甘粕正彦が見た未来がISだった件   作:雨着

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遅くなって申し訳ありません。仕事等で忙殺されていました。
決して、そう決して、シルヴァリオ・トリニティをやりながら「レインちゃんの泣き顔もっと見たいなぁ」などと思っていません。ええ、本当に。
※作者は別にリョナ好きではありません。ご注意ください。


第二十七話 圧倒

 常識的な話をしよう。

 今の世界にとってISに勝利できる武器はあるか、という問いに対しての答えがあるとするのなら、それは否だろう。絶対防御やハイパーセンサー、単一仕様能力(ワンオフアビリティ)等、現代の武器とは比べ物にならない性能を持っていることからしてもそれは明らかだ。

 無論、ISが絶対的な存在であるとは言えない。例えばエネルギー切れを起こしてしまえば絶対防御は機能しなくなり、そこを攻撃するという手段がある。他にも状況によってはISの盲点を付き、攻略する方法はあるはずだ。

 だが、そういう逆転劇ではなく、通常の戦闘を行った場合に限った話をするのなら、やはりISを単騎で打ち勝つ兵器は存在しないと言っても過言ではない。核兵器ならともかく、戦闘機ですら戦ったとしても絶対防御のバリアによって攻撃が通じず、一方的なワンサイドゲームになってしまう。

 ましてや、それがただの人間相手なら尚更だ。

 重装備のプロの殺し屋だろうが、壮絶な訓練を積んだ兵士だろうが関係ない。

 彼らが今まで積み上げてきたもの全てを台無しにするかの如く、なぎ払うだろう。

 

 故に、だ。

 やはり目の前で起こっていることは異常事態なのだと聖は理解する。

 

「はぁあっ!!」

 

 一夏が放つ攻撃。それらは全て以前クラス対抗で見たときよりも数段に上手くなっていた。剣を振るうタイミングや距離、そしてどこを攻撃するかという点。それらは全て妥当なものであり、彼が今日に至るまでそれなりの努力をしてきたことは確かだろう。それに加えて専用機ISという特殊な武器を備えている彼からすればもはや代表候補生以外の者で遅れを取ることはほとんどないだろう。

 けれど、言ってしまえばそれだけである。

 その程度の力で、目の前の敵をどうこうすることなど不可能だ。

 

「せいっ!!」

 

 渾身の一擊。振りかざした刃は確実に敵を倒すことのみに集中している。

 しかし。

 

「ふむ」

 

 敵―――クリームヒルトはそんな一擊を自らの拳で弾き飛ばした。

 なんだそれは、有り得ない。エネルギーを纏っている剣を拳で防ぐなど、理解不能だ。そして、一夏は未だ理解できていなかった。

 そんな異常事態を前にして生じる隙。それを見逃すような相手ではないということを。

 

 瞬間、絶対防御越しの一擊。正確に言うのなら、回し蹴りが一夏の脇腹に炸裂した。

 

「がっ――――」

 

 急激に襲いかかる痛み。同時に放たれた衝撃によって一夏はそのまま一直線に吹き飛ばされ、壁に激突した。大きなクレーターから這い出ながら剣を構える。

 口の中は鉄の味で満ちていた。しかし、そんなものに気を配っている余裕はない。

 剣先を向ける一夏に対し、クリームヒルトは言葉を紡ぐ。

 

「なるほど。少しは剣術に通じているらしい。その奇妙な装備……確かISだったか? それに依存している部分があるとは言え、動きは悪くない。だが、無駄な部分がまだまだ多いな。特に先程の一擊。乾坤一擲は構わんが、振りが大きすぎる。あれでは防いでくれと言っているようなものだぞ。剣の動きが全体的に真っ直ぐすぎる。いくら威力があったとしても動きが先読みされては意味がないだろうに」

 

 悠々と語る死神を前に一夏は何もできずにいた。

 確かに彼女の言うとおり、一夏はまだまだ未熟者。それは理解しているし、自覚もしている。だからこそ、以前よりも練習量を増やしたりもしていたのだ。

 しかし、相手が悪すぎた。先程の一擊からしてもそうだ。絶対防御があるというのに、この威力。もし絶対防御が無ければ一夏は確実に肋骨を全て持って行かれた上で死んでいただろう。

