幻想郷見聞録噺   作:ボイス

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05 蓬莱人と外来人

 寺子屋の仕事を終え、彰人はひとつ大きく伸びをしていた。

 彼が割り当てられているのは、子どもたちへの読み書き、計算といった、あくまでも実務上の知識や技能を覚えさせる上白沢慧音の手伝いであった。

 だが、相手は活発な子どもたちである。いわゆる授業というのは退屈なものであろう。語弊があるが、中には向上心豊富な子も存在する。

 その日の科目が終わり、後は各自帰るだけとなれば、子ども特有の元気さをいかんなく発揮する時間となる。彰人の手を引かれ、子どもたちの遊びに付き合わされ どちらかといえば、振り回されるといったところだろうか。

 陽も暮れかけ、子どもたちを家に帰らせたところで、ようやくして彰人に安堵の時間がやってきていた。

「…………」

 縁側でぼうっとしていると、横に慧音が現れ、盆に乗せた湯呑みを差し出していた。

「お疲れさま。今日も大変だったな」

「……授業よりも、その後の方が、ですけれどね」

 疲れた苦笑を浮かべながら……彼は軽く礼を述べて湯呑みを受け取る。程よい熱さのほうじ茶を口に含む。

「はは、わんぱくだろう? あの子たちは。わたしの自慢の教え子だ」

「元気すぎますね……元気すぎて、こっちが付いていくのがやっとですよ」

「見た目が十分若いくせに、なにを歳めいたことを口にしているんだ、お前は? 向こう(外の世界)の子どもも、似たようなものなのだろう?」

「どうでしょうね……? 外で元気に遊ぶってなると、ちょっと意味は違うかもしれませんけれど」

 ここの子どもたちの遊びといえば、鬼ごっこやかくれんぼ、お手玉、川遊びや木登りといった、昔ながらの伝統的な遊びである。

 しかし、外の世界での、今日日の子どもの主な遊びといえば、携帯ゲーム機が主流であろうと考えていた。それも外での遊びに分類されるのだから。

 公園で携帯ゲームに興じる子どもたちの姿を見たことがある。設置されているブランコやすべり台、ちょっとしたジャングルジムなどの遊具には眼もくれず、あまつさえ、それらに座りながら黙々とゲーム機を弄る姿を眼にすると、わざわざ外に出てまですることではないのではないか、と彰人なりにそう思えるほどに。

 慧音にそれとなく話をしてみれば、やはり彼女も呆れたような顔をしていた。

「なんだそれは? 外に出てまでして、遊ぶことなのか?」

「まあ、一概になんとも言えませんけれど、時代が違うとそういうことになってしまいますけれどね」

 子どもなら身体ひとつで元気に外で遊ぶべきだ、と自論を展開する慧音に苦笑しながらも彰人は相槌を打っていた。

 熱の入った彼女の弁舌を真面目に聴き入りながら 気づけば、互いの湯呑みも空になり、途中から世間話に変わってはいたが、それらもある程度尽きたところで、彰人は頃合かと見計らっていた。

「さて、じゃあ、俺もそろそろ帰りますかね。また明日に」

 お茶ご馳走さまでしたと告げて立ち上がる彰人ではあったのだが、待ってくれと慧音は言葉をかけていた。

「この後時間はあるか? 実はな、紹介したいやつがいるんだが……なかなか機会がなくてな。ああ、無理にとは言わない。よければ、なのだが……どうだろう?」

「…………」

 今日は寺子屋の手伝いを予定に入れていたため、後の用事は特にない。陽も暮れているため、家に帰るだけではあるが。

 彰人は頬を掻いていた。

 陽も沈んでから会わせたい人が居るとは誰だろうかと不思議に思いながらも、彼は断る理由もなかったので何の気もなく素直に頷いていた。

「それは構わないですけれど……もしかして、彼氏さんとかですか?」

 慧音の恋人にでも会うのだろうかと考える。彼女が会わせたがる人など、彰人にとっては限られていよう。

 彼の口にした言葉の意味を理解しかねた慧音は、つい眉を寄せて訊き返していた。

「? 誰のだ?」

 不思議そうな顔をする相手に、彰人もまた内容に首を傾げながら続けていた。

「上白沢さんの」

「…………」

 言って――

 瞬時に慧音の顔は紅くなっていた。慌てたように、ぶんぶんと両手を振りながら。

「ち、違う! 違うぞ!? わ、わたしと妹紅は、そういう関係では――」

「…………」

 言葉の最後をなにやらぶつぶつと口にする慧音に対し――

 彰人は、『モコウ』と名前を漏らしたのが会わせたい相手なのだなと胸中で呟いていた。

 

   ◆ ◇ ◆ ◇ ◆

 

