簪とのありふれた日常とその周辺   作:シート

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馴れ初め完結記念。
エピローグ的なの。


簪へ送る関白宣言

 前略。

 

 自分は同級生で四組の更識簪さんと付き合い始めた。

 八月三十一日からのことだ。

 生まれて初めての彼女。どうして冷静でいられようか。柄にもないほど浮かれている。

 だがしかし、浮かれてばかりもいられない。俺達の生活環境は特殊だ。寮生活な上に実質女子校。その中で男女交際を続けていくのは大変なことだろう。

 だからこそ、打算的だとは思うが地盤固めは重要。ということで、まず初めに簪としたことはまず第一に皆、一夏達友人達に付き合うことになった報告から。

 

「……」

 

「……」

 

 皆にロビーの談話スペース、そこの端の方に集まってもらった。

 そして、簪と俺を中心に皆で取り囲むような形になった。

 何だか取り調べ。いや、尋問を受けているみたいだ。

 

「……」

 

 あまりの圧に隣の簪は、両肩を縮めている。

 皆の気持ちは分かるし、ここに集まってもらったのは俺達なんだ。

 言えば済むし、手早く言ってみた。

 簪と付き合うことになったと。

 

「なりましたっ……」

 

 続いて簪も言うと再び訪れる沈黙。

 ただ皆の目は口ほどに物を言う。皆、目をキラキラと輝かせと報告を喜んでいる。それは次第に言葉にも出てきた。

 

「おおっ!」

 

「おめでとう!」

 

「よかったね!」

 

「わ~い! お赤飯炊いてお祝いしなきゃ~!」

 

 と言葉でも報告を喜んでくれた。

 こうして皆に喜んでもらい、祝ってもらえるのは中々どうして嬉しい。

 

「まさか、本当にこうやって報告してくれるなんてな」

 

 意外と言わんばかりの一夏の言葉に皆が頷く。

 そんなにか。

 

「だって、こういうのって普通隠すものじゃん?」

 

 まあ、それはそういうものなのかもしれない。

 言って回るようなことはしないけれど、それでも簪と付き合うことを隠すようなことはしたくない。

 それに皆にはそのうち気づかれたりするよりも、自分の口から言いたい。そのほうが安心できるというもの。

 

「あなたの言う通りだね。大切なことだからちゃんと自分の口で報告したかった。その、皆は……大事な友達、だから」

 

「かんちゃ~ん!」

 

「簪ー!」

 

「ちょっ!? 本音! 皆まで!」

 

 簪の言葉に喜び、感極まった本音と皆が簪を抱きしめていた。

 当然、簪は驚いていたがどこか嬉しそうだ。

 

「かんちゃんがそんなこと言ってくれるなんて嬉し過ぎだよ~!」

 

「うんうん! それだけ私達のこと信頼してくれてるってことでしょ!」

 

「嬉しくないわけないじゃない!」

 

「喜んでくれて私も嬉しいけど……これから迷惑かけるかもしれないから……」

 

「かんちゃんは気にしすぎだよ~」

 

「そうそう。その時はその時よ。何かあれば、助けるから!」

 

「だね。友達なんだからさ!」

 

「皆……本当にありがとう」

 

 嬉しそうな簪、皆の顔。

 本当、報告してよかった。

 

 皆への報告が終わったが、まだ報告は続く。

 次の相手は先生方。

 

「ことがことだもん……黙っていて問題視されたり、万が一何か問題になったりするよりも先に自分達から言っといたほうが心証は良いだろうからね」

 

 簪の言う通り、そういうことだ。

 なので担任であり、寮長である織斑先生と副担任の山田先生、簪のクラスである四組の担任の先生達に報告をした。

 

「それはまた……」

 

「え、ええ……何といいますか……」

 

 報告をすると困った様子で山田先生と四組の先生は驚いていた。

 この反応は言えば、当然と言えば当然か。

 いきなりこんなことを言われ、内容が内容だ。困らせてしまうのは分かっていた。

 しかし、それでも違う反応をする人が一人。織斑先生は、とても楽しそうに笑うのを堪えていた。

 

「くくくっ、いや、すまん。あまりにもらし過ぎてツボに入ってな。大方こいつの提案だろ? 更識」

 

「そ、それはそう、ですけど……」

 

「くくっ、やはりそうかそうか。本当に生真面目なお前はいい意味で予想を裏切らないから安心できる。くくっ」

 

