簪とのありふれた日常とその周辺   作:シート

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簪との海外ロケ。そして、懐かしき友人

「いいよ! いいよ! 最高よ! 更識さん!」

 

「……」

 

「その何とも言えないっていうアンニュイな表情が夕日に照らされたオランダの街並みによく映えてエモいわ! これは私史上最高の写真達! 売れるわ!」

 

 と言いながらカメラのシャッターを目にも止まらぬ速さで切る。

 この女性カメラマンとは長い付き合いになるが、いつにも増してテンションが高い。

 久しぶりに海外ロケってのが一番大きいのだろう。

 今日一日ずっとこんな感じだから、表情以上に簪の心は死んでる。

 けれど、ここでの撮影が最後。頑張れ、簪。

 

「よし、これでいいでしょう! お疲れ様、更識さん!」

 

「お疲れ様です……」

 

 撮影が終わったみたいだ。

 簪の傍へと行き、お疲れさまと飲み物を渡した。

 

「ありがとう……ん、ふぅ……」

 

 一口飲んで一息つく簪。

 今は夕方で一日がかりだったから大分お疲れの様子だ。

 

「あの人、凄い張りきっちゃったからね……本当、いつになってもこういうタレント活動苦手。まあ、ドラマとかバラエティーに出たりしなくちゃいけないよりかは遥かにいいけど……」

 

 国家代表および候補生は、国の宣伝塔の役目を持っており、国家公認アイドルという立場にもある。なのでモデル、タレントといった仕事も兼任している。

 選手活動以外にもこういった写真撮影やテレビ出演などをしなくてはいけない。しかし、簪はこういうのが好きではないのだが、立場上しないわけにもいかない

 こういう仕事が来ると簪はよく渋る。なのでマネージャーの俺は折り合いに苦労している。

 特に最近はタレント活動の依頼が多い。

 

「うん……本当多い。オフシーズンだから訓練とかには差し支えないけど、何でなんだろう……?」

 

 簪は不思議がっているが、理由は単純明快に人気だからだろう。

 候補生の頃から人気だったが、そこに第四回世界大会優勝、日本の悲願だった織斑先生以来の日本人ブリュンヒルデとくれば、人気具合はより一層高まった。

 おかげでこの忙しさ。

 

「そういうものなのかな……」

 

 当の本人である簪は、今一つ腑に落ちないの様子。

 そういうものだ。実際、簪の出た番組の視聴率や評判はよく、インタビュー記事や写真の乗った雑誌は飛ぶように売れる。

 おそらく今回のも。

 

「更識さん達、写真のチェックお願い!」

 

「はい」

 

 カメラマンに呼ばれ、チェックしに行く。

 

「どう! どれもいい写真でしょう! 銘仙の着物着て聖バフォ教会で撮ったこれなんて素晴らしくないかしら?」

 

「そうですね……大丈夫だと思います。綺麗に撮ってもらえましたし」

 

「もうっ、更識さんは相変わらず淡白ね! マネージャーさんはどう? これは売れるでしょう!」

 

 グッとタブレットを押し付けられ、俺も確認する。

 オランダを舞台に撮った様々な写真。さっき言っていた銘仙の着物を着た写真を初め、他にもゴスロリメイド服など様々な衣装を着て撮った写真の数々。

 結構な量だが、どれもいい写真だ。確かにこれなら今回の雑誌も売れるだろう。

 

「あなたまで……もうっ」

 

「でしょう! これなら今回も売り上げ一位間違いなしね!」

 

 簪には呆れられてしまったが、いい写真なのは確かだ。

 これは個人的にも欲しいぐらいだ。

 

「嬉しいこと言ってくれるじゃない! 製本されたら一番に送るわ!」

 

 それは楽しみだ。

 

 

 撮影が終わった後、今日は解散になった。

 といっても仕事は今日で終わりではなく、明日は明日で対談インタビューがある。

 むしろ、これが今回の本命だったりする。

 

「ロランツィーネ・ローランディフィルネィ選手だよね」

 

 ホテルのベットで寛ぐ簪に頷いて肯定する。

 対談相手はオランダ代表のロランツィーネ・ローランディフィルネィ選手。

 第四回世界大会の決勝戦で簪が戦った相手で、その縁あって今回対談インタビューということになった。

 

「決勝戦の会見以来になるのかな……楽しみ」

 

 そうだな。

 どんな対談になるのだろうか。

 

 そして、時は過ぎ。

 当日。泊まったホテルにある小さな会議室で対談インタビューは行われていた。

 

「それでは更識簪選手、ロランツィーネ・ローランディフィルネィ選手。今日はよろしくお願いします」

 

「よろしくお願いします」

 

「ああ、よろしく頼む」

 

「初めの質問ですが……」

 

