簪とのありふれた日常とその周辺   作:シート

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簪に零れ桜

「あ……桜咲いてる」

 

 ふいに隣で一緒に歩く簪がそんなことを言った。

 釣られて視線の先を追うと道の脇に桜が咲いた。

 もうそんな時期か……満開して綺麗だ。

 

「ん……綺麗。そう言えば花見、今年はまだやってない」

 

 そう言えば、そうだ。

 毎年いつもこの時期にはちゃんと場所取って花見していたが、今年はまだ花見できてない。

 したいのは山々だが時間がない。場所を取る様な暇もないし。

 

「次の休み大分先だからね。あ、そうだ……! 場所気にしないなら、今から花見しない?」

 

 すぐには言葉の意図が変わらず、首を傾げた。

 場所に拘ってないし、この後予定があるわけでもないがどこで花見するつもりなんだ。

 

「これから行くスーパーからちょっと回り道で家に帰る途中に公園あるでしょ。そこなら花見ちょっと出来そう。スーパーで飲み物と三色団子でも買って」

 

 それはいい考えだ。

 その公園ならちょっとした花見はできる。

 そうするか。

 

「決まり。じゃあ、スーパー早くいかなきゃ」

 

 スーパーへと更に足を進める。

 元々スーパーに向かって歩いていた為、すぐ着くことが出来た。

 

「お花見の前に先、夜ご飯。生姜焼きでいいんだよね」

 

 頷いて答える。

 今日の晩御飯は簪が担当。リクエストを聞かれたので生姜焼きをリクエストした。

 ここ最近は肉が食べたい気分だ。

 

「メインは決まり。野菜は生姜焼きの付け合わせのでいいとして後はお味噌汁と……うーん……」

 

 店の中を歩きながら考え悩む簪の姿を後ろから眺める。

 簪のこの姿、やっぱり好きだな。

 昨日、国家代表として仕事をしていた人間とは思えないほど主婦している簪。あまりにも自然なその様に国家代表更識簪がいるなんて周りの人達は気づいてない。

 気づいてそっとしてくれているというのもなくはないが、それでも普段仕事の時みたいに目立つ気配もない。

 どこにでもいるありふれた主婦の姿。普通のことなのに何故だか見惚れてしまう。

 

「わかめの味噌汁とひじきの煮物にしようと思うんだけど後一品、何か食べたいのある……?」

 

 尋ねられ我に返る。

 見惚れるのはここまで。もう一品、ポテトサラダでもリクエストした。

 そして、夜ご飯と花見の用意を買い終えると遠回りに家への帰り道を歩き、目的の公園に着いた。

 

「わぁっ……!」

 

 公園に入るなり、桜を見て簪が感動した声を上げる。

 公園を囲むようにいくつも咲いている桜もそうだが、中でも感動的なのがひと際大きな桜。満開だ。

 オマケにご飯時が過ぎた中途半端な時間だからなのか、俺達以外に人影はない。

 

「運いいね」

 

 なんて話しつつ近くのベンチに二人並んで腰を下ろす。

 荷物担当の俺は袋から花見用の三色団子と飲み物を二人分袋から出して簪に渡す。

 

「ありがとう……いただきます」

 

 桜を眺めながら、三食団子を一口、飲み物を一口。

 昼の暖かい日差しが心地いい。

 

「ん……ぽかぽかしていい感じ……。わっ……!」

 

 まったり花見を楽しんでいると強めの風が吹いた。

 

「桜吹雪……」

 

 桜が風で舞い上がり、ひらひらと舞い落ちる。

 辺り一面にピンク色が広がていく。

 さながら桜吹雪が出来た桜の絨毯みたいだ。

 

「桜の絨毯……ふふっ、言えてる。はぁ、綺麗」

 

 そう楽しげに笑う簪の髪には舞い落ちてきた桜の花びらがついていた。

 桜の髪飾りだな。

 よく似合っている。綺麗だ。

 

「えへへっ、ありがとう」

 

 簪が嬉しそうに笑う。

 そしてまた二人の頭上には桜の花びらが舞う。

 陽だまりのような幸せなひと時は桜色に染められ、舞い落ちる花びらのようにひらひらと過ぎていく。

 

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