 そして、それは今も変わらない。

 再び攻撃をしかけようとするクリームヒルトを前に一夏は防御の構えを取る。

 瞬間、無数の弾丸が彼女を襲う。

 土煙によって姿が見えなくなったと同時、聖が彼の傍までやってきた。

 

「織斑っ、無事!?」

「ああ、何とか。すまねぇ、助かった」

「無事ならいいわよ。けど、一つ訂正……助かってはいないわ」

 

 IS装備の銃弾。本来ならそれだけえ肉片へと早変わりするはずだったのだが。

 やはりというべきか、土煙が消えたかと思えば、そこには傷一つないクリームヒルトの姿があった。

 あれだけの銃弾を浴びておいて怪我をしていないなんて、どうなっているのか……そんな疑問を心の中で呟きながら聖は考える。

 

(あれはどうみても人間じゃないわよね……正直、前に戦ったミイラよりもかなりやばい気配がするんだけど)

 

 かつて死闘をしたミイラ状態のキーラは獣の闘争心そのもののような感じだった。一方で目の前にいるクリームヒルトは機械的な殺意を自分達に向けていた。憎しみや怒りなどといった感情での殺しではなく、ただ殺すという機能をそのまま発揮している兵器そのもの。

 暴風雨のような荒々しさはないが、戦闘機のような重厚さを感じているのだ。故に狙いは正確であり、威力も的確。殺すという面において彼女は一部たりともしくじらない。

 ならばどうして自分達は生きているのか。それは言うまでもなく、彼女がある程度力を制限しているからに他ならない。手を抜いている、手加減をしている、というわけではない。少なくとも彼女は制限をした範疇で本気でこちらを殺しにきているのだから。

 

「ほう。どうやらそちらは彼のものとは違うらしい。創法……それも形に特化しているのか。何とも凄まじいな。見るからにしてISとやらは構造が複雑な代物だ。それをこうまで再現しているとは、やはり彼女の子孫だけはあるということか」

 

 しかし。

 

「だが、それ故にどこか縛られているところがあるな。簡単に言えば本物に近づきすぎている。こちら側の力が源にはなっているものの、結局はISで戦っているのと大差がなくなっている。だから、楯法を高めるだけで防げてしまうわけだ。ある程度の相手ならそれでも構わないが、私相手では通用しないぞ?」

「さっきから何を意味の分からないことを……!!」

 

 再び放たれる銃弾をしかして彼女は回避しない。その場に仁王立ちの状態で待ち構えていた。

 結果、全て命中。しかし、全く効いていない。まるで何か硬く透明なバリアでも張っているかのように銃弾はあれよあれよと弾かれていく。

 そんな中、クリームヒルトはまるで諭すかのように聖に告げた。

 

「少し、助言をさせてもらうのなら、大事なのは適度に夢を持つかということ、だ。君が今使っている力。それを象徴するのが『創法』だ。現実を見つめるのは結構だが、それだけでは勝てん。時には夢を見ることも大切だと理解するといい」

 

 まるで授業をする教師のおような物言いを前に、腹を立てるも聖はその言葉に耳を傾けている。

 今、自分が使用している力はクリームヒルトが使っているものと同じものだろう。ならば聖は力の経験から考えて圧倒的に彼女よりも劣っている。その証拠が現状だ。

 彼女は言った。

 現実を見つめるのは結構だが、それだけでは勝てん、と。

 時には夢を見ることも大切だ、と。

 彼女の言葉から察するに自分は『創法』という能力に特化しているらしい。言葉から考えれば物を創造したり、それらを操作するというものだろう。そして、その根源になっているのは聖が持つイメージ。つまりは想像。それらを考慮した上で言うのなら、聖は想い一つでどんなものでも作り出せるのかもしれない。

