簪とのありふれた日常とその周辺   作:シート

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一夏と本音が考えるこれから進む路

「やっぱ、皆進学なんだな」

 

「ん~? もしかしなくても進路調査のこと~?」

 

 ある用紙を眺めていると思わず出てしまった呟きに部屋で一緒に過ごしている恋人のほほんさんが反応してくれた。

 

「そうそう。超難関校ってだけあるな~と思ってさ」

 

 進路調査が配られた。

 もうそんな時期なんだな。

 就職を選ぶ子は話を聞いた限り誰一人いなかった。むしろ、就職なんて単語を聞くことすら稀。

 誰もが進学を選んでいる。理由は理解できるけど何だかな。

 

「働き始めるのは大学卒業してからで全然いいからね~」

 

「まあ、確かに……」

 

 就職先やそこの環境にもよるだろうけど、今でも大学卒業しといたほうがいいってのはどこでも聞くには聞く。

 それに大学に行きながら働いたり、バイトぐらいはできるだろう。またIS学園みたいなところに行ったら話は別だけど。

 

「う~ん、悩ましい……」

 

「おりむーは就職希望だったけ?」

 

「いや、半々かな。就職して千冬姉を楽させたいってのは変わらず思うんだけど、皆の話聞いてると就職するのは進学してからでもいいなとも思ってるけど……」

 

「お金のことで悩んでるとか~?」

 

「よく分かったな」

 

「おりむーのことなら何でもわかるよ」

 

 嬉しいような恥ずかしいような気分だ。

 

 別にお金に困ってるってわけじゃない。

 IS学園に来て、白式に乗っているおかげで、テストパイロット扱いになりその分の給料みたいなものは貰ってる。俺の知る限り、そこらのバイトよりも遥かに給料はいい。

 だけど、進学ってなるとまとまったお金が結構いる。貰った給料は貯金してるし、無駄遣いしてない。

 けど、まとまったお金ってほど貯まってもない。

 

「織斑先生にお金の苦労させたくないなら奨学金っていう選択肢があるよ」

 

「奨学金……!」

 

「もう忘れてた顔して~」

 

「ははっ、面目ない」

 

 言われて気づいたから笑ってごまかすしかない。

 奨学金なら確かに千冬姉にお金の苦労や心配をかけなくて済む。

 

「でも、そう簡単に借りれるものなのか? それって」

 

「う~ん、種類がたくさんあるから調べてみたいなことには。でも、おりむ~ならどこでも喜んで支援してくれると思うよ~」

 

「いいのか、それ」

 

「私はいいと思うよ~使えるものは使えばいいし、気になるなら後々恩返しすればいいしね」

 

「確かに一理ある」

 

 えり好みできるような立場じゃないしな。

 支援は兎も角、奨学金は選択肢として全然アリだ。

 

「でも、おりむーが進学も考えてるなんて何か意外~」

 

「そうか? まあ、いろいろ話聞いてるうちにそっちもアリだなって」

 

「なるほどね~何か進学先で勉強したいことあるの?」

 

「そうだな。まだちゃんと決まってないし、本当漠然としてるけど、もっと世界のことを勉強して、人と人を繋いで困っている人がいたら力なって助けられるようになりたい」

 

 俺が今まで見て知っていた世界は本当に小さくて。

 この学園に来て、ISに白式に乗るようになって、見える世界は大きく変わって広がった。

 まだまだ世界は広くて、俺の知らないことばかり。今まで俺は知ろうともしなかったけど、これからは沢山のことをもっと自分から知っていきたい。

 大切な皆が幸せにいられるように人と人を繋いで、困っている人がいれば力になって助けられるようになりたいと今でも思う。

 そして、そのことを現実として実際にやっていかないと意味がないことを親友、あいつから何度も沢山学んだ。

 だからこそ、進学をしたいって思ってる。

 

「言葉にすると何か気恥しいな。子供っぽいこと言ってるのは分かってるけどよ」

 

「ううん、そんなことはないよ。おりむーのその思い。とっても素敵だと思う。かっこいいよ」

 

「ありがとうな、のほほんさん」

 

 素直に褒められると照れくさいけど嬉しい。

 やっぱ、進学にしてみようかな。

 けど、そういう……。

 

「のほほんさんは進路どう……」

 

 聞きかけて、途中でやめた。

 皆と同じように進学だろうし、進学するならきっと更識さんと一緒で……。

 

「私も進学~おりむーさえ、よければおりむーと同じところに行きたい」

 

「え……俺は全然いいけど、更識さんとかその家のこととかはいいのか……?」

 

 のほほんさんの家が更識家に仕える代々続く従者の家系ってのは知ってる。

 てっきり、従者として更識さんと同じ学校に行くと思っていた。

 

 のほほんさんの予想外の返事に俺が戸惑っていると、のほほんさんはあっけらかんとしていつもと変わらずのほほんとした笑みを浮かべて言った。

 

「いいよ~家のことは大事だけど私、次女だから家継わけじゃないし、家のことはお姉ちゃんが継ぐってもう決まってるから。おりむーに着いていくってなら、家の人も納得してくれるだろうからね~それにかんちゃんには彼がいるし」

 

「まあ、確かに」

 

 更識さんにはあいつがいる。

 のほほさんとタイプ似てるからな、あいつ。こう陰で支える的な。

 あいつが更識さんの隣にいるのなら安心か。

 

「それに私の人生だもん。家がそういう家でも私のしたいことしたい。私がしたいことはおりむーを支えること。ほらおりむー、一人にすると突っ走りすぎちゃいそうだし、進学先で女の子落としちゃいそうで嫌だし」

 

「ひでぇ」

 

 勿論、重くとらえていた俺を和ますのほほんさん流の冗談なのは分かった。

 

「大好きな人が出来て、素敵な恋人関係になれて、今こうして大好きな人と一緒に居られるのに離れちゃうのは寂しくて嫌だよ。いつも傍に居たい。隣に居たい。離れるのは待つのは嫌。我が儘言ってるのは分かってる。おりむー、それでも私を連れて行ってほしい」

 

 そう言ってのほほんさんは俺に手を伸ばしてきた。

 

「私、こうみえても結構頑固なんだよ。この想いは譲れない。もし、ダメって言われても勝手に着いて行っちゃうから」

 

 いつもののほほんとした声だけど、目は真剣な強い目。

 のほほんさんの気持ちは揺るぎなく硬い。本物だ。

 そんなのほほんさんへの答えは一つ。俺は、その手を受け取った。

 

「ありがとう。俺に着いてきてくれって、のほほんさんっ」

 

「もちろんだよ、おりむーっ」

 

 折角、出会うことで出来て、好きになって、恋人して今一緒にいられているのに離れ離れになるのは寂しい。

 のほほさんは俺にたくさんのことを気づかせてくれたかけがえのない人。

 のほほんさんが隣にいてくれるのなら心強い。

 

「よしっ。じゃあ、とりあえず進路調査用紙に書いておくか」

 

「そうだね~」

 

 のほほんさんも用紙を取り出して、二人一緒に書いておく。

 

「書けた。書いたからには頑張らねぇとな!」

 

「頑張るぞ~!」

 

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