甘粕正彦が見た未来がISだった件   作:雨着

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投降するまでに四ヶ月。待ってい方、申し訳ない。だが、一つ言わせて欲しい。別に遊んでいたわけではない。FGOのイベントとかやってたり、武蔵をレベル100スキルマとかにしたり、オリジナル小説を書いていたわけでは、決して、ない!!
※待たせてしまって本当にすみません。リハビリも兼ねているのでご注意ください。


第二十八話 啖呵

 何故だ。

 

 眼前にある光景にラウラ・ボーデヴィッヒは歯ぎしりを覚えていた。

 彼女は今、身体をクリームヒルトに乗っ取られている状態だ。しかし意識ははっきりとしており、乗っ取られている身体の眼を通して、クリームヒルトと同じものを観ている。

 これは彼女が意図していない状況だ。けれども一方で都合の良い状況とも言える。クリームヒルトの力の原理は全く分からないが、しかしそれが強靭であり、強力であることは理解できた。実際、今相対している聖や一夏の攻撃は一つも通らず、傷一つつけられていない。逆に一方的に追い詰めている状況だ。素手や細剣でISと対等に戦うどころか、圧倒する状況はありえない状況だろう。それを可能にしているクリームヒルトの力はやはりどう考えても常人離れしている。

 怪物、化物、人外。そういう類のものだと判断されても、おかしくはない。少なくともこの惨状を見ているものがいたとして、彼女を普通の人間だと言い張れる者はいない。

 殺意の篭った一擊は間違いなく一夏と聖を狙っており、追い詰めている。その拳に、そのひと振りにラウラはしかして恐怖を覚えていた。自分に向けれているわけではないというのに、そこにあるのは殺意のみというまるで機械めいた攻撃は冷たさと鋭さが混在している。

 普通の人間ならば逃げ出してもおかしくはない。否、普通は戦おうなどとは思わないはずだ。

 

 けれども。

 

 世良聖は逃げださなかった。

 織斑一夏は立ち上がった。

 己に死を与えようとしている者を前にして、恐怖していないわけではない。見れば分かる。震える身体を押さえつけながら銃を放ち、剣を振るう姿は滑稽であり、無様だと言えるはずなのだ。

 だが、その瞳は未だ死んでいなかった。

 傷つき、血を流し、圧倒的な力の差を見せつけられても彼らは立ち止まろうとしない。逃げようとしないのだ。それどころか、己の敵を前に立ち向かっているのだ。

 どう考えても無謀。無茶。そして無意味。

 勝てるはずのない戦いを挑むその姿勢ははっきり言って愚か者としか言えない。

 だってそうだろう? そんなことをして何の意味がある? 敵前逃亡は確かに恥じるべきことだ。だが、それも時には必要な時もあるくらいはラウラも理解している。そして、彼らにとての時はまさに今だ。

 

 だというのに。

 

 彼らは未だ、ここにいる。

 その理由が、信念が、想いがラウラには分からない。

 分からない。わからない。ワカラナイ。

 理解不能な事態を前に彼女の中に疑問が渦巻いていく。

 そして、それは、彼女の身体を使っている人物に伝わっていた。

 

 *

 

「ふん」

 

 息を全く切らせずに放つ拳は刃が届く寸前で一夏の腹に直撃する。正確には腹部の周りに張り巡らされているバリアだが、しかしこの相手にそれはあまり意味を成さない。

 

「がっ―――」

 

 呼吸が一瞬止まり、意識を持って行かれそうになる。絶対防御を超えての衝撃は一夏の身体の隅々まで痛みと恐怖を植え付ける。しかし、そこで動きが止まってしまえばそれこそ終わりだ。理解した上で途切れそうになった意識を無理やり叩き起こし、右手に持っていた雪片弐型で一閃。しかし、クリームヒルトは予知したかのように後退し、その切っ先は相手を捉えることはできず、空を斬るのみであった。

 

「ちっ……」

「攻撃を受けながら相手の隙を打ち込む。そちらの国で言うのなら肉を切らせて骨を断つ、というものだったか。中々興味深い手法だ。しかし、それも当たらねば意味を成さない」

 

 事実を口にするクリームヒルトに一夏は若干、腹立たしさを覚えていた。別段、彼女がこちらを挑発しているわけではないのは分かる。そんなことをせずとも彼女は一夏を倒すことができるのだから。故にその言葉は紛れもない事実であり、真実。だが、それ故に一夏は苛立つのだ。自分が力がないと思い知らされるため。

 