 だが、それはあくまで彼女が考えつくものに限られるだろう。

 例えば、普通の銃弾ならいくらでも出せる。だからこそ、彼女が放つ銃弾に制限はなく、弾切れなんてことは起こりえない。

 しかし一方で、怪物を必ず殺す魔弾はどうやっても顕現させることができない。理由は簡単。何故ならそんなものは現実にはなく、故にどういうものなのか、想像できないから。

 クリームヒルトが言っていることはつまりそういうこと。

 聖は現実にあるものなら創造することができるが、しかし想像の中にしか存在しないものは作り出せない。そして今自分達が相手にしているのは正しく非現実というべき存在。だからこそ、非現実的な力を用いる必要があるというのに、聖にはそれができないでいるわけだ。

 

「だったら―――」

 

 言いつつ、彼女は一旦銃撃を止める。

 代わりに両翼の全ての射出口を開放した。

 非現実がだめなら、現実にあるもので押し切るしかない。

 

「これならどう!?」

 

 放たれるのは十六発のミサイル。それら全て敵目掛けて一直線に向かっていく。回避しようがこれは追尾式。逃げたところで追いかけていく代物だ。

 だが。

 クリームヒルトはあろうことがそれを当然の如くその身に浴びた。

 次の瞬間、宮殿内に爆発音が鳴り響いた。

 その光景から考えても、先程までの銃弾の嵐よりも威力が十分なのは明白だ。

 

「やったか!?」

「だといいんだけど―――」

 

 刹那。

 爆炎から生じた土煙。その中から鋭利な殺気が篭った細剣が射出され、聖の目前まで迫っていた。

 

「っ!?」

 

 息を飲みながら聖はそれを、細剣が頬を掠るギリギリのところで回避に成功し、ことを得る。

 今のは危なかった。ISには絶対防御があり、聖の作り出したISも当然備わっている。だが、今の一擊はそんなもの知るかと言わんばかりに絶対防御のバリアを貫通していた。もしも回避に失敗していれば、聖はそのまま串刺し状態になっていたはずだ。

 そんな危機一髪を乗り越えた聖の心にあるのは安堵。どうにか防げたという安心。当然だ。それは人の心理として当たり前の反応である。

 だが。

 

「ミサイルの再現まで可能だったとは恐れ入った。だが、戦闘中に油断するのは関心しないぞ。どんな時でも気を抜くと命取りになる。このように」

 

 耳に入ってきたのはクリームヒルトの声。それはいい。問題なのは、それがあまりにも近い場所から聞こえてきたという事実。

 しかし時既に遅し。気づいたと同時、聖は真正面にいた彼女の拳をそのまま喰らい、数十メートルはあろう距離をまるでサッカーボールのように吹き飛ばされていった。

 

「世良っ!?」

 

 一夏は思わず叫びながら、心の中でもやばいと感じていた。

 今の聖は防御も回避も何もせず、まともに攻撃を受けていた。しかも相手はあのクリームヒルトの拳。素人同然の一夏にもそれがかなりまずい状況であるということは理解できてしまう。

 すぐさま聖の元へと駆けつけようとするも。

 

「他人の心配をするのは結構だが、そんな暇は君にはないと思うぞ」

 

 言葉と同時に放たれた一閃。やはりというべきか、絶対防御など意味はないと言いたげな一擊を一夏は咄嗟の判断によって紙一重で避ける。

 そして、即座に飛び退き、空中へと羽ばたいた。

 その様子を見て彼女は「ふむ」と呟いた。

 

「なるほど。空へ逃げれば私の攻撃は届かないと考えたか。だが、それは愚策ではないか? 聖のように遠距離武器で攻めるならまだしも、見たところ君は剣での接近戦を重きに置いているように思えるが……いや、実際はそれしかできない、というべきかな」

 

 まるでこちらの手は全て理解しているような言い草に一夏は歯痒かった。

 一夏が扱う白式はクリームヒルトの言うとおり、刀剣の形をした接近戦闘用主力武装『雪片弐型』しか武器が存在しない。故に取れる選択肢は接近戦での斬り合いのみ。

 しかし流石の一夏ももう理解している。

 相手は白兵戦の怪物。鍛錬に鍛錬を重ねた実力であり、その上で超人的な力を備え持っている。はっきり言ってIS異常の危険物だと言えるだろう。

 一方こちらはつい最近ISに乗り始めたばかり。昔は剣道もそこそこやってはいたものの、実践の剣術を習得しているクリームヒルトに比べれば一夏が培った程度のものは何の意味も成さない。

