「よし、行くか!」
腕にはG-SHOCKの時計。時は午前7:50。
幻想郷という未開の地に一歩を踏み出した青年。後ろには大鎌を持った少女を連れている。……何を隠そう、秋風翔、即ち俺である。今更ながら装備は死の直前の服装、つまりはジーンズにライダーブーツ、ジャケットと、おおよそ冥界には相応しくもない格好である。
映姫さまの酔いが覚めるの間、小野塚小町を連れ幻想郷を少し詮索するところであった。
「んー、じゃあ何処から案内しよっか?」
何処に向かうでもなく歩き出した2人。
「そうだな、近場で面白いところで頼む」
昼飯どきにには帰らなくてはならない。
「んーそうだねぇー」
「小町、質問いいか?」
ふと浮かんだ疑問。
「なんだい?」
「俺は昨日、輪廻の輪から追放された…」
映姫さんに、〝心の療養期間〟と称して与えられた時間。
「そうだねぇ」
「ってことはその……下界にも行って大丈夫なのか?」
未練からだろう。こんなことを口にする辺り、つくづく情けない男だと自分を責めた。
「下界?」
「死者は生前の世界には戻れないだろ?」
まぁ常識である。
「戻れるよ?」
「え??」
いくら幻想郷と言えど無茶苦茶すぎる
「いやぁー、あの世とこの世の結界が破られちゃってさー」
結界……この世界ではあの世とこの世のが繋がっていてそれを結界で遮断していた…ってことか?
「なんなら行ってみるかい?ちょっと時間かかるけど…」
あの世とこの世の結界…多少の抵抗はあったが俺の好奇心を刺激するには十分すぎる。十分すぎる…が
「今日は遠慮しておこう。昼飯どきにには戻らないといけないからな」
おそらく俺たちが帰って起こさなければ映姫さんは夕方まで寝ているであろう
「じゃあそうだな…桜でも見に行くかい?」
11月の後半である。桜なんてまだ……いや、以前の世界の常識はココでは通用しない
「そうだな。近いのか?」
「もうすぐ見えてくるよー…ほら、あそこさ。」
小町の指差す方向に目を向けるとそこには石畳のおおよそ1000段…いやもっとある…階段が見え、その頂上には大きな屋敷がある
「こ、ここか…ってこの階段、登るの?」
「大丈夫!こんなの私の能力を使えばわけないさ!」
死神の能力…怖る怖る聞いてみる。
「小町の…能力??」
「ああ、ほら。」
と一言。言い終わるか否か、というタイミングでーーー
「!?」
「もうついたよ」
いつの間にやら俺たちは階段の最後の段を登っていた
「いったい何が…」
「私の能力は距離を操る程度の能力。さっきいたところからここまでの距離を0mに変えればほら、この通り!」
…ある意味恐るべき能力である。しかしまぁ
「便利なものだなぁ」
「そいやあんたの能力はなんだい?」
唐突に質問される。
「俺に能力などないだろう人間なんだから」
当然のことである。人間がそんな能力を使えることなどあり得ない。
「おまいさんもう人間じゃないだろう」
…そうだった。俺は昨日…
「それにかなり感受性が高いみたいだねぇ…その翼、吸血鬼かい?」
何!?翼!?
自分で見てみろ、と小町は手鏡を渡す。
「…なんだこの翼」
コウモリを模した、如何にもな翼が2対。
全くもって身に覚えがないものだ。それと、
「この白い俺の周りを浮遊してるのは…」
「こいつは驚いたなぁ!それは幽霊や半霊の特徴…半分吸血鬼で半分幽霊ってことか?」
訳がわからん。急展開すぎる。幽霊は百歩譲って受け入れよう。しかし吸血鬼?そんなの信じれる訳なかろう
「半霊吸血鬼……。」
「聞いたことない種族だなぁ」
俺もである。それに髪の色が栗毛色から真っ黒に変わっていた。眼の色は…そのままである。…ここはやっぱり、オッドアイとかになって欲しいものではあるが……
「………。」
なって欲しいものではあるが……
「………。」
やっぱり眼の色は変わらない。まぁじきに変わるかもしれないなんて自分を慰める。
「人外の世界へようこそ、だな」
「……。」
でもなんか遺憾である。
「で、どんな能力がついたんだい?」
「…わからん…ただなにか、体の内側に何と無く暖かい何かを感じるが…」
昨日の酒が残っている…なんて感じではない。
「んーーまだ力が開花してないんだねぇじきに能力は使えるようになるから安心しな」
安心?この死神は何をおっしゃってらっしゃるのだろうか?〝不安〟二文字しか出てこない。遺憾である。
そんな俺の表情に対し小町は、「まあまあまぁ」と適当にあしらい、敷地内に足を進める。仕方が無いので俺もついていく。
「ほら、見えたぞ、あれが“西行妖”」
樹齢数千年もありそうな、巨大な桜の大樹。その名の通り、この樹も妖なのであろう。
しかし
「桜なんて咲いてないじゃないか」
「んーとね、予定ではもうじき満開になるよー」
となにやら名簿のようなものを見ながら言う。予定とはなんのことだろうか
「…そうは見えないが」
と、その時
「お待ちなさい。」
女性の声が聞こえた。
◇◆◇◆◇
「お待ちなさい。」
俺たち気付き屋敷の中から1人の女性が現れた。20代半ばくらいの、美しい腰まで伸ばした白銀の髪。しかしたいへん物騒なことに剣を2対引っさげている。
「不法侵入です…主の許可はとってありますか?……って小野塚小町?
