もし平凡な主人公が異世界へ転生したら   作:悠木仁

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プロローグ&出会い

 『主人公』と聞いて、何を思い浮かべる?

 

 悪い奴らを倒す正義のヒーロー?

 決して折れない、強く堅い精神を持つ者?

 

 たしかにそんな『主人公』もいる。

 いや、むしろそうじゃない『主人公』の方が少ないかもしれない。

 

 では、卑怯で横暴で残虐で自己中でヘタレな『主人公』は存在しないのか?

 

 

 答えは否だ。

 誰でも1人くらいはそんな『主人公』を知っているだろう。

 

 では、そもそも『主人公』の定義はなんなのだろうか。

 

 辞書で調べるまでもないだろう。誰でも知っている。

 『主人公』とは、『物語の中心人物』である。

 

 ならば、誰もが『人生』という物語の『主人公』なのではないだろうか。

 

 

 

 話が少し変わるが、『主人公補正』とは本当に実在するのだろうか。

 

 『主人公補正』、物語の中で『主人公』に与えられる恩恵。

 

 『主人公』にのみ許される『主人公補正(チート)

 

 

 

 

 

 ここで話を戻そう。

 誰もが『人生』という物語の『主人公』というのならば、『主人公補正』なんてものは存在しない。

 当然だ。

 もし世界中のすべての人間が『主人公補正』を持っていたのなら、『主人公補正』という言葉自体、不要なものになるから。

 

 『主人公補正(チート)』が当たり前の世界になってしまうから。

 

 逆に、『主人公補正』という言葉があるこの世界には、たった1人の『主人公』がいるということになるだろう。

 それはいくらなんでも理不尽だろう。

 

 『主人公』以外はいなくてもいい『脇役』なのだから。

 

 「お前は脇役だ」と言われて不快に感じない人はいないだろう。

 

 

 質問を変えよう。

 

 君は『主人公』に何を求める?

 

 とある事件に『関わるだけ』でハッピーエンドにしてくれる万能な『力』か?

 

 もしそんな『力』を持つ者がいたのなら、当然奪い合いが始まるだろう。

 

 悪者に親友を殺されて、『主人公』に

「お前がこの事件に関わらなかったせいだ」と

逆恨みする者も現れるだろう。

 

 ここから言えることは、『主人公』は決して万能ではなく、世界に平和をもたらすなんてことは不可能だということだ。

 

 これはそういう物語だ。

 『主人公』が、『脇役』が、『復讐者』が、

『卑怯者』が、『裏切り者』が、

 

 互いに協力し、助け、友となり、愛し合い、

時には戦い、騙し、奪い合い、殺す。

 

 

 そんな物語である。

 

 

 

 

 

 

 

「これで終わりだ!魔王!暗黒火炎《ダークファイア 》!」

 

 俺が呪文を唱えると、黒色の炎が地面を砕き、細かい破片を纏いながら魔王へ襲いかかった。

 

「ぅ、――――ゥオオ‼︎」

 

 漆黒の炎が直撃し、不気味な断末魔の叫びを上げながら地に伏した魔王は、無数の光の粒へと変わり、最後は宙へ消えていった。

 

「やった!ついに魔王を倒したぞ!」

 

 俺が勝利の雄叫びを叫ぶと、それに応えるように仲間たちが歓喜の声を上げた。

 

「うおおおお!これで村が救われた!」

 

「実は拙者、この戦いが終わったら結婚するつもりだったんでゴザル!」

 

「はぁはぁ、勇者マジかっこいい///」

 

 強靭な肉体と鋼の精神を持つ3人の男が言った。

 

 

―――ん?何か最後の方に違和感が・・・。

 

 

「よくやったぞ柊《しゅう》!」

 

 まるで俺の抱いた違和感を掻き消すように、俺の名前を叫びながら強引に肩を組んできたのは、始まりの町からずっと俺と一緒に旅をしている、双剣士の・・・・・・・・・誰だっけ?

 

「なぁ、お前の名前ってなんだっけ?」

 

 俺がそう言うと、謎の双剣士はキョトンとした顔をして、

 

「は?何言ってんだお前?俺だよ、詩音だよ」

 

 と言った。

 

 そうだ、思い出した。

 こいつは小学生の頃からの親友の・・・・詩音!?

どうして詩音がここに!?

 

「おーい!しゅうちゃーん!しおーん!」

 

 俺が謎の双剣士の正体に驚愕する中、俺と詩音の名前を呼びながら走ってきたのは、双剣士(?)の双子の妹であり、チームのサポート役でもある神官の・・・・・凛!?なんでだよ!なんだよこの流れ!

