甘粕正彦が見た未来がISだった件   作:雨着

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先日、dies irae phanteonのCMを見て思った事。
疾く課金し尽くして戦神館とコラボさせなければ。
※作者に重課金する余裕はありません。ご注意下さい。


第三十話 戦女

 どうして。

 そんな疑問を感じたのは聖だけではないだろう。

 一夏もまた千冬の登場に目を見開き、驚いている。当然だ。実の姉がこんなところで登場するなど誰に予想できようか。しかも命の危機があるこの状況下で喜べるわけもない。事実、自分達ももはや瀕死と言っていい。

 確かに千冬はIS乗りでは最強と言われていた女性だ。だが、ここはそんな理屈が通る場所ではない。ましてや今の彼女はISを所持していないのは聖にも理解できる。

 無茶で無謀な戦いを前にけれども千冬は。

 

「二人共、無事、というわけではないようだな。だが、安心しろ。もう大丈夫だ」

 

 いつものような無表情に近い、しかし確かな笑みを浮かべながら彼女はそんな事を言うのだ。

 凛々しく、美しく、そして逞しく。まるで全てを任せろと言わんばかりな言葉にもはや二人は何も口にすることができなかった。

 

「これはまた、珍しいお客人だ。こちらが招いてもいないというのに、さて一体誰の仕業なのか」

「さてな。それは私にも分からん。だが、大方の状況は掴めている。無論、ラウラの事もな」

「ほう? ならばどうする?」

「知れた事。ここで貴様にじっくり尋問する、などという選択肢は私にはない。そんな時間もないだろうしな」

 

 だから、とただ剣を構えて一言。

 

「貴様に言う言葉はただ一つ―――返してもらうぞ、私の生徒達を」

 

 一切の迷いのない一言。

 その覚悟に、その決意に、余計な言葉は必要ない。

 故に死神もだた一言を返すのみ。

 

「承知した。ならば、やってみるがいい」

 

 瞬間、白銀の刃が衝撃と共に交差する。

 

 *

 

 冥界。それは死者の国であり、生者が訪れるべき場所ではない。否、正確に言えば生者がその国に訪れた瞬間、その者は死者となる。

 故に色は無く、故に音も無く、ただ静寂に包まれる事を是とする。それは世界樹に地下に広がるとされるヘルヘイム然り、ケルベロスが門番を務めるあの世然り。そも、死者とはそういう存在であると人々には認識されている。

 だからこそ、その玉座であるこの場所はある種の場違いであると言えるだろう。

 疾風怒濤。その言葉が正しくここに再現されていた。全てを破壊する刃と全てを切り裂く刃。弾け、ぶつかり、閃き合う。乱れざく花吹雪の如き剣戟に聖と一夏は言葉が出なかった。

 美しい、そんな感嘆さえ漏らしそうになる状況下であるが、しかし当事者にとってはそんな感想を抱く余裕は微塵もない。

 特に千冬は全く力を緩める事ができなかった。

 何せ一瞬でも気を抜けば即座に目の前の死神に魂を刈り取られてしまう。この場は死地であり、冥界であるのだと頭に叩き込みながら己の刃を振るう。

 

「ハッ―――」

 

 百、百十、百二十……切り結ぶ数が増えていき、その度に死の恐怖を感じ、克服していく。だが、それだけ殺り合っても全く慣れというものは存在しない。一瞬一瞬の攻撃が別物であり、同じ一擊がまるでないのだ。故に同じ防御をしてしまえば必ず負け、死ぬ。結局のところ、戦いとはいかに臨機応変、柔軟な行動ができるかが鍵となるのだ。そして、千冬は今まで培ってきたIS戦闘での経験をフル活用し、生き延びている。

 そう、彼女は戦っているのではない。生き延びているのだ。

 攻撃はする。刃も振るう。殺気を放ちながら一擊を放つ。けれども、それは全て生存するためと言い換えてもいい。決死の覚悟とやらで打ち込んだとしても目の前の敵はそれを簡単になぎ払い、そして自分が死ぬというのは明白であった。

