旋風と雪風   作:あすは我が身

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第1章~炎と風~
prologue


"ドゴォォォ!"

 

両開きの重厚な扉が爆発音と共に砕け散る。

薄暗い100㎡ほどの会議室。

そのだだっ広い空間に一人の少年と10人の黒服がにらみ合う形で存在していた。

 

少年の名は草薙(くさなぎ) 大和(やまと)。

15歳になったばかりの黒目、黒髪の少年である。

ある事情から一人で生きてきた大和は、食べる為に護衛やお祓いといった、普通ではない仕事をしている。ただの少年にそんな仕事が出来るはずもなく、当然、大和にはある力があった。それは、風の精霊を召喚し、使役するという『精霊術師』だった。

 

今回、受けた依頼は護衛である。

しかし、依頼者の命を狙う相手が大和とおなじ精霊術師であったため、大和一人では撃退することが出来なかった。

そのため、依頼人が逃げるまで時間を稼ぐという依頼内容に変わったのだった。

少なくとも後5分は、背後にある扉を守らなければならなかった。

 

(悪足掻きは得意分野だし、逃げ足だけなら自信あるけど…でもなぁ、逃げれば信用を失うことは絶対だしなぁ。まぁ惰性で生きてきた俺にはお似合いの最後かもな…)

 

五人の黒服が刀を抜き一気に間合いを詰めてきた。

残った五人は散開し、銃を乱射。何処に逃げようとかわすことが出来ないような銃撃。

 

焦ることなく、背中に刺した2本の刀を抜き放ち構える。

 

迫る銃弾全てが、身体の数センチ手前で弾かれる。

黒服は多少驚いた表情をしたが、すぐに表情を消し、十人全てが殺到してきた。

 

目測10メートルにまで近づいた一人目の黒服に向かって右の刀で水平に素振り。

不可視の風の刃が放たれ、一瞬後にはその黒服は胸に赤い線を引いて上の部分を床に落とし3歩進んで下も崩れ落ちた。

 

それを見ることもなく右から向かってくる二人の間合いに一瞬で滑り込む。

正面から右の刀で腹を半ばまで切り、3メートル離れた黒服の背後に回り左の刀で頚動脈を絶ち切る。

 

背後からの殺気に前方へダイブ、そのまま前周り受身のように前転して立ち上がり床を蹴る。

直後、背後に銃弾の雨。

前方の一人に切りかかろうとした瞬間、直径60センチの火の玉が襲い掛かる。

「チィ!」左前方からきたそれに防御も虚しく吹き飛ばされ机やら椅子やらを巻き込み轟音が鳴り響く。

片膝をついて耐えたところに同じものが3つ降り注ぐ。

(何人術師がいんだよ!)

ココまで経過した時間は3分。

(後2分か、全力だしてギリかな?)

 

3つの火の玉が直撃する寸前に突如竜巻が起こる。全ての火の玉が飛散し、無数のカマイタチが黒服を襲う。

その場に居た黒服は防ぐことも出来ず七人全員が血煙の中倒れる。

ただ、いつの間にか進入していた四人の人間は無傷で破壊された扉の前に立っていた。

 

一人は派手な着物を着た30代の女、残りの三人は黒で赤い縁取りがされた法衣を纏った40~50代の男。

 

「強いねーぼうや。あれを防いだ上に反撃なんてされたのは初めてだよ」

血のように赤い唇を舐め、欲情したように両手で身体を抱え揺らす。

 

「鬼部の姫、自ら来るとはな…」

 

「草薙の生き残りが邪魔してるって聞いたものでね、楽しそうだから遊びに来たのさ」

 

「あんたらが関わっていると知ってたらこんな仕事請けなかったさ」

 

「よく言うよ、これまでも散々邪魔してくれたくせに、15のぼうやに煮え湯を飲まされて信用を崩され鬼部家としてはココで名誉挽回しなきゃやってられないのよ」

 

(そろそろ5分経つが、ミッッションコンプリートとは行きそうにないな。流石に俺もここまでか)

「そろそろ依頼主も逃げ切れたんじゃないかい? うちらはあんたさえ殺れればそれでいいから、死んで…ね?」

言うなり火の玉が3つ殺到する。

左に大きく避け、風の刃を飛ばすが遅れて飛んできた一回り大きな火の玉が風の刃を飲み込みながら接近する。

右で3つの火の玉が爆炎を上げ、続いて目の前で風の壁と火の玉がぶつかり合い周囲に炎を撒き散らす。

会議室の半分は炎と煙に包まれ、後半分も瓦礫に押しつぶされていた。

 

(やっぱ無理か)

同等の"風"では"火"には勝てない。この世界では常識である。

速さでは最速の"風"であっても、質量・エネルギーの差で威力は補えないのである。

さらに相手は鬼部家最強の術者と側近三人。勝ち目ゼロ。

 

「チッ!」

周囲で燃え盛る炎がいきなり俺めがけて殺到する。

避ける場所もなく上へ飛が当然のごとく火の玉が来襲する。

風を纏って空中を飛び回り避ける。

逃げ回りながらも風の刃を放ち一人を仕留めた。

 

「この! チョコマカと五月蠅い!」

言った瞬間、女の圧力は膨れ上がった。

(まずい!)

一瞬の躊躇いを振り払い、風の防御陣を敷く。

自分を中心に半径1メートルほどの空間に高密度な空気が集まる。

直後膨大な炎の塊が周囲を圧倒する。

風の防御陣は徐々に喰われ、ジリジリと範囲を狭めていく。

 

(もたないか…)

空気の薄い地下では限界だった。

半径70センチまで狭まった防御陣の中で、半ば覚悟を決める。

 

「なっ!」いきなり目の前に大きな鏡が現れた。

 

「何が起こっている? なんだこれは!」

盛大に混乱した脳をどうにか落ち着かせ、防御陣を維持するが後数分と持たないことは分りきっていた。

鏡に刀を入れてみる。何の抵抗もなく中に埋まり、何の抵抗もなく引き抜けた。

 

(転移陣?誰がこんなものを?)

何となく転移陣であると考えたが、誰が何のためにこんなところに? という疑問は解決できない。

 

(どうせ後数分で死ぬのなら、飛び込んでみるか…)

盛大な胡散臭さを感じながらも現在の状況から選ぶ道は他になかった。

 

迷いを捨てた後の行動は早かった。防御陣を維持したまま、一気に鏡へと飛び込んだのだった。

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