 

「どうしたのよ、そんな顔をして」

 

 一緒に戦ってきた屈強な戦士たちが、次々と平凡な高校生に変わっていく謎の現象に混乱する俺に声をかけてきたのは、

踊り子で、俺の幼馴染でもある・・・・楓《かえで》だった。

 うん、だんだん慣れてきたな、このパターン。

 

 楓のその艶やかで豊かな桜色の髪は、腰の辺りまで伸びているが毛先までツヤツヤで、毎日手入れを怠らない楓のマメな性格が滲み出ているようだった。

 

 しかし・・・踊り子の衣装は・・・。

 目のやりどころに困るなぁ。特に胸部が。

 

 大きすぎず小さすぎない、美しい半球を描いている一対の乳房は1枚の薄い布でキツく押さえつけられているが、まったく形をくずしていない。

 

「どこ見てるのよ」

 

 楓の冷たい声に身の危険を感じた俺は、すぐに視線をずらした。

 

「よくぞ私を助けてくれました!勇者柊、そしてその仲間たちよ!」

 

 殺伐とした空気の中、突然大きな女性の声が魔王城に響き渡る。

 その声にビックリした俺は少し声が裏返ってしまった。

 

「ひ、姫?そうだ、俺は姫を助けるためにここまで来たんだった!」

 

 状況が飲み込めないけど、そんなことはどうでもいい!重要なのはお姫様だ!

 

 俺には姫と結婚して一国の王子になるという夢がある。その夢を実現する時がついにきたのだ。

 

 振り返るとそこには、小柄だがとても美しいお姫様が立っていた。

 

 その姫は爪先が見えなくなるほど長いドレスを身にまとっていた。透けて見えそうなほどに真っ白で、広がったスカートは空に漂う雲のようだ。

 

 そして、可愛らしいお姫様は俺のことをジッとみつめてからこう言った。

 

「ありがとう!さすが私のお兄ちゃんだね!」

 

 長い長い旅で疲れ切った身体を癒すような暖かく優しい、懐かしくも感じるその声を聞いた俺は・・・

 

――――――思考が止まった。

 

 

―――え?えぇぇぇぇ!?お、お兄ちゃん?!

 

( 待て、落ちつくんだ俺!これは何かの間違いだ!そうに決まっている!!)

 

 苦労して魔王を倒したのだ。助け出した姫が妹だった―――なんてオチは許されない。

 一旦後ろを向いた俺は、3回ほど深呼吸をして呼吸を整え、勢いよく向き直るとそこには・・・!

 

「お兄ちゃん!」

 

 妹―――奏がいた。

 

 雪のように白く綺麗な髪、湖のように深く澄んだ瞳間違いなく、奏である。

 

―――「お兄ちゃん!お兄ちゃんってばぁ!」

 

 悪夢だ・・・。そうだ、夢に違いない!

 はやく!夢ならはやく覚めてくれ!

 

―――「お兄ちゃん!この!この!」

 

 急に頭が痛くなってきた。胸も苦しい。

 俺は死ぬのか・・・。

 生き返るなら俺は鳥になりたいなぁ・・・。

 

―――「こうなったら……」

 

 いや待てよ、鳥は嫌だな・・・。

 俺は高所恐怖症なんだった。

 それならまた人間か?あ!いっそ王様なんかどうd

 

「ラブリー妹パンチ!」

 

「ぐはぁぁぁぁぁぁぁあ!」

 

 腹部に重い一撃をもらった俺は寝慣れたフカフカのベッドの上で目を覚ました。

 

「あ、起きた」

 

 仰向けに寝ている俺にまたがった奏が俺の顔を覗き込んできた。

 

「あ、あれ?お姫様は?俺は王子になるんじゃ…」

 

「何を言ってるのかさっぱりだよ…。お兄ちゃんに彼女はいないよね?というか、お兄ちゃんが王子って(笑)」

 

 寝起きで頭がよく回らないが、とても失礼なことを言われた気がする。

 

「そんなことよりお兄ちゃん。はやく学校に行った方がいいよ?今日は日直でしょ?」

 

 奏が目覚まし時計を見せてきた。

すでに時計の針は07:40を回っている。

 

「うお!もうこんな時間か!」

 

 俺の通っている学校には寮がある。寮は高等部の校舎の隣にあるので、いつもなら焦る時間でもないのだが・・・。

 

「日直は8時までに登校して教室の掃除をする!サボった人は1週間トイレ掃除をしてもらいます!」

 

 入学式での校長先生のスピーチを真似している妹を無視し、制服に着替えた俺は急いで部屋を出る。

 

「あ、テーブルの上に朝ごはんあるからねー!」

 

 階段を降りてリビングに入ると、テーブルの上にはサンドイッチが置いてあった。

(さすが奏!俺が寝坊するのを見越して食べやすいのを用意してくれたのか!)

