、惨めな私の元に、哀れな私達の元に、馬の群れのように、神は降りてくる! 天上から!」

 

 そして王は戦い続けた。

 戦って戦って戦って戦って戦って戦って戦って戦って戦って戦って戦って戦って戦って戦って戦って戦って戦って戦って戦って戦って戦って戦って戦って戦って戦って戦って戦って戦って戦って戦って戦って戦って戦って戦って戦って戦って戦って戦って戦って戦って戦って戦って戦って戦って戦って戦って戦って戦って。

 幾千、幾万の屍の山を作り、鮮血の河を流しながら、それでも彼は戦い続けた。

 その闘争(いのり)がいつかきっと神に届き、自分達の下へやってくると信じて。

 けれどその果てにあったのは楽園でも、神の降臨でもない。

 

 死。

 

 皆、死んだ。

 皆、死んでしまった。

 彼のために。

 彼の信じるもののために。

 彼の楽園のために。

 彼の神様のために。

 彼の祈りのために。

 皆、死んでしまった。

 

 狂った王は、もはや王ではなかった。

 神の従僕ですらない。

 いや、もはや人間とも呼べない存在。

 敵を殺し、味方を殺し、守るべき民も治めるべき国も、男も女も老人も子供も、そして最後には自分までも。

 

 けれど、その瞬間においても彼は自らの人生を受け入れることはできなかった。

 終わらない。自分は、こんなところでは終わらない。しかし、現実は彼の死へと刻々と迫りつつある。

 直前の死。それは彼にとって変えようがない真実であり、事実だ。

 しかし、それでも。

 それでも、あきらめを踏破するのなら……。

 

 *

 

「――――馬鹿な」

 

 目の前にある結末を見せつけられて、幽雫宗冬は瞠目していた。

 そこにあったのは戦真館の第四層(ギルガル)突破の光景。本来ならば、柊四四八を含めた七人が最後の一人になるまで殺し合う。それが第四層の突破の条件であり、それを覆すことは不可能。何故ならば、それが本来歴史に沿った流れだからだ。

 けれど、彼らが出した答えは違う。

 仲間を殺すこと、殺されることを『逃げ』だと断じ、信じることを選んだ。

 そして、その当事者である宗冬は思う。

 有り得ない、こんなこと。茶番にも程がある、と。

 行動だけを見るならば彼らは何もしていない。あの状況で何もしないというのを選択するのがどれだけ困難かは分かっているが、それで道が開けるとでも? ふざけた話だ、そんなものは子供の理想(たわごと)でしかないだろう。

 

「確かに、甘ったるい話ですわね。まったく趣味ではありません」

 

 まるで興味が失せたかのような言葉を呟く百合香。

 

「彼らがどう堕ちるのか……わたくしはそれが楽しみだったのですが」

 

 何とも悪趣味な言葉。それを口にすると同時百合香はちらりと宗冬を見る。この家令と同じ選択をされてはそれはそれで困るが、だからといってこれはまた別だ。想像異常に拍子抜けである。まるで辛い料理を食べていたというのに、途中で甘ったるい蜂蜜を上からぶちまけられた気分だ。

 

「それに、そもそも歴史の分岐という面から見ても筋が通っていない。現実にあのような目にあったとき、何もしなければ助かるとでも? 有り得ない話ですよ。現実において致命傷は消えたりしないし、襲撃者もまた消えはしない。夢だから罷り通った非日常を未来へ繋がる選択だとは認められませんよ。破綻しています。

 正直申しまして、失望を禁じ得ません。無論あなたに対してです、狩摩殿」

 

 深く嘆息するように百合香は声を落としていた。言葉通り、そこにはあからさまな失望の念が滲んでいる。

 だが、それとは対象的に応える者は陽気だった。

 

「そうかいのう。確かに臭い落ちじゃったのは否めんが、俺はどうして気に入っちょるよ。そがァに目くじら立てんでもええじゃない。

 あんたァ、俺がなんぞ弄ったせいじゃ言いたいみとォなが、そりゃあ下種お勘繰りよ。こっちはなんもしとらんっちゅうに」

「誓って、ですか?」

「応とも。だいたいこの邯鄲は俺が絵図描いたもんじゃなかろうが。設定したのは“あいつ”じゃし、なら必然“あいつ”の趣味よ。なんともやりそうなことじゃないか? 好きじゃけえのォ、あれは愛じゃ勇気じゃいう青いもんが。それを守ろういうんが奴の理想(ぱらいぞ)―――なら小僧どもは資格ありじゃ、ちゅーて俺は思うが」

