甘粕正彦が見た未来がISだった件   作:雨着

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※今回は一夏の視点です。ご注意下さい。


第二十一話 努力

 シャルルとラウラ、二人の転校生がやってきて早五日が経った。

 

 相変わらずというか、当然と言うべきか、聖とラウラの距離は一向に縮まることはなかった。聖の対人能力が低いこともあるが、やはりラウラが全くと言っていいほど心を開かないという点が大きいだろう。それでもラウラの面倒を見ようとあれこれ試行錯誤する聖をどこぞの馬鹿は不敵な笑みで見ていたのは言うまでもない。

 一方のシャルルと一夏はというと。

 

「なるほど……えっとね一夏。一夏がオルコットさんや凰さんに勝てないのは、単純に射撃武器の特性を把握してないからだと思うよ」

「そ、そうなのか? 一応分かっているつもりだったんだが……」

「分かっている、というより知ってるだけ、みたいなことかな。さっき僕と戦った時もほとんど間合いを詰められなかったよね」

「うっ……確かに」

「まあ、白式は接近戦のISだからね。使わない武器に関して疎かになっちゃうのも仕方ないかもしれないけど、でもだからこそ射撃武器の特性を把握しないと対戦じゃ勝てないよ。特に一夏の瞬時加速って直線的だから反応できなくても軌道予測で攻撃できちゃうから」

「直線的……つまり、動きが単純ってことか?」

「そういうこと。ああ、でもだからと言って瞬時加速中に無理に軌道を変えたりはしないことをオススメするよ。空気抵抗とか圧力で機体に負荷がかかっちゃうし、最悪骨折とかしちゃうかもしれないから」

 

 などとアドバイスを貰える程の仲になっていた。

 男同士、だからだろうか。今まで女性ばかりだったため正直気を遣っていた一夏であったが、シャルルに対しては同性という理由からあまり気を使わなくていいため、気さくな関係に落ち着いた。おかげでここ五日間、一夏とシャルルはいつも一緒にいるような具合だ。

 

「そうか。じゃあどうすれば……」

「そうだね……例えば銃を扱う人の立場を考えてみようか。どんな姿勢なのか、どうやって撃つのか、安定させるにはどうしているのか。どんな動きが狙いやすいのか……相手の行動原理をより理解しておけば、それが相手の弱点を見つけることに繋がるんだ」

「えっと、つまり今ので言うと射撃をされにく位置とか、狙うことができない動きが分かるってことか」

「そう。さっきも言ったけど一夏のIS、白式は接近戦のISだからね。まずはどうやって近づくか、それを考える必要がある。そのためにも回避のタイミングや動きはしっかりと覚えておいたほうがいいよ」

 

 シャルルの説明に「なるほど……」と呟く一夏。彼の言葉はとても分かりやすい。特に一夏の周りにいる三人に比べれば遥かに、だ。

 何せ彼女達の説明はというと……。

 

『こう、ずばーっとやってから、がきんっ!どかんっ!という感じだ』

『なんとなくわかるでしょ?感覚よ感覚。……はあ?なんでわかんないのよバカ』

『防御の時は右半身を斜め上前方五度傾けて、回避の時は後方へ二十度反転ですわ』

 

 ひどい、の一言だ。

 一人は効果音ばかり、一人は感覚という勘、一人は理路整然としすぎている。

 彼女達の実力は確かなのだろうが、しかしそれがつまり人を教えるのに長けているわけではないのだ。

 

「そういや世良も射撃武器を回避したりするのはすげぇ上手かったな。やっぱり射撃武器の特性ってやつを熟知してるからなのか」

「世良さんって、あの金髪の小さな子? 確かオルコットさんと模擬戦をしてかなりいいところまで追い詰めたって聞いたけど……そういえば、この前の実習の時も他の子達と比べてISの操縦に手馴れてたよね」

「まぁな。多分、代表候補生並みに強いと思うぞ」

 

 軽い感じで口にする一夏であったが、実際その言葉に嘘はないと確信している。

 それは代表候補生であるセシリアを追い詰めたというだけでなく、世間や学校関係者には一切知られていない、あの奇妙な戦い。その中で一番活躍したのは言うまでもなく、聖だ。あの戦いぶりを見れば彼女が代表候補生となり、専用機を持ったとしてもなんの不思議もないと一夏は考えている。

 

「今の俺じゃあ、あいつには勝てないと思うし」

「ふーん……」

「? どうしたんだ、シャルル」

「いや、一夏がそこまで言うんだなぁと思って。オルコットさんや凰さんに対しては現状勝ててないけど、『勝てない』なんて断言してないでしょ?」

 

 確かにそうである。

 一夏はセシリアや鈴に未だまともに勝利していない。それどころか最近では練習でボコボコにされるのがオチとなっている。が、それでも自分が「あいつらには勝てない」と口にしたことは一度もなかった。

 セシリアと鈴。彼女達と聖に違いがあるとすればそれはやはり一つしかない。

 

「あいつは、その、何というか、ISの技術だけじゃなくて、人間としても強いからな」

「人間として……強い?」

 