 慧音の家で食事をご馳走になり、陽も完全に沈んだ夜。

 『迷いの竹林』と呼ばれる広大な竹林を、ふたりは言葉少なめに歩いていた。

 単調な風景と深い霧に覆われ、僅かな地面の傾斜で育つ竹により、方向感覚は狂わされてしまうという。

 生い茂る竹自体も、日に日に成長を続けるため、景色はすぐに様変わりを見せるとも言われていた。目印となるような物も特にないので、一度迷いだしてしまった場合は、余程のことがなければ抜け出せない場所である。

 名前と噂ぐらいは耳にしていた彰人ではあるが、いざ実際に眼にする竹林は、壮観な光景だった。

 風見幽香が管理する『太陽の畑』と呼ばれるヒマワリ畑と同じように、雄大さに驚かされるばかり。

 自分の身長の倍などは言うに及ばず、言い得て妙ではあるが比喩表現では遥か空まで生い茂る。月の光さえも届かぬほどにうっそうと茂るさまはさながらジャングルであろう。

「…………」

 こんなところに連れて来て、自分に会わせたい相手とは一体どんな人物なのだろうか――

 そんなことを考えながら、彰人は慧音の後ろについていく。

 りんりんと、虫の音が響く人気のない竹林。時おり吹く風が、竹の葉を鳴らしていく。

「足元に気をつけてくれ。極力、わたしの通る後を付いてきてほしい」

「はあ……」

 当初は横に並んで歩いていたのだが、慧音はしきりにそう彰人へと話かけていた。

 なんでも、ちょっとした悪戯ウサギのせいがあり、足元には十分注意を払うようにとの事だった。

「…………」

 詳しく聴く気にはならなかったが、とりあえず大人しく従った方がいいと判断すると、数歩遅れて彼女の後を歩いていた。

 よくよく見れば、何の変哲も無い土のむき出しとなる竹林道ではあるが、とある場所では蛇行するように歩いていく。何故真っ直ぐに進まないのか疑問ではあったが、これが慧音の言う悪戯ウサギによる何かを感じ取っているのだろう。

 それにしても――

「悪戯ウサギって、なんなんだ?」

「? 何か言ったか?」

 つい口に出した声に前を歩く慧音が振り返る。直ぐに彰人はなんでもないですと応えていた。

 黙々と歩くふたりであるが、彰人の視線は、うっすらと霧さえかかる竹林へ向けられたまま。

「迷いの竹林て呼ばれるだけあって、随分と伸びきった竹ですね。これはその名の通りに迷いそうです」

 既に彰人は方向感覚を失っている。言うなれば、ここは外の世界の富士の樹海のようなものかと割り切って見入る彼。

「わたしもある程度までは道を覚えたつもりだが、完全ではないのでな。日に日に成長する竹によって見る景色が変わってしまうんだ。と、そろそろだと思うのだけれど」

 言って、前を歩いていた慧音の足が停まり空を見上げていた。釣られて彰人も歩を止め、頭上へ視線を向けていた。

 と――

 唐突に、空の片隅に光が浮かぶ。

 なんだ、と思わず声を漏らし、紅く輝く光が徐々に迫って来るに従い――眼を見開き、言葉を失う。

 視界に映るは、夜空を覆い尽くさんばかりの輝きを放つは、巨大な鳥。

 その姿はまさしく――

「火の鳥……?」

 彰人の口から呟きがぽつりと漏れる。

 フェニックス、朱雀、鳳凰、表現する言葉は数あれど、文字通り『火の鳥』をその身に纏うはひとりの女性。

 赤い袴のようなものを履き、ポケットに手を入れた恰好のまま、こちらの存在に気づいた女性もまた眼の前に降り立っていた。その際に纏う炎は綺麗に消えている。

「お待たせ、慧音」

「そんなことはない。わたしも今来たところだ」

 夜だというのに、女性の髪は透き通るような銀の輝きを放っていた。足首まで届くほどの長い髪。白地に赤の入った大きなリボン。毛先にも同じデザインの小さなリボンを複数つけていた。

 軽く挨拶を交わすふたりだが、銀の髪の少女は彰人へと視線を向けていた。

「彼がそうなの?」

「ああ。話をしていた『外来人』の彼だ」

 二、三程、慧音と目配せした後、銀の少女は彰人の前へと歩み寄っていた。

「話は聴いているわよ。幻想郷に居ついた物珍しい『外来人』て。噂もかねがね。主に、天狗の新聞でね」

「……新聞……」

 忌まわしい言葉をつい呟き返し彼。

「よろしく。こないだ慧音から果物もらったんだけれど、あなたが山で採ってきたんですってね。ありがとうね」

「あ、いや、どうも……こちらこそ、よろしくお願いします。加藤彰人です」

 差し出された手を何の迷いもなく思わず握り返し彼。ほっそりとした指先は、紛れもなく少女特有の持つ繊細さ。

 不意に――

 じっとこちらを見入る相手に、彰人は声をかけていた。

「? なにか?」

「あー、いや、気を悪くしたらゴメンなさいね。わたしの見た目がこんなのだから、その、気味悪がらないかしらと思ってね」

「…………」

 思わず彰人は首をかしげてしまっていた。相手は、先の炎や銀の髪のことを言っているのだろう。

 確かに、驚きはしたがそれ以上の感情は持ち合わせていない。ましてや、嫌悪などは感じなかった。

 子どもの頃見たアニメや漫画、ゲームでは、火や炎を意のままに自由自在に操るキャラクターがよく現れる。ついそれらと混合してしまっていた、と言った方が正しいだろう。

 口元をゆがめながら彼は答えていた。

「此処に来た当初に、結構散々な目にあいましたからね。それに、既にもういろいろいろ驚かされたことばかりですから……こういっては失礼ですけれど、比べてしまうと、炎を出すなんてスゴイっていう感じの方が強いですから……ええと」