「…………」

「納得いかんかい、お嬢? じゃったらどうする?」

 

 それは挑発の一種、だろうか。距離を隔てた四年だけの、互いに顔を合わせない会話の中に、壇狩摩は面白おかしいと言わんばかりの稚気と、抉るような殺意を込めて言葉を継いだ。

 

「ここで俺と戦ってみるか? そういう話じゃったもんのォ、俺の手が理解できんようになったら敵同士じゃゆうて。どうするんなら。あそびたいんならこっちは別に構わんでよ。なぁ、幽雫ァ」

「待ちなさい」

 

 その言葉は狩摩に対してのものではない。今にも抜刀しようとする宗冬を抑えるためのもの。

 百合香はそのまま小さな溜息をついて、やれやれと首を振った。

 

「分かりました。あなたの仰ることももっともです。非礼をお許しください、狩摩殿。確かにあの御仁の好みではありそうです。そしてだからこそ、四四八さんたちに賭けてみようとしたのはわたくし。道理が立たないのはこちらのほうでしたわね……ただし」

 

 椅子の背もたれに身を預けつつ一拍置いて、刺すように百合香は続けた。

 

「あなたはこれで終わりと思っていますの?」

「んなわきゃあるかい」

 

 問いに、返事は即答だった。並外れた空間支配を成す身として、超絶した視力を四四八に注ぎながら、壇狩摩は嗤う。

 

「見とけやお嬢、甘粕っちゅう男を舐めたら死ぬで。あれは気に入った奴にこそ、洒落にならん真似をする男じゃ」

 

 勇気が見たい。

 愛がみたい。

 その輝きに誰よりも何よりも魅せられている者だからこそ。

 

「試練、試練の釣瓶打ちよ」

 

 言って狩摩は、何かを予言するかのように煙管の煙を虚空に吐いた。

 

「……では、あなたは彼女が来ると考えておられるのですか?」

 

 柊四四八達は第四層を超えた。ならば、次にたどり着くのは必然的に第五層(ガザ)である。

 そして、この邯鄲の夢において、ほとんどの勢力が知っていること。第五層には『鋼牙』、キーラ・ゲオルギエヴナ・グルジェワがいる。

 自らの縄張りに入り込まれて、あの人外が黙っているわけがない。

 故に試練とやらを推察するに、次の敵はキーラであると百合香は考えたのだが……。

 

「さぁてのォ。そこまでは俺にも分からん。五層にいるのが『鋼牙』だけならそうじゃったかもしれんが……何せあそこにはもう一人、厄介な男がおるけぇ」

「……あの方ですか」

 

 失念していたかのように百合香は呟く。

 そう。五層にいるのは『鋼牙』だけではない。それ以上に厄介な、それでいて恐ろしい男が存在していた。

 その男の名は―――――。

 

 *

 

 その時、男は夕景の処刑台に立っていた。

 見渡す限りは血、血、血。屍体は山の如く積まれ、もはやそこからは生の気配は一切感じられない。しかし、不思議と嫌悪を抱くこともなかった。

 あるのは何もかもを失ったという虚無感のみ。

 そう。ここは彼が何もかもを失い、そして誕生した光景であり、記憶。

 

「青いな」

 

 その言葉はこの景色に対してのもの、ではない。

 彼は見ていたのだ。百合香や狩魔と同じ様に、そしてどこかでこれを眺めているであろう『あの男』と同じ様に、戦真館の試練突破をその目に刻み込んでいた。

 その決着は、彼にとってもあまりに都合の良すぎるものだと言わざるを得ないものだ。戦場という戦場を駆け抜け、闘争という闘争にその身を投入していった彼にとってはその選択は甘すぎる。百合香が言っていたように、この結末はあまりに現実離れしすぎだ。

 彼ら戦真館がとった行動は男からしてみれば、単なる戦闘放棄に他ならない。

 他者を信じる? 殺すことが逃げ?

