キーンコーンと午前中最後の授業終了をしらせるチャイムが鳴る。
あと2つ授業を受ければ放課後。
今日は生徒会の会議とかは無いし、終わったら速攻で"あの部屋"に行こう。
少しだけある仕事は副会長に押し付けちゃえばいいしね(笑)
最近のわたしは放課後をとても楽しみにしている。
いや、ちょっと違うかな。
正確には"あの部屋"に行くことを・だ。
あの部屋――奉仕部はわたしにとってもすごく居心地のいい空間なのである。
他愛もないおしゃべりをして、時に雪ノ下先輩が先輩の事を罵り、先輩が反論をして、それに結衣先輩が便乗したり、苦笑いしたり、そんなまったりとした空間
その空間が心地よく、最近は毎日のようにおじゃましていたりする。
ふふふっ。今日は何て言って先輩をからかってやろうかな?
そんな妄想をしていると自然と頬がにやけてしまうから困りものだ
あ~早く放課後にならないかな?
「最近のいろはってさ~何か変わったよね?」
「ほぇ?」
わたしが考え事をしていると一緒にお弁当を食べていた友達が唐突に言ってきた
ちなみに女の子の友達は少ないわたしだが、まったくのゼロというわけではない
特に一緒に食べている二人、一条結城と二ノ宮光とはほぼ毎日一緒にお弁当を食べるほど仲がいい
「変わったって、どこが?」
はて?と首を掲げてみる
「何て言うか、あざとさが少なくなった?」
「はい?」
「あ~結城の言う事分かるかも。前までのいろはって、とにかく自分が可愛いアピールしてたけどさ、最近はそれが無くなってきてるんだよねー」
「そ、そうかな~?」
言われてみてもピンとこない
確かにわたしは今まで男の子に対して計算的に「可愛いわたし」アピールをしてきたことは事実だし自覚している。
けどソレが無くなったと言われてもそんなことは無いと思う
現に先輩にはそう言ったアピールを毎日しているし、その度に「あざといあざとい」と切り捨てられる
だからそんなことは無いはずなのだ
そう言ってみると、自分では気づいてないの?と少し驚かれた目で見られた
「だってさーこの前の金曜日もサッカー部の西川君が”明日遊びに行かない?”って訪ねてきたじゃん?それを”ごめん、明日は用事あるから”で典型的に断わってたし」
「いやいや、その日は本当に別に用事があったわけで…断っただけであざとさが無くなったって言える?」
実際に先輩とデートという大事な用事があったわけだしね
「いやいや断った事自体にたいしてじゃなく、断わり方をいってるのよ」
「断り方?」
結城の言葉に再び首を傾げる
すると、光の方が代返するように言ってきた
「いつものいろはだったらさぁ"ごっめーん。明日はちょーっと用事があるんだぁ。本当に残念だけどまた今度誘ってねぇ~"と、こんな感じに言うと思う訳よ」
・・・・・・・・・・・・
やばい。ちょっとうざいと思ってしまったが、いつものわたしなら言ってそうだと納得してしまった。
「心当たりがあるっしょ?だからそういう計算的な事やめたのかなぁと思って」
いやいやいや、止めたつもりはあまりないのですが
だって先輩には―――と考えた所でふと気付いた
そういえば、そういったアピールをしているのは最近は先輩の前だけではないだろうか?
あれ?
あれ?あれれ?
何で先輩の前でだけなんだろう?
おっかしいなぁ~無意識の内に他の人には封印しちゃったのかなぁ?
だとしたら何で先輩だけ?
「???」
自分の事なのに考えても答えが出てこない
「もしかしていろは、葉山先輩に本気に挑むようにしたとか?」
「へ?は、え?」
葉山先輩?本気?
どういうこと?
「ほら、クリスマス前に一回振られちゃったけど、諦めた訳じゃないんでしょ?
だったら、好きな人に本気でぶつかるために他の男の子は切っちゃったみたいな」
「あーそういうこと。そう考えると健気だねぇいろはは」
あははと二人は笑い合っている2人の声が遠く聞こえた
「・・・・・・・・・」
キーンコーン
「あ、チャイムだ」
「はぁ、あと2限頑張りますか。じゃねいろは」
「あ、う、うん」
何故だか空返事をしてしまう。
5時間目が始まっても、ずっとわたしは上の空だった
原因はさっきの会話
『好きな人に本気でぶつかるために他の男の子は切っちゃったみたいな』
だってあの時、わたしの頭の中に葉山先輩は一瞬たりとも浮かんでこなかった
考えても考えても浮かんでくるのは―――