「お?」
「どうしたの?」
町を出て2日目、街道を東へ進んでいたが感知できる範囲ギリギリに多数の生命反応を感じ取った。
無意識下では20メイルほどの感知しかできないが、少し意識するだけで2リーグまでの感知を可能としていた。
「2リーグ先に人が15人いる…あ!3つ生命反応が消えた。戦闘中みたいだな」
速度を上げ、視認できる場所まで移動する。
「馬車を山賊が襲ってるってとこかな?急ぐよ!」
馬車の直ぐ傍に騎士2人が剣を構え、山賊10人が囲んでいる。
馬車の中には人の反応はなく、視認出来ている者で全てだった。
倒れている3人はどれも騎士のようで山賊には被害が出ていない。
(おかしいな…少し様子をみるか)
山賊程度に騎士が遅れをとって3人もの犠牲が出ている。対する山賊には死人はおろか怪我をしている者も見られない。
(ん? 森の中に1人隠れてる? 気配を消してる処を見ると密偵か?)
200メイルほど離れた森の中にメイジらしき反応が1つあった。
(話を聞いてみるか)
隊長らしき騎士に風で語りかける。
《突然で悪いが助太刀が必要なら剣を掲げて頂きたい》
数秒反応を待つが剣を掲げる仕草はなかった。
(やっぱりな。理由は分からないが演技で間違いないか)
小声でぶつぶつと語りかけていた大和を不審げにセラが見つめる。
「ねぇねぇ、早く助けなくてもいいの? あの人たちやられちゃうよ?」
「あぁ~ごめん。騎士に話しかけてたんだ。助太刀無用ってさ」
「えぇ~あの人たち死にたいの?」
「いや、何か考えがあるんだろ」
(密偵はどうするかな? 取りあえず寝といてもらうか)
背中から風で衝撃を与え昏倒させる。
騎士がもう一人倒され、先ほど話しかけた騎士1人が山賊10人と向かい合っていた。
騎士はなにやら目配せをして風の魔法を山賊の目の前に打ち出す。
山賊達は掠り傷を負うこともなく逃走する。
(どうやら終わったようだな)
消していた気配を戻しゆっくり騎士へと近づいていく。
「おまえが話しかけて来たのか? いったいどうやって?」
不審げに騎士が話しかけてくる。
「えーっと、風の魔法を使いました。オリジナルですのでなんというか、感覚でやってることですので、説明が難しいです」
「…それで、如何して演技だと気づいた?」
「山賊程度に騎士様が遅れをとるとも思えませんし、山賊には怪我人すら出てなかったですし。違和感があっただけです」
「…貴様は何者だ? 風のメイジだと言うが貴族には見えない」
「しがない傭兵ですよ。もちろん貴族ではありません。それと、向こうの森に密偵らしきメイジがいましたが…、お仲間ですか?」
「っ、他にもいたか」
駆け出そうとする騎士を留める。
「仲間ではないのなら謝る必要はないですね。気絶させてますので」
ホッとした表情で大和が声をかける。
「そうか、感謝するのは此方のようだな」
丁寧に頭を下げ、お礼をいわれた。
「私は、バッソ・カステルモール。ガリア東薔薇騎士団の花壇騎士だ」
「俺は、草薙大和。こっち風に言えば、ヤマト・クサナギと言います。それにしても、あなたが隊長だと思ったんですが?」
「なぜそう思ったか聞かせてもらえるかな?」
「ここに居た騎士団5人の中でバッソさんが一番強い。それに雰囲気というか、落ち着きの差ですね」
「まぁ実力差は間違っていないが、落ち着きという面では演技だったからな……山賊も仲間だ」
「ってことは、バッソさん以外の騎士が敵だったってことですか?」
「まぁーそう言う事だ。私はオルレアン候の屋敷まで向かっているが、クサナギはどこへ向かって旅をしているのか聞かせてもらえるか?」
「シャルロット様へとお目通りを願いたく、オルレアン候の屋敷へと向かっています」
バッソを見て、何故かシャルロット側の人間ではないかと感じた。
態々演技と称して自分以外の騎士を排除したのに、不審者といっても過言ではない大和と話をしている。
更には頭を下げるバッソにかまをかける意味でもシャルロットのことを話す。
「…理由を聞いても?」
目を少し細め、今にも切りかかろうかという態度が見て取れた。
「そんなに警戒しないで下さい。頼まれ物をお渡しするだけです。危害を与えることはありません」
(やはり、王弟派の騎士か)
「私に言付けるというのは無理か?」
「そうしたいのは山々ですが、ご本人に直接渡すように頼まれました。危険なものではありません」
「…依頼人を聞くわけにはいかないだろうか? 無理を言っているのは分っているが、シャルロット様を万が一にも危険に晒す訳にはいかないのだ。」
「何このおじさん! ヤマトが変なことすると思ってるの!?」
いきなりセラが口を挟みバッソの度肝を抜く。
「セラ? そんなに怒ることは言われてないよ。シャルロット様を守る為に用心を越したことはないんだよ」
「だって~~~ヤマトのことを不審者か何かのように言うから……」
「ふふ、セラありがとう」
「…っ」
「あぁ~すまない。この妖精はクサナギの使い魔か?」
「いえ、使い魔ではなく、友人です。どこを探してもルーンはありませんが、女の子ですので、調べるのは控えて頂けると助かります」
(…っ)
大和の隣でなぜか照れるセラを不思議に思いながら、信用を得る為にある程度の真実を話す。
「…妖精は嘘つきだと言われている」
「ななななんですって~~~~!」
先ほどとは違う意味で顔を真っ赤にして叫ぶ。
「だが相手を傷つけたり、悪意ある嘘は絶対に付かないそうだ」
幾分落ち着いたセラにバッソは微笑を浮かべる。
「クサナギのことを信用しよう。一緒にお屋敷まで同行しよう」
(セラのお陰で信用されたってのが意外だ…)
「えぇ、よろしくお願いします」
「お屋敷の周囲にも密偵が潜んでいるはずだ。その格好では怪しまれるな…。こいつの鎧なら良さそうだ。これに着替えてもらえるか?」
「そうですね、その方がいいですね」
亡骸から鎧を脱がし、血を丁寧に拭きとって大和は鎧を着ていく。