幻想郷見聞録噺   作:ボイス

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当作話の小悪魔さんは、自分に正直な女性です。


18 魔女と使い魔

 いつからだろうか、あの人間を自然と眼で追いかけてしまっているのは。

 彼女、パチュリー・ノーレッジは胸中でそう呟いていた。

 最初は全く意識などしていなかった、というのが本音である。

 こちらの邪魔さえしなければ、毒にも薬にもならない。それが彼女の中での認識であった。

 あった、と過去形になるのも、何故そうなったのかもハッキリとは覚えていない。知らずのうちに、つい眼で追いかけてしまっている自分自身に気づき、彼女は驚きを隠せなかった。

 すいと腕を動かし、パチュリーは己が胸に手を当てる。

 トクントクン、と静かに――しかしながら、しっかりと熱く鼓動する心音。

 あの人間の顔を見ると、声を耳にすると、身体は熱を帯びたように火照り、胸は更に高鳴ってしまう。

「…………」

 無言のまま――

 気恥ずかしく感じながらも、これが『恋』というものなのかと、パチュリーは自問自答するのだった。

 

   ◆ ◇ ◆ ◇ ◆

 

「小悪魔……なんなの? その、()()()()()()()()()()()()?」

 紅魔館内、地下大図書館――

 書架から目当ての魔導書を運ばせ、書物を黙々と読みふける彼女こと、『七曜の魔女』と謳われるパチュリー・ノーレッジは、氷のように冷たい眼差を向けて、紅髪の女性に対しそう告げていた。

 だが――

「イヤですねェ。わたしは、パチュリーさまの心の声を代弁していただけですよ?」

 指定された魔導書を運んでは片付け、運んでは片付けを繰り返していた小悪魔はパタパタと手を払う。

「…………」

 無言となるパチュリーではあったが、何故かニコニコと微笑んでいる使い魔に――

「別に、わたしはあの男のことなど気にもしていないわよ……?」

 くだらない、勝手な妄想話につき合わされるなど真っ平だと彼女。しかしながら、その発言は、失言でしかない。

 刹那に、小悪魔はニタニタとした意地の悪そうな笑みを顔に張り付かせていた。

「おや? おやおやおや? あれあれ? おかしいですねぇ。わたしは、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

「…………」

「わたしは、人間としか言ってませんでしたけど?」

「…………」

「それに、わたしは、あの黒白の人間のことを言ってたつもりですが? パチュリーさまには、何故か真っ先に、あの男性と捉えたわけですか。ふーん、へー、実に興味深いですねー」

 謀られた、と内心で焦るパチュリーではあるが、表面上にはおくびにも見せはしない。彼女は努めて冷静を装うだけである。

「……いい性格してるじゃない。魂の一欠片(ひとかけら)すらも残さずに、この世から完全に消されたいようね」

「よし、わかった。わかりました。ならば、この小悪魔……パチュリーさまのために、一肌でも二肌でも、あるいは全皮すら脱ぎ捨てましょう!」

「……アナタ、わたしの話聴いてないでしょう」

「じゃ、さっそく訊きに行きましょうか」

 会話が噛み合わないままに、小悪魔は名案を思いついたとばかりに人差し指を立てていた。これに眉を寄せるのは無論パチュリーである。

「……訊くって、何を?」

「本人にですよ。アキヒトさ――」

 慌ててパチュリーは小悪魔の口を塞ぐと、そのまま手近の本棚へ身を隠していた。

 魔法で光を屈折させ、離れた場所――ソファに座り、フランドールに絵本を読んで聴かせている彰人の様子を窺い彼女。

 どうやらこちらの声は聴こえていなかったことに安堵すると――

「このっ――何考えてるのよ……」

「もぁあ? もぇあって、はっはふぁふぁっはっ」

「……何言ってるか全然わかんないわよ」

 今一度忠告してから、仕方なくパチュリーは小悪魔の口から手を退かしていた。

「手っ取り早いと思ったんですがねぇ?」

「……そもそも、訊くって『何を』どういう風に『訊く』つもりなのよ」

「イヤですねェ。そんなにご心配されなくても、別におかしなことなんて訊きませんよ?」

「…………」

「ただ単に、パチュリーさまのことをどう思っているのか訊くだけですよ。女性として、激しい劣情を抱くに値するのかどうかと――」

「おもいっきりおかしな訊き方じゃないのっ!?」

 声を荒げるパチュリーに、小悪魔はきょとんとした顔をする。不思議そうに小首を傾げ彼女。

「……ご不満ですか?」

「不満しかないわよっ!」

「……パチュリーさまって、意外と面倒くさい御方ですよね」

「どうしてっ!?」

 今の会話の流れで、どうしてこちらが面倒くさいヤツだと思われなくてはならないのか。本気で理解に苦しむパチュリーを他所に、小悪魔は自身の太腿をぺしんと叩いていた。

「まあまあ、ここはわたしめに任せていただくとして、アキヒトさ――」

「だからやめなさいって言ってるでしょ!」

 再び小悪魔の口を押さえ、今度は床に身を伏せる。

 同じく、そっと様子を窺ってみれば――

 今の声は聴こえていたのか、彰人は自分の名を呼ばれたことに周囲をきょろきょろと見回しているところだった。だが、フランドールに絵本を読んでと頼まれたのか、視線を書物へと戻していた。