「妹紅。藤原妹紅よ。こんな恰好でも物怖じしないってのは、慧音の言ってたとおりだね。普通は驚いたりするもんなんだけれどね?」

「物怖じしないわけじゃないですよ? これでも十分驚きはしましたし。ええと、フジワラノ? よろしく、フジワラノさん」

「妹紅でいいよ。そっちで呼ばれるのって慣れていないの。わたしもアキヒトて呼ばせてもらうから」

「じゃあ、よろしく、モコウさん」

 さん付けもいらないのに、と妹紅は笑う。

 彰人も笑みを浮かべかけて――

「……モコウ?」

 呟き、彼はその聴き覚えのある『名』を思い出していた。確か、その名は慧音の想い人のはずだった。

 眼を瞬かせ、今度は彰人が今一度妹紅を見入ってしまっていた。眼の前の相手は、どう見ても女性である。

「ん? どうかした?」

「ああ、いや、すみません。その、女の人だとは思ってなかったので……」

「なに? 慧音、わたしのこと、彼にどういう風に教えてたのよ」

 苦笑を浮かべた妹紅は、勘弁してよといわんばかりに冗談を含めた上で友人を睨むのだが、当の慧音も些か困惑した表情を浮かべていた。

「おおかた、ガサツで男のような、とか言ってたんでしょう?」

「いや、違うぞ。わたしは、妹紅ことを会わせたいヤツがいるとしか言ってなくてだな」

「うん?」

 慧音の返答に、妹紅も僅かに小首を傾げる。

 どういうことかしら、と告げる顔で、彼女の視線は再度彰人へと向けられていた。

 妹紅と慧音、ふたりの視線を受けながら、彰人はこくりと頷いていた。

 にこりと微笑み――

「大丈夫ですよ、上白沢さん。俺は、恋愛は自由だと思います」

「? お前は何を言っているんだ?」

 相手の言っている意味がわからず、慧音は眉を寄せるだけ。

 彰人は続けていた。

「そりゃ壁もあるでしょうけれど、同性同士の恋愛に、俺は偏見なんて持ちませんよ。むしろ応援します」

 彼にしてみれば、親身に世話をしてくれた人に対して、ちょっとした変わったことがあろうとも、それら全てが否定に回るとは思えなかった。

 が、これらは失礼な話、彰人の勝手な思い込みである。

「う、うむ? ん……んん? あ、ありがとう」

 何やらわからず、思わず礼を述べてから……いいや違うと首を振り慧音。

「……だから、何を言ってるんだ、先から」

「上白沢さんの恋人さんの話ですよ」

 刹那――

「っ!?」

「ふえっ!?」

 呟く彰人の言葉に、慧音はぶふと息を噴出し、妹紅もまた素っ頓狂な声をあげていた。

「なっ、なっ、なっ……」

「け、慧音に、こ、恋人っ!? ちょ、ちょっと! ちょっとちょっと、なによ隠すなんて水くさい……言ってくれればいいのに。誰? 相手は誰よ?」

 色恋沙汰など、とんと聴いたことがない友人の話ともなれば、妹紅にとっては気が気でないのは当然といえる。

「ち、ちちち、違う! 違うぞ妹紅っ! おま、お前も何を、でたらめなことを言ってるんだっ!?」

 慌てふためく慧音に、だが、彰人こそ不思議そうに首を傾げていた。

 何故にそうまで誤魔化そうとしているのだろうか?

