もし平凡な主人公が異世界へ転生したら   作:悠木仁

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主人公の答え

 ソニアさんと合流した俺は学園中をひたすら駆け回っていた。学園内に侵入したテロリスト達を捜索しているのだ。

 

 

「園内に侵入したのは『月夜の楽園』というテロ組織だ。具体的な人数は不明だが、警備の情報によれば50人以上はいるらしい」

 

「ご、50人!?そんなに人が侵入してきたのに攻撃されるまで誰も気付かなかったんですか?」

 

 さっき俺たちが倒したのが6人だからまだ44人も残っていることになる。まぁ他にも強い人はたくさんいるから大丈夫だろうが・・・。

 

「今日は休日だろう?人が少ないから警備も薄くなっている。それに朝から街へ出かけてる人も多い、戦える者は多くて20人ってところか」

 

 そ、それしかいないのか・・・。そういえばフローネも朝からどこかへ出かけて行ったな。

 

 ソニアさんは怪訝な顔をして、

 

「どう思う、神崎」

 

 と言った。

 

「どう、とは?」

 

「敵の狙いだよ。学園の生徒を殺したいなら休日に攻めてくる必要はないはずだ」

 

 たしかにそうだ。さっきのやつらも「もう来たのか」と言っていた。つまり戦闘を避けているってことだよな?てことは・・・。

 

「なにか…学園に用があるとか?たとえば、この学園に宝物があるとか…」

 

 俺がそう言うとソニアさんは目を見開いてその場に立ち止まった。

 

「まさか…奴らはこの学園に『あれ』があることを知っているのか?!」

 

 『あれ』?いったいなんのことだろうか。学園になにかしらスゴイものが保管されているのはありがちなパターンだが、ここもそうなのだろうか。

 

「すまない神崎、ここからは別行動だ。私は学園長のところへ行ってくる。お前はこのまま捜索を続けてくれ」

 

 そう言ってソニアさんはどこかへ走って行ってしまった。

 え、別行動?マジで?じゃあせめて俺の剣を置いていってくれよ!おーーい・・・。

 

 しかし俺の叫びは虚しくも誰にも届かないのだった。

(余計なこと言っちゃったかな…)

 

 ソニアさんの役に立ったことが嬉しく思われたが、それよりも後悔の気持ちの方が強い俺なのだった。

 

「見つけたぞ!」

 

 そんなことを思いながら突っ立っていると、突然男の叫び声が聞こえてきた。

 

(やばっ!見つかったのか!?)

 

 多人数を相手にするにはまず先制攻撃を仕掛けることが大切だ。先に見つかってしまうのは分が悪い。

 

 しかし見つかったのはどうやら俺ではないようだ。後ろを振り向くとそこには4人の男たちに囲まれた女の子がいた。「よかった…」と安堵しかけた俺は全然良くないことに気がつく。

 

(あの子を助けないと!)

 

 魔法陣を展開しながら女の子の下へ駆け寄る。しかし・・・。

 

(な、なんの魔法を使えば…)

 

 女の子を巻き込む恐れがあるので範囲攻撃は使えない。炎弾で攻撃しようにも、今の実力ではやはり女の子に当たる可能性がある。

 

(だったら…こうするしかないだろ!!)

「うぉぉぉぉぉぉぉお!」

 突如鳴り響いた俺の叫び声に男たちは少し驚いたようだったが、すぐに攻撃を仕掛けてきた。

 

(あの素早い状況判断力、テロリストでもやっぱりプロの魔法士ってことか)

 

 さっきと男たち同様、炎弾を放ってきた。俺は右へ左へとかわしながら進んでいく。

 

(かすっただけでも大爆発だ。あいつらに近くまでは避け続けないと)

 

 近づけば自分たちも爆発に巻き込まれることになる。炎弾攻撃は止めてくれるはずだ。

 

 俺の狙いに気づいたのか、男たちは腰の剣を抜いて迎撃態勢に入った。

 

(剣だと?!まずいな…)

 

 剣は遠距離攻撃には弱いが近距離戦ならトップクラスの性能だ。剣に対抗するには近距離用魔法か剣で相手をするしかない。だが・・・。

 

(あの子がいる限り魔法は危険だ。仕方ない、やっぱり、これを…)

 

 使うしかない。そう思った俺は展開させていた魔法陣から炎を召喚し、その炎で剣を形作った。

 

「燃え上がる剣《ローエン・シュヴェルト》!」

 

 炎剣に実態はないので男たちと剣を交えることは出来ない。男たちの剣をかわしながら斬るしかない。『斬る』という言葉が俺の脳内を駆け巡った。

 

(斬れるのか…?今の俺に…)

 

 俺の心理的葛藤を邪魔するかのように、男たちが斬りかかってきた。

 

 1人の男は上段からの攻撃。俺はこれを後ろへ下がって回避する。残りの3人は突きの構えをとっていた。俺は炎剣を横に振って炎壁をつくり、男たちの視界を遮って突きを防ぐ。その隙に俺は女の子の下へ駆け寄る。

 

「きみ!大丈夫?怪我は?」

 

「だ、大丈夫です。ありがとうございます、あの」

 

「この野郎!熱いじゃねーか!」

 

 女の子が何か言いかけたが男たちが炎を振り払って再びこちらへ攻撃してきた。

 

(ここなら魔法を使っても女の子を巻き込む心配はない)

 しかし戦闘のエキスパートである男たちは俺に魔法を使わせる暇など与えなかった。男は一瞬のうちに間合いを詰め、俺に剣を突き立てた。俺は身体を捻りながらこれをかわそうとするが、鋭い剣先が俺の頬をかすめた。頬から血が流れ出る。

 

(これが…実戦…)

 

 手が震える。斬られた恐怖と、斬ることに対する恐れが俺に襲いかかる。

 

「なにボーッとしてんだ!」

 

 他の男たちが次々と俺に剣を振り下ろしてくる。そして俺は何度もかわす。かわしてかわして・・・かわし続ける。しかし反撃ができない。魔法を使う余裕もない。

 

(もうもたない…俺は、殺されるのか?)