2人は知り合いなのだろうか?よっ!挨拶をする小町。
「死神がこの白玉楼に何のようですか?そして横の殿方は…」
敵ではなさげである。
「自分は秋風翔といいます。先日この幻想郷に来たのですが、そこで知り合った小野塚小町さんにいろいろとこの地を案内していただいているところです。」
一応目上の人には敬語である。初めのうちは。
「私は魂魄妖夢と申します。この白玉楼の庭師をしている者です。どうぞお見知り置きを。」
と丁重に返してくれた。
にしても魂魄。それに彼女の周りを浮遊している白い人魂のようなもの…幽霊、若しくは半霊の証。彼女も自分のソレに気付いただろう。なにか言いたげな表情である。
「今日は桜を見に来たんだ。」
「…………成る程。」
「?」
あからさまに表情が曇る妖夢さん。
「今日………」
「あぁ、今日だ。」
「あの…いったいどういう」
一人会話について行けず困惑する俺。
「なぁ妖夢、こいつはまだ幻想郷に来て間もない。色々と案内してやってるんだが…白玉楼のことを少し教えてやってくれないかい?」
「え?あぁ構いませんよ。では秋風さん、こちらへ」
・
・
・
「とまぁここについてはこのくらいでしょうか。」
小一時間白玉楼を案内してもらった。
初対面の割りには色々と教えてもらい中々に勉強になった。
「…へぇー、それはすごいですね!鼬ですか!!」
特に興味深い話は
「私も祖父から聞いた話なのでその八切七一というお方にはお会いしたことはありませんが…」
…八切七一。外の世界、平成の世に産まれた人間だがあるときなんの前触れもなく大昔、約2000年前、鼬妖怪の腹の中にタイムスリップしてしまい、鼬としての、第二の人生を送ってきたという、そして今はこの幻想郷へと辿り着き、何処かで生き続けているという十二尾の大鼬。
・
・
・
お所変わって幻想郷最北端
「ふぇっくしょいっ!!さては誰かが噂をしているな?」
「ただ風邪引いただけじゃない?全く」
なんてありふれた会話をしているのは〝思い立ったが吉日〟をモットーに、なんの前触れもなく思い立ち最北端まで出向きワカサギ釣りに精を出している書生姿の青年。
そして幻想郷の管理人、スキマを操る妖怪、八雲紫。
「なんだぃ来てたのか」
「私がいたらなにか問題でも?」
お前さんがいたら釣りたてワカサギのてんぷらが全部食われちまう、大問題だ。と、特に機嫌を悪くする訳でもなく、冗談交じりに返答する青年。
「…ココ(幻想郷)に一人、私たちと〝同じタイプの人物〟が入ったみたいよ」
「へぇ。」
八雲の意味深な発言に、少しは興味を持ったのか、書生姿の青年は空を仰ぐーーー
「俺たちと同じ…ねぇ。」
・
・
・
「我が主もその鼬には大変お世話になったそうです。」
一度会ってみたい。
「妖夢!」
「…幽々子様!どうなされたのですか!?まさかお祖父様が……!!」
突然屋敷から飛び出してきた幽々子と呼ばれた女性。その見なりから恐らくこの白玉楼の主だろう…そして人魂…この女性も幽霊だろう
「妖忌が近くに黒髪の外来服をきた男が来ているから連れてこいって!!」
……?………俺??