 故に――

「上白沢さんとモコウさんが恋人同士だというのはわかりましたから」

 瞬間、時間が止まるとはこのことだろうか。

「ん?」

「んん?」

 訊き返すふたり。

 静寂が場を包み込む。

 が――

「ちょっと待て……今のお前の発言に対して、わたしは確認したいことがあるぞ?」

「奇遇ね、慧音。わたしもだわ」

 額を手で添える慧音に、腕を組んだ妹紅もまたうんうんと頷いていた。

「すまんが、今一度、ゆっくりと説明してくれるか? 『誰』と『誰』がなんと言ったんだ?」

 震える慧音の声に、彰人も眉を寄せ……言われたままに指を動かす。

「ですから、上白沢さんと」

 指を慧音から妹紅へと動かし彼。

「モコウさんが、相思相愛の恋人同士だと――」

 相思相愛と敢えて強調してみた刹那――

「お、お前、何を勘違いしてるんだっ!?」

「か、勝手な想像しないでよねっ!」

 瞬時に、ふたりはこれでもかと言わんばかりに顔を紅潮させて、彰人に掴みかかっていた。

 予想外の反応に、彼は首を傾げるだけだった。

「あれ? 違うんですか? あ、もしかして『愛人』――」

「違うっ!」

「違うわっ!」

 彰人の台詞をみなまで言わせぬ、あまりの剣幕、怒鳴り声――

「何もそんなに全力で否定しなくても」

「お前がおかしなことを言うからだろうがっ!」

 胸倉を慧音に掴まれながらも、彰人はきょとんとした顔をしていた。

 

   ◆ ◇ ◆ ◇ ◆

 

 案内する妹紅に連れられ、少しばかり頭にこぶをこしらえた彰人が見入る先は開けた場所だった。

 頭上に浮かぶは、満ちた月。

 降り注ぐ月光を遮る竹林すらもない広場は、輝きに照らし出され、えも言われぬ神秘さを感じていた。

 だが、それと同時に酷く寂しい場所にも思えていた。違和感に気づいたのは、先まで耳に聴こえていた虫の音、夜鳥の鳴き声も一切聴こえない。

「…………」

 さすがの彰人でも、この場所がどこかおかしなところであるのは察しがつく。

 慧音に訊ねようとして振り返り、彼の動きは止まっていた。

 頭に乗せていた青い帽子は外され、代わりに二本の長い角が生えていた。青みがかった銀髪の色さえ緑へと変わり、ふさりとした尻尾さえ生えていた。

 普段見慣れた姿と違うことに見入る彰人へ、慧音はどこか申し訳なさそうに表情を浮かべていた。

「お前に見せてはいなかったな。わたしは完全な人間じゃないんだ。半人半獣でな」

 満月の夜になると、自分はハクタク化するんだと説明していた。

「ふふ、驚いたか?」

 問いかける言葉に意識が戻され、彰人は、ええと頷いていた。

「まぁ、それなりに……一応訊きますけれど、本物ですか?」

 示すのは慧音の頭部に生える二本の角。

 慧音は呆れた表情に変わっていた。自身の姿を見せたことで相手から訊ねられたものは些か視点がずれている。別に驚かせて反応を楽しんだり、怯えさせるためではない。彼女にとって、ハクタク化した姿を見せたことは、ある意味きちんとした理由があったからこそである。

 上白沢慧音は人間を愛している。それは『外来人』である彰人も例外ではない。

 隠し通せるものであれば隠し通すべきであろうが、本当の姿を見てもらって、以後も分け隔てなく接してもらえればいいという淡い期待があった。

 それほどまでの決心ゆえに晒した姿だというのに、当の彰人はそれ以上の反応を見せていない。

 これでは、ひとり悩んでいた自分が酷く馬鹿みたいに思えて恥ずかしくなってしまっていた。逆に、ハクタク化に関して悪感情を抱かれなくて良かったと安堵してもいた。

 そうなってしまうと、何かもうどうでもよくなっていた。

「おかしな事を訊くやつだな、お前は……本物だ。何なら触ってみるか?」

「……いいんですか?」

「うん? ああ、構わんが」

 冗談で言ってみたのだが、意外と相手は乗り気であったりする。格別気にもせず「ほれ」と触りやすく頭を差し向けるのだが、彰人はなかなか触ろうとしなかった。

 彼もまた、口にしたものの、女性に気安く触ってよいものかと悩んでいたりする。

 ふたりのやり取りを見ていた妹紅は、ひとり呆れるだけ。

「なにをやってるのよ……慧音がいいって言ったんだから、そんなに気にしなくていいわよ」

「…………」

 妹紅に言われ、腹を決めた彰人は、失礼と告げると腕を伸ばして慧音の角にそっと触れていた。

 慧音自身は優しく撫でるような触り方にこそばゆさを感じていたりしたのだが。

「…………」

 無言のまま、左右の角に触れ終え……満足したのか指先を離していた。

「満足したか?」

「ええ。すみません」

 彰人の言葉に頷き、慧音は自身の左の角に赤いリボンを結び付けていた。

「それで、話がずれましたけれど……上白沢さん、ここっては何なんですか? なんだか、随分と寂しいような場所に感じるんですけれど」

「ああ、ここはな――」

 説明しようとした慧音ではあるが、その台詞は妹紅の手で制されていた。

 見れば、先までの気楽さは消え、肩からは再び炎が溢れ出し、翼をかたどっていく。

「遅かったわね、輝夜」

 じっと見入る竹林に――だが、直ぐに気だるそうな声が返ってきていた。

「明確な時間の指定もしていないのに、遅いも早いもないと思うのだけれど?」

 土を踏みしめ、月光に照らされて現れたのは四人だった。

 うちひとりは、着物のような出で立ち。腰ほどまで長い黒髪。指先まで隠れるほどに長い袖に、脚を完全に覆うスカート。スカートの丈は長く、地面に触れても、なお広がるほどに。純然たる和風を感じさせる。

