第七機動艦隊から発艦した攻撃隊はそのステルス性を生かして攻撃ポイントにまで順調に飛行した。
日本側はすでに日本海方面に早期警戒管制機のE-767とE-2を飛ばして警戒にあたっていたが地上のレーダーともどもF-35のステルス性をこの時は見破る事が出来なかった。
韓国沖上空 E-737管制機
管制官『管制機より攻撃隊、攻撃ポイントに到達した。全機攻撃を開始せよ。敵艦隊の数が想定よりも多い、気をつけろよ』
韓国本土の高高度にて管制を行っているE-737警戒管制機が攻撃隊に指示を出した。
レーダーには日本艦隊の輪形陣が写されているが詳細はこの時も未だ不明であった。この時、管制官は日本の第三艦隊に護衛艦隊のフリゲート(護衛艦)が随伴しているものと勝手に判断してしまっていた。
日本海上 日本艦隊攻撃隊 隊長機
隊長「全機、SSM発射準備!いいか?ウェポンベイが開くと同時に我々は向こうのレーダーに探知される!気を引き締めろよ!」
攻撃隊隊長が指揮下の7機に注意する。
いくらステルス機と言えどウェポンベイを解放した状態ではそのステルス性は無意味となる。当然、敵からのレーダーには丸見え状態となる。
攻撃隊パイロット「「「「「「「了解!」」」」」」」
隊長「目標ロックオン!全機FOX3!」
次の瞬間8機の機体から各2発、合計16発のハープーン対艦ミサイルが発射された。
第一艦隊旗艦 大和 CIC
突然のレーダー照射の警告音と共にレーダーに表示された8つの輝点に大和のCICは騒然となった。
オペレーター1「レーダーに反応!2時の方向距離70キロに高速飛翔体を探知!数16!」
オペレーター2「レーダー照射反応!ロックオンされました!」
オペレーター3「E-767より入電!敵編隊を探知!高速飛翔体の近く!!数8!」
東郷「全艦、対空戦闘!」
直ぐ様東郷が対空戦闘の命令を下す。
杉田「対空戦闘!砲雷長!落ち着いて狙え!」
砲雷長「了!!」
大和のVLSが開き、対空ミサイルの発射準備が素早く行われる。同時に僚艦も同様に発射準備が進められる。
各艦はシステムによりデータリンクされ、それがCICのモニターに写しだされる
砲雷長「SM-2発射準備よし!」
オペレーター「僚艦の高雄、那智、共に準備完了!全艦連動!」
砲雷長「発射始め!サルヴォー!!」
旗艦大和以下合計3隻のイージスシステム搭載艦から発射された対空ミサイルが敵の対艦ミサイルへと向かい飛翔する。
オペレーター「全艦発射!対空ミサイル16基、目標迎撃コースに!」
オペレーター「命中まで後10秒!」
8、7、6、5、4、3、2、1…
オペレーターが0秒を叫ぶと同時に双方のミサイルの反応の表示がモニターから消えた。
オペレーター「撃墜!敵対艦ミサイル全基撃墜を確認!」
東郷「よし!よくやった!引き続き警戒を厳に!!」
16発もの対艦ミサイルの全基撃墜に大和CIC内部に安堵の空気が僅かに漂った。
オペレーター「敵編隊7機!反転して行きます!」
東郷「……7機…?」
オペレーターからの報告に東郷は疑念を持った。
東郷「敵編隊は8機とあったな?」
オペレーター「は、はい。E-767からの報告では確かに8機と……」
秋山「発射された対艦ミサイルは16発。最初の報告が確かなら全機で2発ずつ発射した計算になります。」
東郷「だが反転していった敵編隊は7機…と言う事は1機だけ別行動をとっている可能性が高いな…」
東郷は直ぐに全艦に警戒を強めるように指示を出した。
敵機が対艦ミサイルを射ち尽くしていたとしてても近付いて来る可能性が高い以上、そのままにしておくことは出来ないのは自明の理だ。
例え対空ミサイルでも船体に損傷を与えることは難しくとも電子系統ならばそれで十分だからだ。
現代の艦船において電子機器の損傷はそのまま戦闘不能へと直結する。
撃沈せずとも戦線離脱させるならば対空ミサイルでも事足りる。
先ほどまでの安堵した空気は既になくなり再び重苦しい空気がCICに充満していた。
時間を少し巻き戻し、対艦ミサイルが撃墜された頃、韓国の攻撃隊では…
管制官『対艦ミサイル全基撃墜!攻撃は失敗!全機反転、帰還せよ!』
隊長「くっ!……全機反転!母艦へ帰投せよ!」
攻撃が失敗したことを管制機から受けた攻撃隊隊長は全機に帰還を命じた。しかし…1機が反転せずそのまま飛行を続けた。
隊長「2番機!聞こえなかったのか!?反転し帰投せよ!」
しかし隊長の命令を2番機のパイロットは拒否した。
2番機パイロット『隊長!敵艦隊の詳細は依然として不明のままです!本機が敵艦隊に肉薄し、詳細なデータを送ります!』
隊長「駄目だ、危険過ぎる!戻れ!!」
2番機パイロット『このままなんも手柄無しに帰ればあの司令のことです!隊長が無能だと糾弾するのは目に見えてます!』
隊長『馬鹿野郎!俺の悪口なんざどうでもいいんだよ!そんなこと心配してねぇで戻れ!』
2番機パイロット『これより無線を封止します、オーバー』
そこまで言って2番機パイロットは無線をシャットアウトした。
隊長「クソッ!あのバカ!……」(死ぬんじゃねぇぞ!)
