一般兵Aの想い。   作:馬の人。

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本作は、電撃文庫「ねじ巻き精霊戦記 天鏡のアルデラミン」の再構成物となっております
(7巻までの深刻なネタバレがございます)。
本作の公開にあたり、原作者である宇野朴人氏に感謝。
半オリ主物となっていますので、苦手な方はご注意ください。
原作とは一部異なる点がございます(訓練小隊配属の場面や新兵からの騎士団の評価など)。
処女作ゆえ、文章に見難いところなどたくさんあると思います。気づいた点があれば指摘いただけると幸いです。
実際に執筆してみて、作家の方々の苦労を実感しました。
どうやって日に5000文字とか1万文字とか書いてるんだろう…。


炎髪の彼女と副官

 

――あぁ、あの女性(ひと)はどこまでも英雄で。

――僕はどこまでも一般兵だ。

 

 

僕が炎髪の彼女に出会ったのは、新たな年の始まり。

新兵訓練を主席で終えた、その日に配属命令を受けて。

指示されたとおりに向かった先に毅然と立っていたのは、つい最近話題になった少女。

家柄は「忠義の御三家」筆頭の一人娘。

士官学校では影も踏ませぬ成績で主席を譲らず。

海難事故に遭い、士官試験の受験すら不可能になりながら。

絶望的な状況からかすかな可能性の糸を手繰り寄せて、かの皇女殿下をキオカの手から救い出し。

ただ士官学校卒の身でありながら叙勲を受け。

帝国騎士の称号とともに貴族となった少年少女たち――通称「騎士団」の代表格

 

ヤトリシノ・イグセム。

 

「白兵のイグセム」を継ぐ世代最高の才媛が、僕の上司だった。

 

 

 

正直に言って、はじめは面白くもなく。

厳しい訓練を終えて従うのが3つも年下の女の子。

それもつい最近基礎訓練を修了したばかりのひよっこで。

偶然大きな機会を与えられただけの子に、新兵とはいえ主席だった自分が従うのは当然、気分の

よいものではなかった。

また、「騎士団」のメンバーはやっかみを受けることも多くあったと聞く。

それが部下である僕達に及ぶことも懸念されたし、

加えて女の子だ。せめて「騎士団」の中でも、同じく忠義の御三家である「レミオン家」の三男の部下となれなかったのか、と。

 

彼女は、そんな僕の思いを粉々に打ち砕いて、新たな伝説をその経歴に刻んでいった。

 

 

 

 

訓練でありながら、反逆者により皇女殿下が拉致される事態となった模擬戦演習。

初陣である大アラファトラ山脈での対イナーク戦。

続くアルデラ教国神軍の侵攻防衛戦。

権限の一切利かぬ状況で始まった、ヒルガノ列島沖海戦。

 

それらすべてが。

彼女、ひいては「騎士団」の面々が欠けていたなら国家規模の危機となっていたものだ。

そして彼らの勇姿を、はじめは帝国陸軍焼撃兵第一訓練小隊副長として、

その後もイグセム准尉麾下において一年以上にも魅せられ続けた僕は、

至極当然のように彼女の輝きのとりことなっていた。

 

 

もはや、ひよっこの少女はそこに無く。

僕の目に映るのは、どこまでも美しい炎髪の英雄だった。

 

 

 

 

もちろん、惹かれた女性に近づきたいという想い、というより下心がはたらいた。

実際に彼女の指揮下において、副官となり先任下士官を除けば中隊でも最も彼女に近しい立場まで登りつめた。

彼女と話す機会も世間話程度ではあるが増えたし(そもそも彼女は「騎士団」のメンバーを除けばめったに私語を交わさなかった)、幾度かの戦場を越えて、背中を預けてもらえるぐらいには信頼もされた。

 

それでも、なお。

彼女にとっての()には比ぶべくもなかった。

彼は、彼女によれば古い馴染みであり、昔から悪だくみが大好きで、風呂敷を広げては人を巻き込むどうしようもないやつだ、との話だった(加えて噂によれば女癖が悪く人妻を好んだり、訓練を息をするようにすっぽかすとか)。

