20WS年 日本 呉 とある造船所
この日、呉の造船所にてある艦の進水式が執り行われようとしていた。
列席している者達の格好からしてそれが軍艦であることは間違いなかった。
しかし、そこに鎮座する新型艦は昨今の流行りのスマートな艦映とは程遠い重厚なフォルムを有していた。
280mを越える巨体に三連装の砲塔を前部に二基、後方に一基を載せた姿は正しく、現代では死語となった戦艦そのものであった。
?「なんとかここまでこぎ着ける事が出来ましたね、総理。」
総理「ああ、だがまだ安心は出来んよ。中国は既に同種の艦を就役させ実戦配備まであと僅かと言う状態。対して此方は進水を向かえたばかり、未だに向こうがリードしている状態なのだぞ、防衛大臣。」
艦のちょうど真前に設けられたVIP席にて総理大臣と防衛大臣は艦が無事進水まで向かえたことに喜びつつもまだ道半ばと言う状態だという事を再度認識した。
第二次世界大戦から80年近く経ち、戦艦は今や過去の遺物、ロマンの一種であり、今さらそんな艦を建造する国は何処にも存在しない………と思われていた。
数年前に中国が進水と同時に世界に向けて公表した新型艦がその常識を覆した。
一番艦を「鎮遠」と命名されたこの新型艦は280mm三連装砲塔を四基装備し、各種レーダーとミサイルVLSを装備した正に現代の戦艦として世に現れたのである。
当然、各国はこの艦の情報を調べるため合法、非合法問わず活動を実施した。
そしてそこから得られた情報から多数のシミュレーションを行った結果から得られた結論は至極簡単であった。
『自分達も同種の艦を配備する』と言うものであった。
特に隣国である日本は早期に実戦配備しなければ軍事バランスの崩壊と言う最悪の事態が予想された。
このため設計時間を短縮するため嘗ての戦艦の設計を流用し、現代の技術に合うように改良を行うと言う手法がとられる事となったのである。
その成果が今、二人の目の前にある光景であった。
《それではこれより命名式ならびに進水式を執り行います》
アナウンスに促され防衛大臣が立ち上がりステージの方へ歩いて行く。
そして自衛艦命名書を読み上げる。
防衛大臣「本艦を大和と命名す!」
嘗て世界最大、最強と謳われながらも活躍することが叶わず沈んだ戦艦が蘇えった瞬間であった。
音楽隊が奏でる軍艦マーチをBGMにしながら拍手を送る総理は叶うならこの艦が一度も砲門を開くことがないようにと祈っていたが、残念な事にその願いが叶う事はなかったのである。
数年後 青森沖 太平洋上 第一艦隊旗艦 大和 艦橋
この日、日本国防海軍第一艦隊は全艦揃っての演習のため青森沖を航行していた。
オペレーター「天龍より通信、目標設置完了!現在本艦の2時の方向、38kmを航行中!」
東郷「状況開始、全艦戦闘配置につけ!」
オペレーターの報告を受けて第一艦隊司令官 東郷 毅(とうごう つよし) 二等海将(38) が演習開始の号令を発した。
大和艦長の杉田 淳三郎(すぎた じゅんさぶろう)一等海佐が戦闘配置を命令し大和乗員が各々の配置場所へと着く。
5分程で大和の戦闘配置は完了し、その1分後には艦隊全艦の配置が完了したとの報告が上がってきた。
東郷「全艦配置完了まで6分か…最初の頃の13分から大分縮める事が出来たな。」
秋山「はい、これまでに艦隊揃っての演習を10回以上に渡って繰り返してきましたからね…」
首席幕僚の秋山 敬一郎(あきやま けいいちろう) 一等海大佐(36)がこれまでの演習回数を持ち出し思いにふけた。
凡そ80年ぶりの戦艦の登場と言う事もあり、殆どが手探りの状態での訓練となっていた。
一時は湾岸戦争時のアイオワ級の元乗組員を招き入れ、その運用方法のサポートを受けた程だった。
杉田「これより主砲の砲撃訓練に入る!甲板要員は艦内へ退避!」
杉田「右舷砲撃戦!主砲射撃準備!」
杉田艦長の号令により甲板要員は急いで艦内へと入る。
46センチ主砲の衝撃は間近で浴びれば身体が吹っ飛ばされるどころか内臓が飛び出てしまうほど強烈なものなのである。
ともかく、甲板要員が退避していくのと平行して主砲の射撃準備も進められていく。
その大きさから想像もつかないような速さで46cm三連装砲塔三基が旋回し、目標へと砲身をむける。
砲塔内部では自動化された揚弾機により砲弾と装薬が弾薬庫よりあげられ、砲身内へ装填される。
砲雷長「主砲射撃準備ヨシッ!目標標準ヨシッ!警報!」
