『オオカミはもっと強い雄雌のペアが群を率いれます』
夜、やることを終えてまったりとした時間。
リビングにあるテレビでは何やら動物番組がやっている。
バラエティー系ではなくガッツリ真面目な教育系の番組だ。ちなみに紹介されているのはオオカミ。
「……」
それを簪は体育座りしながらじっと見ている。
真剣な表情。
興味津々な様子。ヒーローものでもないのに、簪がこうなのは珍しい。
『このことから分かるようにオオカミはとても愛情深い生き物です。それは同族だけでなく別の種の生き物、私達人間にもその深い愛情を示してくれます』
「ふんふん」
思わず、声を上げるほどの関心っぷり。
そう言えば、好きな動物とか改めて聞いたことなかったがオオカミ好きなんだろうな。
「うん……好き。動物の中だと一番気に入ってる。気高くて賢くてとっても愛らしいから」
そう言う簪はいい表情だった。
なるほどな……確かにそうかもしれない。
ああ……だからといって言いのか分からないが、昔ハロウィンでオオカミのコスプレしていたのはそういうことか。
「うわ、懐かしいこと覚えてるね……あれはお姉ちゃんに着させられただけで、あのコスプレは若干犬っぽかったような」
そうは言うがあの時の簪は結構ノリノリだったような。
「オオカミ、本当いい……よくある話だけど、もしも人間以外で生まれ変われるのならオオカミがいい。あなたはそういうのない……?」
どうだろう。考えたことなかった。
好きな動物がいなくはないけれど簪みたいにこれが一番というのはない。
でも、しいて言うなら同じくオオカミだな。
しかしやはり、人間も捨てがたい。
「人間以外でって言ったじゃない」
それはそうなのだが……やはり、人間は捨てがたい。
簪がオオカミになるのなら飼ってみたいからな。
「ああ、そういう……あなたに飼ってもらえるのならそれもありかも」
結構ノリノリだ。
簪って案外そっちの気あるからな。
なんて思っていたら、首筋を甘噛みされた。それこそ、オオカミが甘えるように。
「あなたが変なこと考えてる顔してたからお仕置きっ。って、ふふっ、喉はくすぐったいっ」
飼い主が自分のオオカミを可愛がるように喉を撫でてやると簪はくすぐったそうにしていた。
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遠くで誰かが俺を呼ぶ声が聞こえる。
「起きて……」
その言葉と共に体を軽く揺すられる。
聞き慣れた声。
間違えるわけがない。これは簪だ。
「ほら、起きて」
促されるままに意識を覚醒させていき、目を開いた。
「おはよう……って、どうしたの。固まってるけど」
固まる俺を見て簪は不思議そうな顔をした。
そりゃ固まりもする。
何せ、簪の頭に獣耳に生えているのだから。
「耳……? どこか毛、跳ねてたりする?」
跳ねてなどない。綺麗な毛並みだ。
ではなく、何で獣耳が。それに獣耳の衝撃強くてそこばかりに目を奪われていたけど、尻尾もある。自然に動いている。
本物なんだろうか。まあ、こんな朝から簪がコスプレするとは思えないし……。
「本物……? えっ、ちょっと、な、ひゃんっ……!」
ピンっと立った獣耳。凄い本物だ。
ふわふわふにふにとした耳の感触、もふもふとした尻尾の感触もそうだ。何より、簪のこのくすぐったりそうにしている反応が本物だという紛れもない証拠。
「あ、んん……ん、どこ……さわって、ぁんんっ」
しかし、なんでまたこんなことに。夢なんだろうか。それにしてはやけに現実感がある。だからといって夢でないとも言いきれない。
「こ、こらっ」
簪の声で我に返る。
夢だろうが何だろうが、流石にこれはベタベタと触りすぎた。
そのせいなのか簪の頬は赤く、息が荒い。肩で息をしている状態。
申し訳ないことをした。
「落ち着いてくれたならそれで大丈夫。さ、朝ごはん食べよ」
そうだな。
リビングに向かうためにまずはベットから起き上がろうとする。
けれど、肝心の簪がへにゃりと座ったままだった。
「……その……腰が抜けて足に力が……」
あれだけすれば、そうになるか。
恥ずかしそうに言った簪の手を取って、一緒に立ち上がった。
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朝ごはんを食べた後はまったりした時間を過ごす。
どうやらこの夢では休日らしい。
それに耳と尻尾があるだけで他は現実世界と変わらないようだ。
夢だから都合よくそうなっているだろうか。便利なものだな、夢って。
にしてもだ。
「……?」
不思議そうに簪は、小首をかしげる。
獣耳はピコピコと跳ねて動き、尻尾はゆらりと揺らめく。
状況は飲み込めたものの、不思議で興味を惹かれるのは変わらない。
もう一度触ってみたい。
「また……? う~ん……優しく、触ってくれるのなら、いいよ……?」