 馬鹿な、そんなものはただの妄想。仲間を殺したくないというだけの詭弁だ。そんなもの、現実の戦いにおいては何の役にも立たない。むしろ、思考を停止しているだけであり、そういった者から死んでいくのが戦争というものだ。

 その相手が非日常ならば、尚更のこと。

 

「しかし、彼らは試練を乗り越えた……か」

 

 その理由は言わずもがな。狩魔が言っていたように、『あの男』が好きそうな展開だから、だろう。なるほど、言われてみれば確かに『あの男』が好きそうな展開ではある。仲間を信じ、友を信じる。ああ、そうだ。あの男が見たがっていた物に他ならない。

 故に彼らは試練を乗り越え、踏破した。

 けれど、それは計算されたものではない。今の彼らは『あの男』の存在すら知らない状態。ならば、何が正解なのか分からないはず。いや、そもそも彼らは自分達が何を乗り越えたのかも自覚していないはずだ。

 であれば、これはあまりにも都合が良すぎる結果というもの。

 言ってしまえば、彼らは数学の問いに答えしか返していないのだ。その過程を一切記さず、ただ己の勘だけで答えに至ったようなもの。

 幸運。偶然。そう断じられても何も仕方のないものなのだろう。

 そして、男は疑問を生じさせる。

 果たして彼らは、本当に何の勝算もない信念に殉じたというのか。

 そんな問いを考えついたところで、男は呟く。

 

「いかんな……柄にもなく、考えにふけるなどとは」

 

 言いながら自嘲の笑みを浮かべる。 そうだ。そんなことをする必要はない。そんなものは無駄であり、何より自分らしくない。

 自分は怪物だ。どうしようもない化物だ。戦いの中でしか、自分という存在を見いだせない人外だ。そんな自分が生じた疑問を一人考えたところで何になるという。それで納得する答えが得られるとでも?

 否、断じて否だ。

 ならばどうするか。

 

「私は化物だ……ならば、化物らしく、闘争の中で答えを見出すとしよう」

 

 瞬間、世界が一変する。

 まるで紙のドアでも切り破るかのごとく、夕焼け空の地獄から戦真館のグラウンドに男は舞い降りた。そしてそこには散り散りの状態から集まった戦真館の七人が。

 彼らの驚く顔を見ながら、男は不気味な笑みを浮かべた。

 

 こうして第二幕の……否、本当の試練が介入する。

 

 *

 

 四四八がグラウンドに集結するのに、然程時間はかからなかった。

 唐突に襲いかかってきた謎の現象。そこから脱した彼らは異常が去ったことを認識した直後に集まったのだ。幸いにして誰も怪我をしておらず、安堵の息を吐けるかに思えた。

 しかし、現実……否、この夢はそんなに甘くはなかった。

 グラウンドに集まった彼らの前に現れたのは一人の長身の男。

 赤いロングコートと同じ色の大きな帽子。それだけでも異様だというのに、男から感じるのはそれ以上のモノ。恐怖。そう、これは恐怖だ。目の前にいる得体の知れない存在に、四四八や他の者も危険だと感じているのだ。

 

「四四八君……」

「ああ、分かっている」

 

 四四八は理解していた。目の前にいるのが、敵であるということを。そして同時にどうしようもなく強い敵であるということも。

 しかし、ならばこそ、四四八は問いを投げかける。

 

「あんたは、一体何者だ」

「私か? 何、私は単なる化物だよ」

 

 あっけからんと。そんなことを口にする男は本当にそれが当然だと言わんばかりのものだった。なるほど、確かにこの夢の連中は誰も彼もが異常であり、怪物的な力を持っている。しかし、男の言葉はそういうものを言っているのではない。正真正銘、自分は化物だと確信して言葉にしている。

 そして、それが戯言ではないことを四四八は男の纏う空気で理解した。

 

「単なる化物か。それで、その化物が何の用だ」

「何の用? 何の用だと? 決まっている。人間と化物が合間みえた。ならば闘争以外に何があるという?」

 