 何とかやり過ごせたと息を漏らすパチュリーではあるが――

「パチュリーさまに押し倒されるなんて、わたし、まだ心の準備が」

「馬鹿なの?」

 頬を赤らめ、恥らう小悪魔であるが――対照に、パチュリーはジト眼になっていた。

「……本当に、いい性格してるわね、アナタ……」

「これでも悪魔ですから。恐悦至極に存じます」

「……褒めてないわよ」

 しれっと応える相手にパチュリーは呆れるだけなのだが。

 起き上がり、膝を手で払った小悪魔は異論を唱える。

「お言葉を返すようですが、パチュリーさま……たかが人間の男ひとり篭絡できずに、何が七曜の魔女ですか」

「……アナタ、自分が何言ってるかわかってるの? それに、わたしは男なんかにうつつを抜かす暇などないのだけれど?」

 パチュリーのこの言葉に嘘偽りはない。

 色恋沙汰などには、とんと無頓着であり興味がない。

 そもそも、パチュリーにとっては異性を意識したことがないと言った方が合っているだろう。根本的な話となるが、異性に対してどのように接してよいのかがわからないともいえる。

 頻繁に、とはいかないが、外来人の彼(彰人)がこの紅魔館に訪れるのも珍しくはなくなっていた。

 パチュリーとも顔を会わせることがあるが、挨拶程度であり、それ以外の交遊もない。

 彰人にとっては相手の読書の邪魔をしたくなく、パチュリーにとっては相手など一切興味がないからだ。

 当たり前のように日々魔法の研究に明け暮れている方が、彼女にとって遥かに有意義な時間を過ごしているといえる。

 そんな主人の心境など知りもせず、小悪魔は大げさじみた動きのままに呆れ果てていた。

「なんと嘆かわしい! 男のひとりやふたり、容易に骨抜きに出来ないなんて、パチュリーさまは、いつからそんな腑抜けになってしまわれたんですかっ!?」

「……どうして失望されなきゃならないのよ」

「まったく……日がな一日図書館に篭っているから視野が狭くなってしまうんですよ。見聞を広めるのは大事なことですよ? そんなことですから、パチュリーさまは『引き篭もりの紫もやし』などという不名誉な呼ばれ方をされるんですよ」

「……誰が言っているのよ、ソレ」

「いいんですか? 『紫もやし』などと呼ばれて」

「だから、誰が言ってるのよって訊いてるのだけれど?」

「主にわたしたちの間で、ですが? それがどうかしましたか?」

「…………」

 何か問題でも、といわんばかりの顔の小悪魔に対し、パチュリーは眉間にしわを寄せる結果となるのだが。

 小悪魔は当然のように無視し続けていた。

「今はパチュリーさまが『引き篭もり』だろうが『紫もやし』だろうが『陰湿』だろうが、そんなことはどうでもいいんです」

「……どうでもよくはないと思うのだけれど? 今、陰湿って言ったわよね?」

「とりあえず、お尻のひとつやふたつ軽く撫でさせてあげれば、大概の男なんてコロッと行きますってば」

「なんでそんなことさせなきゃならないのよ」

 気安く男に触られたくなどないし、触らせる気などハナから持ち合わせていない。そもそも、そんな不埒なマネをされる前に、相手は消し炭と化しているだろうが。

「これもひとえにパチュリーさまのためですよ?」

「……どうしてそうなるのよ?」

 パチュリーの至極当然となる問いかけに、しかしながら小悪魔は待ってましたとばかりに説明し出していた。

「いいですか? レミリアお嬢さまのご友人として、パチュリーさまは、この紅魔館にいらっしゃいますが、見方は人それぞれであり様々です」

「…………」

「レミリアお嬢さまのご友人が、品位に欠けた御方だとしたらどうでしょうか? それは当然、パチュリーさまの品位を疑われますし、それよりもそんな方を友人にされている、レミリアお嬢さま自身も品格を疑われかねませんよ?」