 首を捻りながら復唱するシャルルに「ああ」と言いながら一夏は言う。

 

「あいつの諦めの悪さは天下一品だ。俺も根性はある方だと思ってたけど、あいつに比べたら全然だって思い知らされて……そんでもって教えられたんだ。諦めないことの大切さを」

 

 命の危機。その状況に陥った瞬間、一夏は何もかもを諦めかけた。

 しかし、それを叱咤し、その上で自分に立てと言う少女の背中を見た。

 分からないのなら、見せてやる……そう宣言した彼女の背中は小さく、けれどもどこまでも大きく見えたのだ。

 

「正直、俺はあいつと比べてまだ何もかもが足りてない。唯一優ってることがあるとすれば、専用機持ちってことくらだ。といってもそれもあいつの前では何の意味もない。知識が努力が、そして何より気概が俺には全くないんだ」

 

 しかし。

 

「このままじゃいけないとも思ってる。何もしないで、負けているのが当然だなんてこと、許容することはダメだんだ。それじゃああいつが示してくれたことの意味がない。だから、俺はいつかあの小さな背中を追い越したいと思うんだ」

 

 皆を守る。それを実現させるには、あの背中を追い越さなければ到底無理な話だ。誰かを守ると言うのに、守られていては話にならない。

 しかし、今の一夏にその力はない。

 だからこそ、強くなる努力をしなければならないのだ。

 

「……あ、悪い。変な話しちまったな」

「ううん、そんなことないよ。一夏が強くなりたいっていうのはよく分かったし……でも」

「? でも、何だ」

「え……あ、いや、別に何でもないよ。話は元に戻るけど、一夏は射撃についての知識と経験が必要だと思う。ということで、とりあえず射撃の練習をしてみようか」

 

 などと言いつつはぐらかしながらシャルルは一夏に、五五口径アサルトライフル《ヴェント》を手渡す。本来ならば他の者の武器を使用することは不可能であるが、所有者が使用許諾(アンロック)すれば、登録してある者全員が使用可能となる。

 渡されたヴェントを構える一夏。

 

「こ、こうか?」

「えっと……脇を締めて、それから左腕はこっちで――――」

 

 剣道をいくらかしてきた一夏であったが、銃を持つなどということは今回は始めて。そんな彼が基本的な銃の構えなどから四苦八苦するのは自明の理というものだろう。そんな彼に対し、シャルルはできるだけ分かりやすく丁寧に教えていく。

 そして実際に撃ってみるとその衝撃と感覚に驚きとある種の感動を覚えた。

 

「おお、これが銃で撃つってことなのか」

「感想はどう?」

「何というか……色々言いたいけど、一言でまとめると、速いって感じだな」

「そう、弾丸は速いんだ。一夏が使う瞬間加速も速いけど、弾丸はもっと速い。面積が少ないからね。大抵は軌道予測さえ確実なものにできれば、簡単に命中させられるし、外れたとしてもある種の牽制になる。一夏は特攻するときに集中してるけど、それでも心のどこかではブレーキがかかってるはずだよ。でも、銃弾にはそんな迷いは存在しない」

「なるほど……ブレーキが存在するから、間合いが開くし、続けて攻撃されるのか……」

「そういうこと。あっ、そのまま使い続けて。マガジン使い切るまで撃ってみようか」

 

 サンキュー、と言いながら一夏は打ち続ける。そして、全てを使い切った時、息を吐きながら呼吸を整えた。手から全身へと伝わる衝撃は、剣とはまた別物であった。

 

「そういえば、シャルルのISってリヴァイヴなんだよな」

「うん。そうだよ」

「前に世良もリヴァイヴを使ってたんだが、だいぶ違うように見えるんだけど……」

 

 聖が使用していたものはネイビーカラーに四枚の多方向加速推進翼(マルチ・スラスター)が特徴的なシルエットをしていた。しかし、シャルルのものはカラーはオレンジ、そして全体のフォルムにしてもかなり違う。

 背中に背負った一対の推進翼は中央部から二つの翼に分かれるようになっていて、より機動性と加速性が高くなっている。また、アーマー部分も聖や麻耶が使用していたものよりも小さくなっている上、マルチウェポンとして大きなリアススカートがついている。そこにも小型推進翼がついていていた。

 そして大きく異なる点。肩部のアーマーだ。本来ついているはずの四枚の物理シールドが全て取り外されている。その代用としてなのか、左腕にシールドと一体化した腕部装甲が付けられていて、逆に右腕は射撃の邪魔にならないためなのか、すっきるとしてスキンアーマーだけになっている。

 

「ああ、僕のは専用機だからね。学校で借り出される物とは違って、結構いじってあるよ。正式には『ラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡ』っていうのがこの子の名前。基本的な装備を外して、その上で別の装備を色々と付け加えたんだ。例えばこのシールドとか―――――」

 

 などと自らのISの装備について語りだしたシャルル。自分で自分のISをいじれるというのは一夏にはできないことだ。故にそれが可能なシャルルは凄いのだな、と一夏は素直に思った。

