「最後の訓練?ははっ、確かにそうだな。なにせ、お前たちはここで死ぬことになるんだからな」
そう言ってギムレットは俺に斬りかかってきた。俺は剣でダガーを弾いて攻撃を回避する。
相手はダガーを二本持っているので、一本ずつ対処してしまうとどうしても隙ができてしまう。
「お前、ウィザードだな?」
いきなりギムレットが話しかけてきた。
だが、攻撃の手は止まっていない。
俺は剣を振るいながら答える。
「それがどうした」
「いいや別に。ただ、ウィザードのわりには剣を多用しすぎだと思ってな。その程度の剣技じゃあ……死ぬぞ?」
瞬間、俺の剣が弾き返された。
長剣が短剣に弾かれるというのは、使い手の間に大きな実力の差がある証拠だ。
「……っ!!」
ギムレットの突きが俺の脇腹めがけて放たれた。俺は防御魔法を展開して迎え撃つ。
俺が発動した防御魔法は簡易型で、ガードできる範囲は狭いものの銃弾くらいなら弾くことが可能だ。
当然、俺ほどの魔法力があってこそなせる技だが。
「ふっ……」
俺が防御魔法を発動したのを見ると、ギムレットは鼻で笑って攻撃を続行した。
(弾かれるとわかっていてなお攻撃を続行?一体何を……!?)
次の瞬間、俺は信じられない光景を目の当たりにした。
彼のダガーが俺の防御魔法を打ち砕いたのだ。
魔法陣がガラスが割れたような音を立てながら崩れていく。
そして、ダガーが俺の脇腹に突き刺さった。
「ぐっ……!?!?」
俺は左手で傷口を押さえながら後ろへ下がってギムレットとの間を空けた。
(な、なんで防御魔法がっ?!)
本来であればあの程度の攻撃で防御魔法が破られるわけがない。
いや、あれは破られたというより・・・。
「消滅させた」
今の現象に俺が驚いていることに気がついたのか、ギムレットがそんなことを言った。
「消滅……だと……?」
「そうだ、魔法を消滅させたのさ。これは俺が『アイツ』を探しているうちに見つけた新技術でね。これのおかげで俺はウィザードに負けたことがないのさ」
ウィザードに負けたことがない。それはつまり、どんなに強い魔法でも消滅が可能だという意味になる。
(もしそれが本当なら、もう……)
剣技でも劣り、魔法も通用しない。そんな相手に一体どうやって勝てというのだ。
俺は横目でソニアさんの方を見る。どうやら彼女も苦戦しているようだ。だが・・・。
(剣に迷いがない。騎士団長という格上の相手と戦っているというのに、怖くないのか?)
そう考えてから、俺は「違う、そうじゃない」と思い直した。
彼女は今、自分の誇りをかけて戦っているのだ。その気持ちが偽りでないことはほんの数ヶ月の付き合いだが、俺には分かる。
(それなら、俺の選択肢は一つしかない)
誰かを守るために、俺は戦う。
自分の世界を、この世界を守るために。
「うおぉぉぉお!!!!」
激しい叫び声を上げながら、俺はギムレットのもとへ走り出した。
「おいおい、負けると分かっていてまだ立ち向かうか。どうやらよほどのバカらしい」
俺は魔法を展開する。
俺が制御可能なラインで最大の魔法。
「竜殺しの剣《ドラゴン・スレイヤー》!!」
魔法を発動すると、剣に竜の紋章のようなものが現れ、そこから光が発せられた。
この世界では神聖な生物と言われ、崇められてきた竜をも殺す剣。
文句なしのSランクを誇る大魔法だ。
「さすがだな。だが、さっきも言ったろう?」
俺の渾身の突きをギムレットは軽々と弾いた。すると、またもや音を立てながら魔法が消滅していく。
しかし、俺の攻撃はまだ終わらない。
左足を踏み込み、右足で回し蹴りを放つ。
ソニアさんから習っていた『体術』だ。
蹴りは見事にギムレットの右手に直撃し、彼はダガーを床へ落とした。
「ちっ、ふざけた真似を!!」
俺は右足で着地し、そのまま左足で蹴りを放つ。
ギムレットは後ろへ跳んで難なくかわす。
だが、それが彼の致命的なミスとなった。
「火焔罠《バーン・トラップ》発動」
俺がそう呟いた瞬間、突如出現した炎がギムレットを背後から襲った。
俺は走り出す前からあらかじめ展開しておいたのだ。
「魔法は効かねぇって何度言わせんだ!」
ギムレットが左手に持っていたダガーで炎を切り裂くと、一瞬にして炎が消え去った。
しかし、俺はその一瞬を見逃さなかった。
両足で踏み込んで勢い良く跳躍し、一気に彼との間を詰める。
「遅いっ!!」
ギムレットは左手のダガーで突きを放つ。
俺は剣で迎え討った。二人の剣同士が交わりあい、あたりには甲高い音が鳴り響いた。
しかし、その時には既に俺の手は柄から離れていた。
一切力がかかっていない剣を弾いたせいで、ギムレットの体制は前屈みになってしまう。俺は腰を低くして彼の懐に潜り込み、右手を構える。
「きさま……なにをっ!?」
「お前、『ウィザードに負けたことはない』って言ったよな?」
肉体強化系の魔法を右拳に重点的に発動する。威力増幅、速度向上、とにかく使用可能な魔法をありったけ発動する。
さすがの俺でも魔力が空になってしまいそうだが、ここで退くわけにはいかない。
「じゃあウィッチなら……いや、体術も剣術もできるウィザードには、勝ったことはあるのか?」
たしかに、俺の体術と剣術はまだまだかもしれない。他人に誇れるような実力ではないかもしれない。
だが、あの人に教わったこの力を、俺は信じる。
「鬼神の剛腕《アポカリプス・オーガ》!!!」
瞬間、俺の拳がギムレットの身体を貫いた。