「…………」

 別にたかが人間ひとりにどう思われようが、正直なところパチュリーにとってはどうでもいいことだった。

 同様に、レミリアもとるに足らぬ一人間如きにどう思われようとも気にはしないだろうと彼女は捉えていた。

 だが――

「それに、これはフランドールさまのためでもありますよ?」

「…………」

 フランドールのため、と言われてしまってはパチュリーは黙するしかなかった。

 思い当たる節があるために。彼女――フランドールは、どういうわけか、あの人間を気に入っている。

「…………」

 仮に、何らかの形で小悪魔の言うような展開になったとして、件の男がフランドールから離れるようなことにでもなれば、それはそれで少しばかりは問題となるであろう。

 できるのならば、フランドールが哀しむようなことにはしたくないというのがパチュリーなりの心情である。

「…………」

 そのため――

 至極面倒くさいとは感じながらも、パチュリーは嘆息を漏らしていた。

「……つまりは、どうしろっていうのよ」

 遠回しな言い方にも辟易したというのが本音でもあるが。

 渋々ではありながらも、主が妥協したことに小悪魔は嬉しそうに手を合わせていた。

「そう難しく捉えられることではありません。要は、交流があればいいんですから。なにも、より良く深く親密になれとは申しません」

「……だから、その交流っていうのがなんなのよ?」

 男相手にどう接しろというのかがいまいち理解しかねる。

 魔法の知識には長けた彼女でも、どう振舞うのが最良であるのかといった他者との交流に優れた知識は持ち合わせてはいない。

「はっきりとお答え申し上げるのならば、愛想を良くしろってことですよ」

「……愛想っていったって……」

「ほら、それですよ。終始そんなしかめっ面をしていたら、相手だって気を使いますよ? レミリアお嬢さまとは昔からの付き合いも長く、いわば気心知れた仲であるため問題はないでしょうが」

「…………」

 小悪魔に告げられたパチュリーは思わず頬に手を当てていた。自分はそれ程言われるような顔をしているのか、と。

 普段通りの顔であるハズなのだがと胸中で呟きながら。

「そういったことを踏まえまして、素っ気ない態度は改善するべきだと思うんです。大丈夫ですよ。そういったことに関しては、どちらかといえば、わたしの方が詳しいですから」

「…………」

 否定はできないのが正直なところであろう。

 不本意ではあるが、そういったことに関してのみ言えば、事実、小悪魔の方が優れているため一存せねばならない。ついで、顔を会わせる機会がこれからも多くなるかもしれないと踏まえれば、つっけんどんな態度もいかがなものかとさえ考えてしまっていた。

 結果――

 人間相手に配慮するのもどうかと感じている部分があるのも確かではあったりするのだが。

「……わかったわよ。癪ではあるけれど、ある程度は譲歩してもいいわよ」

「さすがはパチュリーさまです。寛大なお心をお持ちです」

「……世辞はいいから、それで? どうすればいいの?」

「そうですねぇ……口で説明するよりは、実際に見てもらったほうが早いですかね?」

「小悪魔?」

 脈絡ない話の流れに不安を覚えたパチュリーだが――

「じゃ、実演してまいりますので、ご覧になっていてください」

「あ――コラっ!」

 パチュリーの制止の声を無視すると、小悪魔は片手をヒラヒラと振り足取り軽く――鼻唄さえ口ずさみながら――彰人の元へと向っていく。

「…………」

 無言のままのパチュリーにとっては心中穏やかではない。またぞろ小悪魔が余計なことを口走るのではないかと気が気ではなかった。

 そうこうしているうちに――

 ソファに座る彰人に声をかけた小悪魔は、そのままなにやら一言二言と話だしていた。

 ここからでは何を話しているのかわからない。双方口が動いているため、言葉を交わしていることには間違いはないのだが。

 頷き、身振り手振りを交えながら――彰人の片手は会話中のフランドールが退屈しないように頭に乗せられ撫でている――時折笑顔まで生じるが、相応に会話は弾んでいることを物語る。