「しかし、最初に比べえば上達した、と言っておこうか。ただ我武者羅に向かってくるのではなく、一つ一つ考えての行動。今の攻撃にしても、君が必死に導き出した答え、というわけだ。皮肉なものだ。あの男の言葉を借りるのならば、人間という生き物は試練を前にすると成長するらしい」

「何を、言って……」

「何でもないさ。ただの独り言だと思ってもらっていい……さて。少年。君との戦いももうすぐ終わりが近づいていることに自覚はあるかね?」

 

 それが意味するのは時間切れ。つまりはエネルギー切れのことを指している。

 無論、一夏もそれは理解していた。クリームヒルトの容赦ない殺人的攻撃。それを受けてもこうして未だ生きているのはひとえに絶対防御のおかげである。バリアーをいとも容易く突き抜けるかのような猛攻ではあったが、しかしバリアーがあったらからこそ、この程度で済んでいる。

 もしも絶対防御が無くなり、バリアーで防げなくなれば今度こそ一擊で殺される。いいや、そもそもエネルギーが尽きれば一夏に戦う術は無くなる。故にその時点で死亡は確定となるのだ。

 エネルギー残量は残りわずか。恐らくあと一擊喰らうか、たはまた一擊を与えるか。どちらにしろ、次で一夏は行動不能になってしまう。

 

「次の攻防で君との決着はつく。だがその前に聞いておきたいことがある。正確には私ではなく、私が身体を借りている『彼女』が、だが」

「彼女……ラウラか!?」

「そう驚くことでもない。確かに彼女の身体を借りてはいるが、別段それで彼女を縛っているわけではない。今は意識の底でこの戦いを見ている。そして、その彼女からの言葉だ。何故、逃げない?」

 

 細剣を地面に突き刺し、両手で塚の底を抑えながら問いを投げかける。しかし、戦闘の意思を無くした、というわけではない。彼女ならばいつでもどんな状態でも攻撃をしかけることができる。故にこれを隙と見るわけにはいかない。

 何も答えない一夏にクリームヒルトは続ける。

 

「君と私の実力差は理解したはずだ。その身に叩き込んだ。故に君はもう分かっている。自分では私には勝てない、と。私は人の気持ち、というやつに疎くてね。そういう頑張りや努力が決して無意味だとは思わないが、しかしこの場を借りて言えばそれは無謀すぎるのではないか? そして、それは私だけではない。この身体の持ち主も同じ考えだ」

 

 確かにその言い分は正しい。

 目の前にいるのがもはや普通の人間、化物という言葉ですら表現できない境地にいる者だと流石の一夏でも当にわかっている。戦略的、戦術的。どちらにおいても撤退という手段、逃亡という行動。それらが正しい選択であることは百も承知なのだ。

 自分の攻撃をあたかも子供と戯れるかのように回避され、防御され、そして反撃される。これだけの事をされて未だ自らの未熟さ、敵の危険度を把握できないわけがなかった。

 だが、だ。

 それでも彼は、織斑一夏には逃げられない理由があった。

 

「……ったんだ」

「?」

「約束、したんだ。強くなるって。強くなって、今度こそ皆を守れるくらいの男になってみせるって」

 

 それは以前、勝手に自分が聖に対して言い放った言葉。

 一方的で、言われた聖からすれば別段守る必要もない約束。云わば単なる自分への覚悟。それを破ったからといって彼は誰からも責められるわけではない。

 しかし、それでも。

 彼はその約束を破るわけにはいかない。

 

「皆を守れるくらいの男になってみせる、か。何とも大きく出たものだ。男児ならば確かに。それくらいの気概を持つべきなのだろう。その心意気は立派だ。だが……」

「ああ。分かってるさ。俺にはまだ、そんな実力も知恵も技術もない。皆を守るだなんておこがましい事を言ってるのは理解してるさ」

 

 前とは違う。俺にはそんな大層な力はないということに気づいている。

 戦闘の経験は浅く、ISの知識も狭く、技術においても未熟。他の生徒と違うのは搭乗しているISが特殊なものであるくらい。剣術においても毛が生えた程度であり、実際クリームヒルトには通用していない。

 そんな男が、その程度の男が、何もかもを守ろうとするだなんて不可能だ。これは諦めとかそれ以前の話。できないことはできない。その事実は認めている。

 故に。

 

「でもせめて―――せめて女の子一人くらい守れなきゃ、何が男だって話だよ!!」

 

 そう。結局のところ、そこなのだ。

 女尊男卑のこの世界で今更何をと言われるかもしれない。実際、クラスの連中にも笑われた。男が女よりも優れているだなんて時代遅れだ、と。確かにそうなのかもしれない。男が女よりも優れている、なんてものはもはやどこにも存在しない幻だ。それを主張する気もさらさらない。

