旋風と雪風   作:あすは我が身

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貴族と義兄

フォルテ領

北にダングルテール自治領、東にゲルマニアの国境へと続く深い森。

西に海、南に荒地を含む王領がある。

人口1700人。

主な産業は農業、林業、漁業。

集落は3つ、領主のいるフォルトス。

東の森に位置するフラン。

西の海岸沿いに位置するメイハマ。

其々上から人口1500、120、80である。

領主付きの家臣は総数80名、うち内務官が7名、軍人54名、それ以外は領館つきの使用人である。

 

大和がフォルテ領に来て3カ月。

山賊討伐、モンスター討伐の出陣は22回にも及ぶ。

 

「こんなに山賊がウロウロしてるもんなの?」

 

「いや、この土地が特殊なのさ。

すぐ隣にダングルテール自治領があるからな。

あそこは貧困に喘いでるから山賊に身を落とす奴が多いのさ」

 

軍部の隊長であるカルロスは火のメイジでライン。年齢45歳

無精ひげが凛々しい大男である。

領館に努めるメイド長のリリアと結婚しており、12歳になる息子が居る。

元は下級貴族の長男であったが、両親が他界し領地もなかったことから、貴族の位を棄て、傭兵として生活をしていた。

5年前からフォルテ領を支えてきた1人である。

 

山賊討伐、コボルド鬼討伐に参加する大和はその実力、人柄から領館に務める者だけでなく、街の住人からも信頼されるようになっていた。

 

「これだけ出動してるのに被害が少ないのはヤマトのお陰だな」

笑顔で大和の背中を強く叩く。

周囲の部下からもむず痒くなる賛辞を言われた。

 

「カルロス隊長、ヤマトさん。ロアン様がお呼びです」

メイド兼秘書のケートが声を掛けてくる。

 

カルロスと共にロアンの居る執務室へと向かう。

 

"コンコン"

「ロアン様、カルロス隊長とヤマト様をお連れしました」

 

「どうぞ」

 

ロアンは読んでいた手紙から目を離し、二人をソファーへ座るように促す。

向かい合うようにロアンが腰かけ話しだした。

 

「ダングルテール自治領で亜人が活発に動いていることは君たちも知っていると思うが、その件について王宮から討伐命令が来た。

そこで、大和を隊長として25人で討伐に赴いてもらいたい。

カルロス、大和を隊長として派遣するのについてどう思う?」

 

「はい、実力、部下からの信頼に置いても問題ないかと存じます」

 

「では大和、引き受けて貰えるか?」

 

「はい、引き受けるのは構いませんが自治領であるのに助けるということは王領にでもなるのですか?」

 

「察しが良いな。

本来自治を謳って無理やり国から距離を置いたのに助けを求めた。

これに応えた国は助けを求めて来た村について自治権を剥奪し、

フォルテ領に組み込むことになったのだ。

まぁー最初からこうなる事を予想してこの場所を国から買い取ったのだから、予想通りということだよ」

 

「自由の為に安全を棄て自治を選んだというのに、その条件を呑んでまで助けを求めたと言うことは、かなり状況が良くないということですか?」

 

「あぁ、亜人の規模は50前後の群れが確認されているだけで4つ。

現在3つの村から庇護の要請が来ている。多分今後はもっと増えるぞ」

 

(各村に駐屯させる兵も必要となると、実際に討伐に加われる人数は10人程度か…)

 

「各村で戦える者を徴用するのは構いませんか?」

 

「あぁそれも頼もうと考えていた。

メイジ以外は新兵と同じ条件で使えそうな者は出来るだけ徴用してほしい。

メイジに関しては条件保留で一度ココに来るようにしてほしい。改めて条件を話し合う」

 

後は小さな事柄を話し合い、1週間後に発つことが決められた。

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

「ライカさん! 魔法をお願い!」

怪我を負った兵士を下がらせライカに治療を頼む。

ライカはフォルテに1人しかいない水のラインで、19歳の元貴族令嬢だった。

今回の遠征では副長として追従していた。

 

「前衛も下がって後衛の守備!弓放て!」

声を張り上げ、大和自身は前線へと1人切り込む。

 

長期戦を考え、術の使用は最低限に抑える。

2刀を素早く操り確実にコボルド鬼を始末していく。

 

最初35居たコボルド鬼は11まで数を減らし逃走へと移る。

(逃がすと他で被害がでる!)

 

逃走しようとする敵に風を纏った大和が追撃する。

時には風の刃で、時には刀で、圧倒的な暴力でコボルト鬼を蹂躙する。

 

最後の1匹を葬り仲間の元へと帰還する。

 

「怪我人は?」

 

「治療は終わったわ。疲労は残っても傷一つ残してないわよ」

微笑を湛えライカが応える。

 

「そっか、ありがとうライカさん」

 

「それより最後は1人で終わらせちゃったわね。お疲れ様」

 

「流石に疲れた。今日は何匹討伐しただろ?」

 

庇護を求めて来た村付近の平定という任を受けてから2カ月が過ぎた。

最初200~300程度と考えられていた亜人もすでに討伐数が350を超えていた。

3つの村に兵士3人づつ駐屯させ、村で雇った傭兵にも各村で護衛の任を与えていた。

大和の指揮する16名を含め総数100を超える部隊となっていた。

 

