ルイズ、キュルケ、ギーシュが帰郷し、学院は穏やかな日常が過ぎていく。
夏休みに入って2週間が過ぎ久々にシャルロットへの任務が来た。
城から任務の内容を聞いて出て来たシャルロットの表情は陰っていた。
理由を聞くと今回の任務はオーク鬼の討伐、場所はシャレーの森。
シャレーの森というのはシャルルの亡くなった場所だと聞いた。
(俺が召喚された場所はシャレーの森と言うのか…
今回の任務の場所がシャルルが亡くなった場所と言うのに悪意を感じるな…)
シャルロットの表情が晴れないままシャレーの森へと移動する。
「オーク鬼ってこの反応かな?10匹程度だな………」
シャルロットの反応はなく思いつめた表情で森を見つめている。
オーク鬼の反応がある場所へ向かいあと少しという所までたどり着く。
ココまでたどり着く間、シャルロットは一言も話すことはなかった。
「そろそろ見えてくるけど…大丈夫か?」
「大丈夫…」
思い詰めた表情のままシャルロットは答えるが、いつものような覇気が感じられなかった。
(思うところがあるのは仕方がない…か)
どんな言葉を掛けたところで意味を成さないだろう。
頭では理解出来ているのだ。
しかし心が着いていけない。
シャルロットはまだ14歳であり、心は12歳で止まったままなのである。
それが分かるだけに大和は言葉を掛けたりはしなかった。
(ここだけはシャルロットを信じるしかないな…俺は傍に居る事しか出来ない)
「シャルロット、援護を頼む」
「…お父様はこの森の何処で亡くなったの?」
少し涙声でシャルロットが聴いて来る。
「っ!」
シャルロットの心がこれほど弱くなっていることに気づけなかった。
敵を目の前にし、いつものシャルロットであればそれ以外の感情は殺すことが出来ていた。
どんなにしっかりしている様に見えても14歳の女の子であるのだ。
「シャルロットはここで待っていてくれ」
「…」
「片付いたら案内するよ。セラ、シャルロットを頼む」
「うん、分かった任せなさい♪」
何時も賑やかなセラもシャルロットの変化に戸惑いながらも儚さを感じていた。
それでも場の雰囲気を少しでも和ませようと明るく笑顔を見せた。
(セラには勝てないな…何時も助けられてばかりだ…)
「(ありがとうセラ)」
「(うん)」
小声で言葉を交わし、目配せをして大和は宙を舞った。
・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・
お父様がこの森で亡くなった。
もう過去のことだ。
悲しくないわけじゃない。
辛くないわけじゃない。
でも目的のために全ての感情は心の奥深くに封印した。
なのに…お父様の亡くなった場所へ来ることになった時、
実際にこの森に来た時、
封印していた悲しみや自分の不幸を呪う感情が膨れ上がってしまった。
目の前の敵を倒さなければならない。
頭では理解している。
でも感情が追いつかない。
「お父様にあいたい………」
「え!?」
シャルロットの呟きにセラが反応する。
感情が追いつかないまま気が付けば飛び出していた。
目の前の敵が自分の父親の仇であるように見えたのだ。
・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・
「シャルロット!」
セラの叫びが聞こえた。
振り返ると魔法を周囲にばら撒きながらオーク鬼に向かっていくシャルロットの姿が見える。
何時もの冷静さは欠け、焦りの表情に彩られていた。
「っ! シャルロットー!」
目の前にしか意識のいってないシャルロットの後ろからオーク鬼が襲い掛かる。
風を放ち間一髪でオーク鬼の息の根を止めるが唯の肉塊と成り果ててもその勢いは止まらずシャルロットにぶつかった。
「うっ!」
短いうめき声を上げ、2メイル程飛ばされたシャルロトは動かなくなった。
「シャルロット!」
声をかけるが反応は無い。
打ち所が悪かった? 気を失ってるだけ?
倒れたシャルロットに意識のほとんどを持っていかれた大和も冷静さを欠けていた。
普段であれば余裕を持って精霊術と二刀流で敵を屠っていくのだが、ただ我武者羅に刀で敵を切りつけていく。
余裕のない攻撃は反撃を生む。
オーク鬼全てを倒した時には少なからず傷を負っていた。
・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・
大和の叫び声で自分が倒れたのだと理解した。
怪我をした感覚はなかったが、倒れた時に頭を打ってしまい力が入らない。
意識が遠のく合間に大和の姿を探す。
遠くない場所で大和は剣を振るっていた。
何時もの華麗さは微塵もなくただ敵を切りつけているだけ。
この時初めて自分の行いを恥じた。
大和が冷静さを失うほど私の身を案じている。
そう思うだけで申し訳なさと嬉しさが込み上げてくる。
涙で視界が遮られる前に意識が暗転した…
目を覚ました時には川の近くだった。
あの後大和がオーク鬼を全て倒して移動してきたのだと分かった。
額と左でに包帯が巻いてあった。
「気が付いたかい?」
「…ごめんなさい」
「いいさ、それよりどこか痛むところは無い?」
「…ご、ごめんなさい」
「シャルロットの気持ちは分かるから…俺にも経験があるからね」
「違う…」
自分の醜態を詫びる気持ちもあった。
だけど、それ以上に自分が倒れた時の大和の表情が頭から離れない。
心配してくれているのが良く分かった。
苦しめてしまったことが申し訳なかった。
過去に囚われ今を忘れてしまった事を謝りたかった。
言葉にして伝えたい気持ちは沢山あったが、
嗚咽と謝罪の言葉しか口に出来なかった。
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「シャルロット、帰る前に連れて行きたいところがある」
シャルロットが落ち着くのを待って声をかける。
「…わかった」
シャルロットを抱え風を纏う。
上空から周囲を探索し、目的の場所を探し出すとゆっくりとその場所へ向かって下降する。
「ここにシャルルを埋葬したんだ」
小高い丘に1本の杖が立っていた。
シャルルを埋葬した時に墓標の代わりに立てておいたのだ。
大和の言葉を聞いたシャルロットはゆっくりとした足取りで杖の前にしゃがみ込む。
「お父様………」
暫くの間泣いていたシャルロットだが、先ほどのように取り乱すことは無かった。
「お父様の仇は必ず………」
涙を振り払い毅然とした眼差しで墓標へと語りかける。
「シャルル…シャルロットは俺が守る」
「守られるだけじゃいや…ヤマトが死ぬのはいや…」
涙を浮かべ真剣な眼差しでシャルロットが呟く。
守ると言うのは自己満足でしかない。
本当の意味でシャルロットを守りきるには悲しませてはいけない。
命があっても心が壊れては元も子もないのだ。
そんなことは過去の体験から分かっていたつもりだった…
つもりでしかなかったのだと思い知らされる。
「俺は死ぬつもりはないよ。自己犠牲の上で幸せになれる人なんて誰もいないことは分かってるから。だから、シャルロットの幸せを守る」
それは、シャルロットの覚悟を、その身を、心を守りきると言う誓い。
大和がシャルロットの騎士になる事を意識した瞬間だった。
姿が見えなかったセラが小さな花を摘んで戻ってくる。
3人の中で一番大人なのはセラだと確信した。
…やっぱりセラには助けてもらってばっかりだ…
くすぐったい気持ちが心地よかった。