蒼天を焦がすほどに紅い、叛逆の旗を掲げよ   作:NoRAheart

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大軍と大軍がぶつかり合う様な物語が書きたかったのです。

ただそれだけです。


ぷろろーぐ

振り返ってみれば、運がなかったとしか言いようのなかった。

思えば、不運としか言いようのなかった。

 

戦場を見渡す事の出来る丘の上で。

ポツリと、立つのは一人、やや垂れ目の女は思う。

その女、身の丈は6.5尺(約150㎝)程。

身体つきは特出するモノはなく。

人相も、上等なモノと思しき黒縁の眼鏡を掛けていること以外に、特徴はない。

少しばかり癖のある髪は、頭から灰を被ったかのような灰色。

長さは、やや肩にかかるあたりで、まるで刃物でバサリと乱暴に切ったかのように不自然に切り揃えられている。

黒縁の眼鏡を掛けた彼女の見た目は、まさに地味な、何処にでもいる文学少女だった。

 

だが、彼女が文官や軍師の類かと問われれば、彼女の装いがそれを否定する。

群青色の甲冑を身に纏い。

82斤程の血にまみれた方天戟を握る。

少しばかり不健康にも見える、白みがかった肌や髪は、泥や血で穢れ。

更には身に纏う甲冑には矢剣の傷が目立ち。

罅の入った眼鏡の下にうっすらと浮き出た隈が、明らかな疲労の色を表そうと。

しかし、その瞳はまだ生気を失わず。

胸を張って堂々と立つ彼女は、どんな英雄譚に出てくる武将よりも武将然としたものがあった。

事実、今の彼女はこの戦場において、一人の武将としてこの場に立っている。

 

 

「……嗚呼」

 

 

どうして?

どうしてこうなったのだろう?

女は目の前に広がる軍勢を前に、思う。

望まなかった、豫州独立を掲げた反乱。

皆に担がれてしまった私は。

何処で?

一体何処で、道を違えてしまったのだろうか?

女は何度も何度も、自問した。

 

しかし何度考えても、何度思い返しても。

不思議な事に、彼女自身の人生に、なんら一切の後悔はなく。

それは己が為ではなく、他が為に。

常に無い知恵を絞り、考えうる限りの最善の決断してきた人生。

「そんな人生に、後悔はあるか?」、と。

己にそう何度も問いかけたとしても。

答えは――否。

それ以外にある筈がなかった。

 

……ならば。

ならばである。

己がかつて、最も恐れていた未来。

己が最も避けていた筈の、しかし今この瞬間、目の前に広がる光景は。

抗ってきたはずの、考えた末の選択の結果が、これならば。

己に運がなかったと、そう言わずしてなんであろうか?

 

 

「分っていた結末。抗っても、変わらなかった運命。人、それを『天命』とでも言うのでしょうか?」

 

 

柔らかい口調とは裏腹、『天命』という言葉を使った女の表情は険しい。

 

女の見下ろす見慣れた豫州の大地には、人の群れ、軍が殺到していた。

それはかつて、女が見た大海の如く。

ただ目の前を埋め尽くし、ただこちらに寄せる。

その数、優に数万は超えるだろう。

それが全て、女にとっての、女たちにとっての――敵。

おそらく、彼の群れこそ、間違いなく敵の主力部隊だった。

 

目の前に広がる、地を埋め尽くさんと展開する人の塊全ては、敵。

しかしそれさえも、女にとっての、敵の氷山の一角でしかなく。

まだ見ぬ、何万何千何百もの人の群れが、ただ一人。

ただ一人、彼女の首だけを狙っていた。

 

彼らの掲げる御旗は―――『漢』

それが、女の敵だった。

 

 

「驚いた」

 

 

ふと、女は声をかけられる。

それは女の背後から。

 

 

「流石の貴女でも、大軍を前にして怖いのね」

 

 

女こそ、驚く。

振り返ればそこにいたのは、女よりも少しばかり背の小さな少女で。

女にとって、その少女はよくよく見知った人物は、今回の戦いの折、女の勧めで彼女は故郷へと帰していた筈だったのだから。

 

 

「ええ、怖いです」

「……貴女ねぇ」

 