「ヤマト~私も褒めてよ~。頑張ったんだから~」

セラは風の精霊により飛んできた石、矢などから後衛の兵士を守っていた。

 

「セラも御苦労さま。被害が少なかったのはセラのお陰だよ」

近付いてきたセラの頭を優しく撫でる。

 

「ふふ」

セラは眼を細め、顔を赤らめて小さく笑う。

 

「一旦村へ帰還する」

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

各村への被害はここ2週間報告されていない。

今日の戦闘も村から30リーグ離れた所にあったコボルド鬼の住処であり、

直接村への被害があったものではなかった。

 

"コンコン"

「ヤマト隊長~ロアン様からの遣いが来てます」

宿でロアンへの報告書を書いていると、ロアンからの手紙を兵士が届けられた。

 

手紙には今後の方針を話し合う為、一度帰還しろということが書かれていた。

 

翌日、馬だと1日かかる距離を空を飛ぶことで2時間でフォルトスへと帰ってきた。

 

屋敷へと入り、メイドにロアンの所在を確認する。

「執務室でお仕事中です」

 

「そうですか、暇になる時間とかわかりませんか?」

 

「いえ、ヤマトさんがお見えになったらすぐ通すように言われてますので大丈夫ですよ」

 

「分かりました。伺ってみます」

 

メイドにお礼を言ってロアンのいる部屋へと向かう。

 

"コンコン"

「ロアン様、大和です」

 

「入って」

 

「失礼します」

 

「早かったね~到着するのは早くても明日だとばかり思ってたんだよ」

 

「えぇ馬ではなく飛んできましたから」

 

「馬より早いって凄いね…

それより、今後のことについて話をしとこうと思ってね」

 

「はい。今回要請のあった3つの村についてですが、現状の戦力で問題なく警護出来ると思います。周囲にあった亜人の住処もほぼ壊滅させました」

 

「うん。大和のお陰で予想より早く片付いて助かったよ。

そこで、これまでの大和を見てて私自身が大和を信頼できると考えたんだ。

だから、最初に約束してたようにシャルロット様と御婦人を匿う件を引き受けよう。

それを伝えたくてね」

 

「ありがとうございます。これからもお力になれるよう頑張ります」

 

「うん、こちらこそよろしく。

後ね、先走ったことかも知れないけどバッソ殿と連絡を取ってね、色々情報交換をしたんだよ。シャルロット様はまだ亡命しない様なんだけど、来年トリステイン魔法学院への留学が決まったらしいんだ。まぁ厄介払いに近いらしいけど…」

 

「なるほど、留学中に殺害ですか」

陰謀、策略など生まれながらに目の前で見て来た大和はうんざりといった表情で話の続きを待つ。

 

ガリア王家にとって民衆の人気の高いオルレアン候の娘というのは邪魔ものでしかない。何とかして亡き者にしようと動いているようだが王家自らが殺害に関わったという証拠を残すと民衆からの不満が大きくなる。

そこで、危険な任務を与え間接的に殺害を試みているのだ。

しかし、今のところその試みは上手くいっていない。

今回、ガリア王家が考えた方法が他国への留学中に命を狙うというものだと察しがつく。

 

「そう言うこと。そこで協議した結果、大和にも来年トリステイン魔法学院へ入学してもらうことにしたんだ。シャルロット様第一で考えてる大和なら断らないと思ってすでに動いてるよ」

 

「話は分かりますが、貴族でもない私が学院に入り込めるとは思えないのですが?」

 

「そこで、君を私の弟にしようと思ってね」

ロアンはいたずらっ子のような笑顔でとんでもないことを言い放った。

 

「それはまたどうやって?」

突拍子のない話に敬語を忘れ『素』で返した大和を見てロアンは益々表情を崩す。

 

「父の妾の子がメイジだったから遣いつぶすつもりで家に入れたって事にする。

この時代、何処にでもこんな話が転がってるから怪しまれることはないはずだよ。

まぁー亡くなった父上には申し訳ないがね」

申し訳ないと言葉では言っていても表情では心底楽しんでいるように見えた。

 

「分かりました、その辺はお任せします。

ですが、私の精霊術ではコモンマジックを誤魔化せるかどうかが不安ですね。

似たような現象は起こせますが、上位のメイジにはバレる可能性があります」

 

「それも解決できると思うよ。

この石は触れた状態でスペルを唱えるとフライの魔法が使えるんだ。

 

これ以外のコモンマジック用の石も準備してる。

流石にサモン・サーヴァントとコントラクト・サーヴァントは、無理だけどね。

但し、魔力を持たない者が使った場合使用時間が15秒しか持たないんだ、魔力を石に込められたものしか使えないからね。

後1年でこの点を改良すれば大丈夫だと思う」

 

「そこまでお考えでしたか…それなら不安はありません。

私の方からお願いしなければならないくらいです」

 

「ん、まぁーこの程度で頼りになる弟を手に入れることができるなら安いものさ。

それと、今後は堅苦しいしゃべり方はやめてね?義理とはいえ兄弟だし」

 

「え、あ、はい。之からもよろしくお願いします。義兄上」

 

この日より、ヤマト・クサナギ・ド・フォルテというのが名前となった。




これにて第1章終了です。
次から原作に突入していきます。
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