夏休み突入まで半月後と迫ったある日。
その前にあるテストに向けて皆大忙しであった。
そんな中大和とシャルロットは我関せずな日常を過ごしていた。
「みんなテストに向けて大変だな」
「ヤマトは勉強しなくてもいいの?」
「学院へ通うようになった理由が皆とは違うからね。
皆のように社会勉強という名の見栄の張り合いをしに来たわけじゃない。
良い点を取る必要がないから」
「ふーん、タバサは勉強しなくていいの?」
「いい」
「…また一言で終わっちゃったよ」
「返答があるだけましでしょ。
興味がなかったり、嫌な相手だと話もしないんだから」
何時ものように3人で広場の木陰で過ごしていた。
「あななた達はなんでそんなに余裕なの?」
寄って来たキュルケの言葉に先ほどのやり取りを思い出し3人で吹き出してしまった。
「なんで笑うの? 可笑しなこと言った?」
不貞腐れたキュルケに何でもないと告げる。
「いや、さっきも同じようなことを話してたからね、
それと残念な点数じゃなければ文句言われないんだよ俺たちは」
「そう、楽でいいわね」
この間の決闘騒ぎ以降、この4人で過ごすことが多くなっていた。
勘違いが原因だっただけに、それさえ晴れればキュルケは基本良い奴だった。
今では気の許せる友人であり、それはシャルロットにとっても同じだ。
「ミスタ・フォルテ! 決闘を申し込む!」
いきなり現れたロレーヌとその他2名は大和に決闘を申し込んだ。
「いきなり何事? 君に恨まれるような事は…
この前の決闘騒ぎの逆恨み?」
「逆恨みなどではない!
男爵家の二男坊ごときに後れを取ったとあればロレーヌ家の恥だ」
フォルテ家は新興の男爵家でありトリステインの中では軽視されていた。
さらに、腹違いの弟となれば馬鹿にする生徒が多くいたのだ。
「俺が軽くみられる分にはどうでも良いんだが、フォルテの家は貶してほしくないな」
周囲にどう思われようが大和自身のことであれば気にはしない。
しかし、多大な恩があるフォルテ家を貶される事は我慢できなかった。
「名前の格が低いと友人の一人も集まってこないだろ。
君の周りにいるのはゲルマニアの貴族と家名も名乗らないチビ、後は小さな使い魔の虫だけ、
周りからもそういう風に見られてるから他の貴族は寄ってこないのさ」
「…3対1でいいぞ。
お前らまとめて痛い思いしてもらうから」
殺気に近い怒気を発しながら大和がシャルロットとキュルケ、セラに離れるように伝える。
「3対1で勝負になると思ってるのかい?」
「相手にすらならないだろうが、自分の発言を悔いるんだな」
「馬鹿にしやがって!」
シャルロット達が十分に離れ、大和が「いつでもいいぞ」と声をかけるとロレーヌ達3人が詠唱を開始した。
空気の塊(エア・ハンマー)、20サントの炎球(ファイアー・ボール)それと突風(ウィンド)が同じタイミングで大和を襲う。
風の壁を作り上げ、全ての魔法を押し止め相手を鋭く見つめる。
「これで終わりかな?」
「貴様! 本当にラインなのか?」
「風にしか適応がなくってね、魔力はあるがライン止まりなんだよ」
嘘も方便、理には叶ってると思いたい。
「エア・シールド程度で3人の魔法を受け止めるなんて…」
「君達が弱いだけだろ?