隊長は心のなかで2番機の無事を祈りつつ、残った僚機を率いて帰路についた。
時は戻って…
旗艦大和CIC
オペレーター「敵機発見! E-767のレーダーが捕捉!超低空です!!此方からのレーダーでは捕捉不能!」
東郷「迎撃用意!近接防空戦闘!」
もはやSM-2では対処は不可能だ…そう判断した東郷は近接防空を指示した。
杉田「はっ!近接防空戦闘!各速射砲およびCIWS、RAM発射準備!」
杉田艦長の指示で大和の舷側に装備されている速射砲、とCIWS、RAMが敵機に砲身を向けた。
攻撃隊2番機
2番機パイロット「見えた!無線封止解除!これよりレーダー波を照射!管制機にデータを送る!」
無線封止を解除したパイロットはE-737にこれよりデータを送ることを伝える。
旗艦大和CIC
オペレーター1「敵機よりレーダー波!ロックオンされました!」
オペレーター2「僚艦からも同様にロックオンされた模様!」
秋山「司令!恐らく敵機は我が艦隊の詳細をレーダー照射で調べようとしているかと思われます!」
東郷「ストーカー行為は感心しないな!迎撃始め!」
杉田「撃ち方始め!」
砲雷長「撃ちー方始めー!!」
東郷の命令により各砲門が一斉に火を吹き始め、空中に黒い花火をあげる。
攻撃隊2番機
2番機パイロット「全艦にレーダー照射完了!管制機!データは受け取ったか!?」
管制官『…受け取った!解析に移る。直ぐに離脱しろ!』
2番機パイロット「了解!これより離脱する!空中給油機を手配しといてくれよ!」
しかし彼の注文はこの直後に不要となった。
彼の機体に大和から発射されたRAMのミサイルが直撃し、彼の身体もろとも粉微塵に粉砕したからであった。
E-737管制機
管制官「2番機ロスト!撃墜されたもよう!脱出の有無は不明ですが恐らく…」
機長「くっ!…」
2番機の撃墜にE-767の機長は一瞬悔しいさを滲ませた。あの高度で被弾したのならば生存の可能性は低い…しかし、彼から送られたデータを解析する事が彼の死を無駄にしないことだと自分に言い聞かせた。
機長「データの解析結果はどうだ!」
管制官「今出ます!……出ました!敵艦隊の編成は…戦艦1、空母1、ヘリ空母1、イージス巡洋艦2、イージス駆逐艦2、汎用駆逐艦9…これは…第一艦隊の編成と一致します!」
機長「直ぐにデータを第7機動艦隊へ送れ!参謀本部にもだ!」
判明した日本艦隊のデータは直ぐに第7機動艦隊と参謀本部にも届けられ、一様に驚愕する事になるがそれは別の話。
旗艦大和CIC
オペレーター「敵機撃墜を確認!」
敵機の撃墜を確認したCIC内は眼前の脅威が無くなってもどんよりとした空気が漂っていた。
戦後80年近く今まで実際に敵の兵士を殺したと言う事実をいやが上にも感じさせられていたのだ。
東郷「………」
秋山「………」
東郷も秋山もその空気に呑まれ沈黙していた。
その沈黙を破ったのはCIC内で一番の年長者であった杉田艦長であった。
杉田「司令、撃墜した韓国機パイロットの捜索を具申します。」
東郷「分かった、許可する。」
杉田「司令、お気持ちはお察します。どうかその実感は忘れることのないように…」
東郷「杉田教官には叶いませんね…」
杉田「術科学校以来の付き合いですから…」
東郷と杉田はかつての江田島の術科学校にて生徒と教官の立場からの付き合いであった。
首席幕僚の秋山も学生時代は東郷の後輩として長いこと彼の補佐を続けている。
それはともかく…
10分後、旗艦大和から2機のヘリが発艦し、撃墜現場周辺を捜索した。
結果、現場付近にてF-35の残骸と遺体の一部を発見し、生存は絶望的としてこれ以上の捜索を打ち切ったのであった。
続く…
韓国の早期警戒管制機は本当はB-737AEW-Cなんですが、文章にいちいち書くと長ったらしいのでE-737と表記します。