主砲の射撃準備が全て整うと砲雷長は警報を発動させた。警報が鳴り止むと同時に杉田艦長が発砲を命じた。
杉田「主砲斉射!撃ち方始め!」
砲術員「撃ちー方始めー!」
砲術員が引き金を引いた瞬間、三基合計9門の46センチ砲弾が放たれた。
見張り員「弾ちゃーーーく…今!!」
直後、目標の近くを水柱が覆った。
オペレーター「見張りからの報告!砲弾、全弾、遠!」
杉田「誤差修正急げ!」
その後も、艦隊演習は続き、ダメージコントロール訓練、艦隊陣形変更は元よりあらゆる想定を模した訓練は昼夜を徹して行われたのであった。
第一艦隊編成
第一戦隊 大和、高雄、雪風、陽炎
第三戦隊 赤城、那智、浜風、磯風
第七戦隊 日向、摩耶、村雨、雷
第九戦隊 霧島、秋月、曙、有明
東京 首相官邸
第一艦隊が青森沖で演習を行っていた頃、日本の首相官邸では総理がアジア大洋州局局長と参事官および北東アジア第一課長が執務室にてブリーフィングを行っていた。
局長「今年に入り中国海軍は巡洋戦艦 鎮遠、および山東型空母を中核とした機動艦隊の演習を活発化させております。これは我が国が大和型、赤城型を就役させた事による対応および牽制、そして南沙諸島の領有をアピールするためと思われております。」
参事官「また、他のアジア各国は我が国の軍備拡張を懸念を表明しつつも歓迎、或いは沈黙を保っている状態です。」
総理「それ程までに中国の海洋進出が激しさを増していると言う事なのかね?」
局長「おそらくはそうかと…しかしながら例外が一ヶ国だけありますが…」
中国はともかく他の国々からも批判的な意見が多数を閉めていると思っていた総理は意外だと思った。
とはいえ例外があるのもまた事実であった。
ここへ来て北東アジア第一課長が口を開いた。
北東アジア第一課は韓国の外交を担当する部門である。
課長「数年前の大和の進水以降、韓国は我が国を非難する声明を発表。主要な新聞の一面トップの殆ども『軍国主義の再来!』『亡霊の復活!!』と言った見出しが占めています。その後も事あるごとに非難声明或いは報復政策を実施してきました。さらには我が国に対抗して海軍の拡大を急ピッチで進めております。」
課長の説明を受けた総理は内心またかとウンザリした気持ちとなった。
かの国は2010年代後半辺りから日本への反発を強めていっており現職の大統領となってからは異常ともいえる程となっていた。事あるごとに非難声明を行う事は日常茶飯事として時には政策の中止を実行しなければ報復を行うという、恫喝紛いの行為まで行い始めている。かの国の政治家が自らの票を得る為に反日政策を行って来たのは昔からではあるがここ最近の動きはやはり異様であった。
総理「たしか軽空母2隻を中核とした機動艦隊を編成したのだったな。」
課長「はい、既に全艦が訓練を終了し、実戦配備に着いています。」
課長が資料を取り出し総理へ渡した。
資料を読みながらも課長の話が続く。
課長「また、ここ最近になって韓国の海洋警察の船舶が対馬付近にて我が国の海保船舶に対しての挑発行為を繰り返し行っています。」
総理が読み終わった資料をテーブルの上に置く。
置いたのを確認して今度は局長が口を開いた。
局長「今回の軍備拡張により中国はおろか韓国にも口実を与えてしまったのではないかと懸念が局内で広がりつつあります。」
そう言う局長の不安を取り除くように総理は堂々とした態度で自らの結論を口にした。
総理「諸君らの懸念は理解しているつもりだ。しかしアメリカの軍事力が縮小しつつある現在、我が国が独力で国を守る力が必要不可欠なのだ。他人の顔ばかりを気にしすぎていては自分達が生きる残る事は出来ないのだよ。」
アメリカは2020年代初頭に全世界に流行した疫病によりその経済力に大きな打撃を受けていた。
現代に置いて経済の衰退はそのまま軍事力の衰退を意味していた。
その結果、疫病の終息後は経済の建て直しに躍起となり今まではなかなか手がつけられなかった軍事費の削減に大鉈を振るうことになったのである。
その結果アメリカは非公式に日本の軍事拡張を支援し、また歓迎していた。
自分達が手を汚さずともその影響力を持続させることが出来るのならばその手を使わない理由がないからだ。
総理「これから諸君等に多大な負担を掛けることになるだろうがよろしく頼む。」
総理に頭を下げられては流石の三人も分かりましたと答えるしかなかった。
続く
日本の役人って言葉使い厳しいので長ったるい感じになりますね…