 

少女の口調はやや棘のあるものの、それは心配の裏返しだろうか。

少女が女を心配する色が、見え隠れしていた。

いつも通りな、少女。

相変わらずな友人を、ほほえましく思いながら答えた女に。

いつも通りな、女。

相変わらずな友人を、呆れながらも少女の頬は自然と緩む。

 

 

「逃げて、くれなかったのですね」

「全く、貴女を置いて何処に行けと言うのよ?」

「……貴女の実家とか?」

「別れた時にもそれ言われたけど、嫌よ。なんであの男のいるところにわざわざ戻らないといけないのよ」

「では、曹騎都尉様の所はどうでしょう? そもそも、貴女は彼女の所にいた筈では?」

「何よ? 貴女、私を馬鹿にしているの?」

「馬鹿な。私は、貴女を心配しているのですよ」

 

 

師として。

友として。

仲間として。

ライバルとして。

 

生みの親よりも付き合いの長くなってしまった、二人。

少女がどのように女を見ているかは知らなかったが、女にとって少女は、もはや姉妹同然の存在だった。

 

愚姉賢妹ではありますが――女は微笑み、思う。

少女は、ズルをしていた矮小な己よりも才能あふれる人間で。

己には出来なかったことが、出来るはずだから。

こんなところで燻るべきでない、と。

本来なら、少女は、然るべき場所で己よりも上手く、腐ったこの世を正しい方向へ導くことが出来たかもしれなかった未来があった。

知らず知らず、多くの人たちを巻き込んでしまったが。

彼女は、まだ間に合う、と。

そして、何よりも。

女は少女にただ純粋に、生きていて欲しいと、女は願った、だから。

だから女は、戻ってきて欲しくはなかったのだが。

 

 

「今更よ」

 

 

少女は、そんな女の思いなど知ったことかとバッサリ切った。

 

 

「曹騎都尉様は貴女の言う通り、確かにすごい人だった。貴女よりも先に会っていたら、私は間違いなくあの人に一目ぼれしていたかもしれない。あの人の語る覇道に、身も心も捧げていたかもしれない」

「なら――」

「でもお生憎様。私はもう、貴女に毒された身体になってしまったのよ。危篤よ、末期よ。悪い?」

 

 

そう言って、猫耳頭巾を引っ張って顔を隠そうとする少女の頬は、己の言葉の恥ずかしさ故か、ほのかな朱色を帯びている。

少女の言葉態度は、本気なのか、はたまた冗談なのか?

その真意を図ることは、付き合いの長い女にとっては簡単だったが……

 

あえて女は暫しの沈黙を選び、そして少女を説得せんと、切り出す。

 

 

「折角の王佐の才を、私ごときに潰すのですか?見なさい、あの軍勢を。至る結末は、ほぼ決まったもの。私という()()は、もはや風の前に燃える、儚い灯火に等しいというのに」

「他人の評価なんて、どうでもいい。貴女がどんな結末を描いていようと、知ったことじゃないわ!!」

 

 

少女は女に迫り、怒鳴る。

 

 

「貴女が儚い灯火? 馬鹿言わないで、いい加減に気づきなさい!! 貴女という火は、決して灯火程度の()じゃない筈よ!!」

 

 

少女は女を、幼い頃からずっと見てきた。

女は、プライドが高かった少女にとって数少ない、敬意を払うに値する人だった。

しかし少女が女と出会った頃から、自身そのものに価値を見出せていない節があって。

勝手に自分の限界を決め。

己を灯火と貶めて、自らを狭い燭台へと押し込んでいる。

そして女は他人の好意や評価に対しては極端に鈍い。

彼女が周りからどのように思われているのか、慕われているのかを気づこうとしない。

少女はそれが腹立たしくて、気に入らなくて、仕方がなかった。

 

どうして彼女が、今此処に立っているのか?

どうして他の誰でもない、彼女が担がれているのか?

