簪とのありふれた日常とその周辺   作:シート

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簪と夏の終わりを

 

「あ、後どの……ぐらい?」

 

 後少し。

 声をかけへばる簪を隣で支えながら、日陰の下をゆっくり歩く昼下がり。

 目的の店は見えてきた。もう少しの辛抱。

 

「う、うん……」

 

 簪を連れ、店の中に入る。

 そして席に案内され、ようやく席につけた。

 

「はぁ……疲れた……」

 

 椅子の背もたれに凭れながら、簪は汗をぬぐい一息つく。

 暑い中、歩かせ過ぎてしまったかもしれない。

 

「ううん、そんなことない。ただ涼しくなったって言われてても昼間こうも暑いとね……ん、はぅ」

 

 同じように俺も水を一口飲んで一息つく。

 もう夏の終わり。所謂、残暑の時期で朝方や午前は以前と比べて大分涼しくなった。

 しかし、それでも昼間はまだまだ暑い。今だって30℃ちょっとある。

 買い物疲れもあって、疲労は一入だろう。

 

「買い物楽しかったけど疲れた。本当、近くにお店あってよかった……あ、注文しよ」

 

 メニューを開き、一緒になって見る。

 入った店は喫茶店。休むのにはうってつけの場所だ。

 

「かき氷か……」

 

 夏らしくかき氷が一押しされている。

 種類は様々。定番のいちご味やレモン味などがあれば、コーヒー味やチョコレード味などの変わった味もある。中でもイチオシされているのが……。

 

「ブルーハワイ……確か、舌が青くなる奴だよね」

 

 そうだったはず。

 イチオシとだけあって飲み物と合わせて頼むと他のと合わせて頼むよりも安くなってお得だ。

 気になってるなら頼めばいい。

 

「そうしよっかな……そっちは何頼む?」

 

 抹茶味を頼もうかと考えているところ。

 ブルーハワイ、どんなのか俺も気になっているから少し食べさせてほしいが。

 

「いいよ。というか、私が好きなのわざわざありがと」

 

 感謝されてしまった。

 たまたま今日は抹茶味を食べたい気分だっただけのことなのに。

 

「ふふっ、そういうことにしといてあげる」

 

 腑に落ちないものがあるが早速注文をした。

 待つ事数分、目の前に運ばれたそれぞれのかき氷。

 

「わぁぁ……真っ青だ」

 

 素の声でその感想は卑怯だ。

 思わず、吹きそうになった。

 ブルーハワイなんだから青色でなかったらそれはそれでいろいろ問題だろう。

 

「それはそうなんだけどね……っと、食べよ食べよ」

 

 簪がスプーンを手に持つ。

 溶けないうちに食べてしまおう。

 二人でいただきますを言ってから、食べ始めた。

 

「ん……ん~ッ、冷たいっ。そして、美味しい」

 

 美味しそうに頬を綻ばす。

 美味い。冷たさが暑くなった体に染みる。

 そう言えばブルーハワイ、味はどうなんだろう? モノによって多少なりと味が違うと聞いたことがある。

 

「ラムネ風……なのかな。はい」

 

 一口掬ったスープンを向けられ、食べる。

 確かにラムネ風だ。以前食べたのがどんなのだったか思い出せないけど、これはこれでアリだ。

 後、舌が。

 

「ん、どう? 青い?」

 

 簪は遠慮気味にチロリと舌を出す。

 案の定、舌は青い。綺麗な青さ。

 

「?」

 

 記念に写真を一枚撮った。

 

「ちょっ、何で撮るの」

 

 何でと聞かれても記念にとしか。

 スマホに画面にはチロリと舌を出すきょとんした顔をした簪。綺麗に撮れてる。可愛らしい一枚だ。

 

「可愛らしいって……確かに綺麗に撮れてるけど。じゃあ、私も。ん」

 

 明確な言葉ないものの、舌を出すように催促される。

 自分だけ撮っておいて撮らせないのは筋が通らない。なので大人しく催促された通りにする。

 そして、一枚。

 

「ん……上手く撮れた。ほら」

 

 満足げな顔をして簪は自分のスマホを見せてくる。

 そこには何とも間抜けな顔して青くなった舌を出している自分の姿が映る。

 俺だとここまで絵にならないのか。

 

「そう……? 可愛いのにな……ふふっ」

 

 なら含みのある笑いは一体なんだというのだ。

 

「違うってば……いかにもな写真撮り合ってるのが本当いかにもだなって思ったらおかしくて」

 

 はぐらかして言っているけども簪が言いたいことは分かった。

 言われてみれば、確かにそうだ。いかにも馬鹿ップルっぽい。

 

「もう、折角言わないでおいたのに。でもまあ……今更だけど」

 

 二人で見れるよう簪は自分のスマホを机の真ん中に置いて画面をスライドする。

 

「今年もいっぱい撮ったね」

 

 すると移り変わるこの夏いろいろなところでいろいろと撮った写真の数々。

 流石にあからさまなのはないけど、二人で写る写真は簪が言うところのいかにもな写真。

 今年は夏らしいところに出かけたのは少なかったが、その分撮った写真はいつもより多く撮った。

 なので、簪も度々撮っていたのは知っていたが、こんなのまで撮っていたのかという写真まである。

 正直、消してほしいのがチラホラと。

 

「えーやだ。折角夏の思い出なのに……あっ、これとかいい感じでしょ」

 

 他にも出てくる写真。

 まあ、門外不出にしてくれればいいか。

 

「ふふっ」

 

 写真を見る簪はしみじみ笑う。

 そんなおもしろい写真でもあったのか。

 

「そうじゃなくて、こうやって写真見てると夏終わるんだなって思ったらつい」

 

 確かにそうだ。

 しみじみと夏の終わりを感じる。

 まあ、こうして夏の終わりに撮った写真見返して懐かしむのは毎年のことだけど。

 

「もう毎年のお約束になってるよね。でも本当、今年の夏も楽しかった」

 

 満足げに頬を綻ばせ簪はかき氷を一口。

 頷いて同意し、こちらもまたかき氷を一口。

 

「んーっ、キーンってする」

 

 同じ言葉が重なり、二人揃ってアイスクリーム頭痛を味わう。

 夏は確かに過ぎていく。

 そんな夏の終わり。

 




今回もまた簪の相手である男性はオリ主です。決して一夏ではありません。
もしかすると、主人公は簪が好きなこれを読んでいる貴方かもしれません

それでは
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