 それほどまでに、クリームヒルトという女は死を叩きつけてくるのだ。

 質、密度、何もかもが桁外れ。死という重みそのものをぶつけてくるようなそんな感覚に襲われる。

 今まで千冬はここまで死の近くにまで来たことはない。ただ一度だけ死ぬ覚悟を決めて望んだ戦いはあったが、それもISという兵器を装備していた上でのもの。生身を晒して一本の剣で立ち向かうことがこんなに恐ろしいとは考えていたが、実感したことはなかったのだ。

 死とはそれだけ恐ろしく、そして畏れるべきものなのだろう。歴戦の戦士が死を掻い潜ってきたと言っても、それは結局のところ分かった気になるのだけの話。そして、千冬が感じているこれもまたその類。

 実際の死とは一度きりのもので、二度はない。唯一無二なのだから。

 その死を司る神は言い放つ。

 

「見事―――驚嘆に値する。まさか、私とここまでやれるとはな。ミズキとまでは言わないが、認めよう。お前の腕は相当なものだ」

 

 短く、どこにでもあるような賞賛の声。けれども、今の千冬にそれを言い返す気力も体力も余裕もない。あるのは目の前の繰り出される攻撃に対処する思考のみ。

 目前にいるのは死神であり、戦乙女。故に隙は絶対に見せない。見せたとたん、まるで機械のようにそこを突いてくるのだから。

 説明しようがない暗闇と深淵に引きずり込まれそうな感覚を跳ね除け、戦い続ける。

 そんな怪物を相手に未だ生きている千冬は流石はIS最強乗りと言えるし、褒められて然るべきだ。

 

「これは以前私の友人にも言ったことなのだがな。概して臆病な者ほど死から逃れる術に長けている。技量より、強固さより、なお大事なのはその認識。己は脆く、弱く、至らないと思っているからこそ回避が上手い。ある種の死神さ。私と同じな。自覚はあるかね、チフユ。自分が周りに死の因果をばらまいて、一人だけは切り抜けているということに」

 

 全くの無動作で放たれた一閃。鋭利な横薙ぎの斬撃は千冬の首元の寸前まで迫ってきた。それを紙一重、寸でのとこで己の刃で防ぎ、そのまま前へと進む。

 

「当然だ―――自分が臆病者だということくらい、とっくの昔に自覚している!!」

 

 ここで初めての応答と共に千冬はクリームヒルトの腹に蹴りを叩き込もうとする。タイミング的にはこれ以上とない必殺のものであり、外れるわけがなかった。一方でこれで決まるわけがないとも理解していた。それで倒せるのなら、こんなに苦労することはないのだから。

 強烈な足技としかしてクリームヒルトは千冬を上回る速度で後ろへと飛び、回避した。目標を失った千冬の足はその場の地面を蹴り、一瞬止まる。

 刹那、殺人の刃の先端が視界に入った。

 たった一瞬、動きを止めた事によって生じた隙。だが、その隙を死神が見逃すわけがなく、氷のような冷たい殺気と共に容赦ない突きが放たれた。

 だが、千冬は怯まず、対応する。

 迫ってくる刃に敢えて自分から前進し、突っ込んでいく。自殺行為と思われたその行動だが、刃が首元に当たろうとする直前、彼女の首が曲がる。

 首筋に痛みが走る。だが、それは自分が死んでいない証拠。見るとクリームヒルトの刃は千冬の首元を掠っただけであり、ほとんど空を突いた状態だった。

 

「づっ、アアアァァァッ!!」

 

 彷徨。突撃。そして一閃。

 だが、千冬のひと振りはあっさりと回避されてしまう。

 けれどそれで良かった。

 本命は、その次に放つ左拳の一擊なのだから。

 瞬間、鈍い音と共に確かな手応えが千冬の左拳を通して全身に伝わる。クリームヒルトはそのまま後方へと吹き飛び、微かに呻きながら距離を開ける。

 入った。決まった。手応え有り。そう思った渾身の一発にしかしてクリームヒルトは表情一つ変えない。

 胸元を軽く手でさすり、問題ないかと言わんばかりに碧眼をこちらへと向けてくる。

 一方の千冬は肩で呼吸をしている状態であり、対照的と言わざるを得ない。そしてそれ故にどちらが優位なのかは言うまでもなかった。

 今のは千冬が一本取ったと言えるだろう。だが、これは死合であって試合ではない。全体的に見れば千冬はどう考えても劣勢だった。

 

