Ciao!~大空の少年と憤怒の青年と黄のアルコバレーノの物語~ 作:cibetkato
「見せてやるよ、俺の新しい技を」
ツナの言葉にXANXUSは照準を合わせた二丁拳銃に炎を込め始める。
「死ぬ気の零地点突破・改」
「・・・喰らえ!これが、俺の全力だ!!」
XANXUSの放った一撃は完全にツナにヒットした。
爆音と土煙。その中で炎の球体が出来上がり、次第に集束していく。そして後に残ったのは目を閉じてその場に倒れているツナ。
「ツナ・・・ッ!」
家光がモニターを凝視する。息子を信じていないわけではない。
だが、万が一にでもツナを失うようなことがあったら。そう思うといてもたってもいられなかった。
「親方様!!」
バジルの声にハッとする。
あと少しで観覧席の外に出るところだったのだ。無意識に動いていたらしい。
「落ち着け、家光。・・・よく見てろ」
リボーンの言葉に家光はのろのろとモニターを見上げる。
XANXUSの警戒は解かれていなかった。むしろ今まで以上に警戒をしていた。
倒れているツナから距離を置くように後退る彼に、スクアーロが訝しげにその名を呟く。
「・・・XANXUS・・・?」
「ツナの本気が見られるぞ」
リボーンがニヤリと笑ったその時だった。
カッ!とツナの目が見開かれ、額に灯る炎が大きく揺れ、拳に宿された炎が勢いを増す。
「・・・成功だな」
ニ、と笑ったリボーンにその場にいる全員の説明を求めるような視線を向けられる。
「どういうことだ?・・・コラ!」
コロネロが代表するように問えば、リボーンは口の端を上げた。
「アイツの目指していた“零地点突破・改”は、相手の力を拒絶するんじゃなく、相手の力を受け入れ自分の力に還元することだ。・・・まさに大空の持つ性質そのままにな」
「全てに染まり・・・全てを包容する、大空」
家光が呟く。
己の知るツナはいつもドジで、ちょっぴり後ろ向きで気の弱い。そんな子どもだった。それがこのように化けるとは誰が思っただろう。
親として何も知らなかった自分を恥じた。それと同時にツナの本質を見抜いたリボーンに感謝の気持ちが湧きあがる。
「・・・家光、感謝されるいわれもねぇ」
どうやら読心術で読んだらしい。リボーンの不機嫌な声が響く。
「リボーン?」
「実質、俺がツナの傍にいたのはここ半年程だ。それまでツナは周りとは違う自分を隠し、XANXUSとの約束を支えに自分の精神を保ってきたんだ」
その答えに家光はその時のことを思い出した。
「ああ、あのボンゴレ主催のパーティーの時の・・・あの約束か」
家光の呟きにリボーンは視線をあげた。
「・・・お前も知ってたのか」
「ああ。その場にいたのは・・・俺と奈々と9代目、で、当人同士だな。ツナが帰りたくないと珍しくごねてなぁ。XANXUSがまた今度遊んでやるってそう言って、なだめたんだ。
いや、あの時はXANXUSがあんなに子どもの扱いに長けていると思ってもいなかったから驚いたな・・・実際は違ったんだろうが」
XANXUSやツナの今までの発言からしても、ツナはただごねたわけではなく、そしてXANXUSもただ子どもをあやしたわけではなかったのだと知れる。
当人同士にしかわからない“何か”が互いに支えとなっていたなら、その間にたとえ親子だろうと家庭教師だろうと、他人が割り込む隙間など無いのかもしれない。
全力をぶつけあうツナとXANXUSの力の差がドンドンと開き始める。
無尽蔵にXANXUSの力を吸収できるわけではないが、XANXUSの気力を殺ぐには充分な威力を発揮した“零地点突破・改”。
それを上回るためにはツナを本気で殺すくらいの力を出さなければならない。
自分にそれが出来るか?とXANXUSは自問し、答えを得る。
「・・・俺は」
ゴトッ、ゴトッ、と二丁拳銃を取り落とすXANXUS。それはまるで闘いを諦めたかのように見えた。
だがツナが重心を低くして身構えるのを見た観覧席の面々は、闘いがまだ続くことを理解した。
「ウォオオオッ!!!」
雄叫びをあげたXANXUSが真っ直ぐにツナに突っ込んでいく。対するツナも歯を食いしばってXANXUSを受け止めた。
「・・・くッ!!」
「さぁ、力比べだ・・・ツナ!」
最大出力の己の炎を確実にツナに当てるためには二丁拳銃はむしろ邪魔だった。ガッチリと手を組んだ2人が同時に炎をその手に宿し始める。
互いに全力。そうでなければどちらかの手がその圧に負けて吹き飛ぶ。退くことは許されない。
限界ギリギリのところで2人の力が共鳴した。凄まじい閃光が放たれ一同は視界を灼かれる。
「・・・つ、ツナ」
家光がモニターを見つめて青褪める。
「・・・沢田殿・・・!」
「どうなったんだ、一体・・・」
「・・・ッ」
呆然とモニターを見やる面々。だからスクアーロが目を見開き、低く呟いた言葉を聞き取れたのはリボーンだけだった。
(あの時と一緒?・・・ゆりかごのことか・・・?)
