飲み物を飲みにリビングに行くと、そこに簪の姿があった。
てっきり自分の部屋にいるとばかり思っていた。
「ふふっ」
ソファーの上で仰向けになりながら、簪はタブレットを眺めている。
そして、何やら笑っていた。懐かしむようなそんな笑み。
何を見ているんだろうか。
気になって、飲み物を飲んだ後、簪に声をかけてみた。
「ああ、これ……? データ整理してたら昔の写真見つけて」
納得した。
だから、あんな懐かしむ顔をしていたのか。
「私そんな顔してたんだ……まあ、どれも本当に懐かしいから。あっ……そうだ」
簪は何か思いついた顔になる。
「どうせ暇でしょ……だったら、一緒に見よ……? 隣、座って」
身体を起こすと空いた隣を軽く叩いて手招きしてくる。
言い方はアレだが、暇なのは事実。
どんな写真があるのか気になるので、言われた通り簪の隣へと腰を下ろした。
「ほら、見て見て」
簪の指のスライドに合わせて、画面に代わる代わる写真が映し出される。
まずは最近の写真達がずらり。最近の力作料理やスイーツ。デート先で撮った景色やそこで二人一緒に写る写真など様々だ。
「わぁ……懐かしい」
懐かしいと言えば、懐かしい。
まあ、最近のモノも結構あるが……最近のだけでも結構な写真の数がある。
「小さい頃はそうでもなかったけど……付き合うようになってから写真撮るようになったからね。いいでしょ……こうやって見返せるのも」
それはそうだ。
こうして見返していると撮った日の出来事をより鮮明に思い出せる。
「あっ……ここっ。よかったよね、ほら……――」
こんな風に思い出話に花が咲く。
思い出話に盛り上がりながらも、まだまだ写真を漁っているとこれまた懐かしいのが見つかった。
「これ……現役最後に出たモンド・グロッソの。こっちはロシアで行われた格闘技部門のだったけ」
画面に映るのは簪が今まで出た大会での活躍を収めたもの。
モンド・グロッソを初め、現役時代に簪が出た大会や試合は多い。モンド・グロッソだけでも三回にもなる。
「それは皆も同じだったけどね」
大会三回連続出場はオルコットや凰、楯無さん。昔馴染みの連中もだったな。
というか、毎回顔ぶれはほとんど変わらなかった。それでもそれぞれの人気が凄くて毎回凄い盛り上がりだったが。
「こうして見てると凄い量の写真だね」
なんだその含みのある言い方と温かい視線は。
まあ、言わんとしてることは分かるが。
この写真達は参加している簪をサポートする公式チームとして撮ったものとは別に俺が個人的に撮った。
どの大会、どの試合も簪の試合姿は惚れ惚れするほどよかったのだからこの量にもなる。どれも我ながら上手く撮れているし。
「自分でそれ言っちゃうんだ……実際、上手く撮れてるからいいけど」
と言って簪は続けてこうも言ってくれた。
「それに仕事のもだけどこうやって上手に撮ってもらえるの嬉しい。撮ってくれたのがあなたなら尚更」
なら頑張った甲斐がある。
これからも頑張ってみるか。そんな気持ちになった。
「これからも写真よろしくね」
その言葉に頷いてみせた。
しかし、こうして見ていると本当に懐かしいのばかりだ。
特にこれなんて懐かしい。
「うわっ、古い……これ第三回目のでしょ。やめてよもう」
言い方。それに嫌そうな顔までして。
第三回目はIS学園在学中に出場した簪初めてのモンド・グロッソ。
数年前のことになるか。今と変わらず若い。
「そう……? 自分だと幼い感じしかしないけど……やっぱり、学生時代の写真は幼過ぎて恥ずかしい」
分からんでもない。
最近のものならまだしても、ここまで昔になると自分の若さとか幼さとかが堅調に見るだろうし。
だからこそ、この時……簪がモンド・グロッソ初出場した時のことはよく覚えてる。
「私も。というか、忘れられないよ。初めてだったからね……結果は三位入賞だったけど」
自虐気味に言うがそれでも初出場で三位はメダル入手もの。
充分凄い結果だ。
後確か、この時の優勝者は楯無さんだった。
「というか、何度も言っちゃうけど本当私が一回だけじゃなくて何度もモンド・グロッソ出るなんて昔だったら想像すらしなかったな」
この言葉は今まで何度も聞いた。
それだけ簪にとってモンド・グロッソ連続出場は予想外なことだったんだろう。
実際、連続出場を果たしているのは今のところ簪達の世代ぐらいなもの。それだけ国家代表は入れ替わり頻度が多く、何年も代表候補で在り続けた簪達の実力は絶対的と言ってもいいほどだった。
「学生時代だとやっぱりIS学園が一番覚えてる……」
それは俺も同じだ。
大学時代は競技生活と更識家のことがメインでその合間に大学という感じだったので、大学は最低限行くだけだったから大学生活って印象は薄かった。
反対にIS学園は三年間の寮生活。濃い面々と過ごした濃密な日々。そして、簪と出会えた大切な思い出。忘れられるわけがない。
「それはそうだね。昨日のことのように思い出せる出会った頃のこと……ふふっ」
簪は懐かしむように笑った。
一年の春に簪と出会い、簪と過ごす時間が増え、夏休みの出来事。たった一瞬でこんなにも思い出せる。本当いろいろあった。
出会った頃の簪もまた懐かしい。話しかけるなオーラが凄く、近寄りがたい冷たい印象が強かった。
「もう、からかわないで。あぁ……改めて言われると黒歴史感強くなってくる」
蹲ってしまった。
もっとも、初対面な上にあの頃の簪はいろいろと抱え込んでしまっていたから当然と言えば当然か。
「……まあ、あの頃があったからこそ私は変わることが出来て今の私になれた。嫌な思い出ではあるけどあれも私。欠かせないことだよね」
その通りだ。
楽しい思い出ばかりでなく嫌な思い出も確かにあるが、どちらもあったからこそ今がある。
何一つ欠かせないものだ。
「あっ! 欠かせないと言えば……」
何か思い出した顔をする簪。
心なしか口元が笑っている。
「夏休み最後に行った初デート……そして告白。これは欠かせない」
言われて曖昧な反応をするしかなかった。
忘れたわけじゃない。しっかり覚えている。嫌な記憶と言うわけでもないが、今になっても……いや、今だからこそ恥ずかしさの方が強い。
「そういうもの……? 初デートのプランを一生懸命考えてくれて、一生懸命エスコートしてもらって、顔真っ赤にしながら告白してくれたの凄く嬉しかったよ」
そう言われてしまうと今更恥ずかしがってもいられない。
写真から今までのこといろいろ振り返っているが、様々なことが沢山積み重なっているから地に足つけて先へと進んで行ける。
「これからもいっぱい思い出、作っていこうね。悲しいことも嬉しいことも積み重ねながら二人一緒に」
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