彼の評価は戦場におけるあるはたらきを除けばどれも悪いものばかりだった。

あぁ、なのになぜ、何故彼と話す貴方は、彼について話す貴方はそんなにも楽しげで、華やかなのだろう。

傍から見ていても二人の連携は惚れ惚れするもので、戦場の遠く離れたところから相手の思考を

読み取り、動作のタイミングまで合わせてみせたときには感動すら走った。

 

嫉妬が僕の身を焼き、激情が胸を焦がした。

しかしその思いも、もっと彼女を知ることで、誤りだとわかった。

 

 

 

――まるで一対の腕のように見せる二人の深いつながりは。

――悲しくなるほどに異性としての感情を含んではいなかった。

 

 

 

そのさまは、まるで彼女が人ではない、なにかのようで。

そしてその非人間性こそ、僕らが英雄に押しつける願望ではないか、と。

そう気づいたとたんに、吐き気が止まらなくなった。

自分よりも年下の少女に、自らの想い人に身勝手な理想を重ね、

英雄という型に押し込めようとしていた事実。

僕は、彼女に近づきたいと思いながら、その実、彼女について理解しようなどとはこれっぽっちも思っていなかったのだ。

そして、今まで嫉妬と嘲笑しか覚えなかった、彼の行動が、ぎりぎりで()としての彼女を守っているのだと思い知らされた。

彼はおそらく、彼女が異性としての感情を持たないことも、彼女を英雄にしようとする周囲のことも全部承知のうえで。

それでもなお、彼女を守ると誓ったのだろう。

彼女が見せる彼との絆の深さは、当然のものだったのだ。

 

その時から、僕の想いは大きく変化を見せた。

――彼が人としての彼女を守り続けるのなら。

――僕は彼女がどうあっても、その背中を追いかけよう、と。

 

 

 

 

そんな折、ヒオレド鉱山にて、奪還戦の最中。

考えうる中で最悪のうちの一つの情報が届けられた。

「レミオン大将、帝都バンハタールにおき軍事クーデターを決行す」

そして彼女には、イグセムの係累として、鎮圧のため帰還命令が下された。

イグセム派将校の旗印として帝都に向かうその道で、何かを諦めきれぬように、

しかし将として兵たちに見えぬように浮かべた苦渋の表情が、印象的だった。

 

それから、帝都への帰途。

構造の欠陥を知り、利用することで半日とかけずに落としたクドラ峠の砦攻略戦。

彼女の父にして国内最強たる、帝国陸軍元帥との合流。

忠義の御三家にしてクーデター首謀者、レミオン家の当主との会談。

そこに割り込んできた、騎士団の「彼」率いる昔日の英雄部隊――「旭日連隊(グラ・メストエリ)」。

今上陛下の行方不明と、三つ巴の捜索戦。

飛ぶように流れる日々にあって、彼女はどこまでも正しく、どこまでも軍人であった。

独立捜索隊の指揮官として、鎮圧軍の実働部隊全てを率いた彼女。

クーデター軍との争いにおいても王子の身柄を確保し、レミオンの腹心と名高い「氷の女」を

討ち取るなど、他の追随を許さぬほどの戦果を挙げてみせた。

 

そんな、彼女が。

「旭日連隊」を行き場のない岩石地帯に追いやり、倍する兵力で包囲した、この時に。

 

壊れた。

どこまでも、どこまでも人として。

おそらく、その因は先ほど届いた元帥殿からの命令書。

そこに、彼女を壊す程の何かが記されていたのだろう。

そしてそれは、現状を鑑みるなら、おそらく。

 

――彼を

――彼女は

――その手で殺さねばならなくなった。

 

 

 

 

 

僅かな間をおいて、彼女は時間をもらう、と残して天幕へと下がっていった。

あぁ、おそらくは。

これから、人としての彼女が()されるのだろう、と。

僕はあまりにも冷静な頭で考えていた。

もし、この場に彼女を救えるものがいたとして、それは彼以外にないことがわかっていた。

なればこそ、僕は今、かつての想いをかたちにするときなのだろう。

人としての彼女が消えて、ただ一対の剣として振るわれるというのなら。

その行く末を、誰より近い場所で見届ける。

 