リボーンはスクアーロの表情を盗み見る。
怪我のせいだけではないだろう青ざめた顔。XANXUSが負けることを恐れているようなその表情。ツナの言う通りスクアーロはXANXUSについて“知りすぎて”しまったのだろう。
「・・・見ろ!煙が晴れていくぞ」
コロネロの声にリボーンは視線をモニターへと戻した。
モニターに映ったのは拳が氷漬けになったXANXUS。リボーンはそこにツナの迷いを感じた。
スクアーロが危惧した通り、XANXUSを全身氷漬けにすることも今のツナならば可能だったはずだ。なのにツナはそうしなかった。
「・・・ツナの奴、XANXUSの覚悟に気圧されてやがる」
リボーンの呟きに皆の視線がリボーンに向く。だがその言葉の意味がわかっているのは半数もいない。
そして、ツナはというとXANXUSの強い意志を持った視線に、戸惑いを感じていた。
「・・・まだ、やるっていうのか?」
「ああ、そうだ。・・・俺は“まだ戦える”ぞツナ」
ゆらりと立ち上がったXANXUSは、おもむろに氷漬けになった拳を太腿に叩きつけ始めた。
激しい音と共に決して熱で溶けることのない氷の砕けた破片が地面に落ちる。
「・・・っ・・・XANXUS・・・!」
無茶をするXANXUSに、ツナは血の気が引く思いをする。
「俺は!!・・・まだ、戦える!!」
凄まじい気迫。
XANXUSの覚悟を目の当たりにしたツナは息を呑み、そして目を閉じて深く息を吐いた。
「・・・わかった。終わりにしよう、XANXUS」
静かに言ったツナのその言葉に、XANXUSは満足そうに笑む。
「行くぞ」
ツナはXANXUSの紅い瞳を真っ直ぐに見つめて、その手でXANXUSの両腕を掴んだ。
ピキッ・・・ビキビキビキッッ!