 結論。このまま特攻を繰り出したところで一夏は勝利どころか、傷一つつけることはできない。

 

「……どうやら自分の身の程を弁える技量はあるようだ。接近戦に持ち込めば必ず負けると理解している。そうだな、それは間違いではない」

 

 しかし。

 

「自分の力量を測ることは大切だが、相手のことももう少し観察する眼を持つことだ」

「それは、どういう……」

「ああ、つまりだな―――」

 

 言いながら彼女は少しだけ身体を屈ませるような体勢になり。

 

「飛行する手段がないからと言って、攻撃する手段がないとは限らない、ということだ」

 

 言い終わると同時。

 まるで弾丸のような勢いで死神は一直線に一夏の元へ飛んだ。

 

「なっ……!?」

 

 驚愕。だがそれも一瞬。彼女ならそれくらいのことはやったのけてもおかしくはないと理解している一夏はすぐさま回避する。空中へ出てしまえば流石の彼女も方向転換はできないはず。その証拠にクリームヒルトは軌道を変えず、一夏の横を通り、天井へたどり着く。

 そして。

 そのまま天井を蹴り、再び一夏の元へと突撃する。

 

「嘘、だろ……!?」

 

 速度を高めた特攻に同じく回避しよう寸でのところで避ける。刃が頬を掠れた感触に一夏は死の恐怖を味わった。

 だが、いや故に、というべきか。

 そこで終わるわけがなかった。

 死神は床を壁を天井を、時には柱を足場に使ってすれ違いざまに一夏へ死の刃を振るっていく。

 蹴る度に速度は上がり、もはや一夏は躱すどころか、放たれる一擊一擊を防ぐので精一杯。にも関わらず、クリームヒルトは何段階も速度を上げていき、切れ味も増していく。

 

 

 

 

 蹴って斬る。

 蹴って斬る。蹴って斬る。蹴って斬る。

 蹴って斬る。蹴って斬る。蹴って斬る。蹴って斬る。蹴って斬る。蹴って斬る。蹴って斬る。蹴って斬る。蹴って斬る。蹴って斬る。蹴って斬る。蹴って斬る。蹴って斬る。蹴って斬る。蹴って斬る。蹴って斬る。蹴って斬る。斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬――――――。

 

 

 

 

 四方八方からの連撃を前に一夏は成すすべなく切り刻まれていく。正確で的確、迷いなど一切ない斬撃にけれども一夏は奮闘している。彼は彼なりに急所を切られないよう防御の姿勢を保っていた。永劫続くかもしれないと思える程の攻撃を前に未だ命を繋いでいるのが生きようとしている証拠である。

 だが、何事にも限界というものが存在する。

 ボロボロな状態の一夏にクリームヒルトは止めと言わんばかりに頭上から一直線に特攻する。回避しようとするももはや今の彼に気力はあっても体力はなかった。

 そして結果、そのまま地面へと叩きつけられる。

 

「ぐぁ、あ……っ!?」

 

 吐血しうめき声を上げる一夏。身体の至るところに切り傷が存在しており、血が流れていく。一つ一つは軽傷であるものの、数が多く立つことが不可能なのは目に見えていた。

 そんな彼の姿を見て、死神は淡々と告げる。

 

「それだけの傷を付けられてまだ息をしているとは、大したものだよ。だが、それもここまでだ。君はそこで寝ているといい」

 

 それ以上の言葉はかけなかった。

 最初の賛辞は世辞ではない。彼女からしてみればこちら側の力を使わずにここまで耐えたことは評価するべき項目だ。

 けれど、言ってしまえばそれだけだ。彼女にとって織斑一夏は別段、興味を持つ対象ではない。彼女が寄り代としているラウラからしてみれば怨敵とも言える相手なのだろう。実際、内側から送られる念にはもっと痛めつけろ、という想いがこみ上げてくる。だが、それに応えるつもりはなかった。