 もうひとりは、赤と青のツートンカラー成る左右で色の分かれた個性的な服を着た女性。長いスカートも同様の配色。ナースキャップのようなものを頭に乗せ、長い銀髪を三つ編みにしている。

 残るふたりは――表現するならば、ウサギだった。

 片方は随分とくたびれたようなヨレヨレの耳に、長い薄紫色の髪、女子高生のブレザーのような服装。手には何やら包まれた風呂敷を持っている。

 もうひとりは対照に小柄な体系と垂れた耳に愛らしい印象を受ける。癖っ毛の短めな黒髪、桃色の半袖ワンピースに裸足。

 統一性のないそれぞれの服装を身に纏う四人は、いずれも、彰人の知らない相手ばかりだった。

 だが、和風の女性は彰人の存在に気づくと、「あら」と声を漏らしていた。

「真実の満月の下、今日は珍しい客もいるようね。ある意味、お客さまならもてなすわよ? 噂の『外来人』さん?」

 かけられた言葉の意味に彰人もまた「おや」と首を傾げていた。

 名家のお嬢さま然とした風貌の相手につい訊ねてしまう。

「噂のってことは、なんだか良くない意味で、ご存知のようですね」 

「ええ。有名も何も、新聞でよく拝見してるわよ」

「学級新聞で、ですけどね」

 和風の女性に賛同するように、横に立つ銀髪の女性も頷いていた。

「…………」

 どうやら自分という存在は、自身が思っているよりも幻想郷中では知れ渡っているということなのだろう。その大元の理由は、やはり鴉天狗の新聞による影響であろう。

 加えて、噂話に尾びれ背びれも付けられて過大誇張でもされてしまえばなおのこと。

「で? 彼がここに居るってことはどういうこと? 今宵のあなたの援軍てところ?」

 おどけて見せる和風の女性に、妹紅はまさかと応えて見せていた。

「違うわよ。彼は、慧音がわたしを紹介したいからってことで、待ち合わせただけ」

「ここで?」

「満月は、真実を明かす。慧音自身の姿も見せたいって事と……」

 そこまで言って、心底面倒くさそうに妹紅は相手に視線を向けていた。

「満月の夜に勝負するアンタを紹介したくもあったってことよ。連れのウサギにそう伝えるように言ってたはずだけれど? ついに耳までボケたのかしら?」

 皮肉気に告げるのだが、ああ、そんなこともあったわねと相手はさらりと受け流す。

「はじめまして、外から来た地上人。わたしは蓬莱山輝夜。あなたたちの知る世界で言うところの『かぐや姫』と言えばわかるかしら?」

「自己紹介なんて後でもできるでしょう? さっさとやろうよ。わたしだって暇じゃないんだから」

 妹紅の背にある翼の炎が一際強く燃え盛る。離れた場所に立つ彰人ではあるが、その熱気に汗が滲んでいた。

 口元を袖で覆いながら和風の女性――輝夜は少々呆れていた。

「せっかちね。水を差さずに、先に紹介してくれてもいいじゃない。泣きべそかいてからじゃ後味悪いわよ?」

 そう応えながらも、彼女もまた雰囲気が変わる。ふわりと身体が浮かぶと宙へと昇る。

「ヌかしてなさい」

 追いかけるように妹紅も地を蹴ると、炎の翼をはためかせ、夜の空へと飛翔していた。

 

   ◆ ◇ ◆ ◇ ◆

 

 夜空に輝く大輪の華を彰人は無言で見入っていた。闇夜を埋め尽くすかのように、色とりどりの華が咲く。

 まるでそれは、花火のように。

 手近の地面に腰を下ろし、慧音と永琳が包みのおにぎりを口にし、何やら話をしながら同じように空を見上げている。

 鈴仙・優曇華院・イナバと名乗るウサギ少女のひとりから、彰人も風呂敷から取り出した竹皮に包まれた数個のおにぎりを渡されていた。

「姫さまの勝負の決着には時間がかかるので、夜食を用意したんです」

 素直に受け取りはするが、いまだ彼は手つかずのまま。

 彰人の逆の横には、己の分を既に平らげた因幡てゐがそろりと手を伸ばしはするのだが、そうはさせまいと鈴仙に腕をつねり上げられていた。

 悲鳴を上げて転げまわるてゐに意識を向けるでもなく、彰人はただ、黙って空を見上げることしかできなかった。

「…………」

 自分は、一体何を見ているのだろうか――?