 と――

 なにやら彰人をソファから立ち上がらせると、小悪魔はそのまま相手の腕に抱きついていた。

「っ!?」

 これに驚くのは、話す彰人は当然ながらも、見入っていたパチュリーもまた同様であった。

 顔を瞬時に真っ赤にしながら腕を振り払おうとする彰人ではあるが、小悪魔は更に胸を押し付けるように密着する。

 雰囲気からしてからかっているというのが容易に知り得るが。

 ようやくして相手を解放した小悪魔は笑みを浮かべ、対する彰人はなんともいえぬといった困惑した顔だった。

 彰人に手を振り小悪魔はパチュリーのところへ戻ってきていた。その顔は、やり遂げたという満足感に充実している。

「どうですかパチュリーさま、ご覧になっていただけましたか? そう難しいことでは――」

「出来るわけないでしょうっ!?」

「今わたしがやったことを、そっくりそのまま真似していただいてですね」

「やらないわよっ!?」

「ポイントとしては、さり気なさを装ってから――」

「だからっ! やらないって言ってるでしょうっ!? 聴こえてるでしょ!?」

 同じことをやれなど冗談にも程遠い。男に抱きつくなど、プライド高いパチュリーに出来るハズもない。

 ならばと小悪魔は顎に指を当て「うーん」と考える。

「えー、そうですかー? あー、じゃあそうですね……それでは……なら、別の手段として……うん、脱いじゃいましょうか」

「……は?」

 聴き違えたかとばかりに思わず口にするパチュリーではあるが

「は? じゃありませんよ。脱ぎましょう」

「……なんでよ」

「なんでって、素っ裸になるのが手っ取り早いからですよ。何か問題でも?」

「何不思議そうな顔をしてるのよ!? 問題ありすぎでしょ!?」

「古来より、魔女は雄を虜にするために眼前で衣類をすっぱ脱ぐ――」

「なにとって付けたような説明口調なのよ。そんな逸話も伝承も聴いたことがないわよっ!」

 冗談ではない。

 真面目に聴き入っていれば今度は裸になれだと?

 低俗な男の前に自身の裸体をさらす気など毛頭ない。

 怒りが込み上げるパチュリーの理性は限界である。こんな馬鹿げたことに付き合ってなどいられない。

「まあまあ、今のはちょっとした軽い冗談ですって」

 随分と態度も軽いものだなと感じながら――

「……とても冗談には聴こえなかったのだけれど?」

「無駄に体形(スタイル)はイイんですから」

「……喧嘩売ってるわよね? そう捉えても、わたしは間違っていないわよね?」

「ということでですね……パチュリーさまの印象を変えるためにも、ちょっとした衣類をご用意しました」

 やはりパチュリーの抗議の声をさらりと聴き流し小悪魔。

「……こちらの話は、あくまでも聴き流すワケね」

「そりゃもちろん、()()ですから」

「巧く言ったつもり? 全然面白くないわよ」

「ささ、そんなことよりも、さっそくこちらにお着替えください」

「…………」

 無言。

 言葉もなく、パチュリーは、ただただジッと小悪魔が取り出していた布地を見つめていた。

 とはいえど、見入ったままでは話が進むわけでもなく。癪ではあると重々理解しながらも、彼女は訊ねずにはいられなかった。

「なに、それ……?」

「あれ? 博識で有らせられるハズのパチュリーさまをもってしても御存知ありませんか? これは『水着』といいまして、遊泳などに着用する衣服のことで」

「そうじゃなくて」

 些か頭が痛くなってきたパチュリーは小悪魔の説明を遮っていた。

 求めた『答え』が返ってこないことに軽い眩暈さえ覚える始末であるが。

「水着ぐらい知ってるわよ。わたしが言っているのはそうじゃなくて、どうしてそんなものがここにあるのかと訊いているのよ」

 小悪魔が自信満々に取り出していたのは、女性用の水着であった。

 横に並行する白と紫による二色の線で構成された文様。布地面積が非常に少なく、紐で結ぶだけのデザイン、いわゆるストライプ柄のビキニスタイルの水着である。

「香霖堂の店主さんに作って頂きました」

「…………」

 しれっと応える小悪魔に、パチュリーは言葉を失う。

「不肖、小悪魔、就寝中のパチュリーさまのスリーサイズを一寸の狂いもなく、きっちりと測っておきましたので、御身体にはピッタリのはずですよ。無論、パチュリーさまのお召し物になる以上、布地もしっかりしたものでないといけませんから。こちらで用意した最上級の布地を使ってもらいました」

「…………」

「店主の方に製作をお願いした際に、すごく怪訝な表情をされていらっしゃいましたが……然したる問題ではありません」

「……アンタ、勝手になにやってるの……?」

 苛々が募るパチュリーは小悪魔への呼称も『アナタ』から『アンタ』へと変わっている。

「というわけで御喋りはこの辺で。パチュリーさまも御納得していただいたということで、さっそくお着替えしましょう」

「なんでよ」

 否定の意を表すパチュリーは、なんら間違ってはいない。

 話の流れで、どうして水着になど着替えなくてはならないのか。

 そもそも、何故水着が必要となるのか?

 が――

 こうまで説明していながら、なおも拒否する相手に対し、小悪魔は信じられないといった顔をしていた。

「え? ここまで説明したのに、ご理解いただけませんか?」

「何でアンタがそんな顔するのよ。その顔をするのは、むしろこっちでしょ?」

 険しい表情――もはやパチュリーはしかめっ面を遥かに超えているのだが。

 にもかかわらず、小悪魔は小首を傾げて見せていた。

「結構値が張ったんですよ?」

「知らないわよ」

「パチュリーさまの御身のために作ったんですよ?」

「頼んでないわよ」

「本当は着たいんでしょう?」

「着たくないわよ」

「もー、パチュリーさまは素直じゃないですねー」

 あろうことか、肩を竦めて息を吐く始末である。

 相手の態度に――これにはさすがのパチュリーも額に青筋を浮かべるには十分だった。

 しかしながら、小悪魔は意に介さない。

「うっふっふー、ここまで来たら、もはや実力行使しかありませんよねェ?」

 にこやかに笑みを零す小悪魔に対し、パチュリーは鼻で笑っていた。

「実力行使? 『冗談』にしては笑えるわね」

 と――

 刹那にパチュリーの腕を押さえつけ、嬉々とした小悪魔は相手の服に手をかけていく。

 予想以上の『力』に、一瞬パチュリーは虚を衝かれていた。

「あっはっはーっ、まさかパチュリーさま、『腕力』でわたしに勝てると思ってるんですかー? 甘いですねー。甘いですよー。甘甘ですねー。伊達に書架整理をこなしているワケじゃないんですよー?」