 けれどそれで、男が女を守ってはいけない理由はどこにもない。

 特に、背中にいる女子にはもう二度と無様な姿は見せれないのだから。

 

「なるほど。女のために戦う男。この時代では特殊かもしれんが、しかし私のいた時代では好まれる種類のものだ。共感はできないが、理解はできる。だが、そこに命を捨てるというのは些か度が過ぎているとは思わんのか?」

「思わないね。そもそも、俺は命を賭けているけど、捨てるつもりは毛頭ないんだよ。前に諦めるなって怒られたからな。だから、俺はどんなに確率が低かろうが、どんなに絶望的だろうが、もう絶対に諦めない!!」

 

 恐怖はある。それは否定できない。今にも身体が震えて動けなくなりそうなのを必死に堪えているのだから。死ぬかもしれないという状況は一度体験しても早々に慣れてるものではないのだ。それを押し殺し、柄を握り、刃を構える。

 ここで生き残るのが一番高いのは今すぐにでも逃げ出すこと。運良くいけば一夏だけは助かるかもしれない。けれども一度命を助けてくれた少女を、自分に勇気を与えてくれた友達を見捨てるなんて選択はない。

 かと言ってここで命を使い果たすつもりもない。全力を持って目の前の障害を倒し、二人で一緒に戻る。わかっている。それがあまりにも無謀であることは。針の穴に糸を通す、なんてレベルではない。砂漠で一粒の金を見るけるようなもの。

 だが、可能性があることには違いないのだから、諦めるには早すぎる。

 

「―――威勢のいい啖呵ね」

 

 瞬間、後ろから聞こえてきたのは聞き知った少女の声。

 振り向くとそこにはやはり想像した通り、聖が額から、腕から、肩から、あらゆるところから少量の血を流しながら立っていた。

 

「世良っ、お前……」

「ちょっと油断したわ。おかげでこの様よ。まぁ少し眠ったから平気よ」

 

 口ではそんな言葉を吐くも、それが大丈夫な状態なわけがないのは明白。けれども、少女は、聖は笑みを浮かべながら一夏に向かって言い放つ。

 

「とは言っても、誰かさんの啖呵で起こされちゃったけどね」

「き、聞いてたのかよ」

「あれだけ大声で話されたら、誰の耳にだって聞こえるわよ」

 

 呆れたと言わんばかりな表情に、一夏はどこか恥ずかしくなる。

 

「でもまぁ、その上で―――よく言ったわ、織斑一夏。少しだけ、貴方のこと見直したわ」

 

 え? と呆気にとられた一夏から聖は視線をクリームヒルトへと移す。その表情は相変わらずの機械じみた笑みを浮かべていた。

 

「ようやく起きたか」

「ええ。私、ちょっと目覚めが悪いのよ」

「ならば、目を覚ましてやるため、一擊食らってみるか?」

「結構よ。どこかの誰かさんの啖呵できっちり目が覚めたから」

 

 不敵な笑みと共に放たれる戯言。余裕がある、というわけではないが、しかしその瞳に焦りという文字は無かった。

 聖は二丁の銃口をクリームヒルトへと向けた。

 

「あれだけやられて、まだやると?」

「当然でしょ。織斑一夏が諦めてないのに、私だけ諦めてどうするのよ」

「勝てる見込みがない戦に挑むなど、自殺行為ではないかね?」

「上から目線の助言、どうも。でも否定はしないわ。ええ、これはある種の自殺行為に見えるかもしれない。じゃあ聞くけど、貴方私達のこと見逃すつもりある?」

「ないな」

「即答ね。まぁでもそうでしょうね。貴方はそういう人。だからこそ、私達は戦う以外の選択肢は無くて、その上で生き残るとするのなら、これしか手段はないのよ」

 

 逃げるも死。戦うも死。どちらも死ぬというのなら、それを覆す。そのためにはクリームヒルトを倒す他はなかった。

 不可能に近いことはもう言うまでもない。言われなくても分かっている。

 だが、聞いたのだ。少年の声を。

 もう絶対に諦めない、という言葉を。

 その言葉を言わせたのは他の誰でもない。聖自身なのだ。ならば、その彼女がここで早々に諦めるなど論外である。

 

「世良、お前……」

「何も言わないで。お互い、何を言っても聞かないのは良くわかってるでしょ」

 

 既に聖も一夏もボロボロの状態。けれど、彼らは互いに下がっていろと言われてもそれを聞くつもりは毛頭無かった。一人だけ戦わせておいて自分は休んでいる、なんてことは死んでも御免だ。

 それを理解した一夏もまた不敵な笑みを見せた。

 