 まだ堪えながら織斑先生は笑い続ける。

 褒められてるのか、これは。

 いや、これは褒める褒めないの問題ではない。

 単純に予想が当たったことを織斑先生は楽しんでいる。

 

「まあ、報告しに来てくれたのは私達教員としても助かるには助かる。ありがたい。お前達二人は立場が特殊なだけにな」

 

 その言葉に他の先生方も頷いていた。

 これは予想通り反応だった。

 織斑先生ならこう言うと思った。それにこの後に続く言葉もそう予想からは外れてないはず。

 

「だが、私の口からはお前達の仲を認めるとは言えない。これは私の一存ではどうにも言えないからな」

 

「はい」

 

「だが、だからといってお前達の仲を引き裂くつもりもない。まだ何も起こってないのにわざわざ恨みを買いに行くのも馬鹿らしいし、生徒の悲しむ顔は見たくない。ただ」

 

 一つ間を織斑先生。

 その口角は笑っていた。

 

「黙認するわけでは決してないが、さんざん笑わせた貰った礼だ。元ブリュンヒルデ、織斑千冬の名前の下に安心するといい」

 

「はいっ」

 

 嬉しそうな簪と一緒に頷いた。

 ただ黙認されるよりもこういった貰った方が安心度は高い。

 織斑先生の言葉に流石の山田先生たちも仕方ないと言わんばかりの顔をしている。

 

「無理を言っていますが、先生方もよろしいですか?」

 

「まあ、織斑先生がそういうのなら仕方ありませんね……異存はありません」

 

「私もです。ただ健全なお付き合い、慎重なお付き合いをお願いします。もしもの時は庇いきれませんから」

 

 山田先生の言葉に簪と静かに頷いた。

 それは勿論、分かっている。だが、今一度肝に銘じた。

 

「そういうことだ。上手くやれよ」

 

 それはこれからを進む俺達の背を押してくれる頼もしい言葉だった。

 

 学園、先生方へと報告も済んだ。

 となると最後は更識会長への報告だ。

 

「本当にするの……?」

 

 困った顔をする簪。

 皆、先生達と報告をしたのにお姉さんに報告してないのはよくないだろう。

 重要度だけを言えば、皆へ報告するのと同じぐらい大切だ。

 もしかして嫌なのか。

 

「それはない。ないけど……昨日の今日で報告をするのって……その、ね……」

 

 ねって言われても分からない。

 

「も、もうっ、は、恥ずかしい……のっ……」

 

 恥ずかしそうに顔を赤くしながらやけくそ気味に言われた。

 そういうもの……なのか。

 一夏達に言うと変わらないと思うが、実の姉だからなんだろうか。

 

「でも、お姉ちゃんにもちゃんと報告しておかないとね……よしっ」

 

 意気込むとスマホを取り出す。

 おそらく更識会長に連絡するつもりなんだろう。

 

「もしもし、お姉ちゃん。うん……私、簪……いきなり、電話してごめんなさい」

 

 簪は更識会長に電話をしていた。

 

「その……直接会って話ことがあって……うん、お姉ちゃんは今学園か寮にいる? そう……十五分。ううん、十分でいいから時間もらえない? 今から……? 分かった、行くね」

 

 そう言って簪はスマホを離す。

 終わったみたいだ。

 

「うん……今からお姉ちゃん、時間作ってくれるみたいだから生徒会室に来てだって」

 

 頷いて学園の方へと向かう。

 生徒会室にはすぐに着いた。

 ここには始めてきた。報告のことと合わさって、緊張は増す。

 

「私も……っ」

 

 簪の顔を見るだけで緊張しているのは見て取れる。

 先人をきって自分が生徒会室の扉をノックした。

 

「どうぞ」

 

 中から更識会長の声が聞こえ、中へと入った。

 

「いらっしゃい」

 

 出迎えてくれた更識会長は奥の席にかけていた。

 更識会長以外の人の姿、布仏先輩は見えない。更識会長ただ一人。

 

「虚ちゃんなら下がってもらったわ。大事な話があるみたいだからね……さ、かけて」

 

 言われるがまま、簪と更識会長に近い席へ腰を下ろす。

 ふと更識会長の机を見ると仕事をしていたと思わしき後がある。

 本当に忙しい人なんだろう。

 今だ緊張はするが貴重な時間を割いてもらっている。お礼を言ってから、簪と付き合うことになったことを報告した。

 

