簪とショピングモールで店を見て回り、最後ご飯の買い物をしようと一階に降りてきた時のこと。
あるものが目についた。
「短冊だ」
笹に吊るされた短冊。
そう言えば、今日は七夕だったか。
完全に忘れていたわけではないが、そこまで気にも留めてなかった。
「毎年のことだからね。そこまで重要でもないし」
言ってしまうとアレだがイベントとしては重要度は低い。
でも今日が七夕だと気づいたからか、懐かしいことを思い出した。
七夕と言えば、その昔学園の生徒だった頃、楯無さんが七夕の日に何処からか巨大な笹を持ってきて短冊を吊るしたことがあった。
「あーあったね、そんなこと。笹が大きいからって稼働許可取ってきた辺り、お姉ちゃんらしいよね」
懐かしみながらも呆れて言う簪。
懐かしい、そんなこともあった。
稼働許可取ってISを使ってまで巨大な笹に短冊を吊るすことに拘っていたな。
『空に近い方が願いが届きやすいじゃない!』
だとか言っていたのも思い出した。
言いたいことは分かるがそれでもISを持ち出すのはどうなんだろうかと今になっても思う。
後そう言えば、あの時も短冊を書いたけど簪がどんなことを書いたのか分からずじまいだった。
「よかったら短冊書いていきませんか?」
懐かしんでいると店員に声をかけられた。
辺りを見渡すと同じように声をかけられたのか、短冊を書いている人がちらほらといる。
それこそ小さな子供からその親、カップルや大人の人まで様々。
どうしようか。時間はあるが……。
「折角だから書いていこ……いいよね」
異論はない。
しかし、簪がこんなこと言い出すなんて珍しい。
店員に案内され、短冊が置かれた机の前に行く。
「こちらでお書きください。書けましたら、あちらの笹の好きなところに吊るしてください」
そう言って店員は去っていった。
さて、何を書こうか。
短冊か……思えば、学園で書いたっきりだ。
「私も……何書いたらいいのか迷うね」
すぐには出てこないよな、こういうのは。
短冊……願い事か。
時間をかけるのも変な話だし、ここはシンプルに。
書くには書けた。本当にシンプル、というか少々照れくさい内容になったが。
ここは下の名前だけ書いておこう。
「私も書けた」
なら、吊るしに行くか。
ちなみに簪はどういうことを書いたんだろう。
「んー……ふふっ、秘密」
そう言って簪は、俺からは見えない位置に短冊を吊るしていた。
内緒……無理には見ないが、内緒にするほどのこと書いたのか……気になる。
「じゃあ、夜ご飯の買い物行こう」
俺も短冊を吊るすと簪と共に買い物へと向かう。
七夕らしいことはこれで終わり。七夕らしい事って言うと短冊書くことぐらいか。
後は七夕祭りに行くとか思いついたが、そんなもの都合よくやってない。
折角七夕だと気づいて、短冊まで書いたんだ。もう一つぐらい七夕らしいことをしたい。
学生の頃は短冊に願い事を書いて巨大な笹に吊るした後、夜になったら外で天の川を見たな。
天の川……そうだ、思いついた。
「どうかした……?」
不思議がる簪にある提案をした。
今は夕方だが夜になったら天の川を見に行こうという提案。
少し遠出にはなるが、高台にある公園のことを思い出した。あそこなら穴場的なところで丁度いい。それに今夜はすっきりと晴れて夜空が綺麗に見えるという。
「それって……」
つまるところ、デートのお誘い。
今夜は時間に余裕がある。
簪さえよければの話になるけども。
「すごくいいっ……そのデート行きたいっ」
嬉しそうに了承してくれた。
よかった。ほっと一安心した。
なら、弁当でも作ってもらっていこう。
七夕にちなんだものとかよさそうだ。
「おしゃれ……夜に星見って何だか小さな子の遠足みたい」
言えてるな。
もっとも小さな子は夜には遠足は行かないけども。
「ふふっ、そうかも。大人ならではだね」
くすくすと楽しげに隣で簪が笑う。
その日の買い物は普段よりも楽しかった。
そして、約束の夜。
「準備よし。忘れ物なし」
二人で荷物を確認して出かける用意をする。
弁当の用意に時間をかけすぎたが、そのおかげで目的の場所に着くころには丁度いい時間となっているはずだ。
よし家を出るか。
「うんっ……!」
荷物を持ち、最後に鍵を閉めると行動開始。
まずはエレベーターに乗って住んでる建物を出る。
そこからは手を繋いで歩く。
「結構時間かかるの……?」
近所の公園に行くよりかは大分かかる。
坂道を登って、登り切ったらそこからまた少し歩いて住んでるところよりも高いとこに行くから。
「もしかして……」
簪は目的の場所がどこかなのか気づいたのかもしれない。
ついてからのお楽しみということにしているので、教えてないから言ってあげられないのが申し訳ない。
申し訳ないついでなのが簪が背負う荷物。
歩かせてしまっているから重くてしんどい気持ちにさせてるのやも。
「大丈夫。私は日本のIS操縦者、鍛えてますから」
どこぞで聞いた台詞を言う心配は杞憂だと簪は平気そうだ。
ならいいが、鞄の中何入れてるんだろう。