「このっ……一使い魔の分際がっ、調子に乗るんじゃないわよ」

 腕力では敵わぬパチュリーではあるが、魔力に関しては膨大であり小悪魔など圧倒的に上回る。

 精霊魔法の類を得意としている彼女は刹那に呪文を詠唱していた。

 急速に集まる魔力の奔流。パチュリーの片手に光が宿りかけ――

「てい」

「――っ」

 唐突に、小悪魔はパチュリーのわき腹をくすぐりだしていた。伊達に彼女とて、主人に仕えているわけではない。対処法などいくらでも手段はある。

 両手の十の指先で、微妙な力加減の強弱をつけ、ピンポイントに責め立てていく。

 こそばゆさに集中していた意識が薄れ、同時に集束しかけた魔力は霧散する。

「や、やめ、やめなさいっ、馬鹿」

 くすぐり笑わせ、体力を奪おうとする小悪魔に、パチュリーは必死に抵抗するのだが――

「いたっ――いたたっ、痛い、お腹痛い、攣る――お腹攣るからっ――」

 腹筋に変な力が入ってしまうため、呼吸がしにくくなっている。

「へっへっへっ、口はイヤがっても、身体は正直じゃねェか」

「アンタ、本当に馬鹿なんじゃないのっ!?」

「着たいですか? 水着に着替えたいですよね?」

「着たくないって言ってるでしょ!?」

 睨み付けるパチュリーを――小悪魔は執拗にくすぐり続けていた。

 

   ◆ ◇ ◆ ◇ ◆

 

 笑いつかれ、ぐったりとするパチュリーを――結果としては、観念して着るからと洩らした経緯があるのだが――素早く脱がし、特製の水着にこれまた素早く着替えさせた小悪魔は御満悦であった。

「うわぁ、やっぱり! すごくお似合いですよ、パチュリーさま」

「…………」

 ぱちぱちと手を叩き褒める小悪魔ではあるが、対照にパチュリーは称賛されても嬉しくもなんともなかった。

 嫌がるところを無理やり脱がし、手馴れたように着替えさせられるなどたまったものではない。

 やはり重要部分を覆おう布地自体の面積は非常に少ない。

「ほぼ痴女でしょ、これ……」

「すごく似合ってますよ。特に腰周りなんか魅力的なほどにシュッとして――」

 言って、無遠慮に手を伸ばした小悪魔はおもむろにパチュリーの腰の肉を掴む。

「…………」

 ぶみっ、とした擬音が聴こえたかのように。その指に摘まれる贅肉を。

 一瞬間を空けた小悪魔ではあるが、何事もなかったかのように満面の笑みを浮かべていた。

「……お似合いですよ、ポチャリーさま」

「殺されたいのよね……? 命はいらないのよね? 火葬と氷葬、どちらがご希望かしら? せめて好きな方を選ばせてあげるわよ」

「ささ、ポチャリーさま、準備は整いました。善は急げですよ、ポチャリーさま。ポチャリーさま、早くその魅力的な肢体で彼を誑し込んで――」

「うるさいっ! ていうか、いつまでわき腹揉んでるのよ! いい加減に離しなさいっ!」

「あまりの揉み心地に、ついうっかり」

「このっ――」

 掴みかかろうとするパチュリーではあるが、小悪魔はその腕をするりと潜り抜け――

「それはさておき、いいからさっさとやることやるべきですよ、パチュリーさまっ!」

 後ろに回りこんだ小悪魔は、パチュリーの背をドンと突き押し出していた。

 

   ◆ ◇ ◆ ◇ ◆

 

 フランドールに絵本を読んで聴かせていた彰人ではあるが、何の前触れもなく視界の端にちらちらと映る紫色の存在に気づくと、格別意図したワケもないまま顔を動かし、視線を向けていた。

 と――

 彼は視線を向けた恰好のまま固まることとなる。視界に映るのは、水着姿のパチュリーである。

 彰人の眼前まで歩みよると若干前かがみの格好になり彼女。小悪魔に言われたとおりに、あえて胸を強調する姿勢をとっているのだが。

 とはいえども、羞恥により、肩は小刻みに震え、顔は耳まで真っ赤になっていたりもするが。

「…………」

 変わらず彰人は無言のまま唖然――決して見とれているわけではなく、信じられないものを見たかのような表情であるが――とした視線を向けてくる。

 それもそのハズであろう。

 考えてみてほしい。ワケもわからなく唐突に、水辺でもなんでもない室内――それも陽光が射し込まぬ大図書館内――を、女性がこれまた際どい水着姿で闊歩していれば、別の意味で眼を疑ってしまう。

