一色いろはが望むもの   作:ブイ0000

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一色いろはに何かが芽生え始める

一色いろはに何かが芽生え始める

 

「う~寒いですねぇ」

 

時間帯的には夕方だが、すでに外は暗い

 

そんな中、自転車を押す先輩と隣を歩くわたし

 

「今は星が見えるが、これから雪が降るかもって言ってたな」

 

「もし積もったりしたら明日は受験生大変ですね」

 

「やっぱりそうだよなー」

 

ハァ…と先輩の口から一つのため息が漏れる

 

「先輩?」

 

「いや、明日の受験な、妹もウチを受けるからさ」

 

あ~そういえば妹さんがいるって言ってたっけ

 

「確かぁ、お米ちゃんでしたっけ?」

 

「バカ違ぇよ。小町だ小町!何だよお米ちゃんって…」

 

おっと。そういえばそうでした。

 

「小町ちゃん…小町ちゃんですね。一回会ってみたいです」

 

「4月には会えるだろ」

 

「お、もう受かることは確定ですか?」

 

「まぁ、あいつの努力は知ってるからな。それに—―」

 

それに?

 

「—―由比ヶ浜でも受かったから大丈夫だろ」

 

「………」

 

ゆ、結衣先輩…すごくバカにされてますがわたし、少し納得しちゃいました。

 

ごめんなさい

 

「まあ、なんだ…小町のためにも楽しい学校にしてくれ。会長」

 

ニッと優しい顔で言ってくる先輩

 

こんな顔もするんだ…家族想いなんだなぁ

 

「クスッ!やっぱり先輩はシスコンですね」

 

「ばっかお前。千葉に住んでる兄貴はみんなシスコンなんだよ」

 

いやいやいや。そんな事あるわけないじゃないですか

 

どんだけ規模がでかいんですか

 

「まぁ仕方ないですね。先輩の頼みですし。でも—――」

 

キュッと先輩の袖を掴み、とびっきりの笑顔でこう言った

 

「何かあったときは助けてくださいね。せーんぱい」

 

「……後ろ向きに検討しておく」

 

「それ後退してるじゃないですか。そこは前向きに検討してくださいよ」

 

ガシガシと頭をかく先輩

 

まったく。相変わらずの捻くれさんですね

 

そして、その捻くれさんは実はすごく頼りになることをわたしは知っている

 

生徒会選挙、クリスマスイベント、フリーペーパー、先輩には本当に助けてもらってばかりだなぁ

 

あ、生徒会選挙は言いくるめられただけだっけ…

 

あれから数か月たったのに、あの時の記憶はまだ新しい感じがする

 

「ん?」

 

感慨に浸っていると、わたしの手に白く冷たいものが空から降ってきた

 

「あ、雪…」

 

「降ってきたか…つーかまだ星空見えてんじゃん」

 

「晴れてるのに雪って狐の嫁入りって言うんでしたっけ?」

 

「それは雨の時だろ。雪は狸だ」

 

「わぉ。先輩博学~」

 

「その言い方バカにしてる?バカにしてるよね?」

 

「だって先輩頭いいようには到底思えませんし」

 

「舐めるなよ?国語だけなら学年3位だぞ」

 

「え!?先輩ってそんなに頭良かったんですか?」

 

い、意外だ。意外すぎる事実

 

「失礼な奴だなお前は」

 

「ちなみに理数系はどうなんですか?」

 

「……………」

 

あれ?何か思いっきり顔を反らしてますけど

 

「先輩?」

 

「一色」

 

「はい」

 

「俺の正解は数字には左右されない」

 

「すいません。意味が分かりません。ていうか、数字に左右されるのが現実だと思います」

 

「うぐっ」

 

これで学年3位か~

 

ということはつまり、理数系は絶望的だと

 

そんなことを話していると、駅が見えてきた

 

何か、いつもより早く着いた気がするなぁ

 

「あ、ここで大丈夫ですよ。送ってくれてありがとうございます」

 

「おう」

 

スッと取り出した鞄をわたしは受け取る

 

「あと、これ使え」

 

「え?」

 

もう片方の手で差し出してきたのは折り畳みの黒い傘

 

「念のため天気が崩れそうな時は持ってんだよ。駅から家まで必要だろ?」

 

「い、いいんですか?」

 

「家まで遠くないしな。それに自転車だと傘さし運転は禁止だし」

 

だったら持ってること自体おかしくないですかねって言いたいけど自重しておく

 

というより、いきなりの不意打ちに突っ込む余裕もない

 

一瞬わたしの体温が上がったのがいい証拠

 

「(やっぱり、先輩はあざといです)」

 

しかもこの先輩はおそらく下心とか計算とかそういったものはない気がする

 

鞄を籠に入れてくれた時と同じく素で優しさを出してる

 

「ありがとうございます。先輩」

 

傘を受け取り、頭を下げてお礼を言う

 

「おう。気ぃつけてな」

 

「はい。先輩も気を付けて。まだ積もってないですけど、自転車に乗って転ばないでくださいね」

 

「大丈夫だ。たぶん」

 

クスリと笑って改札を通り階段を上る

 

その途中でクルリと振り向くと、あの時と同じように先輩はまだわたしを見ていてくれた

 

そのことがとても嬉しく、先輩に小さく手を振った

 

すると先輩もスッと手を挙げて答えてくれる

 

それを確認すると再び階段を昇っていく

 

トクン

 

また、身体が温まる

 

それがとても心地よくて、とても気持ち良かった


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