 

 よくできた妹に感謝しながら、俺はサンドイッチを口に咥えながらドアを開け、外へ出た。

 

 俺たちの部屋、072号室は寮の一番端にあるので、1つの階層に1個しかないエレベーターに辿り着くまでに、走っても2分はかかる。

 

「どうしてこの寮はこんなに無駄に広いんだよ!」

 

 俺と奏が通っている私立 明安中学・高等学校は、学校の敷地が異様に広いことで有名だ。

 かといって学費が馬鹿高いわけでもなく、進学率は全国的に見ても高い方なので人気がある。

 中高一貫教育で、俺も奏と同じ明安中出身だ。

 

 

 空は曇っており今にも雨が降り出しそうだったが、急いでいた俺がそんなことを気にする暇があるはずもなく、俺は傘を持たずに家を飛び出した。

 

 

 1人柊の部屋に残された奏は、喜びにも悲しみにも受け取れる、微妙な声色で、

 

 

「がんばってね、お兄ちゃん」

 

 とつぶやいた。

 

 

 

 教室に着いた俺は、勢いよくドアを開ける。

 

「遅れてすまん!……あれ?」

 

 教室には誰もいない。

 

「まさか俺が一番乗り?なーんてそんなわk」

 

「そんなわけないでしょう」

 俺の言葉を遮ったのは、朝の夢で踊り子役として出てきた、不知火 楓《しらぬいかえで》の声だった。

 

 振り返るとそこには箒をもった楓が恐ろしいほどの笑顔で立っていた。

 

―――ヤバい、殺される!話題を逸らさなければ!

 

「お、おはよう楓!今日も早いな!」

 

「あなたが遅いのよ」

 

「そ、そういえば今日の夢に楓が出てきたよ」

 

「っ!な、なによいきなり」

 

 お?雰囲気が柔らいだぞ!この調子だ!

 

 

「それで詩音と凛、最後は奏まで出てきちゃってさ……大変だったよ」

 

「………」

 

 あれ?

 楓の機嫌がまた悪くなっているような・・・。

 

「それで助けたお姫様が奏でさぁ…ビックリしちゃったよ!はっはっはっ」

 

「へぇ〜、奏ちゃんがお姫様…ねぇ…」

 

 あ、これはヤバい。

 

「ど、どうかしましたか…?楓さん?その手はいったい…」

 

 返事はラブリー妹パンチ(笑)を超える威力で襲いかかってきた。

 

 

 

 

 時刻は08:30、生徒たちの本来の登校時間である。この学校は全生徒が寮で生活しなければならない。そのため、寮の食堂が開く時間の関係で、ほとんどの生徒の登校時刻がかぶることになる。

『食堂のご飯は美味しくないから…』

 

 奏がそう言ったのをキッカケに、我が家は自炊をしている。俺はそう感じたことはなかったが、可愛い妹のためだ。週4の食事当番なんてどうってことない!

 

「おっはよー!ってあれ?しゅうちゃんホッペが赤いよ?大丈夫?」

 

「よう、お二人さん、朝からご苦労だな」

 

 そう言いながら教室に入ってきたのは、茶髪でポニーテールの少女、五十嵐凛と、同じく茶髪でツンツンしたスパイキーヘアが特徴の五十嵐詩音である。

 この2人は(日直を除けば)ほとんど毎日、最初に登校して来るのだが・・・。

 

「おはよう凛、詩音、今日は遅かったわね」

 

「あぁ、ちょっと人探しを手伝わされてな」

 

「人探し?」

 

 そう尋ねると凛が俺の両肩に手をのせて耳元で囁いてきた。

 

「なんかキレイな人がしゅうちゃんのことを探してたよ〜?な〜んか怪しかったから、念のため知らないって言っておいたけど…」

 

「キレイな人?」

 

「あ、私も同じこと聞かれたわよ」

 

「楓も?誰だろう。親戚が遊びに来たのか?」

 

 凛が言うぐらいなんだから相当な美貌の持ち主なのだろう。凛は見た目やファッションに関しては辛口だからな・・・。

 詩音の私服がオシャレなのも凛のおかげらしい。

 髪型は・・・詩音の趣味だろうな。

 ぶっちゃけ似合ってないし。

 

「お前、心の中で俺のこと馬鹿にしただろ」

 

「エスパーかよ!なんでわかるんだよ!」

 

「柊は昔から考えていることが顔に出るタイプなのよ」

 