モバイルバッテリー入れるなら、今も持っている愛用の手提げ鞄で充分。
箱みたいなのを入れてる感じはするが……。
歩くこと数分。
ようやく目的の場所に到着した。
「わぁっ……すごい」
目的の場所は見晴台。
名称に公園とついているから公園と呼んでいたが、ここからは住んでいる街が見晴らせる。
「綺麗」
眼下の街の光は綺麗な模様になっている。
綺麗なのはそれだけではなく。
「天の川だ」
晴れた夜空を横切るように乳白色に淡く光る星々が川のようにかかっている。
住んでいる地域は都会だから心配ではあったが時間帯と場所、何よりすっきりと晴れたおかげでよく見える。昔、学園で見たのと勝るとも劣らないほどだ。
「……」
その綺麗さに簪は言葉を失って見つめていた。
かける眼鏡のレンズ越しに見えた目が夜空の星々のように輝いている。
喜んでくれている。成功かな。
「大成功だよ……でも、どうしてここに?」
近場で見るならここだろうし。
それとここは済んでいる場所よりも高いところにある。
何より、空に近い方が願いが届きやすいだろ。
「あ……それ聞いたことあるセリフ。お姉ちゃんが昔言ってたよね」
どうやら簪も覚えていたようで懐かしむように小さく笑った。
「ありがとう……今日のこと絶対に忘れない」
噛みしめるように簪は言っていたが気が早い。
まるでこれでデートが終わりみたいだ。
感謝の気持ちと言葉は嬉しいけども、まだまだある。
「そうだった……お弁当食べないとね」
作ってきた弁当を広げる。
今夜の弁当は二人で作ったもの。
メニューは遠足といっていたからそれっぽい感じのものにした。
「いただきます」
手を合わせ、挨拶をすると食べ始めていく。
今夜も中々の出来。綺麗な夜空の下で食べているからか、いつも以上に美味しく感じる。
「ね……あっ、そうだ。これも忘れちゃいけない」
そう言って簪は背負っていた鞄の中から何やら取り出す。
まず出て来たのは小さめのクーラーボックス。
続いてその中から出て来たのが缶チューハイが二本。ちなみに冷えてる。
だから、クーラーボックスが出てきて鞄背負っていたのか。
「今日の七夕は大人になったんだもん。これは欠かせないよね」
そう言う簪はいい顔している。
確かに星見しながらの夕食に酒は欠かせない。
これもまたならではだ。
「ふふっ……じゃあ改めて、乾杯!」
缶と缶を軽く合わせて乾杯。
そして一口。格別だ。
「ん……ごくごく……ぷはっ」
簪もいい飲みっぷりだ。
というか、そんな一気に飲んでいいのか。
「大丈夫……もうあと二本ずつある。私、お酒強いの知ってるでしょ。こんな時ぐらいしか酔っ払えないし、それにここなら酔っ払っても大丈夫」
それはもっともだ。
普段、酒を飲まないわけじゃないが飲んでも付き合いで飲むことの方が多い。
そこで酔うほど気を楽にはできないが、ここでは俺達以外人はいない。気兼ねなく酒を楽しめる。
「そういう事」
酒が進めば、料理も進む。
持ってきた弁当はあっという間に空っぽになった。
後はもう一缶開けて、酒を片手に二人横並びに座りながら夜空に浮かぶ天の川を楽しむ。
これだけ晴れてるなら、今頃織姫と彦星は会っているんだろう。
「きっと会ってる。ずっと会えないよりかは一年に一回でも会える方がいい。まあ、あの伝説の通りならちょっぴり自業自得だとも思うな。毎日一緒に居たいのは毎日二人で楽しく過ごしたいってのは凄く分かるけど」
そう言って簪は缶チューハイを煽る。
そうだな。
二人がああなった気持ちは理解できるが、仕事を怠ってはいけない。
「毎日一緒にいたいなら仕事しながらも一緒に居られる方法なんていくらでもあったのに。今が楽しいとそれだけで満足して先々のこと考えることやめちゃって……一緒にいるっていう結果も大事だけどその為の過程も大切にしないと……ん、ぷはっ」
そう言って簪は缶チューハイをまた煽る。
一口は小さいがよく飲む。
無理するほど飲まないだろうとは分かっているが、大丈夫か。
「だいじょーぶ。あ……」
何か思いついたような反応。
口角がニヤリと笑ったような。
オマケにしなだれかかってきて、向けてくる目は流し目。
「ふふっ、酔った女房をどうするつもり……?」
からかうような艶っぽい声。
耳元で簪に囁かれ、柄にもなくドキっとした。
これは相当の酔いが回ってる。お互いに。
「そうかも。んふふっ~」
ご機嫌な様子で笑いながら座っていた簪は、街を見下ろせる石で出来た転落防止柵のほうへといく。
トテトテと歩く足取りは酔っているからかおぼつかなくヒヤヒヤさせられる。転ばないでほしい。落ちないでほしい。
「心配無用っ。今日は本当にありがとう。凄く素敵なデートだった。だから、内緒にしてた短冊に書いた願い事教えてあげる」
お礼にならないだろうけどといつものように謙遜しながら教えてくれた。
「あなたと離れることなくいつまでも一緒にいられますように」
照れくさそうに笑う簪は、星の光に照らされその姿に目を奪われた。
簪が教えてくれたそれは奇しくも同じ願いだった。
…