 正体不明の男は不敵な、不気味な笑みを浮かべながらそんな言葉を口走る。

 何を馬鹿な、とこの場にいる誰もが思ったことだろう。しかし同時に理解する。目の前の男は本当にそれだけの理由でこの場に立っているのだと。先程から空気を伝って肌を刺激する凄まじい殺気。それによって恐怖が駆り立てられているが、彼らはそれを何とか押さえ込んでいる。

 何故、何が、どうして……疑問はいくつも出てくるが、この相手はきっとまともには返してはくれはしないだろう。そんな理由もない確信が、四四八達の中にはあった。

 だが、意外にも戦闘は即座にはやってこない。

 

「しかし、ああそうだな。一つ聞きたいことがある」

「聞きたい、こと……だと?」

「何故、殺すことを選択しなかった?」

 

 唐突な質問に言葉を失う四四八。そんな彼に追及するかの如く、男は言う。

 

「お前達は戦うはずだった。殺し、打ち倒し、朽ち果てさせるために。殺されに、打ち倒されに、朽ち果たされるために。そのはずだ。そのはずだった。それが闘争の契約。そして弱いカードにかけたものは死ぬ。殺される。惨殺される。そうならなければならない。殺し、殺されなければならない。それを違えることはできないはずだ。あってはならないはずだ。誰にもできない唯一の理のはずだ。神も悪魔も私もお前達も」

 

 だというのに、彼らは生き残った。

 

「何故だ、何故お前達は生きている? 友を信じた? 仲間を信じた? 戯言だ。そんなものは戦の中では何の役にも立たない。お前達は殺すことを選択しなかった。それは諦めだ。生きることを諦めた選択だ。そんな選択は断じて認めない。認められるわけがない。諦めが人を殺すのだ。諦めを拒絶した時、人間は人道を踏破する権利人となるのだ。だが、その逆は有り得ない。諦めが人を生かすことなど、断じて有り得ない。許されないのだ」

 

 死ぬか生きるかの場面において生きることを諦めた人間から死ぬのは自然の摂理。その見解からすれば、確かに四四八達がとった行動は生きることを諦めた選択と言えるだろう。

 彼らが生き延びたのが『あの男』の好みの選択だったからというのは男も理解している。だが、納得しているわけではない。むしろ逆。そんなものは断じて認めない。そんな甘く、青く、軽い選択が道理になるというのは自分が味わってきた闘争への侮辱に他ならない。

 故に男にとって四四八達の選択は自分への宣戦布告に他ならない。

 だから彼はここへやってきたのだ。

 

「さぁ。答えろ、人間っ!!」

 

 男の殺気立った問いかけ。

 そしてその数秒後。

 

 

 

「誰が、諦めただと?」

 

 

 

 そんなことを口にしながら前に出たのは四四八だった。

 得体の知れない化物。恐怖を感じさせる怪物。殺気を放つ人外。そんなモノに対して、しかし彼は怯むことなく男の前へ立った。

 その瞳に迷いはなく、恐怖もない。

 

「勝手なことを言ってくれるな。確かに、何度も諦めかけたことはある。ここは現実とはかけ離れた場所だ。死にそうになったことももう二度程体験している。だが、それでも俺達は諦めたことはない。だから今、こうしてここにいるんだ」

「……っ」

 

 四四八の言葉はやはりというべきか、迷いがない。その言葉には嘘偽りが存在しない。自分の発現に自身を、信念を持っていることを男は確かに感じ取った。

 それがまるで、誇りであるかのように。

 正直に言えば、男にとってその発現はあまりにも予想外なものだった。

 

「そうだぜ。全くよぉ、諦めた諦めたって好き放題散々言いやがって。確かに俺は諦め癖がある奴だよ。でもなっ! 生きるか死ぬかの場面でさっさと自分の命を諦めるような真似はしたことはねぇ!! そんな奴は男って言わねぇんだよ―――覚えてろッ」

 

 しかもそれは四四八だけに留まらない。

 

「そういう言い方、腹立つなあ……男女関係なくない、こういうのって」

 

 一人、また一人と彼らは男の前へと立ち塞がる。

 

「栄光の馬鹿はいつものことだし。馬鹿男はまあ……場合によっちゃ可愛いけどよ」

 

 男にはそれが理解できなかった。彼らは一体どういう気概で、どういう勇気で、男の前に立っているのだろうか。

 

「そもそも、勘違いしてるよね、貴方」

 

