「ほぇ〜、そんなことがあったんですねぇ。それはお疲れ様でしたぁ」
俺は街から帰ってきたフローネに今日の出来事を話した。学園にテロリストが攻めてきたっていうのに、騒ぎは街までは広まっていなかったらしい。
「でもそんなことってありますかねぇ。噂ぐらいは広まると思いますけど…」
「どういうことだ?」
まさか故意に情報が隠蔽されたとでもいうのだろうか。
「そのまさかのことも考慮するべきだって言っているんですよぉ」
そんなことをして得をするやつがいるのか?学校の評判を落としたくない学園長とかか・・・?
「それを考えるのが『主人公』の役目ってものですよぉ?」
「この世界の主人公は俺じゃないだろ。そういうことは星宮に頼めよ」
そう言って俺は布団の中へ潜り込む。
「もう寝るんですかぁ?」
「疲れてるんだよ。いろいろあったからな」
俺の意識はそこで途絶えた。
ソニアさんが『月夜の楽園』の調査に出てから1ヶ月以上が過ぎた頃、俺は再び朝から学園長に呼び出されていた。
部屋の前に立ちドアをノックしてから中へ入る。
「まだ入っていいとは言ってないんだが」
学園長がそんなことを言ってきた。
「急ぎの用なんでしょう?だいたい察しはついています。ソニアさんに何かあったんですか?」
学園長は「はぁ…」とため息をついた後、俺を見ながら言った。
「ソニア・スカーレットの行方が完全に途絶えた。3日前から連絡が無い状況だ」
「なっ…!?」
その言葉に驚愕して叫ぼうとする俺を学園長が右手を前へ出してなだめようとする。
「ソニアの最後の目撃情報によればおそらく聖都でトラブルに巻き込まれた可能性が高い」
学園長が手元の資料を見ながらそんなことを言った。
(聖都…?たしか聖都にはソニアさんが留学していたという騎士団が…)
騎士団。その言葉が俺の頭に引っかかる。
「学園長、一つお聞きしても?」
「ん、許可する」
(もしも俺の予想が間違っていなければ…)
俺は問いを口にする。そして学園長からその答えを聞いた瞬間、俺の頭の中で最悪のビジョンが思い描かれた。
「くそっ!!」
俺は突然走り出した。自分がどこへ向かっているのかもわからない。ただ、ジッとしてはいられなかったのだ。
「お、おい!神崎!」
学園長が俺を呼ぶ声が聞こえてくるが、俺は無視して走り続ける。するといきなりフローネの声が脳内に鳴り響いた。
『聞こえますかぁ?柊さ〜ん』
(通信魔法か…こんな時にっ!)
『悪いフローネ、今忙しいから後にしてくれ』
『ご安心ください。状況は分かっていますからぁ』
逆になぜ分かっているのか聞きたいところだがそんな暇は無い。
(どうせ隠密魔法使って俺についてきたんだろ、相変わらず悪趣味だな…)
『聞こえてますよぉ?通信魔法の使用中は考え事しないほうがいいですよぉ〜』
マジかよ。意外と不便だな通信魔法。
『じゃあいったい何の用だよ…』
『どうせあてもなく走り出したんでしょう?柊さんこそ相変わらずですねぇ』
いちいちうるさいな・・・。早く要件を言ってくれよ。
『だから聞こえてますってぇ…まぁいいです。そんな愚か者の柊さんにとっておきの情報をお届けしま〜す』
『とっておきの情報?』
『聖都の東側にある廃屋の建物。あそこ、今は誰も使ってない上にみんな気味悪がって近づこうともしないそうですよぉ?』
(だからなんだよ!!)
『私が誘拐犯ならそういうところに連れ去りますけどねぇ』
『だからどういうこと…』
そこまで考えたところで、やっとフローネの言わんとすることが理解できた。
(そうか…そういうことか!)
俺は走る速度を上げた。目的地は・・・聖都にある廃屋だ。
「こんなことをしてただで済むとでも思っているのか!」
ソニア・スカーレットはとある廃屋の床に転がされていた。手足は縄で縛られていて自分で動くことはできない。
「そんなことは思っちゃいねぇ。だから邪魔なお前を捕まえたんじゃねか」
そう言ったのは騎士団の団長、セブンス・ネグローニだ。
「仮にも誇り高き騎士団の団長、こんな真似をしていいはずがない!」
言いながらソニアは一筋の涙を流す。己の無力さを呪い、憧れの騎士に幻滅したのだ。
「それはお前の幻想だ。勝手に理想を押し付けて、勝手に幻滅するとは世話ねぇな。お前もそう思うだろう?ギムレット・バーンズ」
ギムレット・バーンズ。そう呼ばれた男はただ静かに微笑んだ。テロ組織『月夜の楽園』のボスである彼には、誇りだのなんだのといったことにはまったく興味がない。彼が求めるのは、ただ一つの『真実』だけなのだから。
(もう少しだ。もう少しであいつに近づける。大陸を滅ぼした最凶の悪魔、『ファントム』に…!)
セブンスは再びソニアを見下ろし、魔法陣を展開させる。あまりも危険なため一般人は使用を制限されている、拷問魔法。
「今日こそは吐いてもらうぞ、ソニア・スカーレット。お前が掴んだ情報と、あの胸糞悪い学園長に報告したことをな」
セブンスが指を鳴らすと、それに応えるように魔法が発動した。
「嘲笑う悪魔《リディクル・デビル》!」
セブンスが魔法名を叫ぶと同時に、ソニアの体中に電流が流れだした。身体が火傷を負うほどの高圧電流だ。
「………っ!?!?」
ソニアは自らの制服を噛むことで叫び声を上げないようにしていた。まるで、自白することを拒否しているかのように。
「てめぇ…いいかげんに!」
瞬間、辺りに轟音が鳴り響いた。建物の窓は砕け散り、中へ炎が入ってくる。
「権力を持つ者しか知るはずのない『賢者の書』の情報が外部に漏れていた」
その炎の中から少年の声が聞こえてきた。
「学園の警備の配置もすべて把握されていた」
少年はゆっくりと、一歩ずつ進んでいく。
「テロのことはすべて掻き消され、情報が街まで届くことはなかった」
少年の姿が露わになる。右手に剣を携えたその少年からは、紅色の炎が噴き出している。
「そんなことができるのはお前しかいないんだよ。王家直属の騎士団団長、セブンス・ネグローニ!」