「お、おい!変なこと言うなよ楓!」

 

「ぬいぬいが言うなら間違いないね〜」

 

「ちょ、ちょっと凛!その呼び方やめてっていつも言ってるでしょ!?」

 

 そんな会話をしているうちに教室に先生が来て、朝のHRが始まった。そして俺はなんの変哲も無い、平凡で退屈な毎日を、これからもずっと送り続ける・・・はずだった。

 

 

―――あいつに会うまでは

 

 

 

 放課後、いつもなら俺は奏、凛、詩音と(たまに楓も)一緒に帰るのだが、今日は日直があるので教室に残った。

 楓は用事があるからと言って先に帰った。埋め合わせは必ずすると言っていたが・・・さて、何をさせようか。こんな機会めったに無いぞ!

 

 そんなことを考えながら日直の仕事を終わらせた俺は玄関で靴を履き、学校を出ようとしたが、そこで雨が降ってきた。

 

「マジかよ…。傘は…持ってきてないよな〜」

 

 奏が持ってきてくれなかったということは傘は家になかったのであろう。以前もこんなことがあった。

 

「その時はたしか教室前の傘立てに置きっぱなしだったんだよなぁ」

 

 寮が近いので走って帰っても問題ないのだが・・・やめておこう。奏に怒られそうだ。

 

 こうして俺は「めんどくさいなぁ」と愚痴りながらも、教室へ向かって歩き出すのだった。

 

 

 

 

 

 

「なんなんだこれは…」

 

 俺は目の前の光景に目を疑った。

 教室は滅茶苦茶に散らかっていた。

 

 ほとんどの机や椅子は倒れ、脚が折れているのもいくつかある。壁は凹んでおり、床には血痕も見られる。戦場、殺し合い。そんな言葉が頭をよぎった。

 あり得ない。ここは日本という比較的安全な国の中でも特にセキュリティの高い学校である。

 

「うっ…おえぇぇっ!」

 

 勇者でもなければ英雄でもない俺に血の耐性があるはずもなく、俺は吐き気を堪えながら廊下へ出た。

 逃げなければ。ここに居てはいけない。頭の中では理解している。しかし、足が動かない。

 まるで見えない手が俺の足を掴んでいるような、不気味な感覚だ。

―――タッタッタッ

 足音が聞こえた。誰かが近づいてくる。

 

―――タッタッタッタッ

 

 足音はだんだん大きくなっていく。

 もう、すぐそこまで来ている!!

 

「動け!俺の足!動いてくれぇぇぇ!」

 

「あーーー!やっと見つけたー!」

 

 見つかった。

 

 俺は死を覚悟した。俺は死ぬのか・・・生まれ変わるのなら俺は・・・・。

 

「やっと見つけましたぁ!初めましてぇ!」

 

「………………は?」

 

「神崎柊さんですねぇ?私はElf《エルフ》のフローネといいます♪よろしくお願いしますぅ!」

 

 よく分からないがなんでこの緊迫した状況で金髪エルフ美少女が出てくるんだよ!

 

「…………」

 

「あれぇ?どうしましたぁ?もしかして言語が合ってませんでした?えっと…Guten Tag?」

 

「いや、言語云々じゃなくてさ…えっと、どちら様で?もしかして俺を探していたのって…」

 

「さすが柊さん!察しがいいですねぇ。そうです!私のことですぅ!」

 

「あの、その長い耳とか背中についてる羽はいったい……コスプレ?」

 

「ちーがーいーまーすー!れっきとした地耳と地羽ですぅ!」

 

 いや地耳と地羽ってなんだよ・・・。

 聞いたことねーよ・・・。

 

「そんなことよりぃ!この世界の人間はどうなってるんですかぁ?!」

 

 な、なんだ?この世界の人間(笑)がこの金髪エルフに何かしたのか?

 

「柊さんのことを聞いても『知らない』だとか『なんだその馬鹿っぽい名前は』とか言ってくるんですよぉ?!」

 

 後者は間違いなく詩音だろう。あいつ、見知らぬ人(?)になんてことを言うんだ・・・。

 

「ピンク髪の女なんてすっごく怖い目で睨んできて『柊に何かようですか?』って!」

 

 あいつらは俺に何か恨みでもあるのか!?

 

「と、とにかく!あんな事が起きた後にお前が現れたんだ!何か意味があるんだろ?説明してくれ!もう何が何だか……」

 

 このエルフ(?)は何か知っている。

 俺の直感がそう告げていた。

 

 

「あんな事…?まぁとにかく落ち着いてください。順を追って説明しますからぁ」

 

 

 そして1人のエルフは語り始める。

 

 

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