 お互いの印象や決勝戦の思い出、選手生活についてや第五回世界大会に向けての意気込みなどを話し合っていた。

 会話は弾み、予定の時間を少しオーバーして、対談インタビューは終わった。

 

「仕事とは言え、こうしてまた簪と話すことが出来て嬉しいよ」

 

「私もです。ローランディフィルネィ選手とは決勝戦の会見以来ですからね」

 

「むっ、言いにくいだろ。ロランで構わないさ、簪。敬語も必要ない。私達はもう友人同士だ。なんせ、熱くぶつかり合った仲なのだからな!」

 

「もう……相変わらずだね、ロラン」

 

 対談インタビューは終わったが、スタッフが帰っていった後も部屋に残って、二人は旧交を温めていた。

 

「何というかロラン、前とは雰囲気少し変わったね。あなたもそう思わない?」

 

 確かにローランディフィルネィ選手、彼女はもっと華々しく情熱な人だったけど、今日の彼女は前より何処か落ち着いた雰囲気がある。

 それにここ最近、彼女の色恋沙汰の話も聞いてない。

 

「君もロランで構わないよ。私が落ち着いたか……そう感じたのなら傍から見ても私は腰を落ち着けられているということだな」

 

「それって……」

 

 意味深な言い方だ。

 色恋沙汰の話を聞かくなったということはそういうことなのか。

 

「それはそうと簪達はオランダを楽しんでくれてるかな? いつまでいる予定なんだい?」

 

「明日一日休んで明後日のお昼には日本に帰る予定。撮影でしか見れてないけどオランダはどこも風景がよくていいね。明日はそれを愉楽しむつもり」

 

「そうか、そうか。存分に楽しんでくれたまえ。ちなみに夜、この後予定はあるかい? なければ、君達二人を夕食に招待したいのだが」

 

「予定はない。あってるよね?」

 

 頷いて答える。

 仕事は先ほどので全部終わった。

 後はもう全部オフになっている。スケジュールも確認したから間違いない。

 

「なら、折角だからお呼ばれしちゃおうかな」

 

「ありがとう。フィアンセも喜ぶ」

 

「あ……やっぱり、そうだったんだ」

 

 簪も同じ考えをしていたようだ。

 

 ホテルを後にして、夕食にお呼ばれした俺達は彼女の自宅へと来ていた。

 何でもフィアンセの方が夕食を用意してくれているとのこと。

 

「さあ、入ってくれ。帰ったぞ」

 

「ああ、お帰……りィ!?」

 

「えっ!?」

 

 家の奥から出てきた人を見て簪と驚いた。

 

「さ、更識……」

 

「篠ノ之さん……?」

 

 紛れもなく彼女は篠ノ之箒。

 懐かしい同級生だった。

 

「君達は知っているだろうが、改めて紹介するよ。フィアンセの篠ノ之箒だ!」

 

「久しぶりだな……更識。それにお前も」

 

「う、うん……久しぶり」

 

 呆気に取られる俺達二人。

 異国の地。しかも、彼女の家で会えるだなんて思ってもいなかった。

 それにフィアンセというのは比喩とかそういうのではなく。

 

「あ、ああ、そういうことだ。それよりも中へ入ってくれ。夕食はもうできているぞ」

 

 言われて簪と共に家の中へと上がらせてもらった。

 

「世の中、本当何が起きるか分からないね」

 

 そんなことを簪が小声で言うがまったく同意見だ。

 ここにいたというのもそうだが、女性である彼女のフィアンセになったとは。

 今時、同性同士はそう珍しくはないが、あの篠ノ之が……と思うと驚きを禁じ得ない。

 

 そして、夕食はというと篠ノ之お手製の日本食、和食だった。

 外国に来てまで食べてる和食は何だか不思議な感じもしたが、篠ノ之の手料理は美味かった。

 

「だろう! だろう! 私の箒は料理上手なんだ。オマケに器量もいい。こういうのを日本では良妻賢母と言うのだろう」

 

「お、おいっ、ロランっ」

 

 叱る様な言い方だが、満更でもない様子の篠ノ之。

 たった一瞬のやり取りだけど、仲の良さは伺える。

 

「こほん……にしても、更識達は元気そうで何よりだ。活躍もよく目にしている。今日は急だったから驚いたが」

 

「箒と簪達があのIS学園で生活を共にした学友だったと聞いていたからね。サプライズをと思ってね」

 

 と彼女がウィンクをこちらに飛ばしてきた。

 サプライズ……まあ、確かにとっておきのサプライズをしてもらえた。

 俺達も元気そうな篠ノ之の姿を見れてよかった。現在進行形で珍しい姿も見れているわけだし。

 

「だね……でも、篠ノ之さん。どうして、オランダに? 確かご実家の神社継ぐ為の学校に行ってたはずじゃ……」

 

「ああ、行ってた。ちゃんと卒業したし、資格も取ったんだが……いざ、継ぐとなった時、これでいいのかと思うようになってな」

 