それは彼女が必要とされたからではないか。

誰よりも、他の誰よりも。

彼女という人が、皆に必要とされたからに他ならないからではないか。

それを、彼女はもう、いい加減に知るべきなのだ。

 

 

「燭台という檻が、貴女をとらえているというならば、私は貴女に仇なす風さえも利用して、燭台を倒し、貴女を野に解き放って、いずれ蒼天をも焦がす大火にしてみせるわ!!」

「………貴女には、もっと仰ぐべきに相応しい人が――」

「私が誰を主と仰ぐかなんて、私の勝手じゃない!!」

「文じゃ――」

「私が!!」

 

 

往生際の悪い彼女の言葉を遮って。

少女は女に、逃れられない楔を打つ。

 

 

「私の才の限りを尽くして、貴女を必ず王にしてみせる!!」

 

 

しかし啖呵を切って、女の眼前を指差して。

少女の顔は、これ以上ないほどの自信に溢れていたが。

その指先は、僅かに震える。

それは少女の自信の中の裏にある、不安の表れ。

 

 

「……馬鹿です」

 

 

そんな自信と不安を抱えても。

それでも、女の許に戻って来てくれた。

そんな少女に、女はもはや言葉もない。

 

 

「馬鹿です。大馬鹿です………」

 

 

小さな声は、虚空を揺れる。

震え、何かをこらえるように俯いた女だが。

やがて勢いよく顔を上げた。

 

 

「私は天下を望まず、王位もまた望みません!!」

「ならば貴女は自ら乱を起こしながらも、国を乱しながらも、一体この乱の先に何を望むか!!」

「望むのは、ただ、隣人らの明日!!」

 

 

――隣人らが、ただ今を笑って生きられる場所を作る事が私の望みなのです

それは女が、常々言っていたこと。

甘い望み。

 

予想通りの答えに、少女はやはりと呆れながら、しかし彼女らしいと笑い、思う。

「至る結末は、ほぼ決まったもの」と女は言ったが、まだ彼女は諦めてはいまい。

勝てる算段もなく、徒に兵を死なすのなら、女ならば今直ぐに降伏を選び、民の為ならと喜んで首を差し出していたに違いない。

彼女の事だ。

腐敗した漢から如何に豫州を切り離し、如何にして独立を図るかの一点だけを考えているのだろう。

それは女の持ちうる戦力や、地の利の事もある。

だが、豫州の簒奪に成ったとしても、漢という国を討たぬ限り。

女が立ち続けている限り、争いがなくなることはない。

戦いの螺旋は、止まることはない。

 

天下も王位も望まないと、女は言うが。

結局、女の言う隣人の明日を求めるためには、女が目指すべきなのは何処であるのかは言うまでもない。

それを、女は果たして気づいているのだろうか?

 

 

「それが貴女の望み作る明日ならば、立ちはだかる一切を、我が策にてすべて打ち払ってみせましょう」

 

 

……気づいているのだろうと、少女は考える。

そこに考えが及ばない彼女ではなく。

それでいてなお、その道を貫く彼女には、何か考えがあるのだろう。

少女は官軍を侮っている訳ではないが、漢を侮っている訳ではないが。

彼女と、彼女と共に立ち上がったあの仲間たちなら、豫州独立もまた夢ではないように思えた。

しかしその道が成ったとしても、いずれ来るであろう時の流れは、彼女が留まることを許すことはないだろう。

 

 

「姓は荀、名は彧、字を文若、真名は桂花。この名を貴女に捧げ、この身は貴女と、貴女の守る民の為に」

 

 

その時こそ、この人を、必ずや天へと昇らせる時だと。

 

少女――荀文若は、思いを抱き。

 

女に傅き、忠誠を誓う。

 

本来、それは少女の歩むべき正史とは、大きく異なるもの。

 

それは『天命』と嘆いた、女の言葉を否定するもので。

 

確定した未来など、決して存在しない事の、一つの証明だった。

 

 

 

 

 

 

女は、荀彧を連れて丘を降りる。

そこには官軍に悟られないよう配置された女の手勢が控えていた。

その数、およそ千人程。

彼らはもとは彼女の部曲であったり、官軍時代の部下だったものであったりと経歴はさまざまではあったが。

皆、女の手によってよく鍛えられた精鋭で。

立ち上がった女に、逆賊の誹りを受けようとなお、ついていくことを選んだ者たちだった。

 