妖忌なんて名前聞いたことがない。
「秋風さん、貴方のことと解釈して宜しいですね?」
「本当に俺か!?俺は妖忌なんて人には心当たりありませんが…」
本当である。というか幻想郷に来て間もない俺を知っている人物なんて心当たりがあるはずない。
「貴方、翔という名でしょう?それならまず間違いないわ。さ、早く中に入って!」
幽々子と呼ばれた女性に諭される。
緊迫したこの場の空気に、思わず屋敷に走り出した俺。
「こちらです!!」
・
・
・
「妖忌!連れて来たわよ!!」
案内された部屋には1人おそらく妖忌と思われる老人が寝かされていた。
「…翔殿…だな?」
「はい、秋風翔といいます。いったい貴方は……」
やはりこんな老人に心当たりはない。
「やはり貴殿は私に会う前の……」
会う前?
「貴殿からの伝言だ。能力の使い方を決して誤るなと。」
俺からの伝言?いまいち状況が把握できない。
「あの…いったいどういう…」
「貴殿の能力は『能力を操る程度の能力』だ。」
能力を操る程度の能力?
「一度操った能力はいつでも使えるようになる。」
「なんだいそりゃチートじゃないか」
小町の言う通りだ。能力を操るーーーさっきの距離を操る能力もコピーできるということなのだろう。
「但しこの能力には代償が伴う」
「代償??」
代償と聞いて一番に思うのはやはり
〝命を縮める〟
などである。しかしこの老人曰くーーー
「代償はもともとの能力所持者の身に降りかかった一番の災難事が自分の身に起こる。」
「…あの、いったいどういうことで」
更に付け加える妖忌老人。
「そしてもうひとつ!」
一呼吸置き
「貴方と共にした刻、儂は決して忘れませぬ。」
と、涙を流す。
いったいどういうことだろうか
やはり人違いか?
ならば本意ではないが
「…俺もだ妖忌。お前と過ごしたあの時間は決して忘れることはない…楽しかったぞ。後のことは俺に任せてよい。」
「やはり貴殿は心の優しいお方だ…最期に話せてよかった…」
と心からの笑みを見せる妖忌老人。
……複雑な心境である
「…………。」
「小野塚殿、少しだけで構わない、儂に時間をくれぬか…」
「わかったよ。翔、戻るよ。」
「あ、あぁ。……それでは俺たちはこれで。」
妖忌『未来へ歩め、“過去色の半霊悪魔”』
・
・
・
その夜、冥界全土に桜の花弁が散った…
「綺麗ですね」
「花見酒といっちょ洒落込みますか?」
「また呑むんですか…」
小町は無類の酒好だと思った。
「少しくらいなら構わないじゃないですか翔さんも飲みましょう」
「映姫さん、数時間前まで酔っ払ってたでしょうに…」
『…それにしてもすごい量だな…桜吹雪…死神だが、ここは冥福を祈るよ、魂魄妖忌。』
・
・
・
魂魄妖忌の言葉の意味を俺が理解するのはこれから数百年後のことであったーーー
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
小猫side
上白沢慧音。この人が綴った書物には幻想郷の、一通りの出来事が記されていた。歴史書というものなのだろう。
ここ数週間この書物を1から読んでみたけど
「やっぱり載ってませんね」
幻想郷。外の世界からみればそれは幻想。
またこちらからみれば外の世界もまた幻想。
と言う事なのでしょうか。
「赤龍帝と白龍皇。あの波乱が記されていないなんて」
「なんだ小猫、また見てたのか」
隣の部屋から顔を覗かせる先生。その手には
「慧音先生。」
「晩飯ができたぞ。知り合いから鮮度の良い魚をもらったんだ。キミのことを話したら興味を持ったらしく、会ってみたいと言っていたよ。」
大ぶりの魚が入った籠。
「そうですか」
「彼女は私よりもずっと以前から、幻想郷ができるよりはるか昔から歴史を記録している。もしかしたら何かわかるかもしれないな。稗田阿求と言う名前だ。悪い奴ではないから、会ったら仲良くしてくれな」
稗田。教科書に載ってた。確かーー
稗田阿礼。飛鳥時代天武朝の舎人。彼―――彼女と言う説も有るが―――は記憶力に優れていた為、天武天皇は、後に『古事記』の元となる『帝紀』『旧辞』を読み習わせ暗誦させたとされる人。
記録によればその時阿礼は二十八。極めて聡明な人物であった…稗田阿求は稗田阿礼の子息なのかも
・
・
・
「美味しかったですです。ごちそうさまでした。」
「魚を捌くのは久しぶりでな、口に合ってよかったよ」
空腹が満たされると少し考えに耽る私。
「……」
「…連れのことを考えているのか?」
流石は先生をやってるだけあって、洞察力が鋭い。
「…それもあります。」
「恋人か?」
しかし恋人ではない。
「いえ、そういうのではないです。偶然助けただけですから」
…恐らくあの人も、幻想郷(ここ)にいるはず。会えば何かの手掛かりを掴めるかも
「その目…じゃあ行くのだな」
「はい。短い間ですがお世話になりました。ありがとうございました」
いつまでも慧音先生の好意に甘えていてはいけない。
「いいや、私も話し相手ができて楽しかったよこちらこそありがとう。何かあったらまた来てもいいんだぞ。」
「ありがとうございます。」
ーーーこうして慧音先生の元を去り、私の旅が始まった
◇◆◇◆◇
慧音先生の元を離れて私はあの人を探すために旅に出た。2日目のことである。
私の身体に異変が起きたのは
「やめてください!!これがないと子供たちが死んでしまうんのです!どうか見逃してください!」
「あ?るせーなこの世は力があるもんが全て正しいんだよ!お前をここで噛み殺してもいいんだぜ?」
「なんですか!?」
茂みの奥から声がする。2人。それに噛み殺すって…片方は正気じゃない!
