トリスティン王国、王都トリスタニア。
王城をはじめ白い石造りの建物が目立つ美しい街である。
大通りを背中に刀を二本さした全身黒尽くめの大和はセラを肩に乗せて歩いていた。
「しかし…人が多いな。道が狭いから特別そう感じるんだろうな」
首都の大通りと言われているが幅が5メイルほどしかなく、
日本の商店街などと比べてしまい、非常に狭く感じてしまう大和だった。
「あれ食~べ~た~い~~~♪」
「あれってなんだろ?」
「ヤ~マ~ト~早くぅぅぅ!」
(街に寄る度にこれだよ。300エキューは支度金だっていったのに…)
大通りを進み、商業系のギルドを探す。
「お! ここかな?」
大きな商店のような建物を見つけた。
玄関前に大きな掲示板を設置している所を見ると唯の商店ではないと思われた。
建物へと入る前に掲示板に目を通す。
募集欄には『調理人』『兵士』『文字の読み書きが出来る人募集』『土のメイジ募集』など多岐に渡って存在した。
内容を眺めていくと『全ての職種』という欄を見つける。
(大雑把な…目を引くという点では合格か…)
『文字の読み書きと計算が出来る人』『魔法が使え、戦闘経験がある人』という欄を読んで吃驚した。
この二つは領主付きの仕事であり公務員的な職種だと思われた。
給金が月給で20~50エキューと破格であり、何より有給休暇や年2回のボーナス。
更には週休2日の制度まで書かれていた。
「…まさか?」
「ん? どうしたの?ヤマト」
「いや…この求人出してる領地の領主もしくは側近が俺と同じ世界の人かもしれない…」
(と言うかまず間違いなく関係者だろ…コレ)
ハルケギニアでの平民の扱いは低い。ココまで破格の採用条件は有得ない。
その上、中世ヨーロッパ程度の文化で有給休暇にボーナスって…
「へぇーヤマトみたいに誰かに召還されたのかな?」
「それは分からないけど、会ってみたいね」
話して見れば確信できるだろうし…旨く行けば協力を得られるかもしれない。
建物へと入り詳しく情報を聞く。
募集している人物はフォルテ男爵ロアン・ラ・ド・フォルテで、トリスティン北西部に位置する自治領ダングルテールとの境に位置する30アルバンほどの土地である。5年ほど前に興され、フォルテ領と言うらしい。
希望人数も多く今行っても雇ってくれるかどうかは分からないと言われた。
希望することを伝えると驚いたことに履歴書らしき物を手渡せられた。
なんでも文字の読み書きが出来る人に書かせるようにと領主から預かったとの事だった。
(地球人けってーーーい!)
心の中でガッツポーズを決めて建物をでる。
宿を取り早速履歴書の記入に取り掛かる。項目を埋めていく。
1、 名前:ヤマト・クサナギ(from Japan)
2、 年齢:15歳
3、 性別:男
4、 魔法:風・ドット
((これは適当))
5、 特技:料理・剣術・簡単な計算
6、 過去経験した職業:傭兵(コボルド鬼討伐他)
不思議なことに出身地などの記載欄がない。気にしないと言うことなのだろう。
相手に気が付いてもらえるように、名前の横に英語で出身を書いてみた。
(向こうの世界と関係ない奴が見ても落書きにしか見えないはず)
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out side
"コンコン"
「ロアン様、面接希望の方がお見えになってます」
執務室で書き物をしていると、メイドが声をかけてきた。
「ん~今月雇う分の人数は終わってるはずだが? お断りして」
屋敷付きの雇用は領内の経済成長と人口に合わせて月に1~3人雇うようにしていた。一気に雇い入れるのではなく、毎月少人数を雇い入れた方が掲示板に常に掲載される為、口コミで大人数へと広まるのだ。
「存じておりますが、メイジの方ですのでお会いになられた方が良いかと思いまして」
「おぉ! メイジか! 確かに足りてないからね」
様々な職種を雇い入れているが、メイジだけは人数が足りていない。
メイジは何処でも引っ張りだこで、貴族であることが多く集まらないのだ。
メイドから履歴書を受け取りサッと目を通す。
「え? 日本?」
驚いたことに名前の横にfrom Japanと英語で書かれていたのだ。
(ヤマトクサナギ。日本人の名前だな、私のような境遇ではなく迷い込んだ人間か?)
ロアンはこの地に生を受ける前の記憶を残している。俗に言う『転生者』と言うやつである。
前世の名前は宮永(ミヤナガ) 啓治(ケイジ)日本人であった。
転生者意外にもこの世界に迷い込むと言う可能性はあるのだ。
前世の世界の物が此方の世界に多数存在する事を知っている為、人間がこの世界へ迷い込むことも十分に有得ると考えた。
(態々英語で記載している所を見ると…こっちの素性も気が付いてるか)
応接間へと向かい相手を待つ。
"コンコン"
「クサナギ様をお連れしました」
「どおぞ、通して」
「失礼します」
メイドに続いて真っ黒な少年が入ってくる。
(完璧に日本人だな)
真っ黒な髪の毛に黒目が目立つ。
整った顔にあどけなさが残る。
着ている服も日本のものだろう。
背中に差した2本の刀が目を引く。
「はじめまして、ロアン・ラ・ド・フォルテだ、君は"クサナギ ヤマト"君でよかったかな?」
手を差し出し、相手の反応を待つ。
「はい、草薙 大和です。お会いできて光栄です」
しっかりと握手を交わしお互いに椅子へ腰掛ける。
「単刀直入に聞く。日本から迷い込んだのか?」
お互いに素性を確信している以上、腹の探りあいは無意味だ。
「えぇ、ロアン様も地球から呼ばれたのですか?」
全く動じることなく聞き返してくる。
「いや、私は25年前に東京で事故に合ってね、死んだはずがなぜか記憶を残したままこの世界に生まれ落ちたようだ。俗語では『転生者』とでも呼ばれる存在なのかな?」
「そうですか、私は7ヶ月前に召喚されました。召喚した本人は亡くなってしまいましたので、ルーンは付けられていません」
「そうか、召喚されたのか。すまないが帰る方法は分かっていない」
「いえ、帰る方法を探して此方へ伺ったのではありません」
「は? 君は帰りたくないのか?」
「えぇ、待つ人もいませんし…この世界に召喚された時点で何かしら役目があるものと考えています」
「そうか…君は大人だな」
(訳もわからずに無理やり召喚され、こうまで冷静にいられるものだろうか?)