「え、ええと……」

「…………」

「あの……」

「…………」

 意を決し、羞恥にまみれたパチュリーは、やぶれかぶれな気分のままに、引きつった笑み――本人にとっては、これ以上にないぐらいの最高の笑顔のつもりであるが――を浮かべ、口を開いていた。

「きょ、今日は、いい天気ね」

 極々自然に、さり気ない会話を心がける。

 パチュリーにとっては、当たり障りのない選択であろう。

 だが――

「……今日は、朝から雨ですけれど?」

「…………」

「…………」

 ――会話終了。

 彰人の返答通りに、朝から雨が降り続いている。いつ止むのかもわからぬ、どんよりとした雨雲に覆われた空。外に出ていないパチュリーにとって、今日の天気はまったく把握などしていない。

 無言のままの彰人の視線に耐え切れず、パチュリーは羞恥に震える肩はそのままに、その場でくるりと回れ右をすると足早に移動していた。

「…………」

 つい思わず歩き去る彼女の後姿――哀愁漂うとはこのことだろうか――を眼で追う彰人ではあるが。

「どうしたんだ、彼女……」

 普段は寝間着のような恰好しか眼にしていないために、ああまで大胆に白い肌を露出した姿を見てしまえば驚きの方が強すぎる。

 思わず、こんな天気に日光浴でもしていたのかと考えさせられるほどに。だが、彼女はあまり日光を好んではいないということも耳にしていた。

 陽の光が苦手と聴いて、彰人は最初、パチュリー・ノーレッジという女性もフランドールと同じ吸血鬼であるのかと捉えていた。日がな一日地下の大図書にこもり、滅多なことでは外に出ないという話もそれならば頷ける、と。

 しかし、よくよく聴けば、パチュリーは吸血鬼種でもなければ魔女だと教えられる。日光も何のことはなく、髪が痛むから嫌だとの理由からだった。

 とはいえども、太陽の光に当たらないということは身体に良くはないのだろうか?

 曇天だったからなのかとあれこれと考えながら彼。

「此処は地下だよな……天窓でもあるのか……?」

 疑問を口にし独りごちるのだが、フランドールは不思議そうに小首を傾げていた。

「暑かったんじゃないの?」

 暑かったから脱いでたんじゃないのかと告げるフランドール。

「……そういう問題か?」

 釈然としない返答に彰人は眉を寄せていたが、フランドールはそんなことなど微塵も気にしていなかった。

 パチュリーがどうして室内で水着姿になっているかということよりも、本の続きを読んでもらうことの方が重要であるからだ。

「カトー、今度はこれ読んで」

 次の絵本を手に取り、フランドールはそのようにせがんでいた。

 

   ◆ ◇ ◆ ◇ ◆

 

 喘息もなんのその。小走りで彰人の前から立ち去ったパチュリーだが、書架の陰に隠れ姿を見せなくすると瞬く間に全力で駆け出し小悪魔の元へと戻っていた。その表情を例えるならば、親の仇を討つかのような形相であった。

 喰ってかかる勢いのまま、小悪魔の胸倉を掴みパチュリー。

「ちょっと……全然違うじゃないの」

「あっはっはっ、いやあ、ドン引きしてましたねぇ」

 呑気に笑い応える相手に――引きつっていたパチュリーの表情は更に三割ほど増していた。

「何人事のように言ってるのよ! こっちはやりたくもないのに、アンタが無理やりさせたんじゃないの!」

「おっかしーですねぇ。店主さんのところにあった『ショージョマンガ』なる大変興味深い文献を参考にしたんですが」

 余談ではあるが、彼女が読んだ少女漫画内では、女の子の着替え中に男の子が意図せず鉢合わせするという、ド定番の場面があった。紆余曲折を経るが、着替えの現場に出くわしたことから漫画内での女の子と男の子の仲は互いに意識し合っていくという流れに落ち着くのではあるが。

 これだとばかりに感銘を受けた小悪魔だが、彼女なりに更なる脚色を加えたのが水着という結果となる。なぜそうなったのかは、彼女だけしか知り得ぬことであり、真相が解明されることもない。