 自分もどこか拡張などできる部分はあるだろうか……そんな疑問が頭をよぎったその時。

 

「ねぇ、ちょっとアレ……」

「ウソッ、ドイツの第三世代型じゃない」

「まだ本国でのトライアル段階だって聞いてたんだけど……」

 

 突如としてざわつき始めるアリーナ。何事かと思い、一夏はふと皆の視線がある方へと目をやった。

 

「…………」

 

 そこにいたのは黒いISに身を包んだ一人の銀髪少女。

 もう一人の転校生、ドイツ代表候補生ラウラ・ボーデヴィッヒだった。

 

「おい」

 

 冷たく、そして端的な一言が一日に迫る。

 

「……何だよ」

「貴様も専用機持ちだそうだな。ならば話が早い。私と戦え」

 

 突然な提案、というか一方的な言葉に一夏は一瞬驚くもしかし視線を逸らしながら返答する。

 

「断る。理由がねぇよ」

「貴様にはなくても私にはある」

 

 その言葉に一夏は何となくその理由とやらに思い至る。

 織斑千冬、ドイツ。この二つの単語で連想されるものは一つしかない。

 そして、その予感は的中した。

 

「貴様が……貴様の存在が、教官を栄光を地に追いやった。貴様がいなければ、教官が決勝を棄権することもなく、大会二連覇という偉業をなしとげることができたはずだ。なのに……」

 

 苦虫を噛むような表情で睨みつけてくるラウラ。その視線、その言葉に一夏は何も返す言葉がない。

 ラウラの言葉は正しい。その通りだ。一夏という存在が織斑千冬の足を引っ張ったのは言い訳の余地もなく、弁解の仕様もない。

 わかっているし、理解もしている。

 けれども、だ。

 

「……お前の言う事は尤もだよ。でも、それはそれ、だ。ここで今すぐ闘う理由にはならない。それに、今戦わなくてももうすぐクラスリーグマッチがある。その時に決着をつければいいだろ」

「……どうしても、ここで今、戦う気はないと?」

「ああそうだ」

「……ふん。そうか……ならば、戦わざるを得ないようにしてやる!」

 

 張り詰めていた空気が一変。

 言うが早いか、ラウラが身に纏う黒い重装甲のIS。それを戦闘状態へとシフトさせ、左肩に装填された大型の実弾砲が火を噴こうとした瞬間。

 

 一発の弾丸が、ラウラの大型実弾砲に直撃する。

 

「……何また馬鹿なことやってんの、あなたは」

 

 見るとそこにはリヴァイヴに搭乗し、銃口をラウラに向けている聖の姿があった。

 

「貴様……」

「こんな密集空間で、そんなどでかい一発を放とうとするなんて、どういう神経してんのよ。っていうか、この状況で戦闘しようとか、何考えてんのよ。ちょっとは頭を冷やしたらどうなの」

「余計な世話だ。大体、貴様こそ頭の方が回っていないのではないか。たかが量産品風情で私の前に立ちふさがるとは」

「別に。あなたとやり合うつもりは毛頭ないわ……けど、前にも言ったけど、私は織斑先生にあなたのことを頼まれたの。だから、これ以上勝手をやるつもりなら……相手をしてあげてもいいわよ」

 

 互いの視線が激突し合う。

 殺気、というものが確かにそこにあるのだと一夏は理解した。そして同時に、自分では二人の間に割り込んでいく、ということができないことも自覚した。そんなことをしたところで、状況を悪化させるだけだということくらい、一夏にも分かる。

 まるで張り詰めた糸がいつ切れるのか分からないその状況は、しかして第三者の手によってすぐさま抑えられる。

 

『そこの生徒!! 何をやっている!! 学年とクラス、出席番号を言え!!』

 

 アリーナに響き渡る女性の怒声。声からして、大人……つまりはアリーナの担当教師といったところか。

 横槍を入れられたせいだろうか。ラウラは「ふん」といいながら自らのISを解除する。

 

「……今日のところは引くとしよう。だが、織斑一夏。私はお前の存在を決して認めない。それを忘れないことだ」

 

 そして。

 

「世良聖、といったか。今度また私の邪魔をするというのなら、その時は貴様も一緒に潰してやる」

 

 そう言い残すとアリーナゲートへと去っていく。その様子を見終えると聖はふぅ、と息を吐き難しい顔付きになっていた。

 そんな彼女を見て一夏は。

 

(また、助けられちまったな……)

 

 そんな事を心の中で呟きながら、己の無力さに拳を握り締めるのであった。




Q どうして聖はリヴァイヴを装着していたの?
A そこらでリヴァイヴを着て練習していたからです。付け加えるなら、ラウラが攻撃をする前に威嚇できたのは、彼女が何かやらかさないようにずっと気にしていたからです。

 再び甘粕が登場しない回……おい、大丈夫なのか、これ(知らん
 今回はほぼ原作のままですが、一夏にちょっとした変化があることが大きな違いでしょうか。彼も彼なりに成長?しているということで。
 そして、次回は甘粕が搭乗……するのだろうか。
 それはお楽しみということで。

 それでは!!

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