簪とのありふれた日常とその周辺   作:シート

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簪とこたつ

 年明けからもう数日。

 毎年恒例の年始行事を終え、ようやく正月らしい平穏な時間を過ごせている。

 だからか。

 

「はぁ~……」

 

 溶けてる。

 こたつに肩まで入っている簪は、目を閉じて見事なまでにだらけきっている。

 家ぐらい好きにしたらいいが、こたつで寝たら風邪ひくぞ。

 

「ん~大丈夫……目を瞑ってるだけだから」

 

 一緒なのでは。

 まあ、いい。簪の真向かいへと同じようこたつに入る。

 

「洗い物ありがとう」

 

 体を起こしながら、簪がそんなことを言う。

 つい先ほどまで洗い物をしていた。

 簪が朝ごはん担当で俺が洗い物担当なので。

 

「あ……お茶。持ってきたくれたんだ」

 

 簪が見つけたのは持ってきた熱いお茶の入った急須と二人分の湯飲み。

 

「お茶淹れるね」

 

 簪がお茶を入れてくれる。

 それを取ってようやく一息つく。

 

「落ち着く……」

 

 同じようにお茶を飲んだ簪は、一息ついてまた溶けてる。

 この様子だとしばらくこのままか。

 

「今日はもうずっとこたつにいる。こたつと結婚したから」

 

 へにゃへゃした声。また変なことを言って。

 でも、こたつの魔力は凄まじい。

 出たくないという気持ちにされられてしまう。

 

「でしょ……あなたも一緒にゆっくりしてよ。それが一番」

 

 追い打ちをかける小悪魔の誘惑。

 まあ、そうするかな。

 例年通り、年末から年明けは忙しい。明日からもう普段通りの日々が始まる。ゆっくりしていられるのも今のうちだ。

 

「はふぅ……のどか」

 

 のどかな時が流れてゆく。

 そうだ、忘れていたものがあった。

 

「ん……?」

 

 ふと立ち上がり、急須を持って台所に行く。

 お茶を入れ直し、あるものを取ってまたこたつへと帰ってきた。

 

「みかん」

 

 取ってきたのはみかんだった。

 

「あなたのご実家からもらった奴だよね……?」

 

 その言葉に頷きで答えた。

 このみかんは実家に帰省した時、もらったもの。

 なんでも上物らしい。

 楽しみだ。こたつと言えばみかんは外せない。

 

「定番だからね。はい、どうぞ」

 

 急須から湯飲みにまたお茶を注いでくれる。

 その間にみかんを剥く。

 

「はい、どうぞ」

 

 湯気の立ったお茶が目の前に置かれる。

 みかんが剥き終わり、とりあえず半分にした。

 そして実を一つ取る。

 

「んー……」

 

 取るなり、顔だけ少し乗り出して簪が口を小さく開ける。

 そのまま口の中へ放り込んでやった。

 

「ん、美味しい」

 

 向かいにいる簪は満足そうに頬を綻ばせる。

 俺も一つ食べてみたが甘くて美味い。

 その後に飲むお茶がまた一段と美味しく感じる。

 

「もう一個ちょうだい」

 

 そう言ってまた口を開けて待つ簪。

 わざわざこうするってことは食べさせろという合図に他ならない。

 しょうがない。また一つみかんの実を取って食べさせた。

 

「っ……ん」

 

 みかんを摘まんだ指の先が簪の唇に触れ、みかんを頬張ったと同時に指先をチロりと舐められた。

 得も言われぬ妙な感覚。喉が渇く。

 というか、舐めるんじゃない。

 

「いいでしょ……さっきよりも美味しくなった」

 

 くすくすと楽しそうに小さく笑う簪は何処か小悪魔的だった。

 

 二人で一つのみかんを食べ終えると、満足してまたまったりした時間に戻る。

 しかし、正月の昼間。おもしろい番組がやってなければ、興味を引くような目新しいSNSの更新もない。

 つまるところ。

 

「暇だね」

 

 簪と気持ちは同じみたいだ。

 しかし、暇と言ってもすることはもちろん、したいことも特にない。

 それどころかやっぱり、こたつから出たくない。夕飯を準備する時間になったらいずれは出ないといけないし、時間まで暇しつつぼーっとして……。

 

「……」

 

 ふいに簪と足が軽くぶつかった。

 たまたまたか。そう思ったが、また軽くぶつかった。

 今度はわざとだ。足先でつついてきたり、足を絡ませたりしてくる。

 

「……」

 

 しかし、簪はまるでそんなことないような顔をしている。

 おもしろくない。

 子供の挑発ではあるが、やられたままというのは性に合わない。

 

「……っ!?」

 

 再び足先でつついてきたところを上から足で抑え、捕まえる。

 流石のこれには驚いた顔をする簪。

 しかし、もう遅い。押さえた足の裏を足の指先でそっとなぞる。

 

「ひゃあっ!」

 

 とてもいい鳴き声が聞けた。

 してやったり。

 簪からは睨まれているが何のことやら。

 

「むぅ……」

 

 で、飛んでくる反撃。

 それに対する反撃。反撃の繰り返し。

 終わりのない本当に幼稚な争い。だからこそ、自分からはやめるにやめられず、変にヒートアップする。

 絡めようとした足が目標を見失いからぶり。そのまま行き過ぎてしまい簪の股の間に当たる。

 運がいいのか、悪いのか今日の簪の部屋は厚手のパーカーにショートスカート。

 その格好でそうなるとどうなる。

 

「あっ……」

 

 小さく声が上がった。

 まあ、こうなる。

 俺の気のせいかもしれないが、簪のさっきの声は妙に色っぽい。

 幼稚なことをして我に返ったからの恥ずかしさから来るものなのか。股の間に足が当たった恥ずかしさなのか、簪の顔はほんのりと赤い。

 

「……っ」

 

 照れた簪と目が合い、何とも言えない変な気分になる。

 場の空気は妙だ。

 そして、そして、そして――。

 




簪との馴れ初め
IS 〈インフィニット・ストラトス〉〜ここから、そしてこれから〜
を更新しています。1月8日の20時からまた毎日更新再開しますのでよろしければ、そちらも読んでいただけると幸いです
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