零地点突破First Edition、XANXUSの全身を氷が覆っていく。
「やめろぉおおお!!」
観覧席にいたスクアーロが叫ぶ。
それは紛れもなく、8年前の再現となった。
完全に凍りついたXANXUSにツナは身体の震えが止まらなかった。大切な人をこの手で冷凍仮死状態にしてしまった。そう思ったら身体中から力が抜けた。
弾け飛んできたXANXUSの大空のハーフボンゴレリングを手に、ツナはその場にへたりこんだ。
「XANXUS・・・これが・・・テメェの」
「・・・ツナ」
勝ったという喜びでわきあがる観覧席の中、スクアーロとリボーンだけは神妙な顔つきをしていた。
が、その時、呆然とXANXUSを見つめていたツナの手から、大空のボンゴレリングが弾かれる。
「!」
ハッとしたツナの目の前に立ったのは全てのリングを手にした、ベルフェゴールとマーモン。
「シシシ・・・忘れてんじゃねーよ。これは団体戦だぜ?」
「これで、リングは全て僕達のモノだ」
2人を見つめツナは眉を顰めた。XANXUSは零地点突破で凍りついた。全てがマイナス方向に作用するその氷を溶かすことはできない。なのにこの2人の余裕な態度は何なのだ。
そこまで考えてツナはハッとした。XANXUSがその身に零地点突破を受けるのは2度目。
8年間の後、その氷のゆりかごからXANXUSを目覚めさせた方法を、もしこの2人が知っているとしたら。
「・・・どう、やって」
呻くように訊ねたツナに、マーモンが7つのリングを見せる。
「9代目によって凍らされ、総本部の地下に厳重に封じられたボスを救った方法・・・それはね、このボンゴレリングさ」
「!」
「リング自身に秘められた力があることには気付いていたんだろう?・・・どうやらお前の超直感は初代以上の精度を持っているようだからね」
マーモンの言葉にツナは視線を落とす。
指摘された通り、ボンゴレリングがただの継承の証ではないことは気付いていた。そしてその力によってXANXUSが9代目の零地点突破から解放されたことも。
「ボスが救い出された場所、その床には7つの焦げ跡が残っていたそうだよ。誰がやったかは定かではないが、その経過は1つの仮説を立てるのには充分だ」
マーモンの言葉にチェルベッロ達が表情をなくす。そして、彼の掌の上でボンゴレリングが徐々にその力に目覚め出し、それぞれの属性の色の炎を発し始める。
「思った通りだ。・・・見るがいい、これがボンゴレリングの力だ!」
マーモンはそう言って氷漬けになっているXANXUSに向き直る。
「・・・ボスのお目覚めだ!」
勢いよく燃え上がったリングの炎が、零地点突破の氷を溶かし始める。
「事情を伏せていたことが仇になったみてぇだな、XANXUS」
呟いたリボーンに、スクアーロが視線を向ける。
「・・・てめぇ、随分と事情通じゃねぇか・・・あのガキから聞いてたのか?」
「ああ。肝心なところは聞いてねェが、大体は聞いてる。・・・スクアーロおめぇは喜ばねぇのか?XANXUSが復活するんだぞ」
「わかってんだろ?・・・それはXANXUSは望んじゃいねェ。違うか?約束ってのはあのガキに自分の身を捧げることなんじゃねェのか?」
スクアーロ自身が今までのXANXUSやツナの発言から辿りついた結論だった。それはあながち間違っていない。
「まぁ、間違っちゃいねェ。・・・だがな、あいつらの約束はもっと単純なもんだった。ただ本気で闘うってことだけだ」
「・・・じゃあ、XANXUSは」
「おめぇも知ってるあの事実のせいで、約束そのものが果たせないとわかって歪んじまったんだろうな・・・」
リボーンの言葉に、スクアーロは息を呑んだ。
「ああ、言っておくがXANXUSのヒミツのこと、ツナは俺にしか話してねぇぞ」
スクアーロの心にわずかにうかんだツナへの不信に気付いたリボーンのフォローに、スクアーロは苦笑をうかべた。
「わかってる。あのガキはXANXUSを大切に思ってやがる。XANXUSを貶めるようなことはしねぇだろうよ」
スクアーロはリング戦が始まる少し前に真夜中の公園で会ったツナの言葉を思い出していた。
「この戦いはどうやってもXANXUSが負けるように計画されてやがる。・・・リングはXANXUSを認めねェ。
そもそも、ボンゴレのボスの継承は格式とか伝統とかそんなもんの為に血統を重んじてるんじゃねェ。・・・リングが血を継ぐ者しか認めねーんだ」
リボーンの言葉に、スクアーロは眉根を寄せた。
「・・・炎ではなく、血か」
「そうだ。ボンゴレの象徴は炎だが、一番重んじられるのは、血だ」
スクアーロはモニターへと視線をあげた。
丁度、零地点突破の氷がリングの発する炎によって溶かされ、XANXUSがその戒めから解かれたところだった。
「自棄を・・・起こしてくれるなよ、ボス」
スクアーロは祈りにも似た呟きをこぼした。