コルトパイソンって語感がいい。
ある詩から、思いつきました。
おれはコルトパイソンを親父に買ってもらった。
それは本物だったから、いままでモデルガンしか知らなかったおれは、すごく嬉しかった。
おれが、おれのコルトパイソンで最初にぶち殺したのは野犬だった。夜になると発情して、あまつさえ村にまで降りてきて、子供や老人ともつがろうとして、もちろん子供や老人は拒むのだが、それに犬どもは逆上して子供や老人を殺してしまうのだ。
おれがコルトパイソンでぶち殺した野犬の数は、一月も経つとざっと二百匹にも上ったものだが、犬どもはいっこうにその数を減らさないし、子供や老人の死体はいつものように百メートルの間隔で転がっているしで、おれはなんだか張り合いというものがなくなってしまった。
というより、おれはなにも犬どもを殺したいわけじゃなかったんだ。本当は、憧れのヒトラーユーゲントのように、人間にコルトパイソンの弾丸をお見舞いしてやりたかったのだが、朝起きたら学校に行くように、野犬殺しがいつしか洗脳的習慣になってしまっていたのだった。
で、おれはあくる日、というのは昨日だが、親父がいないのを見計らって、庭に立ち、塀の上にならべた親父のワイン、そいつのコルクを、コルトパイソンで撃ち飛ばそうとしていた。いや、それは口実なんだ。おれはじっさいは、塀の向こうの隣家の、口を開けてぼおうと空を見上げているアホな女の子を狙っていたのだ。塀は低いので、アホな女の子の姿は、腰のあたりまでおれの視界に入っていて、おれはアホな女の子の上半身のどこでもねらえるわけで、だが、憧れのヒトラーユーゲントは、処刑のときはかならず犠牲者の頭をぶち抜いていたからおれもそうしようと思った。
おれは、いまだあじわったことのない興奮に、舌が伸び切って裏返り、ぐんぐん下がって、心臓の表面をなぞっているような感じで、吐きそうなくらいだった。
コルトパイソンの引き金を引いた。
弾はアホな女の子の頭上二センチのあたりを走って、奥の、アホな女の子の父親が寵愛している、アホな女の子そっくりな木彫り人形の胸を貫通した。
アホな女の子はそのままだった。
その母親が出てきた。
アホな女の子の母親は、塀を、ワインボトルを蹴散らしながら飛び越えてきて、真っ先におれのコルトパイソンを、おれの手から取り上げた。おれは母親を殺そうとしたのだが、おれよりも母親のほうが何倍も敏速だったから、おれは、コルトパイソンを手放す羽目になってしまったのだ。
そして母親は、おれの鼻をつまみ、向こうのアホな女の子を指さしながらわめき散らしたものだ。
………………
「アアーアアー、当たったらどうするんです! 当たったらァー! あの娘に、当たったらァー!」
………………
おれは鼻をつままれながら答えたので、おれの声は、首を締められたアヒルのようで、いや、おれが二百匹殺した野犬の五十匹ほどの断末魔を合わせたようで、恥ずかしかった。
………………
「へへ、なあに奥さん。そのときはぼくらでまた頑張ればいいじゃないですか?
なにせ、ぼくは宿望のコルトパイソンを手に入れたんだからなあ。ぼくはもうただの餓鬼野郎じゃないんだからなァ!
見くびってもらっちゃ、こまるよ!」
………………
真っ赤な顔の母親の向こう、ワインにまみれた塀の向こう、気味の悪いほどリアルな木彫り人形より手前、アホな女の子がいきなりおれを見つめて高らかに笑いだしたから、おれは自分の手元を振り返ったが、おれのコルトパイソンはない……
おれのコルトパイソンは、母親のサンダルに踏んづけられていて、コルトパイソンは、おれを犬でも見るような目つきで、見上げていた。……