俺の大切な人たちを蔑んだ事を後悔させてあげるよ」
「デル・ウィンデ」
必要のない詠唱を唱え風の刃を2つ飛ばす。
ロレーヌ以外の生徒の杖を真ん中から切断し、大和自身は刀を1本抜いてロレーヌの正面へ移動する。
「これで終わりだな」
剣を一閃しロレーヌの杖を切り落とす。
「決闘は終わりだが、罰は与えないとな」
刀を持っていない方の拳をロレーヌの鳩尾へと叩きつける。
3メイルほど吹き飛んだロレーヌは気を失っていた。
「数日は痛むだろうが、懺悔する時間と思えば軽いだろう」
ロレーヌを抱え二人の生徒が逃げるように去って行った。
「流石ね。ラインなんて嘘でしょ? タバサ以上に速かったわよ?」
キュルケがそんな事を言いながら近づいてくる。
「いや、あれでも結構ギリギリだったんだ」
「ふーん、余裕に見えたけどね」
疑わししく見つめるキュルケは次にシャルロットへと話を振った。
「ヤマトとタバサではどっちが強いのかしら?」
「ヤマト」
即答するタバサに唖然とする。
「あっさりと認めるわね…タバサってトライアングルでしょ?
ラインのヤマトに勝てないって本当に?」
「魔法の強さじゃない、使い方。
それにヤマトの方が私より戦いなれてる」
「へぇ~魔法は強さじゃないか…使い方次第で格上のメイジにも勝てるって訳ね」
大和を無視して二人で話を進めるが、いらない事を言って混ぜ返したくない為黙って会話を聞くしかないのだった。
「それにしても、ヤマトって温和そうに見えて結構切れやすい?」
「いや、無駄な争いをしない主義だよ。
ただ、義兄や君らを馬鹿にされて黙ってるほど人は出来ちゃいない」
「「「…(ポッ)」」」
「ヤマトって天然?」
3人そろって顔を赤くし、失礼なことをキュルケが言い放った。
「失礼な!誰が天然だよ」
「ヤマトよ! ヤ・マ・ト!」
「…(コクリ)」
更に失礼な事を言うセラに頷くシャルロット。
「いや、天然じゃないよ。今の会話のどこにそんな要素があったの?」
言い返す大和に3人は溜息をついて会話しながら離れて行った。
「ちょっと? シカトですか? イジメだよね?ないちゃうよ?」
大和は少し涙目で3人の後を追った。
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"ドーーーーーン"
夕食も終わり、皆が寝静まった時間。
毎日同じ音が響いて来る。
眠りを妨げるほどの音ではない。
大和がなぜ気が付いているのかというと、風と意識を同調していたからであった。
「今日もミス・ヴァリエールの訓練が始まったな」
セラに話しかけたつもりだったが当のセラは熟睡中だった。
入学して3日ほど経ってからだろうか、毎日同じ時間に人目を避けるようにルイズは訓練をしていた。
(しかし、なんで爆発するんだろうな?失敗=何も起きないってのが普通だろうに、ミス・ヴァリエールの失敗=爆発…どっちかと言うと暴走に近いと思うのだけどな…)
爆発する理由を考えるが答えが出ることはない。
「様子でも見てみるか」
寮を出て学院裏の広場へとやってきた大和の目に飛び込んできたのは、地面が穴だらけになった無残な物だった。
(これだけの状況を作り出した時間がせいぜい30分か…いったいどんな威力だよ…)
杖を正面に構え、10メイルほど離れた場所にある岩に向けて詠唱するルイズ。
「ウル・カーノ!」簡単な火属性『発火』のスペルである。
しかし起こった現象は岩手前の地面が爆発するというものだった。
「なんで…なんで出来ないのよ! これで4属性全部失敗…」
その場に立ち尽くし、悔しさを隠すように俯いたルイジにヤマトが声をかけた。
「系統って4つしかなかったっけ?
たしか虚無とかなんとかがあったような?」
寂しそうに1人で魔法の練習をするルイズを見て、昔の自分と被ってしまったのだった。
「だれ!? なんでここに?」
「あぁ、すまない。
俺はヤマト・クサナギ・ド・フォルテ、ミスヴァリエールと同じクラスだ」
「あぁー見た事あるわ。それで、何の用?」
「いや、眠れなくてね、散歩してたら音が聞こえたもので近付いてみたってとこ」
「ふーん…まぁいいわ。
それでさっきの質問だけど虚無もいれて5系統ってのは間違いないわ」
「じゃぁー練習していた4系統が失敗したのなら虚無の練習すればいいのでは?」
「あんた馬鹿? 伝説の虚無の担い手が私なわけがないじゃない!