 

 

「傾注」

 

 

女の一声に、彼らは隊伍姿勢を正す。

皆注目し、主の言葉を、待つ。

忠実な犬のように。

 

 

「まずは私と共に、民の為に立ち上がってくれたあなた達の献身に、この場で改めて感謝を」

 

 

方天戟を地に刺し立て、揖礼。

 

 

「皆さんご存知の通り、偉大なる光武帝によって取り戻され、もたらされた漢の治世の光はもはや見る影もなく、国はすでに建国時の力と理念を失いました。仰ぐべき天子様の御威光は宦官らの私利私欲の為に事実上簒奪され、中央官界には賄賂が当然の如く横行。地方もまた、酷吏が私腹を肥やし、今この時も人々を苦しめております。民を導くべき者たちはその役目を忘れ、私利私欲の為に当然の如く圧政を布く。そのもと搾取される力なき人々の嘆きは遂に届くことなく、ある者は世を恨み、ある者は嘆き、ある者は生きる為にと野党匪賊になり下がり、そして群がる賊は蝗のように、更に罪なき人々を苦しめる」

 

 

語る女は、少女に見せていた、先ほどまでの彼女とは別人であるかのように。

ただ、淡々と。

 

 

「この世の、国の今は、生きながらにして地獄に等しい。力なきことが罪悪とされ、悪徳が平然と行われる。どうしてそのような世が、国が、許されましょうか?どうして虐げられている者たちを目の当たりにして、座視していられるでしょうか?」

 

 

ただ、冷たく。

 

 

「否です」

 

 

ただ、告げる。

 

 

「私たちは人々の、怨嗟の声の代弁者。民なくして、国は無し。それを忘れ、人々の声に耳を塞ぎ、人々を虫けらのように踏みにじるこの国に、私たちの声を届けるのです」

『御意』

 

 

一糸乱れることなく傅き、応える彼らの心は一つ。

民の安寧、安楽。

それを願う、彼らの仰いだ主の勝利。

 

 

「心して掛かりなさい。此度の相手は今までの相手とは違い、勇将名高き彼の朱公偉中郎将です。簡単には勝たせてはもらえない相手でしょう。苦戦を強いられる事でしょう。ですが、私は貴方達が負けるとは一切思っておりません。何故か? それは貴方たちに、私はよくよく教えている筈です」

『ハッ!! 我ら兵、我ら軍、背中にある守るべきものの為、いついかなる時も一切の敗北を知らず、一度の敗北も許されず!!』

 

 

方天戟を地から抜き、彼らに向け、女は問う。

 

 

「私は、貴方達に問います。貴方達は何ぞや?」

『我らは群にして群に非ず、個にして個に非ず。我らは軍なり、個にして群をなす軍なり!!』

「何の為の軍か?」

『虐げられる我らが隣人を助け、悪しきモノを挫く軍なり!!』

「貴方達は何ぞや?」

『我らは盾なり、我らは剣なり!!』

「何の為の剣盾か?」

『我らは隣人を害する悉くから守るための盾なり、我らは隣人を害さんとする敵一切悉くを打ち払う剣なり!!』

「ならば隣人の為に人を辞めた、人ならざる剣盾の、群にして一個の軍よ。貴方達は何を望むや?」

『大義の戦争を!! 人々を苦しめるすべての悪鬼畜生を倒さん、戦争を!! 』

 

 

その数、迫る敵には遠く及ばずとも。

しかし彼らの目は、誰も敗北の未来を見ていなかった。

彼らが見るのは、ただ、己らの勝利。

己らが主と仰いだ者の、作る未来。

家族と、友と、隣人らと作る、平和な未来。

それは夢想。

叶う事はないであろう、儚き夢想だろう。

だが。

 

 

「我らこそに大義があると信じるなら、たとえそれが官軍であろうと、友であろうと、家族であろうと、恋人であろうと、それが全て迫る敵ならば、その剣でもって応えなさい!! 全ては、大義の為に!!」