 つい横に居た鈴仙に訊ねてみれば、喧嘩のようなものですよと軽く応えられていた。

 だが、彰人にとっては、とても喧嘩の次元が違う問題だとしか捉えていない。

 眼を逸らすことなく、本当に驚かされているのは、妹紅と輝夜のふたりにだった。

 妹紅の炎に腕や脚を焼かれ落とされるが、次の瞬間には、何事もなかったかのように輝夜に生える手足――

 輝夜が放つ光の弾を受けて脚を吹き飛ばされるが、刹那に、再生するかのように炎の中から現れる妹紅――

「…………」

 もはやこれは、喧嘩でもなんでもない。ただの殺し合いであろう。

 しかし、常識を懸け離れた光景に直面していながらも、恐怖や嫌悪は感じない。なぜか綺麗だと思えていた。

 行っているのは、双方の殺戮であるというのに。

 自分自身もどうしてそんな感情を持ったのかはわからない。

 しばし見入っていたが――ようやくして、思考が働くことを確認すると、言葉を吐き出し彰人は慧音へと訊ねていた。

「あの……あれって、一体、何をしてるんですか?」

「弾幕勝負、というよりも、ふたりにとっては殺し合いだな」

「殺し、合い……?」

 認識していた通りの言葉を応える慧音に――

 耳に捉えた言葉が聴き間違いかと言わんばかりの顔で向き直るのだが、相手はこくりと頷いていた。

「お前はさっき、この場所が『寂しい』と感じたな? あながち間違いではないんだ。ここは、虫も鳥も動物も近寄らない、ふたりの決闘場なんだ」

 先ほど話せなかった続きを慧音は説明していた。何年も、何十年も、妹紅と輝夜は延々と、この場で、同じ事を繰り返している、と。

「妹紅と彼女は、不死の身体を持つ『蓬莱人』といってな……文字通り、決して死ぬことはない『不老不死』なんだ」

「…………」

 『不老不死』――

 ゲームや漫画でもよく眼にする言葉であろう。永遠の時を生き、どんな理由があろうと世界に在りつづけられるという、いわば『夢』であろう。

「わたしと、彼女たちは、満月の夜のふたりの勝負を見届けているんだ。立会人としてな」

「……あの、それって、意味ってあるんですか?」

「意味、か。難しいな」

 どんなことがあっても死ぬことのないふたりが争うこと、その彰人の指摘に、慧音は若干難しい顔をしていた。なんと返答しようかと考えていたが……代わりに口を開いたのは、銀の髪の女性だった。

 八意永琳と名乗る彼女は、彰人へ問いかける。

「逆にあなたに訊ねたいのだけれど、『明けない夜』というのは、必要なことだと思うかしら?」

「…………」

 どういう意味だ、と考える。しかし、彰人が考えたところで、彰人の答えは正しいのかどうかもわからない。

 何を以って、意味を成すのかなど、彼にとっては想像がつかない。

 故に――

「……俺には、よくわかりません」

「ええ。つまりは、そういうことなの。あのふたりにとってはね」

「…………」 

 永琳の説明を詳しく理解したわけではない。

 だが、『不老不死』の妹紅と輝夜にとっては、いわば、今を生きるための確認であり、今を楽しむための意味が在る行動でなのだろう。

 軽率であり、無神経なことを口にしたと感じた彰人はひとつ頷く。

「……すいません」

 彼の口から自然と漏れた言葉に、永琳はにこりと微笑んでいた。

 

   ◆ ◇ ◆ ◇ ◆

 