だいたい、虚無の呪文を記した文献なんてどこにもないのよ?」
「ミス・ヴァリエールが虚無かどうかは知らないが、なんで呪文を記した文献がないんだ?」
「そんなこと知らないわよ! 過去に居た虚無の使い手の数が少ないからとかじゃないの?」
「ふむ、では、系統に関係ないコモンマジックとかレベルの低いフライとかは?」
「…それも失敗したわ」
今にも消え入りそうな声でルイズが答える。
「普通どんな系統でも使えるコモンマジックや低レベルの魔法もだめなのか…
今まで一度も成功した事がないの?」
「そうよ!悪い!?」
「いや事実を知りたいだけで馬鹿にしているわけではないから、そんなに怒るなって」
「………」ジト目で睨むルイズ。
「最初に習う魔法ってレビテーションとかかな?」
「そうよ」
「で、それを習うときどういう風に指導された?」
「自分の中にある魔力を10%くらい使う感じで、石を浮かべるって言われた。
それが成功したら、石が浮かぶギリギリの魔力まで下げろって感じかしら」
「一回目で失敗したミス・ヴァリエールは2回目以降魔力を上げ続けたって感じ?」
「…そうよ、それでも成功しなかった」
涙目になったルイズは今にも消え入りそうで、日頃『ゼロ』と馬鹿にされても食ってかかる強気な少女ではなくなっていた。
「魔術に詳しいわけじゃないけど、系統には向き不向きがあるから別として、コモンマジックや簡単な魔法に系統は関係なくメイジなら誰でも使えるはずだよね。もしミス・ヴァリエールが虚無の担い手だとしても関係がないはず。ならなぜ使えないのか? 多分…ミス・ヴァリエールの内包している魔力が多すぎるからだと思うんだ。10の魔力で良いものを1000くらい注ぎ込んでるって感じだと思う」
「なに? 私の魔力ってそんなに大きいの?」
「あぁ。ミス・ヴァリエールの魔力は学院内の人全部を集めても足りないほどだよ」
「何で、あんたがそんなことわかるのよ?」
「俺も少し特殊でね、人の魔力を感知出来るって事でよろしく」
言った言葉の裏にあった他言無用の意味を賢いルイズなら解ると判断した。
「便利な力ね…でも、魔力があっても魔法を使えないんじゃ意味がない」
「だからさ、レビテーションを唱えるにしても成功するまで魔力の放出を下げていけばいいんじゃないかと思うんだが」
「なるほど!」
早速魔法の詠唱を始めるルイズは派手に爆発していた。
「魔力の内包量からしてかなり下げなきゃ無理だから気長にな」
大和の言葉を聞いているのかいないのか、ルイズはひたすら詠唱を繰り返していた。
ルイズは1時間ほどで広場を破壊しつくし、肩で息をしながら大和の近くまで寄って来た。
「まぁすぐには無理だよ。
10の力でやってたものを1にしろってのじゃないから、
ミス・ヴァリエースの場合は1000を1にしろって感じだし」
「ルイズで良いわ、ミスタ・フォルテ」
「じゃ、ヤマトでいいよ。ルイズ」
「ヤマトって変な人ね。
普通は私の事を馬鹿にするか、ヴァリエールの名前を恐れて近寄らないのに」
「頑張ってる人を馬鹿に出来るほど哀れな人間じゃないよ俺は」
二人で破壊尽くされた広場を元通りにして寮へ帰ったころには真夜中だった。
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「ヤマト~! 今日も練習に付き合ってもらえる?」
翌日の授業後、ルイズに呼び止められ魔法の特訓に付き合ってほしいと懇願された。
「あぁ、良いんだけどタバサも一緒で良いかい?
昨日は休んだけど、何時もはタバサと訓練してるんだ。
タバサもいいかな?」
「…」
「そう、私はいいわよ」
「(タバサ?)」
「…わかった」
タバサは不機嫌そうに大和を睨み、ルイズはそんなタバサをみて何やら複雑そうな顔で了承した。
「ホント、ヤマトって鈍感…」非常に理不尽極まりないことをセラが口走った。