『この世界には自分しか存在しない』
フローネが最初に発した言葉がそれだった。
「は?何言ってんだお前?」
だめだ、やっぱりコイツ病院に連れて行った方がいいんじゃ・・・。
「余計なお世話ですよぉ!」
あれ?声に出てたか?
「声に出さなくても顔に書いてあるんでまるわかりですよぉ!」
そ、そんな。初対面の変態にもバレるほど俺は分かりやすいのか・・・。
「そんなことはどうでもいいんですぅ!」
どうでもいい、地味にショックだった。
「簡単に言えばぁ、あなたが『見ているもの』だけが存在してぇ、『見えていないもの』は存在しないのですぅ」
ぜんぜん簡単じゃなかった。むしろ難易度MAXである。
「そろそろ帰っていいか?」
「いいわけないじゃないですかぁ!?」
まぁ、そりゃそうだ。
「とりあえずぅ、騙されたと思って最初に私が言った言葉を信じてみてくださいよぉ」
最初の言葉?
あぁ、『この世界には自分しか存在しない』か。
「世界はあなたに嘘をついているんですよぉ」
「うそ?」
世界にそんなイジワルをされるような事をした覚えはないんだが・・・。
「あなたに『この世界には自分以外にも人や生き物が存在している』って信じこませてるんですよぉ」
ふむふむ、たしかに『最初の言葉』とつなげてみると何となく分かってきたような気がする。
「でもどうやって?何のために?」
とうぜんの疑問である。
さっきも言ったが、なぜ俺がそんなことをされなければならないのだろうか?
「方法は簡単ですよぉ?あなたが『見ている光景』にだけNPCを配置すればいいんですよぉ」
なるほど、たしかに目の前にいる人を見て
「こいつは偽物なんだ!」なんて思う奴はいないだろう。
もしいたらきっとそいつは変態か中二病のどちらかである。
「じゃあ電話はどうなんだ?通話相手は『見ていない光景』にいるはずだろ?」
俺がそんなことを言うと、フローネは嫌な顔して、
「屁理屈がお好きなんですかぁ?そんなこと聞くまでもないでしょぉ?」
と言った。
いや確かに今のは屁理屈っぽかったけどさ、そんなに嫌な顔しなくてもいいだろ!?
「じゃ、じゃあどうして『世界』は俺にそんなことをするんだ?」
今回の質問は的を射ていたのか、フローネは親切に答えてくれた。
「それは柊さんが『主人公』だからですよぉ」
な、なんだってーーーー!
俺が主人公!?マジで?!
「あ、あれ?意外と冷静ですねぇ」
フローネは予想を裏切られてガッカリしたような顔をしていた。
「いやいや!冷静でいられる訳ないでしょ!だって主人公でしょ?え?マジなの?!」
「いや、まぁそのぉ…もっと落ち込むかと思っていたのでぇ」
「落ち込む?なんで?」
あ、コイツ馬鹿なだけだ。
フローネの顔にはそう書いてあった。
「だって自分以外はNPCなんですよ?家族も、友人も、恋人も、全部偽物なんですよぉ?」
言われてみればそうだった。
詩音も凛も、楓や妹である奏でさえ、偽物。
うーん。複雑な気分だな・・・。
「それで?俺が『主人公』だとどうして嘘をつかれなきゃいけないんだ?」
俺が『主人公』なのはわかったが、だとしても、『世界』と『主人公』が創られた理由分からない。
するとフローネは少し困った顔で、
「意外とするどいんですねぇ。もっと単純な人だと思っていたんですけどぉ…」
俺の評価低すぎじゃね!?なんで初対面の少女にこんなに馬鹿にされてんの?!
「『世界』は何のために創られたのか、なんか哲学っぽいですねぇ〜」
あれ?
さっきの態度といい、コイツもしかして・・・。
「お前、知らないのか?」
「ギクッ!」
「ギクッ」?
コイツいま「ギクッ」って言わなかったか!?
「よ、妖精だって知らない事の1つや2つあるに決まってるじゃないですかぁ!」
逆ギレされた。
いやいや、今まで得意げに語っていたじゃないか。世界のなんたるかを。
この後、俺は怒るフローネをなんとか説得し、以下の情報を聞き出した。
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1.「世界」は無数(?)にあり、
その1つ1つに主人公がいる。
2.均衡を保つため、すべての「世界」
は表と裏に分かれている。
3.表に1人、裏に1人の主人公がいるので、
1つの「世界」に2人の主人公がいる。
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「てことは主人公は無数にいるってことか?」
それなら俺は別にすごいわけじゃないのか?
「いえいえ、そもそも『無数』なんて数はありませんからぁ」
「え?そうなの?」
「『無数』というのは『人間が数えるのを放棄した数』ですからぁ。聖域や神界ではちゃんと数えられていますぅ」
『聖域』?『神界』?また謎の単語が出てきたぞ?
「なんだ?その聖域とか神界ってのは?」
俺の質問の意味が分からなかったのか、なんでそんな質問をしたのかが分からなかったのか、フローネは目を丸くして、
「え?聖域は聖域、神界は神界ですが?人間界の言葉にもありますよねぇ?」
と言った。
「つまりなんだ?聖域には聖人が、神界には神が住んでいるって言うのか?」
「当たり前じゃないですかぁ、まぁ正しくは聖人ではなく、精霊や私たち妖精が住んでるんですけどねぇ」
―――――え?
ちょ、ちょっと待て、『私たち』?
「お、お前!ほんとに妖精だったの!?」
「まだ信じてなかったんですかぁ!?」
いやだって、妖精ってもっと小さくて可愛らしいイメージだったから・・・。
確かに俺と比べれば小柄だが・・・。
それでも中3の奏と同じくらいだぞ!?
そんな妖精がいてたまるか!
「まぁ、人間も妖精も、神でさえ、生まれ方や見た目が違うだけで他は何も変わらないんですけどねぇ」
「あれ?神とか妖精って魔法とかそんな感じの特殊な『力』があるんじゃねーの?」
そう聞いてから『あ、ヤバい』と思った。
また『これだから人間は〜』みたいなことを言われてしまいそうだ。
しかしフローネは俺の予想とは逆に、
「よくぞ聞いてくれましたぁ!」
と大声で叫んだ。
「な、なんだよ!」
「これでやっと話が進みますぅ!」
フローネは語る、この世の真理を、真実を。