(だが―――それがどうしたっ)

 

 不利な立場など百も承知。そんなものは剣を交えたその瞬間に理解しているのだから。

 それにこの戦いの中で見えてきたものもある。

 敵、クリームヒルトは極端に言ってしまえば単純なのだ。心が無い、感情がないと感じたのは間違いなく、挙動に強弱、濃淡といったものが存在しない。

 常に一つの音色しか鳴らさないモノであり、旋律を、音楽を響かせることができないのだろう。言ってしまえばピアノのドをずっと一定の間鳴らすだけのような、そんな感覚。

 そしてそれは攻撃にも影響している。

 簡単に言ってしまえば、攻撃そのものが純粋な必殺なのだ。

 誘い技、騙し技、そういった類が一切混在しない。それこそ彼女を人間ではなく、機械だと感じる点なのかもしれない。問題なのは、虚と実、布石。そういったものが無くても彼女が戦える実力を持っているということ。要は大砲を連射しているようなものなのだ。だから容赦がなく、人間らしさが皆無。

 しかし、逆に言ってしまえばそれを理解して戦闘すれば対処はできるはずなのだ。

 先を読み、技を返し、逆転も可能のはず。

 

「ァァァアアアッ!!」

 

 叫びと共に特攻を仕掛ける千冬。瞬間、大音響が号砲の如く炸裂し、玉座を支配する。

 荒れ狂う剣戟の暴風雨。一種の災害と化した攻防はもはや当人達だけでなく、周りにすら被害を題してく。

 罅割れていく床。次々と瓦礫が落ちてくる天井。柱や石像は潰され、吹き飛ばれていく。そして壁にはいくつもの斬撃と打撃の跡がくっきりと刻まれていった。

 当然の如く、地鳴りは響き渡り、彼らの戦いが桁外れなものだと証明していた。

 そう。これはもはや災害だ。二人の戦女の鬩ぎ合いは通常のものを遥かに上回っている。ISですらこんなことはできない。とは言え、破滅を振るっているのはクリームヒルト単独の猛威であり、しかしだからこそそれらを逸らしながら叩き続ける千冬も相当人並み外れていた。

 全てが決め技であり、殺し技。

 この死神はそういうものだ―――それが分かっているから対処できる、という領域は超えている。これぞ正しく織斑千冬という人間の実力、否底力というものか。

 既に戦闘は地面の上だけでは行われていない。崩れてくる瓦礫。その上を跳躍しながら互いの刃を交え、切り合う。もはやそれを異常だとは感じる余裕はなく、できて当然であると自分に言い聞かせながら千冬は己の剣を振るっていた。

 交差した刃は互いの肩を切り裂いていた。無論、どちらも軽傷。全く動きに問題はなく、攻防は続けられる。

 だが。

 

「く―――っははは!! 私に血を流させるか!! ああ、こんな気持ちは久かた振りだ!!」

 

 軽傷だったとは言え、受けた傷をむしろ喜び、寿ぐかのように死神を笑みを浮かべた。同様に圧力が高まっていく。攻勢の密度、強度、速度。それらもまた跳ね上がり、しかし同様に千冬もまた力を高める。

 互角。拮抗。同等。

 一方が傷つけば一方も傷つく。一方が回避できれば、一方も回避できる。そんな鏡写のような状況下でクリームヒルトは再び口を開く。

 

「流石は元最強のIS乗りか。ISが無い状態でよくぞここまで練れるものだ!!」

「だからどうした。無駄口を開いていないで、さっさとかかってこい!!」

「ふふ、そう言うな。私はお前が気に入っている。故に語り合いたいのだ。私は欠落が多い。多くの者を見た。多くの可能性を見た。生とは何か。死とは何か。我も人。彼も人。一は全、全は一なり。私の悟りは間違っていない。道理も理屈も分かっているのだ。だが―――私の悪い癖でな。どうしても理屈が先に来てしまう。方程式を解いただけで、その先にあるエネルギーを実感できない。ああ、何故私には心がないのか……だから私は『彼女』に成り代わって戦い、そしてお前と対峙している。そして―――ふふっ、難しいな。これが憎悪か。これが憤怒か。そしてこれが―――羨望であり、憧憬であり、執着か。中々、表現しずらいものだな」