「どうか、どうかお助けを!!」
「ごちゃごちゃうるせぇんだよこのっーー」
「やめてください!!って…は?」
そこにいたのは2匹の犬…って犬!?
「んぁ?なんだ嬢ちゃん俺らの言葉がわかるのか?」
「私は元は猫又。あなたたち犬の言葉はわからない…はず」
猫の言葉はなんとなくわかるが私に犬の言葉がわかる訳ない。
「猫又ぁ?……その雰囲気、余所モンだな?」
「ひ、ひいいぃぃ!!」
隙をついて逃げ出す母親犬。
「あっ!てめぇ!俺の魚を!!」
「待って。」
犬の首根っこを掴み持ち上げる
「うおっ!何すんだあのメス犬が俺が捕まえた魚を横取りしたんだ!!」
「聞かなかった?あの犬には子供がいるの。住処から、きっと遠く離れることができなかったから仕方なくやっただけ。許してあげましょう」
咬み殺すなんて以ての外。
「ちっ!しゃーねぇなあ」
「…ふぅ。」
一件落着…ではない。
「あなた、名前は?」
「名前なんかねぇよ俺はただの犬だからよ。」
生れながらの野良犬なのか。
「そう」
「つぅかよ、嬢ちゃんなんで俺らの言葉がわかるんだ?」
問題はそれである。
「…わからない」
「さては外の世界のやつだな?」
確かにその通りです。
「外から来たやつがこの幻想郷に入ると能力がつくって聞いたことがあるぜ。」
「能力…」
私は少し期待した。能力があれば強くなれるかもーーー
犬「さしずめ〝動物と話す程度の能力〟ってとこだろう。ちんけな能力だなぁ」
動物と話す程度の能力…言葉のままだろう。あらゆる動物と会話ができるようになったのであろう。少し期待外れだ。
「まぁ俺には関係ねーが…ぎゅるるるる」
「…お腹すいてる?」
盛大な腹鳴。
「…るせーな。やっと食料にありつけたと思ってたのによ」
母犬を助けたのはいいがなんか申し訳ない気持ちになった。
「ちょっと待ってて」
「あん?」
数十分後。
「お待たせ」
近くの川で魚を捕ってきてあげた。
「この短時間でこんなに…」
「生だとお腹壊すから」
更に数十分後。
「できた。」
手頃な木の枝に魚をさし、火を起こして焼き魚にした。
「じゅるり…い、いいのか?」
「うん。私も1本食べるけど」
・
・
・
「っはぁ〜食った食った〜。うまかったぜ嬢ちゃん」
慧音先生の言葉を思い出す
「困った時はお互い様。」
「本当助かったぜ嬢ちゃん、ありがとよ」
感謝されると少しくすぐったい気持ちになる。
「…どういたしまして」
「嬢ちゃんには名前あんだろ?なんていうんだ?」
「私は…塔城小猫。」
「ふーん変わった名前だなぁ。まぁいい、その名前覚えておくぜ。俺はこの辺りじゃ隻眼のブチって呼ばれてる。なんかあったら顔出しな!それじゃあな子猫!」
…さっそく間違えてます。
でもこの能力…ふふっ
アリですね。
第三話・完