「どういうこと……?」

 

「私は敷かれたレールを敷かれた通り進むだけだった。両親と離れることになったこともIS学園に入ることも。実家が神社だから継ぐのもただ実家がそうだからと言うだけで自分では何も決められてないような気がしてな」

 

 ぽつりと篠ノ之が話し始めてくれる。

 

「それにもっといろいろなことに自分から触れるべきだと思って、海外留学をしてみたんだ。まあ、立場が立場だからそう簡単には行かないから、姉の名前を出したり、楯無さんにも協力してもらったんだ」

 

「お姉ちゃんが……?」

 

 知らなかったと簪と顔を見合わせる。

 そんな話は聞いてなかった。

 

「まあ、行ってもただの留学だしな。それに何か気恥しくて言ったのは留学を後押ししてくれた雪子おばさん……今実家の神社を管理してくれている親戚の人ぐらいだ」

 

「なるほど……で、その留学中にロランと……?」

 

「あ、ああ……出会いは美術館だった」

 

「そうだとも! あの時、初めて見た絵画を見つめる箒は女神だったよ!」

 

 興奮気味に言うロランを見て察した。

 彼女が篠ノ之に一目惚れして、猛アタックしまくったと。

 

「それで押しに弱い篠ノ之さんは押し負けたと」

 

「くッ……抗議したい気持ちは山々だが、事実なだけに出来ないのが悔しいッ」

 

「ははっ、流石は箒の学友! よく分かってるじゃないか!」

 

 彼女が愉快気に笑う。

 本当、その光景が容易に想像つく。

 けれど、気になることはまだある。

 

「フィアンセっていうのは……?」

 

「箒が付き合うなら、自分一人だけを愛して結婚を前提でなければダメだというものでな」

 

「あ~……言いそう」

 

「くッ……」

 

 篠ノ之は恥ずかしがっているが、確かに言いそうだ。

 簪とリアクションが被ってしまった。

 

「し、仕方ないだろ。私はそっちの気がないのに、そこまでロランが言うなら覚悟を見せてもらわなければならん。不埒なのは許せん!」

 

「ということだ。箒の真剣さに私のハートは射抜かれてしまった。何より私も本気だからな、皆の恋人ロランツィーネ・ローランディフィルネィは惜しまれながら引退。箒一筋のロランになったわけだ」

 

「だからそれで……」

 

 簪と共に合点がいった。

 ホテルで気になった変わりようはこれが理由だったんだな。

 フィアンセということは行く行くはそうなるのだろうか。

 

「行く行くはそうなるさ。ただ今は流石に各地での試合や世界大会があるからそうすぐには行かなくてね」

 

「確かにそうだよね……というは篠ノ之さん、もう日本には戻らないの?」

 

「いや、次の世界大会が終わって少ししたら帰国する予定だ。やっぱり、実家を継ぎたいという気持ちは異国の地に来ても変わらなかったと分かったからな。ただ今、私は近所の学校で日本語の教師をやっていて、それの引継ぎとかをしてからだ」

 

 今、篠ノ之はそんなことしているのか。

 学校の先生……似合いそうだ。

 しかし、そうなると二人は離れ離れに。

 

「私も日本に行くぞ。IS選手は次の世界大会をもって引退する。定年だしな。簪もそうだろう」

 

「うん……私も次で最後だね」

 

 IS競技者の定年は大体25歳前後。

 最高で28歳のIS操縦者もいるが、それは規定に見合う後継者がいなかったりなど止むに止まれぬ事情などがある場合のみ。

 大体が25歳前後で現役選手から引退する。

 

「箒の話を聞いていたら住んでみたくなってな。日本の神の下で箒と慎ましやかに生きる。最高ではないか!」

 

 そう言う彼女の脳裏にはもう未来の光景がはっきりと見えているかのよう。

 

「国家代表である私が日本に住むのはいろいろと難しいだろうが、愛の前には小さな石ころ同然。我が愛は止められんよ!」

 

 逞しい。

 彼女ならどんな困難も乗り越えられると強く感じさせられる。

 

「更識、お前達二人に頼みがある」

 

「頼み……?」

 

 何だろう、急に。

 

「大したことじゃないんだがな。ロランとのこと皆には黙っていて欲しい」

 

「いいけど……それはなんでまた……」

 

「知られた分にはいいが、まだゴタゴタしている時期だからな落ち着いてからにしたい。ロランのほうも公表しておらんし」

 

「箒との仲は既成事実化しているが、公式の場で公表するのはいい時期と言うものがあるからな」

 

「うむ、それに大切なことだ。皆には私の口からちゃんとロランとのことは言いたい」

 

 その気持ちはよく分かる。

 

「ロランと結ばれた私はこんなにも幸せなんだとな!」

 

 そう言った篠ノ之は幸せそうで輝いていた。

 

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