 

 クリームヒルトはラウラの要望にできるだけ応じるつもりはある。だが、これ以上織斑一夏に攻撃をしかけたところで彼女が得られるものはなにもない。それはただの蹂躙であり、そんなものを欲していない。

 彼女が求めるのは感情のあり方。それを学ぶ機会が今、この現状である。ラウラの憎しみは理解できた。嫌悪も理解できた。けれど、それらを解消するための行動を起こす気は毛頭なかった。

 彼女は代役ではあるが、けれども結局は代役。ラウラ本人になった覚えはないのだから。付き合うべき一線というものは理解しているつもりだ。

 

 さて、と言いながらクリームヒルトは一夏に背を向けながら別の方向へと視線を寄せる。それは先程聖が吹き飛ばされていった方角だ。

 

「先程の一撃には手応えはあったが、死んでいる、ということはないだろう。何せ、彼女は『ミズキ』や『セイシロウ』の血を受け継いでいる。あの程度でどうなることもないだろう。しかし、となると今まで仕掛けてこなかったのは何故か。単に気絶しているか、それとも――――」

 

 その時。

 がさり、と。呟く彼女の背後で、何か物音が聞こえた。

 

「……、」

 

 クリームヒルトはゆっくりと振り返る。

 その光景を見ながら彼女は表情を一つも変えない。

 だが、その口から出たのは感嘆の声音。

 

「ほう……」

 

 無表情なのにどこか楽しげな視線。

 その先にはいたのは一人の少年。

 無数の切り傷を体中に刻まれ、出血も多く、さらに止めの一擊を食らったにも関わらず、織斑一夏は震えながらも立ち上がっていた。

 

「まだ立つか。少年」

 

 それは呆れからくるものではなく、単なる興味。

 一夏の体は既に限界状態。そのままにしていても出血多量で死ぬかもしれないというのに、彼はボロボロの状態で立ち上がった。

 身体にはもうまともな力が入っていないのだろう。両の脚はがくがくと震え、両の手は雪片弐型を杖代わりにしているようだった。

 もはや言うまでもなく満身創痍。戦ったところで一体何ができるというのか。何もできずにただ返り討ちに合うのが関の山。

 けれど。

 

「……るんだ」

 

 少年は倒れない。

 確かにこのまま地に伏せていたのなら楽だったのかもしれない。これ以上痛い思いをすることも、苦しいことに巻き込まれずに済んだのかもしれない。今だって血が流れて震えているのと同じくらい、恐怖によって足がすくんでいるのだから。

 当たり前だろう。何せ目の前にいるのは正しく死神。死を与える者。それを前にして平然としていられるほど一夏は強くない。

 けれど。

 しかし。

 それでも。

 

「今度こそ、俺は、守るんだ!!」

 

 無茶で無謀なのは百も承知。

 そんな力などないだろうと言われても言い返す言葉はない。

 だが、だとしても。

 一度言ったことから逃げ出す程、弱い男になったつもりもないのだ。

 

「……そうか」

 

 それは小さなつぶやき。何かを悟ったかのような、そんな表情を浮かべる彼女はどこか優しげであり、今までのような機械という部分が抜けたような気がした。

 そして。

 それは同時に、彼女が織斑一夏に再び興味を持った瞬間でもあった。

 

「ならばもう少し、手合わせを願おうか」

 

 細剣を握るクリームヒルトに一夏は自らの得物を構える。

 そうして。

 死神と少年の剣戟が再開された。




戦闘、というかクリームヒルトの一方的蹂躙劇でした。
うん、分かっていた。こうなるのは分かっていたんだ。
だって、どうやっても二人が彼女に勝てるところ想像できないもん! 特に一夏、お前近接戦闘しかできないとか無理ゲーだろ!!
などと思いつつ書き上げました。
次回からですが……ここは敢えて何も言いません。今後の展開に乞うご期待、とだけ。
それでは!!

PS

さて、次回は何ヶ月後になることやら……。

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