「いやー、殺った殺った」

 ついさっきまで、お互い殺し合いをしていたのが嘘のように、地面に降り立つふたり。

 十分満足したのか、妹紅と輝夜へ視線を向け――

 月が照らす逆光もあり、間近まできてようやく気づいた彰人は、ぎょっとした顔で、慌てて背後へと向き直っていた。

「?」

 唐突の行動に、蓬莱人ふたりは不思議そうに首を傾げていた。

 妹紅の服は、至るところに穴が開き、切り裂かれ、肌が露出している。

 輝夜の和風の服も、至る箇所が焼け焦げて、同じように白い肌を覗かせていた。

 各々肉体は復活できても、着ている衣服の再生まではかなわない。

 そのため、眼のやり場に困った彰人は顔を背けていたのだが。

 慧音と永琳の指摘に、ようやく合点が言った妹紅は声を漏らしていた。

「ああ、ついいつものクセで気にしてなかったわ。今夜は、あなたも居たんだっけ」

「ふーん、男のクセに、こういったことに関しては内気ってわけ?」

 口元を吊り上げ、ジト眼の輝夜に彰人はなにも応えず無言のまま。

 おとぎ話で知る『かぐや姫』は、こんなに性格は歪んでいないはずだ、と胸中で自答していた。

 鈴仙から簡単な羽織を受け取り袖を通す輝夜と妹紅。身にまとい終えた輝夜は「もういいわよ」と声をかける。

「男なら、女の裸は見入るものだと思うのだけれど?」

「人目を気にしないで、肌蹴た女性をじろじろ見る気はないよ、俺は」

 何を言ってるんだ、と呆れた声を漏らしながらも、彰人は決して眼を合わせようとはしなかった。輝夜相手にからかわれるのも困るだけでしかない。

 だが――

「あら? それは人目がなければ見るってことかしら?」

「…………」

 言葉の揚げ足取りに対し、口を開き、反論しかけるが……下手な言い訳はできなかった。

 男として、本当に女性の裸体を見たくないのかといわれれば嘘になる。

 故に、彼は黙秘を貫き通していた。

 しかし、無言は肯定ともとられてしまう。

「……ふーん、無駄に言い訳しないところは、ちょっとだけ好感が持てるわね」

「レイセンさん……『かぐや姫』てのは、こんな性格をされてるんですか?」

「ええと、あなたがどのように思われてるのかはわかりませんけれど、姫さまは、普段からこんな感じですよ?」

 彰人の声に、鈴仙は疲れたように息を吐いていた。

「そりゃまあ、レイセンさんとヤゴコロさんが苦労するわけだ……」

 呟く彰人の声音を耳敏く捉えていた輝夜は、楽しそうに笑っていた。

「あらなに? わたしと妹紅が殺し合ってた間に、随分と仲良くなってるようだけれど?」

 永琳もまた頷き、口を開く。

「ええ。姫さまが勝負されてる合間に、彼から、外の世界の『かぐや姫』を聴かせていただきましたから。とても興味深かったですよ?」

「あら? それは、本当に興味深いわ。是非とも聴かせてほしいわね」

 妹紅も心なしか興味があるのだろう。

 だが、これに困惑するのは、彰人である。

 確かに自身が知る『かぐや姫』の話はしたが、それはあくまでも彰人自身が覚えている『知識』からのものである。

 いわば、偏見のみで構成された内容といえる。とても聴かせるに値する話ではない。

 では、何故この話を永琳たちが聴いたのかといえば、てゐの何気ない一言だった。

「ねえ、あなたの知る『かぐや姫』てのは、どんな話なの?」

 その質問に、何の気なしに答えたのがそもそもの間違いであった。

 聴かれることに順次応えていけば、てゐの表情は愉悦に歪み、慧音は苦笑を浮かべ、鈴仙は溜め息を吐いていた。

 話をする前に、彰人は永琳と鈴仙に確認した同じ内容のことを、輝夜にも訊ねていた。

「『かぐや姫』ってことは、あの、『かぐや姫』……なんですよね?」

「ええ。外の世界の人間でも、耳にしたことぐらいはあるでしょう?」

「…………」

 胸中で考えていたことが思わず顔にでも出てしまったのだろう。じとと輝夜に睨まれていた。

「何かしら? その胡散臭そうな顔は」

「いや、偏見ですけれど、俺の知っている『かぐや姫』は、そんなに好戦的でもないですから……争い事を好まない、すごくおしとやかなイメージ、かな」

 古典『竹取物語』として、学生の頃に古文の授業で習ったかどうか覚えていないところが実情である。

 あくまでも、子どもの頃に絵本で見た内容程度での認識の方が強い。

 おしとやかという言葉に噴出したのは妹紅。意外にも、永琳もまた口元に手を当てていた。

「おしとやか? くくっ、そりゃ見てくれだけは、そう『見える』よね」

 良くわかってるじゃないかと笑う妹紅を睨みつける輝夜ではあるが、続けなさいと言ってのける。

 彰人も観念したように先を話し出していた。

「竹取の翁が光る竹を切ったら女の子が居て、成長した女の子の美しさに求婚する者が多くて、でも難題を出してかわすのだけれど、帝にまで求婚されてしまう。月へ帰らなければならないと告げるかぐや姫に対して、帝は帰らせまいと翁の家に兵を配置し、迎えに来た従者を追い返そうとするが全く歯が立たず、お姫さまは、おじいさんとおばあさんに別れを告げて、月へと帰っていくのでした、て物語でしょう?」