 

 

その日、日が沈む頃になり。

イグセム(・・・・)率いる帝国陸軍独立捜索隊は、()率いる帝国陸軍全域独立鎮台「旭日連隊」を名乗る

反乱軍との戦闘を開始した。

 

 

非道いものだ、と言わざるをえない。

どの勢力も、他の勢力が勝てば国が滅ぶ、と考えて。

国の滅びへと向かう紛争を繰り広げている。

血みどろの闘争の中で、()は鈍い輝きを放ちながら反乱軍をすりつぶしていった。

8つあった彼の陣地も、残りは5つ。

むしろ、4日目まで過半を守り抜いたこととすれば彼のはたらきは十分すぎると言えよう。

その戦いは、時間を稼ぐことに終始していた。

野戦籠城といえるこの戦いは、定石通りの援軍を待つためのものであろう。

そしてこの戦いに介入できるほどの援軍とすれば、それはクーデター軍以外に無く、

すなわち、三つ巴の争いであった残り2つの軍が手を結んだことに他ならない。

援軍の到着まで、猶予はあまり無い。

この状況下で、(イグセム)が選んだのは博打といえる天任せ、であった。

彼との智慧比べをしていては、残り少ない時間を消費するのみ。

なればこそ、二人の手が介入する余地のない自然に頼った戦術は、理に適っているのだろう。

五分五分の勝利と敗北。そのリスクを、果断に選ぶことができるのがイグセムだった。

 

そしてその判断こそが、この戦の分水嶺であった。

奪った陣地3つ全てを利用した、風任せの煙幕突撃。

策により、今まで二人の知略により奇妙なバランスを保っていた戦況が、一度にこちらに傾いた。

それを最大に活かすため、先陣を切って切り込む剣に、僕は必死に食らいついていた。

士気が高まるとはいえ指揮官自らが先頭に立つなど、時代が朔行しているような気にさせられる。

部隊のなか最速の二刀を振るう、その背中をただ追いかけて、割り込まんとする槍や剣の(きっさき)

果ては銃弾までを、まるで彼女のように無我夢中に刃で斬って捨てる。

こんな真似、もう二度とは出来ぬのだろうな、などと他人ごとのように考えながら。

 

そして、ついにただひとつを残すばかりとなった陣地。

己が敵を討たんとするイグセムと、彼女を守らんとする彼。

幾度も轡を並べ背中を預けた戦友を切らんと覚悟した両陣営の兵士たち。

ここに、最後の激突を開始した。

 

 

 

彼が用意したいくつもの防塁を、全身を朱に染めた修羅が打ち砕く。

いくつ乗り越えたか、戦場にふと静寂が走る。視線を感じ、見上げれば彼の姿。

それは、挑戦状であった。

 

「敵将確認――、突撃。」

 

言葉少なに告げて、刹那。ヤトリを失った、ただのイグセムは過去を振り切るかのように奔った。

矢払いの秘技を惜しみなく振るうその前に、風銃兵は障害とはなりえない。

他の兵たちが修羅に続かんと意気高に駆けるなか、僕だけが剣に遅れまいとして走った。

少女の腕は知っている。兵たちの信頼通り、正面からの銃弾など当たるまい。

それでも、必死に背につき、懸命に足を動かす。

それは、これまでの経験が導いた結論に従ったものだ。

すなわち「気配を持たない射手に対しては矢払いが不可能」であること。

 

もちろん、かの炎髮の少女から気配を隠すなどどんな手練でも難しい。

それこそ、ただそのことだけに武をみがいた暗殺者でも分が悪い。

しかし、僕はその難行を果たす部隊があることを知っていた。

「銃撃のレミオン」の末が率いる、「狙撃兵」と呼ばれる部隊。

視線すら感じられぬ遠方より頭蓋を射抜く死神の群れ。

その部隊が、この戦局に未だ姿を見せていない。

備えがなかったにしても、牽制の一つは撃つであろうこの局面で。

つまり、修羅が百歩に迫るこの状況で、彼はまだ何かを残しているのだろう。

なればこそ、この身は炎髮の背中より離れる訳にはいかない。

少女の視界の通らぬその背を、身を通す(・・)ことで守る。この役目こそ、僕の宿命なのだと信じて。

 