「おかしいのはアンタの頭の中よっ! こんな恰好にまでさせられてっ!」

「その恰好になってるのは、ポチャリーさまですよ?」

「その呼び名をやめなさいといってるでしょう!」

「申し訳ありません、失敗しちゃいました、ポッチャリーさま」

「誰が余計酷い言い方をしろと言ってるのよ!?」

「テヘペロ」

 片眼を瞑り、ちろりと赤い舌を出し小悪魔。

 額と頬に青筋を浮かべたパチュリーは、胸倉を締める力を更に篭めていた。

「抉られたいの?」

 口では謝罪の言葉を漏らしはするが、その実、表情には悪びれる様子は欠片もない。

「しかし驚きました。計算外です。曲がりなりにも、一応は、仮にも女性体の身であるハズの、ポッチャリーさまのだらしなくみっともない贅肉姿を眼にしても劣情を抱かないとは……やはり、大幅な脂肪組織を纏うポチャポチャポッチャリーさまでは――」

「アンタはっ」

 ああいえばこういう小悪魔に対し――さすがにパチュリーの堪忍袋の緒は限界であった。

 相手を掴んだまま手近の書架へと追い詰めていた。

 しかしながら、小悪魔は置かれた立場も何のその。飄々と切り返すだけである。

「あらら? パチュリーさま? 迫る相手を御間違えですよ?」

「うるさいっ!」

 いつまで減らず口を抜かすのかとパチュリーの沸点は臨界突破を黙過驀進中である。

 いっそ一思いに小悪魔の口を縫い潰してしまおうかと画策しながら。

「調子に乗って……」

 よくよく考えれば――決して考えるまでもないのだが――全ての元凶は小悪魔である。

 仮にもこうまで主人を敬わずに図々しく意見する従者など不要であろう。

 が――

「こんなに密着したら、困るのはパチュリーさまですよ?」

 言うや否や――

 顔を寄せた小悪魔は、パチュリーの頬を舌でぺろりと舐めていた。

「ひゃんっ!?」

「あっはははーっ、『ひゃんっ』ですってー。初々しい反応ですねー」

「――っ、この馬鹿っ! 離れなさいっ!」

「えー? パチュリーさまから誘ったんじゃないですかー?」

 言うや否や、小悪魔はパチュリーに抱きついていた。

「お慕いしております、パチュリーさまっ!」

「ば、馬鹿じゃないのっ!? アンタ、まさか、()()()の趣味があるのっ!?」

「うっふっふーっ、()()()って、どっちですかー? よいではないか、よいではないかー」

「きゃああああああっ!?」

 胸、腰、尻と揉みしだかれ、わさわさと身体をまさぐられたパチュリーは悲鳴を漏らすのみである。

 悪ふざけに興じる小悪魔も指の動きは停まらない。相手の反応を逐一愉しみ、よりよく深く攻め立てる。

 と――

 不意にそこでパチュリーは背後に気配を感じ、咄嗟に振り返っていた。

 そこには、酷く残念そうに、それで居て可哀想な子を見つめるような眼差しで立つ彰人が居た。

 言葉を失くすパチュリーと、この展開に「おお」と若干期待する小悪魔ではあるが――

「あー」

 憐れみをかけるかのように――

「すまない……お茶を一杯もらえればと思って、小悪魔さんの姿を捜していたんだが……こっちから声が聴こえたから来たんだが……」

 ついと視線を逸らし――

「申し訳ない。配慮が足らずに、お取り込み中、兼、お楽しみのところ邪魔をした」

 言って、心底済まなそうな表情を浮かべると、彰人は、そそくさとその場から離れていた。

 少しばかり駆け足で戻る彼を眼にし――小悪魔は残念そうにぼそりと呟く。

「あらまぁ……ヤバイですねー。アレ、絶対変な風に捉えて勘違いしちゃってますよ?」

「『ますよ』じゃないでしょ? 全部、アンタのせいでしょう……って、だからっ、わき腹を揉むなといってるでしょっ!?」

 いい加減にしろとばかりに繰り出されたパチュリーの拳は、的確に小悪魔の顎を真下から捕らえ、打ち抜いていたのだった。

 

   ◆ ◇ ◆ ◇ ◆

 