『さらば我ら、隊伍徒党を組みて布陣を布き、ただ眼前の敵悉くを打ち払わんが為の木偶とならん!!常に進み、時に道なき道を往き、屈さず!! 最後の一人になろうとも、面前の隣人を犯す敵に、許し請わず、慈悲与える事もなかれ!! いざ我らは逝く!!』

「総員騎乗!! 出陣用意!!」

 

 

この場にいる誰もが、そんな未来を疑わない。

女の作るであろう未来を、誰もだれもが疑ってはいなかった。

その光景は、まるで熱狂的な信者のよう。

 

 

「文若」

「………ハッ!!」

 

 

今まで見たことなかった、普段とは異なった女の武人としての姿に、惚けていた荀彧。

自身が呼ばれたことに一瞬気づかず、慌てて返事を返す。

 

 

「私たちはこれより、敵主力後方より奇襲を仕掛けます。一人護衛を付けるので、貴女は十里後方の、呂子明が指揮する本隊まで下がり、彼女の補佐を頼みます」

「嫌です!!」

「はっ?」

 

 

まさかである。

受け入れられると思っていた女の頼みは、断られ。

思わぬ荀彧の返しに、女は思わず乗りかけていた馬から落ちかける。

 

 

「嫌とはどういうことですか、文若?」

 

 

女の問いに、嫌と言う割には妙ににこやかな荀彧が、返す。

 

 

「二心なき忠誠を誓う貴女の臣として、真名を預けたのです!! どうかこれよりは真名でお呼びください!!」

 

 

しかもその拒否した理由が何とも子供っぽいものであった。

しかし言葉遣いを正して諫言の態を取っていることから、これでも本人は真面目に言っていることが分かる。

この国において真名とは、人々が持つ姓・名・字以外の、所謂諱にあたる名で、この名で呼ぶことを許されると言う事は、本人が心を許した証とも言える。

その為、許可無く真名で呼びかけることは、問答無用で斬られても文句は言えないほどの失礼にあたり。

また真名を預けると言う事は、相手に絶対の信頼を預ける事で。

その真名の受けを拒否する事は、相手の信頼を拒絶する事となる。

 

女は真名を受け取ることを避けていた節があった。

それは彼女自身が己の真名を知らず、真名を受け取っても返すべきものがなかったからだった。

それは荀彧も、また知っていた事だったが。

上に立つものとして、これからはそうはいかないと、荀彧は警告をしているのである。

 

 

 

「全く、こんな時に――桂花」

「ハッ」

「我が臣たる貴女に命じます。呂子明と合流し、彼女を支えなさい」

「御意!!」

 

 

すがすがしい返事を返し、荀彧は踵を返して去っていく。

その顔は、悪戯が上手く行った子どもの様に、晴れ晴れとしたものであった。

そんな彼女の後ろ姿を見送り、やはり己は桂花には勝てぬと苦笑いを浮かべた。

 

女は荀彧を十分見送った後、方天戟を弄ぶように馬上でくるりくるりと二度回し。

改めて、兵たちの方へと向く。

皆、女の指示を今か今かと待っており。

そして、女の指示が下る。

 

 

「紅き叛逆の旗を揚げよ!! 死の銅鑼を鳴らせ!! 総員、突撃です!!」

『御意!!』

 

 

銅鑼が鳴り、旗が立つ。

益荒男どもの声も響き、地は軍馬の疾走で轟き揺れる。

 

風が吹く。

 

掲げた深紅の牙門旗は、風に煽られ、波を打つ。

空に映えるその旗は、遠くから見ればやはり灯火の様に頼りなく揺れるものでしかないが。

その灯火は決して消える事を知らず。

もしもその火を望む者がいたならば、やがてその火が大火になることを身をもって知るだろう。

もしもその火を知る者がいたならば、その迫りくる大火の恐怖を思い出すだろう。

 

 

「て、敵襲ぅううう!? 波才だ!! 波才が現れたぞぉおおおお!!」

 

 

ただ寒さに苦しむ誰かに、温もりを与える火を燃やし。

ただ寒さを与える誰かに、その身を焦がす火を与える。

 

 

 

 

人、その火の名を―――波才と呼ぶ。

 




ストパンをメインでやってますので、更新は遅めになるかと。

予定としては黄巾の乱あたりで完結予定です。
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