「彼と付き合うことになりました」

 

 緊張しながらも簪もはっきりと報告した。

 それを聞いて更識会長は嬉しそうに優しい笑みを浮かべて言う。

 

「そう……よかったわね、簪ちゃん。おめでとう……でいいのかしら」

 

「あ、ありがとう。それに時間割いてくれてありがとう。お姉ちゃんにもちゃんと自分の口で伝えたかったから嬉しい」

 

「大げさね……でも、嬉しいわ」

 

 更識会長にも喜んでもらうことが出来た。よかった。

 

「認める認めない云々は兎も角、事実として受け止めなくちゃならないわね」

 

 まるで更識会長は、自分に言い聞かせるように言う。

 そして、ふいに更識会長の視線が飛んできた。

 心なしか目が笑ってる。何だ。

 

「いや、ね。そうなると貴方は私の弟になると思って。丁度、弟欲しかったのよね」

 

「お、弟……?」

 

「妹の彼氏なんだから弟みたいなものでしょう」

 

 考えとしては分からなくないけど。

 

「今は比喩的な言い方だけど……将来的に貴方が更識家に婿入りすれば名実共にそうでしょう……?」

 

「ちょっ、ちょっとお姉ちゃん……!?」

 

 簪が顔を真っ赤にして驚いてる。

 更識会長の遠回しな言い方から想像したんだろう。

 相変わらず唐突な人だな。

 

「あら、簪ちゃん。もしかして……そんなつもりはないと」

 

「そ、そういうわけじゃないけど……お姉ちゃん気が早い」

 

「そんなことはないわ。更識家の女が男女交際をするってことは将来決まったようなものなのよ。ちゃんと将来のこと考えておきなさい」

 

「う、うん……将来、か……」

 

 突然そんなことを言われてもピンとは来ない様子の簪。

 簪が言われたとなると。

 

「貴方もよ。更識家の女と付き合って、将来のこと考えてないと。貴方の覚悟はそんなものなの」

 

 案の定、言われてしまった。今度は何故だが問い詰められる。

 急にそんなこと言われても流石にそこまで考えてはなかったが、そうだな。

 ゆくゆくは将来的なことはしっかり考えていかないと。覚悟は変わらないのだから。

 

「その顔なら心配無用ね。ということはやっぱ、弟になるわよね。これから本当に長い付き合いになるだろうし、末永くよろしくね。弟君!」

 

 喜々と弾む更識会長の声。

 また随分と変わった呼び方をするもんだ。

 

「可愛いくないかしら? 弟君って呼び方。弟君もいつまでも敬語使ってないでこうして身内の場ぐらいは楯無お姉ちゃんって呼んでくれていいわよ。っていうか、呼びなさい!」

 

「……ごめん」

 

 楽しそうな楯無会長に申し訳なさそうに小声で謝る簪。

 両極端な光景だ。

 でも、こういう光景はこれから何度も見ることになるんだろうな。末永い付き合いになるだろうから。

 

 ちなみに呼び方は楯無さん、楯無会長で許してもらった。

 楯無さんはめちゃくちゃ不服そうだったけど。

 

 

 

「はぁ~……」

 

 気どころか魂すら抜け出してそうな脱力感いっぱいの声を上げながら簪は部屋に床に座り込む。

 疲れた顔してる。お疲れ様だ。

 報告が終わった後もいろいろあったから仕方あるまい。

 

「本当いろいろありすぎ。デートのこと結局、ほぼ全部話すことになったし」

 

 思い出したくもない出来事だ。

 簪だけじゃなく俺まで二人一緒にデートで何をあったのか皆に話さなくちゃいけなくなった。

 本当に大事なところは言わなかったけど、改めて二人変える形で皆にどんなデートだったか言うのはかなり堪えた。

 

「お姉ちゃんまでいつの間にかいて死にたくなった」

 

 言葉はアレだけど気持ちは分かる。

 これでこれから長いこと更識会長に弄られるんだろう。

 本当いい顔してた。

 

 そうだ。

 簪の渡したいものを渡さないと。

 その為に簪を部屋に呼んだんだった。

 

「何々」

 

 簪がぐったりしていた体を正す。

 そんな簪の前に渡したいものを出した。

 