 後日――

 紅魔館、地下大図書館に再び訪れた彰人は、午後のティータイムとしてソファに座っていた。

 そんな彼の隣に座るのは、フォークで切り分けたケーキを口に頬張るフランドールの姿があった。

 テーブルを挟んだ向かいに座るのはパチュリーである。書物を眼にする彼女の手元にも紅茶とケーキが置かれている。

 断りを入れてから机上に積まれていた魔導書の一冊を手に取り彼。

 相変わらず解読できるハズもなく、内容に眼を通しても意味不明としか捉えることができない。

 ぱらぱらとページをめくりながら彰人。片手は紅茶が注がれているカップを持ち、書物に零さぬように口へと運ぶ。

「…………」

 何気なく視線は眼の前の魔女へと向けられていた。そのまま彼の口は開かれ言葉を紡ぐ。

「……ひとつ、いいかな?」

「…………」

 相手からの返答はない。

 だが、構わずに彼は続けていた。

「ノーレッジは『魔法使い』なんだろう? 既にそういったものには詳しいのに、更に研究するってのはどういうことなんだ?」

「…………」

 小悪魔からの話では、魔法使いとは膨大な魔力を持ち、魔法全般を扱うことが出来る種族であると教えてもらっていた。

 特にパチュリーは、精霊魔法と総称される自然界に於ける精霊たちの力を借りて行使する魔法を得意としていることも聴いている。

 詳しく小悪魔が話す内容は、現実世界でいうならば西洋の四大元素説にあたる。この世界の物質は、火と風、水に土といった四種類の元素から構成されるとする思想である。

 似たようなものでいえば、古い中国から伝わる自然哲学の思想、五行説がある。こちらの説では、万物は木、火、土、金、水の五種の元素からなるとされている。

 精霊魔法に関してもそれなりの説明を受けた彰人ではあるが、彼なりに解釈したのは、子どもの頃に遊んだテレビゲームの架空世界を舞台にしたロールプレイングゲームだった。遊んだゲームの中には、それぞれが得意な魔法――いわゆる属性というものだが――を使うキャラクターたちがいた。

 それらをごちゃ混ぜにした結果、話を聴いた時点での彰人から見たパチュリー・ノーレッジの印象は、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、と捉えている。

 故に、これ以上求めるのは果たして何なのかという意味を含めた上で、自然と訊ねた内容となるのだが。

 紙面から顔を上げ、すいと動かされたパチュリーの双眸は彰人へと向けられていた。

「……魔法を極めるというのは、どういうことだかわかる?」

「…………」

 彰人は無言となるしかなかった。

 わかるはずもない。

 パチュリーとて相手が今の言葉だけで理解できているとは思っていなかった。無知な輩に説明するべく口を開く。

「そうね……」

 言って、パチュリーは読んでいた書物をぱたんと閉じると、今一度視線を彰人に向け直していた。

「アナタにもわかりやすく言葉で説明すると……例えば、『()』という文字があるわよね?」

 口で説明するとともに、実際に見せた方が早いと判断したパチュリーの指先は虚空を疾る。

 刹那に、何も無いところから――手の平に生まれるのは小さな火種であった。少しずつではあるが、その火種は大きくなっていく。

「この単体の文字では『()』と読んでも、同じ文字がもうひとつ足されて重ねれば『(ほのお)』と読むわ」

 紡がれた声音とともに、一瞬にして火の勢いは増していた。

 先よりも一際一層激しく燃え盛り、熱と光を発しているさまは、告げたように『炎』である。

「ここから更に、『()』と『(ほのお)』の言葉を繋げれば『火炎(かえん)』となる」

「…………」

 彰人の眼の前で炎は渦を巻くかの如く成長していた。轟々と音を立てるかのように。

 ちりと肌を焼くほどの熱波が広がるというのにも関わらず、彰人の隣に座ったままのフランドールは気にした素振りも無くケーキを切り分けては食べている。

 と――

 現れたと時と同じように、何事もなかったかのように火柱は消えていた。つい今しがたまで感じた熱風も失せると、入れ違うかの如く、周囲を冷やすかのように今度は球体状の水が生まれ出ていた。

「同じように、単体では『(みず)』と読んだところでも、ここに一点加われば『(こおり)』となるわ」

 呟きとともに、波紋を浮かばせていた水は、瞬時に凍結し氷へと変わっていた。

 彰人の座る場所までひんやりと伝わる冷気。氷精チルノが創り出すのとはまた違った氷がそこに存在する。

「つまりは、()()()()()()()

「…………」

 説明終了とばかりに、生み出されていた氷もまた瞬きの合間には消失していた。

「……理解した?」

「あー、まぁ……なんとなく……」

 そう受け答えはするのだが、理解など出来てはいない。ただ彼女が言いたいことを、なんとなくではあるがわかったつもりでいるだけである。

 そもそも、()()()()()()だと言われても、()()()()()()なのかが把握できていないのだから。

 パチュリーにとっては、根幹たる部分から説明しなくてはならない点もあったりするのだが。

 いずれにせよ適当に答える相手に、彼女の表情は自然とムスッとしたものへと変わることになる。

 自分から訊いておきながらその反応はないだろうと含めて――

無知文盲(むちもんもう)とはこのことね……今の話で理解を期待したわたしが愚かだったわ。もう少し説明を続ける必要があるようだし」

 ふと――

 不快な視線を感じたパチュリーの顔が横へと向けられる。視界の先には――離れた場所で書架整理をしている小悪魔の姿を補足していた。

「…………」

 魔法のことになると、ごくごく普通に話に興じ、どこか饒舌となっている姿に――

 わかりきったかのように小悪魔はニヤニヤとした意味深な笑みを浮かべると、対照に、パチュリーは面倒くさいとばかりに眉間にしわを刻んでは睨みつけた貌へと変わっていた。

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