「概ね当たりといったところね。では、その難題は何か、というのもご存知よね?」

「…………」

 そこに触れられると、彰人は返答に困ってしまう。正直に言えば、『竹取物語』に出てくる五種の宝物の存在はなんとなく程度で覚えているのだが、正式名称などはわからない。

「……あー、龍の何かと、燕の巣と……珍しい鼠の死骸と、七色に光る木の枝、だったかな……? すいません、事細かには知らないので」

「…………」

 輝夜は無言とならざるを得なかった。

 相手は五種のうち四種しか答えていないこと、加えて、中身も全然違うことに呆れさえ感じていた。

 余談となるが、『竹取物語』に登場する五種の神宝は下記のものである。

 釈迦が終生用いたという神々しい光を放つ『仏の御石の鉢』――

 根が銀、茎が金、実が真珠という木の枝、『蓬莱の玉の枝』――

 炎で焼いても燃えないとされる布の『火鼠の裘(かわごろも)』――

 龍の首元にあるとされる、五色に光る宝玉の『龍の首の珠』――

 燕が卵と同時に生むことがあるといわれる『燕の子安貝』――

 以上が『竹取物語』において、輝夜が求婚してきた五人の公子に対し結婚の条件として出した難題の宝とされる。

「……わかったわ。つまりは、あなたは無知ということね」

「だから先に言ったでしょう? 俺は、偏見でしか知っていないって」

 此方の見方を露骨に変える輝夜に、彰人は勘弁してくださいと訴えるのみ。

 ひとり妹紅は含み笑いを続けていた。

「あなた面白いわね。輝夜にそこまでずけずけ言うのも巫女以外に久しぶりに見たわよ」

「いえ、そういうつもりはないんですけれど……なんていうか、ギャップがあまりにも激しいですから……」

 彰人のしどろもどろな返答に、妹紅は笑いを止められずにはいられなかった。

「いやいや、案外、彼の言うように外の世界じゃ輝夜のことなんて、あんまり大したことないんじゃないかしら?」

 その言葉はさすがに輝夜も頭にカチンときたのだろう。フンと鼻を鳴らし彼女は言う。

「言うじゃない。でも、聴いていなかったの? いつつの難題も、五人の公子も彼は知らないのよ? 自分の父親のことも知られてなかったくせに。案外、そっちこそ大したことがないから、後世に語り継がれなかったんじゃないかしら?」

「……なんですって?」

 ざわり、と空気が変わる。

 見れば、妹紅の顔は怒りの形相。対して、輝夜の表情も冷静は窺えるが眉の辺りがぴくぴくと動いていた。

 険悪な雰囲気を感じた彰人は手で制していた。

「ああ、いや、なにもそんなに喧嘩腰にならなくても……おふたりは仲のイイ友人同士なんでしょう? なら、お互いムキにならなくても……」

 が――

 その一言は、火に油を注ぐだけだった。

「……待ちなさいよ。誰が、誰と、友人ですって!? 冗談じゃないわよ!」

「それはこっちの台詞よ。誰と誰の仲がイイですって? 虫唾が奔るわ!」

「……なんですって?」

「……なによ?」

 刹那――

「上等じゃない……不様な吠え面をかかせてあげるわ」

「ぎたんぎたんに叩きのめして、泣きべそかかせてあげるわよ」

 言うや否や――たった今、決着がついたばかりだというのに、互いを罵り合い……再びふたりは上空へと昇っていく。

「うわ、二回戦目がはじまっちゃったよ。これは……今夜は長くなるね」

 気楽に呟くてゐの声に、早く帰りたいと愚痴を零す鈴仙。

 彰人も止めるべきではないのかと、残るふたりへ顔を向けていた。

「いいんですか? 止めなくて……また、はじまっちゃいましたけれど……」

「いいんだ。いつものことだしな。放っておいて構わない。気にするな」

「そうね。いつものことなので、勝負がついたら降りてくるわよ」

 妹紅のことを知る慧音のように、輝夜のことを永琳は知る。

 互いが互いをよく知るように。心配がないといえば嘘にはなろう。

 随分とドライな対応の慧音と永琳に呆れながらも、知らぬ彼は、さり気に反論していた。

「いや、なんていうか、『お腹が空いたらそのうち帰って来るだろう』的なノリで返されても……」

「いいのよ。どうせ長くなるし。なんだかんだと言っても、輝夜は楽しんでるし」

 言って空を見上げる永琳。気まずそうに頭を掻きながら彼もまた視線を向ける。

「……俺のせいですかね?」

「なに、言ったろう? 気にするな、と。だが、あの場で、ああも言えるとは感心するぞ」

 慧音の言葉に、すみませんと彰人は返答していた。

「余計なことを言いましたね……」

「あら? 自覚はあるようね」

 苦笑を浮かべる永琳にもまた頷きながら、彼は口を動かしていた。

「で? あのふたりは、本当のところはどうなんですか?」

『…………』

 その問いかけに、慧音と永琳は互いに顔を見合わせていた。

 両者くすりと笑みを浮かべて――永琳は、僅かに首を傾げ、意地悪そうに逆に訊ねていた。

「あなたには、どう見える?」

「……そうですね」

 空を見上げて彰人。

 多種多様の色の『花火』が空に咲く。

 互いに罵声を浴びせているような声も聴こえはしたが、地上に居る慧音たちには、その内容は、はっきりとはわからなかった。

 空を見つめながら、彰人はしばし考えはするのだが、思いつく答えはひとつだけだった。

 殺し合う間柄と言うには、いまいち決め手を感じない。本当に心底憎しみ合っている、という感じもそれほど受けはしなかった。

 輝夜と妹紅、両者の間柄を全く知らないので、勝手な推測ではあるのだが、これはまるで――

「『喧嘩するほど仲が良い』ていう間柄なんじゃないでしょうか?」

 花火のような弾幕の光に照らされ――

 夜空を瞬く、華やかな光に彩られ、ふたりの蓬莱人の弾幕勝負はいまだ続いていた。

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