 

 

やがて、左右を遮る岩場が途切れて。

部隊の大半を置き去りにしたまま。

岩壁を背にした彼と、僕を牽いた(イグセム)は、対峙していた。

疾走の最中であり、剣戟の響きが騒然としていたが、それでもこれは対峙だろう。

彼の、気の抜けた声が耳朶を打つ。

それを聞いてか知らずか、伝説の二刀が奔った。

このひと振りにて、頸と戦乱を断たんとして。

 

 

 

―――炸裂音。

 

 

 

背後で見ていたはずの僕も、目を疑った。

今の銃声は、彼の背にした岩壁から響いた。

岩の中(・・・)から響いたのだ。

狙撃兵の存在を知ったうえでこの状況では、当然彼の背後の岩壁、その上に潜むことを警戒する。

また、その通りにしていたのなら、払われたであろう弾丸。

それが、岩から放たれようとは夢にも思わない。

岩壁への警戒すら逆手に取り、カモフラージュした狙撃兵を潜ませたのだろう。

 

しかし、その銃弾は命中しながらも一滴の血も流さない。おそらく、彼は信じたのだ。

正面から敗北を突きつけたのならば、彼女(・・)はきっと戦を止める。その、二刀の誇りにかけて。

勝者であるはずの少年は、しかしそのことを誇らず、少女に伺いを立てる。

 

「これで、君に勝ったといえるだろうか」、と。

 

 

 

 

 

 

 

立ち尽くす少女は、ふと視線を上げ――――地を蹴った。

その動きに追随できたのは、まさに奇跡と言っていい。

ただ、ひとつ理由を上げるとするなら、この場できっと、僕だけが少女の姿のみ(・・・)を見ていたから。

戦況を気にした狙撃兵たちでも、(イグセム)を通して彼女(ヤトリ)を想った彼でもなく、僕だけが。

 

 

 

 

そして、幕引きはあっけなく訪れて。

彼女は、その身に血まみれの銃弾を受けた。

 

――僕の、血に濡れた銃弾。

 

彼の盾にならんとしたヤトリシノは、彼を退けて、立った。

その彼女に向き合うように、僕が立った。

それだけだ。

 

 

 

 

彼女の名を叫ぶ彼と、僕の名前を途切れ途切れに呟く彼女。

あぁ、今このときだけは、彼女の視線は僕だけのものだ、と。

ひとときの満足感に身を委ねて。

 

同時に未来の彼女が見られないことに、一握りの痛痒を感じて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

どさり。

 

 

 

 

 

 




あとがき

これにて完結、でございます。
慣れない執筆作業ですので、見苦しい点がいくつもあったとは思いますが、まずは読了ありがとうございました。

最後の方で彼、原作主人公のイクタ君が「僕」をいないように扱っているのは純粋に見えなかったために状況が理解できていなかったからです。ヤトリに引き倒されて、そこから振り向いたときまで「僕」君がヤトリに隠れていたせいですね。あと、原作通りに彼はヤトリにぞっこんなので彼女が心配すぎて目に入りませんでした。
作者もイクタ君は大好きです。ヤトリが大好きなところとか、特に。

一応裏設定として、イクタ君と「僕」君は(模擬演習のあとからは)それなりに親しいです。
イクタ君の副官のスーヤちゃんと副官同士で仲良くなり、ヤトリにも基本くっついているため、
接する機会は結構あったかと。
一応、ヤトリ視点、イクタ視点でのラストシーンとエピローグも考えてはいますが、
蛇足になりそうなのでカット。要望があれば別に公開しようと思います。

お気付きの点や、酷評であっても感想は頂けると真摯に受け止めたいと思っておりますので、
ぜひぜひお願いいたします。
また、誤字脱字に関しては報告をいただければ即座に修正いたします。
こちらも感想欄にお願いいたします。

それでは、最後まで閲覧ありがとうございました。この作品を読んでくださったあなたが、もっと「アルデラミン」を好きになれますように。


                              2015年11月某日 馬の人。




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