「では仕事を探しに来たのかい? それなら力になれると思うが」
「いえ、ある方を匿って頂きたいと思いまして」
「続けてくれ」
「まず今から聞くことは、受け入れる、受け入れないに限らず絶対に口外しないでください」
「約束しよう」
「私を召喚した人の名前は、オルレアン候シャルル様。匿って頂きたいのは、その娘シャルロット様とお母様です」
「っ! そんな大物の名前が出てくるとは…流石に思わなかったよ。
ただ、なぜ匿わなければならないのかは分かった。
だが…匿ったとして私に何の徳がある? リスクばかりしか思いつかないが?」
「おっしゃる通り見返りよりリスクの方が圧倒的です。
確定ではない見返りであれば、ジョゼフ王権を倒した後ということになると思います。
それとシャルロット様を一番に考えて宜しければ、2番目にロアン様のお役に立ちます」
「私の役に立てるような何かが君にあるのか?」
この少年を突き動かしている原動はなんだ?
この世界でいったい何を見た?何を感じた?
「戦闘に関する事であればお役に立てると思います。
私は風術師です。この世界で言うところの先住魔法に近い力を持っています」
「風術師…先住魔法…要は風の精霊を操れると?」
「はい」
「君が存在した世界では精霊術というものが当たり前にあったのか?」
(もし当たり前に魔法や精霊などが存在する世界であれば、私の居た世界とは別の世界なのだろうが…)
「いえ、極限られた一族のみに許された術でしたので、ロアン様の居た世界と私の居た世界が同じかどうかはわかりませんが、私の居た世界でも一般の人の認識では《ないもの》です」
「そうか…当たり前だが、私の知らない《ありえない事》が前の世界でも存在していたのだろうね。ひとつ聞きたい。たかが半年前にこの世界へ召喚され、大した恩も見返りもない相手をなぜ助けようとする?自分の生活、命を投げ出してまで…」
「私が生まれたのは『草薙家』という風術師の家系でした。
両親は跡継ぎとしての私しか見ておらず、愛情を感じたことはありませんでした。
ただ、妹だけが私の家族で全てでした。
14の時です。
対立する相手により私以外の家族は皆死にました。
シャルロット様と被ったんです。
今のシャルロット様は少し前の私です。
そして、私の妹です。
助けを求め、心の中で泣き叫んでいました。
ただ、助けたいと思った。
自己満足なのも分かっています。
でも、支えになりたいと思ったんです」
「…分かった。ひとつ条件をつけても良いかな?」
一瞬の逡巡、無表情の中に悲しみと苦痛が見え隠れする。
しかし、言葉を終えた時は優しさと決意が表情に現れる。
同郷だから、可愛そうだからという感情がないわけではない。
だが、それ以上にこの少年は危ういと感じた。
「はい」
「私はまだ君を信頼できる仲間とは思えない。
だから暫く私の元で働き、君を観察したい。
その上で信頼できると判断できたなら匿うことを約束しよう」
「その条件でお願いします。
シャルロット様がガリアを出るのはまだ先のことですので」
「ふむ。では仕事は任せる。此方からは与えないので最初は好きに動いてくれてかまわない」
もう少しこの少年を見て、感じて、自分の気持ちも整理することを決めた。
そう決めた時点で手助け前提で考えが傾いているのではあったが…
(優しそうな人だったな)
ロアンとの話を終え、嶺館の中に1室を与えられた。
「ねぇ~あの人ってば信用出来るの?」
窓際に腰かけたセラが真面目な顔で問いかけてくる。
「大丈夫だと思うよ。会って直ぐに自分のことを話してくれたし」
貴族であるという驕りは感じなかった。
ただ、真剣に話をしてくれたことに大和は信用出来ると感じたのだ。
「ん~良く分からないけど、明日から何するの?」
「まぁ~俺に何ができるのか情報収集が先かな。明日1日は話を聞いて回るよ」
「…ねぇ~ヤマト。向こうの世界には"待つ人がいない"って言ってたけど、本当?」
「あぁ、顔見知りと呼べる人間しか"残って"いないからね」
幾分表情を陰らせセラが見つめてくる。
「…私は大和の味方で…その…えーっと」
しどろもどろなセラに笑顔を向ける。
「ありがとうセラ。俺もセラの味方だよ。向こうには居ない俺の大切な友達だ」
過去の話を聞いて、同情という感情だけではなく大和のことを信頼し助けになりたいという気持ちが伝わる。
「…っ」
真っ赤な顔で、大和の肩へ移動するセラ。
心地よい重さを右肩に感じながら心の重しが少しずつ軽くなるのを感じた。
一部セリフを変更しました。『転生者』という単語を当たり前のように使うのは可笑しいと感じたためです。あと、精霊術に関してもロアンが疑問を呈さないのも変であったためセリフを追加してます。
nao0405様、ご指摘感謝です^^