「これから神崎さんには魔法試験を受けていただきます」
黒スーツの試験官が俺を見ながら言った。
「魔法試験?」
いまいち何をするのかがよく分からない。
「ご存知ありませんか?その人の心技体を1度に見極めることができるので、ほとんどすべての学校で採用されている試験方法なのですが…」
「わ、私たちは田舎の方から来たのでそういうことはちょっとぉ…」
慌ててフローネがフォローを入れる。
「そうでしたか。魔法試験とはつまり、魔法を動力とする人形と模擬戦をするというものです」
え?模擬戦?
俺、いきなり戦うの?
「ご安心ください。この試験で死人が出たことはありませんから」
死人!?
え、けっこうガチな感じなの?!
「時間もありませんし、早速始めましょうか」
え、ちょ、まっ・・・!
逃げ出そうとする俺の腕をフローネが掴む。
「はいは〜い。どこへ行くんですかぁ?」
こいつ・・・めっちゃニヤニヤしてやがる!!
するとフローネが小声で、
「大丈夫ですってぇ。柊さんはすでに魔力を習得しています、あと必要なのはやる気ですぅ」
「無理だって!つい最近まで俺は平凡な高校生だったんだぞ!?」
「往生際が悪いですねぇ…えいっ!」
「うぉっ!?」
フローネに背中を押された俺は、そのままリングの中へ入ってしまった。
「準備は出来たようですね。では、試験を開始します」
いや、どこがだよ!と俺がツッコミを入れようとした途端、反対側にある扉が大きな鈍い音をたてながら開き始めた。
そして中から出てきたのは・・・。
「ゴ、ゴーレム!?」
大きな岩が無理やり人型に繋げられている。
まるで幼児の作る粘土細工のようだ。
全長3mくらいだろうか。その巨体が歩くごとに重く鈍い足音が鳴り、地面が揺れる。
「グオォォォォォォォォォォ!」
ゴーレムが猛獣よりもさらに恐ろしい雄叫びをあげた。
―――それが戦闘開始の合図だった。
ゴーレムは右腕を大きく振り上げた。
狙いの先にいるのは・・・当然俺である。
「おいおい…冗談だろぉ!?」
俺が右へ跳んだ直後、爆発音のようなものが試験会場に鳴り響いた。
衝撃に舞い上げられた砂埃が次第に晴れていく。
「なっ…!?」
砂埃で隠されていた光景を見た俺は言葉を失った。
俺がさっきまで立っていた場所には大きな穴が空いていた。まるで月のクレーターのようだ。
「死人が出たことがない?嘘だ…ろお!?」
二撃目。
ゴーレムは左手を地に滑らせるようにして俺をなぎ払おうとする。
後ろへ飛ぶことでなんとかかわせたが、そう長くはもたないだろう。
「何やってるんですかぁ!ほんとに死んじゃいますよぉ?」
フローネの声が背後から聞こえた。
「そんなこと言ったって!どうしろってんだ!」
こんな化物に勝てるはずないだろ!?
この世界の学生たちはどんな教育を受けてるんだよ!
「誰も勝てなんて言ってないですよぉ!これは試験なんです!柊さんの魔法の実力を見せるだけでいいんですよぉ!」
「その魔法の使い方が分からないんだろうが!」
俺は未だにフローネから魔法の使い方を教わっていないのだ。
後ろを向くと、俺の言葉を聞いたフローネが「あっ、忘れてた」とでも言うような顔をしていた。
「おいぃぃぃぃい!」
「ま、魔法の使い方も知らずに試験を受けようと思ったのかね!?」
試験官が驚いた声で言った。
まぁそりゃ驚くよな。そもそも魔法の使い方を知らない人自体この世界にはほとんどいないだろう。
「柊さん前見て!前!!」
「え?」
ゴーレムの方に向き直ると、ゴーレムが再び腕を振り上げたところだった。
回避しようとしたがもう間に合わない。
そう判断した俺はゴーレムへ向かって走り出す。
「うぉぉぉぉぉぉお!」
ゴーレムが腕を振り下ろすタイミングに合わせて、俺はゴーレムの両足の間をスライディングで抜ける。
「自分が今から何をしたいのかを具体的にイメージしてください!頭の中に言葉が浮かんできたらその言葉を叫ぶんです!」
フローネがこちらへ向かってそう叫んだ。
同時にゴーレムが俺の方を見る。
具体的にか・・・。
言われた通りにしながら、俺も睨み返すようにゴーレムを見る。
よく見ると、ゴーレムの胸の部分には紋章が刻まれていた。しかもどこかで見覚えがある。
「そうだ!確か転生をする時に…!」
フローネが展開した魔法陣に似ている・・・!