「全く……お前って結構強情だよな」

「そう? まぁ知り合いには良く言われるわ」

「だろうな……でも、だからだろうな。俺もお前を見て、諦めたくないって思ったんだよ」

 

 互いに軽口を叩きながら剣先と銃口を目の前の敵に向ける。

 死神を前に、けれども彼らは笑っていた。その神経が、考えが、心が、分からないと叫ぶ少女の声をクリームヒルトは一人聞いていた。

 だが、当の本人である彼女は彼らと同じ様に不敵な笑みを浮かべていた。

 

「これはまた、素敵な物を見せてもらった。君らを見ていると、『彼ら』を思い出す。ああ、なるほど。そういうことか。つまり、『彼ら』の想いはこの時代にも確かに受け継がれていたというわけか。これは仕方ない。分からないわけだよ、ラウラ・ボーデヴィッヒ。私と同じ、人間として致命的なものを無くしている君では、そしてそれを理解しようとしない君では、敵わないわけだ」

 

 何だそれは、どういう意味だ。理解不能だ。

 そんな言葉がクリームヒルトの頭の中で繰り返されながら、彼女は続ける。

 

「私は人間としては未だ欠陥品ではあるが、しかし何故だろうな。君らの存在が、彼らの意思が受け継がれている事が、無償に嬉しく思うのだよ」

 

 それは偽りなき本心であると言わんばかりに彼女は断言する。

 その微笑みは、機械じみた彼女に似つかわしくない、人間らしさが混じった優しいモノ。

 だが―――。

 

「そして、それ故に。興が乗った」

 

 刹那。空気が変わる。

 二人に重く伸し掛るのは重力ではなく、威圧。そう、クリームヒルトが纏うただの覇気だ。しかし、流石というべきか、やはりというべきか。人外の覇気はそれを受けるだけで意識が遠のきそうになる。崩れそうになる足元を必死に堪えながら二人の視線はクリームヒルトへと向けられる。

 驚き。焦燥。それらが篭った瞳を前に、彼女は答える。

 

「何、不思議に思うことはない。少々女らしく化けてみただけだ。それが嗜み―――そう教わったものでな」

 

 地面に突き刺していた細剣を抜き、構える。

 その姿は正しく魂を刈り取る死神。あるいは女神か。

 

「認識を改めよう、ヒジリ。そして少年―――否、イチカよ。君達は本気を出して倒したくなった。故にできることなら、私に血を流させてくれよ?」

 

 どこまでも上からの言葉。

 けれども、どこまでも正直な言葉。

 今の彼女はまさにこの状況を楽しんでいる。自分の状況を未だ理解できていなくても、それがどうしたと言わんばかりに戦おうとしている。

 これは予想外にして危機的状況。同時に二人は理解する。今までは手を抜かれて戦っていたのだ、と。だが考えてみればそうかもしれない。いくら絶対防御があったからと言って、ここまでの実力者に対し、自分達が生きていることが不思議なのだから。

 最悪な状況に陥った二人であるが、しかしそれでも己の武器を下ろさない。

 本気がどうした。実力差がどうした。

 それを跳ね返さんばかりの意思と覚悟を決めて、再び、そして最後の戦いが――――

 

 

 

 

「そこまでだ」

 

 

 

 

 不意に。

 言葉が耳に入る。

 第三者の乱入によって、研ぎ澄まされていたクリームヒルトの闘気は薄れ、聞き知った声に聖と一夏はそちらへと振り向いた。

 そこにいたのは。

 

「ウチの生徒に、それ以上手を出すな。どうしてもやるというのなら……私が相手になってやろう」

 

 長い黒髪を後ろで束ねた黒服の女性。鋭い目付きはけれども凛々しく、鷹のような気高さを感じさせる。右手には日本刀を持ち、その身体はボロボロであり、いくつもの切り傷があった。

 そこにいたのは。

 

「千冬、姉……?」

「織斑、先生……?」

 

 元IS乗り最強の女『ブリュンヒルデ』にして彼らの担任―――織斑千冬がそこにいた。




アイル・ビー・バック。
……はい、すみません。自重します。そして意味が違うというツッコミはなしで。
お待たせして、申し訳ありません。色々と諸事情により、ようやく帰って来れました。べ、別に遊んでいたわけじゃないんだからね!!(キモイヤメロ

まぁ真面目な話、ヘルをどうするかで結構迷っていたのは事実です。そして出した結論が彼女です。
色々と言いたいことはあるでしょう。それは感想にて受け付けます。
次回はなるべく早めにします!! 本当に!!
それでは!!

PS
疾く剣豪来い。そして俺の武蔵愛を見せてやる。

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