 彼らは今日という日まで夢の中で訓練をしてきた少年少女達だ。しかし、だからと言って男のような化物と戦い慣れているわけでないはずだ。

 

「龍辺の言うとおりだな。勝手に自分で解釈してべらべら一人語りしてんじゃねぇぞ」

 

 訓練をしたからと言って死の恐怖を克服できているわけではない。実際の年数で言う半年程の訓練など、たかがしれているはずだ。

 

「そんなに自分の価値観を押し付けたいんなら他所でやってちょうだい。そんな一方的な価値観、ごめんよ」

 

 なのになぜ、恐怖を前にして雄々しく吠えることができるのだ? あまつさえ、その瞳に希望という名を光を輝かせているのだ?

 わけがわからない。理解不能だ。そうなるのは彼らの方であって、男ではないはずだ。正体不明の恐怖を前に、

怯え、震え、逃げ惑う。それが普通。それが当然。

 だというのに、彼らはその真逆。立ちふさがり、立ち向かおうとしている。

 そして、そんな彼らの姿は男に戸惑いと疑問を生じさせる。

 

「勘違い、だと……? 私が一体、何を勘違いしていると?」

 

 男の言っていることは事実のはずだ。この世の理であり、絶対だ。これを否定することは誰にもできないはずなのだ。それが例え神であったとしても。

 しかし。

 そんな男の考えに四四八は真っ向から対峙する。

 

「俺達はあの時、確かに互いを殺さないことを選択した。だがそれは生きることを諦めたからじゃない。互いを信じることを諦めなかったんだ」

「……自らの死を前にしながらも敵を殺さない。それは、生きることを諦めたのと何が違う」

「ああ、違うさ」

 

 男の言葉に四四八ははっきりと断言した。

 

「確かに死地の中で生きるために相手を殺すことはある。それは戦場においての必然だ。それを否定するほど、俺達も物分りが悪いわけじゃない」

 

 だが。

 

「それでも、それを当たり前のことだと納得するほど、聞き分けのある性格はしてないんだよ」

「詭弁だな。若く、そして青い」

「ああそうだ。俺達は若く、そして青臭い。戦場を経験した、なんてことは言えないし、未だに知らないことも多いだろう……けれど、だからこそ、俺達は俺達の意思を貫く。例えどんなことが起ころうとも、友を信じ、仲間を信じる。それが俺達の戦の真だ」

 

 瞬間、男の中の何かに戦慄が走った。

 目の前にいる少年は確固たる意思を持って男と対峙している。感じているであろう恐怖を抑え込み、その上で自らの信念を貫き通すために。

 友を信じ、仲間を信じる……それはかつての男の通った道とは真逆のもの。何もかもを殺して殺して殺し尽くした彼とは正反対の生き様。

 それは青く、甘く、若く、未熟。

 けれども一方でどうしようもなく眩しく、男にとっては輝かしいものでもあった。

 しかし、だ。

 それを認めることは、男にはできない。

 何故ならば自分は化物だから。人間と化物は相反する存在。心から認めているが、認めるがこそ、拒絶しなければならない。それが人間と化物の争いなのだから。

 そして同時に思うのだ。

 彼なら、彼らにならば……■されてもいいかもしれない、と。

 

「よかろう。ならば、その戦の真とやらを見せてみるがいい」

 

 もはや対話はそこまで。

 そも、最初から対話で終わるとは誰も思ってなどいない。会話はあくまで意思確認。それが確認できたのならば、その後にやることなど一つしかない。

 男は満月に背を向けながら、両手を広げ、声高らかに宣言する。

 

「大英帝国王立国教騎士団―HELLSING機関―ゴミ処理係。アーカード

 ――――――準備はいいか? 戦真館」

 

 そうして。

 戦真館と化物の闘争が始まった。




というわけで、「もしもアーカードの旦那が邯鄲の夢にやってきたら」の回でした。
色々と仕事やらなんやらで忙しくて本編書く気力が無くて気分転換に書いたものを投稿させてもらいました。
……ええ、色々と言いたいことはあるでしょうが、そこは感想で受け付けます。
だがしかし、私は後悔していない!!(黙れ

次回からは2巻に突入する……はず……だといいいなぁ。
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