許してくれた簪に感謝した。
隣に座る簪は体を少しこちらに向けてくれ、俺は手を伸ばして再び触ってみる。
まずは耳から。
「んん、ふふっ」
やはり、くすぐったそうに笑う。
ふわふわふにふにとした耳の感触は何度触ってもいい。病みつきになりそうだ。
別にしっかりと見分けがつくわけではないがこの耳はオオカミのものだろう。それに太くてしっかりとした尻尾もオオカミの尻尾のようだ。
耳を触っていると気になってしまうのが尻尾。触ってみたい。
「えぇ……こっちも……? 手つき、やらしいんだけど……」
ジト目を向けられる。
超一級品の毛皮を束にしても敵わない毛並みのいい尻尾を見せられたら、こうなる。
「もうっ……仕方ないな。特別だからね」
そう言って隣に座る簪は、俺の膝上へと尻尾を乗せてきた。
感謝しつつ、触れてみた。感触はもふもふとして柔らかさもありながらも、弾力もある。撫でれば、さらさらとしていて綺麗な毛並み。よく手入れがされている証拠だ。
「ありがとう……じゃあ、交代。私の番……ん」
尻尾を引っ込めると両手を広げる簪。
抱きしめろというポーズ。
仰せのままに抱きしめると抱き返される。オオカミな簪の抱きしめる力はいつもより強い。
なんだ抱き合いたかったのか……そう思ったが首筋を甘噛みされた。
何やってるんだ。
「あむあむ……何って……甘えてるの。普段からやってることでしょう」
この夢では普段からこんなことをしているのか。
犬歯か八重歯でも当って甘噛みにしては痛いが、オオカミは甘噛みが愛情表現とあの時やっていたあの番組でも言って、やめささないほうがストレスにはならないと言っていた。
それにこれ以上痛くしないようにという気遣い。甘えてくれているのが分かる。
「……」
横目でちらっと見えた簪は安心したように目を閉じてすまし顔。
しかし、ぶんぶん尻尾を嬉しそうに振っているから間違いない。
尻尾は口ほどに物を言うといった感じだな。
夢だからこその光景。
いい夢だ……。
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どうやら眠ってしまっていたらしい。
微睡を感じつつ、体を起こす。
「すぅ……すぅ……」
すぐ隣に人の気配を感じて、目をやると簪が気持ちよさそうに眠っていた。
何だろう、強烈な違和感が。そうだ、頭に獣耳がない。
いや、違う。あれは夢の中での出来事。簪にオオカミの耳と尻尾が生えてる夢を見ていたんだ。
今は朝。昨夜、オオカミ特集していたあの動物番組を見た後、寝たんだった。
少し名残惜しい気もしなくはない。
いい夢だったから。
「ん、んー……」
一つずつ頭の中を整理していると簪がのそのそと起きてきた。
朝の挨拶をしてみたが起きたばかりで反応は鈍い。
「ん……」
眠気いっぱいの呂律の回ってないふにゃふにゃ声で俺の名前を呼ぶと両手を広げた。
抱きしめろというポーズ。
仰せのままに抱きしめると抱き返される。馴染み深い抱きしめ加減。
珍しいな、簪が朝からこんな。寝惚れているのか。
どうやら、それは正解のようだ。抱きしめた途端、首筋を甘噛みされる。
何やってるんだ。
「あむあむ……何って……甘えてるの。普段からやってることでしょう」
そんなこと普段からは……。
ちょっと、待てよ。このセリフ何処かで聞いた覚えがある。
「あれ……?」
簪は何かに気づいて、次第に意識の覚醒していったのを見て分かった。
「あ……ご、ごめんなさい。その、夢を見てたから寝惚けて……ああ、くっきり歯型が」
慌てふためく簪を宥める。
いろいろとビックリはしたが、寝惚けてのことだろうとは思った。
一体のどんな夢を夢を見ていたのやら。
「何て言うか……オオカミになる夢だった。正確には本物のオオカミじゃなくて、耳と尻尾だけがオオカミのものになって。その、あなたに……甘える夢」
恥ずかしそうに教えてくれた簪は最後、言葉を濁す風だったがハッキリと聞こえた。
驚いた。まさか、同じ夢ないし似たような夢を見ていたとは。
「あなたも……?」
頷いて俺が見た夢のことを教えた。
「すごいね……こんなことあるんだ」
簪も驚いた様子。
一から十まったく同じでは流石にないだろうがこうなった原因は間違いなくあの動物番組を見たからだろう。
「そうかも。ね、ねぇ……オオカミになった私はどうだった……?」
そうだな。
いつもより何というか激しかったな。甘噛みといい尻尾とかといい。
それはそれで斬新でよかった。
「そっか……なら、コスプレにはなっちゃうけど近いうちに正夢にしてあげる……なぁんて」
照れながら簪は言う。
近いうちにというのは本当に近かった。
その日の夜、夢で見たオオカミの耳と尻尾を生やした簪と再びじゃれ合う正夢を見たのだ。
…
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