 

 しかし、諦めかけた俺の目の端に女の子の姿が映った。女の子の顔に写っていたのは『不安』や『絶望』だ。そう、俺と同じ顔をしていたのだ。

 

(何を迷ってるんだ俺は…)

 

 俺が死ねばあの子も殺される。それだけは絶対にあってはならない。

 

(あの子を守るために、俺は戦うんだ。あの子を救うために、こいつらを…斬るんだ!)

 

 それに気づいた時には既に身体が動いていた。男の懐に潜り込み・・・斬った。

 

「ぐわぁぁぁぁぁぁあ!あちぃぃぃい!いてぇぇぇぇぇえ!」

 

 斬られた男が叫び声をあげた。炎剣は金属製ではないため血は出なかったが、男の胸元には一筋の火傷の跡がついているはずだ。完治には時間がかかるだろう。

 

「て、てめぇ!よくも仲間を!」

 

 突然の俺の反撃に驚いたのだろう。他の男たちの腰が浮いている。

 

(その程度の剣技で…俺に勝てると思うな!)

 

 男たちが一斉に剣を振り下ろした。俺はそれを1つずつ確実にかわしていく。振り下ろした剣が空を斬ったことで、男たちの胴体は隙だらけだ。

 

「はぁっ!」

 

 俺は横薙ぎに剣を振るい、3人の身体を炎剣が斬り裂いた。たったそれだけで男たちは悲鳴をあげながらその場に倒れる。あまりの熱さと痛みで気絶したのだろう。

 

「勝った…」

 

 なんとか危機を乗り切ることに成功し、一気に肩の力が抜けた。するとそこへあの女の子が駆け寄ってきた。

 

「あ、あの!助けていただいてありがとうございました!」

 

 女の子は律儀に頭を下げてそう言った。

 

「いやいや、こちらこそ。君には感謝してるんだ」

 

 この子のおかげでソニアさんの問いに対する答えを見つけることができた。俺がこれから戦っていく上で最も必要なことを、この子は教えてくれたのだ。

 

 俺の言葉に女の子は不思議そうな顔をした。と、そこで女の子が制服のポケットからハンカチを取り出した。

 

「あ、あの…失礼します」

 

 そう言って女の子が俺の頬をハンカチで拭いた。

 

「……?」

 

 女の子の突然の行動に俺の思考は停止してしまった。

 

「血…出ていたので…」

 

 あぁ、そういえばさっき斬られたんだったな。

 わざわざ拭いてくれたのか。

 

「ありがとうな」

 

 そう言って女の子の頭を撫でてやると、いきなり

 

「ひゃわわっ!?」

 

 とかわいい声をあげた。

 

「あ、悪い。つい妹を思い出しちゃって…嫌だったか?」

 

「い、いえ!そんなことは…ない、です…」

 

 ほんとに大丈夫かな?これ、あとからセクハラで訴えられたりしないだろうか。

 

「おーい、神崎!」

 

 するとそこへソニアさんがやってきた。今頃来たって遅いんだよ!

 

「なんのようですか、ソニアさん」

 

「な、なんだ?何を怒っているんだお前は」

 

 しまった、つい感情が表へ出てしまった。

 

「そ、ソニア・スカーレット先輩!?」

 

 ソニアさんを見た女の子がとつぜん声をあげた。まぁソニアさん有名人だしな、この前のランク試験で序列3位になってたし。

 

「ん?たしかきみは…いや、こんなことをしている場合じゃなかったな。神崎、敵の狙いがわかったぞ」

 

 敵の狙い・・・?あぁたしかそのことでソニアさんは学園長のところへ行っていたんだったな。俺を置いて。

 

「あいつらの狙いはこの学園に保管されている『賢者の書』だ」

 

「賢者の書?」

 

「あの、それって読むだけで高位魔法が使えるようになるっていう…」

 

 俺にはまったく聞き覚えがないものだったが、どうやらこの子は違ったようだ。

 

「その通りだ。あれだけは絶対に奪われるわけにはいかない。特に『月夜の楽園』にはな」

 

 月夜の楽園、いったいどんな組織なのだろうか。ソニアさんがここまで危険視するなんて・・・。

 

「ひとまず確認されている侵入者は全員撃退された。私は学園長の命でこれから『月夜の楽園』について調べてくる」

 

「まさか…1人で行くんですか?」

 

 危険だ。いくらソニアさんでもたった1人でテロ組織を相手にするなんて・・・。

 

「心配するな、ただの調査だよ。すぐに帰ってくるさ」

 

 そう言い残してソニアさんは再びどこかへ行ってしまった。立ち去ろうとするソニアさんを、俺には止めることができなかった。

 

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