 

 今のクリームヒルトはラウラの代替でもある。

 彼女の感情がそっくりそのままクリームヒルトに流れ込んでくるのだ。

 故に分かるのだ。

 織斑一夏への憎悪が。

 世良聖への憤怒が。

 そして、織斑千冬へのどうしようもない羨望と憧憬、そして執着が。

 それらが混ざり合ったまさしく混沌とした何か。それを表現するにはクリームヒルトは欠落が多すぎて、どのような言葉で表せればいいのかが分からない。

 故に言葉でなく、行動で体現する他ないのだ。

 なのに。

 

「ああ、本当に。私には『戦闘(コレ)』でしか表現できないというのに……もどかしいな。『力』が思い通りにならないというのはっ!!」

 

 言い放ち、そして再び死地の剣戟が錯綜する。

 

 *

 

 当然の、そして本来の話をしよう。

 クリームヒルトと千冬。この二人が戦えばどうなるのか。結論から言えば、クリームヒルトの圧勝に終わる。千冬がISを持っていない、という点もあるが、そもそもISに搭乗していたところで彼女に死神を屠るだけの技術と力は無い。それは彼女が劣っているからではなく、それだけクリームヒルトという怪物が人外じみているだけの話に過ぎない。故に手も足もでないまま、一瞬のうちに片がついてしまう。

 

 ならば、だ。

 何故現在、彼女達の力は拮抗しているのか。

 

 それは彼女が乗っ取っている身体が原因だった。

 もしも本来のクリームヒルトがこの世界で戦えば、勝てる者などいないだろう。ISに乗っていようがいまいが関係ない。それだけの実力を持っている。

 しかし、だ。

 今の彼女はいくつもの奇跡が重なりここに現界している。

 そして、その中で最も大きな要因となっているのは本来の身体の持ち主であるラウラの感情。

 

 誰よりも強くなりたい。

 最強でありたい。

 比類なき力。唯一無二の絶対。

 

 その夢が叶ったのが今のクリームヒルト。

 けれど、いやだからこそ、ラウラの感情によって彼女の力は影響されてしまう。

 そう、例えば。

 かつての教官であり、自分の師、そして最も憧れる女性。その人物は絶対的な存在であり、勝てるわけがないと思っていたとするのなら、それが事実であり、真実となる。

 つまりは、だ。

 今のクリームヒルトは聖や一夏、その他大勢のどんな連中にも勝利することができるが、織斑千冬だけには勝つことができない。

 けれどもそれがイコール千冬に負ける、という意味ではない。

 勝つことはできない。しかし、負けることもない。故に互角、対等、拮抗。 

 どちらが勝つこともなく、負けることもなく、ただただ永遠と傷つきあっていく。

 

 故に、だ

 とくと見るがいい、ラウラ・ボーデヴィッヒ。

 お前の願いがお前の織斑千冬(あこがれ)を傷つける。

 お前の想いがお前の織斑千冬(ぜったい)を苦しめる。

 泣いても喚いても無駄だ。そんなものは意味をなさない。お前が招いた種。故にお前に目を逸らす権利など毛頭ない。これは他ならないお前のせいなのだから。

 苦しみ、悲しみ、後悔しろ。

 そして、その上でよくよく理解しろ。お前がお前である限り、この悲劇は決して終わらない。織斑千冬は助からない。誰も救われない。

 ならばどうすればいいか? そんなものは自分で考えるべきことだ。本当にそれが分からないというのなら、尚更彼女から、織斑千冬から目を離すな。

 今、彼女は何のために戦っているのか。

 今、彼女は何のために血を流しているのか。

 それを本当の意味で分からなければ、この戦いは終わりを迎えない。

 だからこそ、あえて言おう。

 

 この地獄(しれん)の結末は、お前の手の中にある、と。




前回主人公の姓名を間違えるとか考えられないヘマをやらかした作者です。
はい……マジですみませんでした。反省してます(土下座
今後はこのようなことはないようにしますので、何卒宜しくお願いします。

さて、今回は千冬とクリームヒルトとの戦い。
これが自分が数ヶ月かかって出した答え。納得いくかいかないか、そこら辺は是非とも感想にてお願いします。
それでは次回をお楽しみに!!

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