試験官の言葉を思い出す。
『魔法を動力とする人形』
もしあの胸の魔法陣から魔力を吸収しているのだとすれば・・・。
『あれを破壊すればゴーレムは止まる』
そんな俺の思考を読み取ったかのように、頭の中に1つの言葉が浮かび上がる。
ゴーレムがこちらへ突進してくる。これで魔法が発動しなければ俺は大怪我をするだろう。
最悪の場合、死ぬかもしれない。
「こんなところで死んでたまるかっ…!」
俺は決めたんだ。
『主座争奪戦』で必ず勝ち残るって・・・!
「柊さん!」「神崎さん!」
フローネと試験官が俺の名前を叫んだ。
大丈夫だ。きっとできる・・・!
右手を前へ出し、俺は魔法名を口にする。
「竜の顎門《ゲート・オブ・ドラゴン》!」
瞬間、俺の右手から炎が放出され、炎は竜へと変貌していく。
火竜はその大きな口でゴーレムの胸部を噛み砕き、貫いた。
「グァァァァァァァア!」
今までとは違う、悲鳴のような声をあげてゴーレムの身体は崩れ落ちていった。
「や、やった…」
俺があの化物を倒した・・・。
今、初めて魔法をつかってだ。
「どうだ!俺はあの化物を倒したぞ、フローネ!」
しかしフローネと試験官は俺とは違い、ただ呆然としていた。
なんだ?俺が何かやらかしたのか?
そんな心配をしていると、フローネが
「お、おめでとうございます…」
と言った。
「あんまり嬉しそうじゃないな。なんかまずかったか?」
するとフローネが我に返ったように急に表情を変えた。
「いえ、嬉しくないわけではないんです。というか、嬉しいです。嬉しいんですけどぉ…」
「なんだよ。はっきりしないなぁ」
「す、素晴らしい!」
突然試験官がそんなことを言った。
「炎で具現化したものとはいえ、竜を召喚するなんて高度な魔法を扱える者がいたとは!」
俺は解説を求めるようにフローネを見た。
「竜を召喚する魔法を扱えるのは極々一部の優秀な人だけなんですぅ。この世界でも例外ではないようですねぇ…」
なるほど、俺の使った魔法が想像以上に凄かったらしい。
「それで試験の結果はどうなんです?」
凄い魔法が使えようが、ゴーレムを倒そうが、この学校で戦闘の極意を学ばなければ『主人公』に勝つことはできない。
「当然、文句なしの合格だ。ランクなどの細かい評価は後で送ります」
「あ、じゃあこの学校の隣にある宿屋に送ってもらっていいですかぁ?」
「えぇ、そういえばお二人は田舎から出てきたんでしたね」
入学手続きは評価用紙が届いてからだということなので、ひとまず俺たちは宿に帰ることにした。
―――3日後、宿に届いた評価用紙にはこう書いてあった。
‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐
あなたは本校の入学試験に合格しました
ので通知いたします。
神崎柊 殿
魔法力・・・S
戦闘技術・・・E
戦闘能力・・・C
‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐
な、なんだこの微妙な結果は・・・。
「よかったですねぇ。運良く優秀な魔法を習得できてぇ」
確かにそれはそうだが・・・。
戦闘技術はEランクって・・・。
「そりゃそうですよぉ。ずっと逃げてただけですし。逆にあのゴーレムの攻撃をかわし続けたことが評価されてるみたいですけどぉ」
なるほど、それがこの戦闘能力か。
「出だしはそこそこってとこか。これから大変そうだなぁ…」
―――10月24日
神崎柊の入学が正式に認められた。その手に宿る竜がもたらすものは、幸運か不運か。本当に神崎柊は『運が良かった』のか。それはまだ誰にも分からない。