「カード……これって……!」

 

 簪は気づいたようだ。

 カードの形をしているがただのカードではない。

 これは部屋の鍵、カードキー。合鍵だ。

 

「い、いいの……?」

 

 恐る恐るといった様子の簪に俺は頷いて答えた。

 これはからは何かと部屋に呼ぶことも増えるだろう。逆に簪が来ることも。

 その時に部屋の鍵があればいろいろと便利なはず。

 後、合鍵を渡すというのは恋人関係になった証。信頼の印に他ならないと思っている。

 

「そっか……ありがとう。大切にするっ」

 

 そう言った簪は、嬉しそうにカードキーを握っていた。

 

 もう一つ、簪とこれから付き合っていくにあたって言っておきたいことがある。

 かなり厳しい話をするが、俺の話を聞いてほしい。

 

「う、うん。分かったけど……きゅ、急にどうしたの? 関白宣言みたい」

 

 言われて、あっとなる。

 そんなつもりはなかったが言われてみれば、関白宣言みたいだ。

 指摘されると恥ずかしくなってきた。

 というか、関白宣言知ってるんだな。

 

「小さい頃、お父様が好きでよく聞いてたから。それで」

 

 と、話がそれた。

 咳払いを一つ小さくして、切り替える。

 まず学園では恋人らしいことはしない。今まで通りでいることを心がけようということ。

 

「今まで通り……?」

 

 付き合うことになり、皆には喜んでもらえて、祝福はしてもらえたけども。

 親しくない人、上級生の人達とかは俺達の仲をよく思わないかもしれない。環境が環境なだけに。

 そんな人達が見ているかもしれないところで恋人らしいことをすれば、どうなるかは想像に難くない。

 見ず知らずの人達のことまで考えだしたらキリはないが、気を付けるにこしたことはない。だからこその心がけ。

 後はまあ、他人に見せるようなものでもないし、見られてもいいことはないだろう。

 

「確かに……うん、それはあなたの言う通りだね。後、私も恥ずかしいからね」

 

 そういうことだ。

 納得してくれてよかった。

 だだあくまでも心がけるだけで無理はしてほしくない。無理は心の毒だ。

 学園ではしないが部屋にいて今みたいに二人っきりの時は恋人らしいことをするというか。

 

「こ、恋人らしいことって……?」

 

 それ聞いてくるのか。

 漠然としすぎているというのは分かるが。

 例えば何だ。抱きしめ合ったり、くっついたりとか甘えたり、甘えられたりするということ。

 二人っきりの時ぐらいはそういうことを受け止められる度量はあるつもりだ。

 

「な、なるほど……ぁ、っ、ぅ……」

 

 目の前の簪は俯き加減にこちらの様子を何度も伺ってくる。

 付き合ってから……と言うより、長い付き合いになるから分かったことがあるが、簪は言いだせないことがあるとこんな風に見てくることがある。

 言葉では理解したが、実際にやってみないと分からないこともあるか。

 簪にこっちへ来るよう手招きした。

 

「う、うん……ひゃぅっ……!?」

 

 簪を両脇から抱き上げると膝の辺りに簪を前向きで乗せ、後ろから抱きしめた。

 何て言えばいいんだ。実際にするとこういう感じになる。

 

「何でやったあなたが照れるの。もう……でも、こういう事なんだ。いいね……悪くない。こういうことができる仲になったもんね」

 

 そう言って簪は、体をこちらへと預けてくれる。

 高まる密着度。

 落ち着く。そういう仲になったんだ。これからは好きなだけ触れ合える。

 

「うんっ! ……って結局、関白宣言じゃないね」

 

 また言う。

 はなっからそんなつもりじゃないといったのに。

 でもまあ、関白宣言をやるとすれば、これから大変なことはたくさんあるだろう。どちらか片方だけが苦労したりするんじゃなくて、二人手を取り合いながら乗り越えていきたい。

 そんな風に幸せは二人で育てていくものだろうから。

 

「そうだね……手を取り合いながら一緒に嬉しいことも悲しいことも」

 

 簪と手を重ね合う。

 

 一緒だからいい人生だってお互いが思えるように必ずするから

 忘れないでほしい。いつだって愛しているのは生涯簪ただお前ひとり。

 

「――ッ、あなたってそういうところずるい。私だって愛しているのは生涯あなたひとり」

 

 

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