簪とのありふれた日常とその周辺   作:シート

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【車窓と旅情と簪の隣にて】更識簪

緑色、夏色、車窓からホームにて

 

 

 ガタン、ゴトン。

 電車が揺れる。目的地へと向けて走る。

 

 カタン、コトン

 窓から見える景色は続く。田畑が綺麗な緑の絨毯を作り、いくつもある雲の隙間から見える青空、太陽の光が心地いい。

 

「のどかで綺麗。天気もいい。遠回りして正解だね」

 

 向かいに座る簪がぽつりとそう言った。

 

 今、簪と旅行している最中。

 ここ最近はいろいろなことがあり、オフの日に遠出してなかった。休日の今日ぐらい普段みたいに過ごすのではなく久しぶりに遠くの方へと旅行でもしようということになった。

 今回は目的地の宿に行くのだけが目的ではない。旅の途中も楽しそもうということで新幹線とタクシー一本で済むところをあえて遠回りして向かっている。

 時間もかかって、乗り換えも何度かすることはになるがこういうのも旅の醍醐味。というわけでで今はこうして電車に揺れている。

 

「そう言えば旅行もだけど……こうやって乗り物乗りながらゆっくり外の景色眺めるの久しぶりだよね」

 

 言われてみれば確かに。

 

 乗り物に乗って遠出しても飛行機や新幹線が多く、移動中は簡単に出来る作業をしていたりだとかで景色なんてほとんど見ない。

 見てもチラっと程度。こうしてゆっくりじっくり外の景色を眺めるのは本当に久しい。

 

「今緑いっぱい続いてるけどさっき見た川も綺麗でよかったなぁ。山と山の間に川が流れてて風流っていうか」

 

 ここに来るまでに川も通ってきた。

 山と山にかかる鉄橋。その下には川が流れ、今見ているここの青々とした緑とはまた違った青々とした緑が水面に映っていてよかった。都会にいると中々見れない光景。そういう所を走って見れる景色は電車ならではだ。

 これからはただの移動でももう少し外の風景に意識を向けてみるか。

 

「意識してなかっただけで素敵な風景いっぱいありそうだもんね」

 

 今回の旅行だってまだまだ違った景色は車窓から沢山見れる。

 

「そうだね、宿の近くは海だったけ? 着いたら夕方頃のはず……楽しみ――……あっ」

 

 聞こえてきたのは停車駅を告げるアナウンス。

 そこで降りた。当然着いたわけではない。また何度目かの乗り換えがある。

 とは言え、次の電車が来るまで結構な時間がある。待つしかない。

 しかし、外は暑い。季節的には初夏と言えなくはない。しかも、梅雨の時期はまだやってきてないのにこの暑さ。日陰にいるおかげで直接太陽の日差しを浴びてないからマシではあるがそれでも暑いものは暑い。

 

「電車の中快適だったせいか余計に暑く感じちゃうね。朝出た時ちょっぴり寒かったし、調節できる服着てきてよかった」

 

 そう言う簪の服装は白のノースリーブにベージュ色のスカート。そして、麦わら帽子。

 先ほどまでは透明感のあるカーディガンを羽織っていた。今日の服装いいな。可愛い。

 

「えへへ、ありがとう。久しぶりの遠出デートだからね、気合入れたもの」

 

 嬉しそうにはにかむ簪の笑みは服装によく映えて可愛い。

 

「でも、まだ二十分ちょっとしか経ってないのか。何というか……ね」

 

 暇だな。

 ホームのベンチに座りながら簪とぼやく。

 

 暇と言えるほど待ち時間があり、スマホとかで時間を潰すのは早々に飽きが来ている。加えて外は中々の気温。ぼーっとしてるのもそれはそれで……といった感じ。

 どう待ち時間を潰そうか。辺りを見渡す。

 のどこな田舎にある静かな駅。ホームには同じように電車を待つ人達がちらほらと居ている。

 そして、珍しくホームの中に売店がある。きっちりしたものではなく、夏祭りの出店のような感じでテントの下にクーラーボックスが置いてある。

 幟には『飲み物・アイス! 冷えてます!』という文字。アイスか……見てると何だか。

 

「食べたくなってたってところでしょ。ふふ、実は私も。あーでも、一つ丸々食べきれる自信ない……」

 

 なら、アイスは一つだけ買って半分こだ。

 ちょっと食べたいだけたからそれでいい。

 

「そういう事ならお言葉に甘えて。じゃ、買いに行こ」

 

 二人一緒に売店へと向かう。

 

「いらっしゃ~い」

 

 店主はお年を召した女の人。

 クーラーボックスには飲み物、 アイスケースにはアイスが冷やされ置かれている。

 たくさん種類があって味も豊富。どれにしようか、二人で食べることだしここは簪に任せよう。

 

「私が? んーじゃあ、すみません。これとこれ飲み物と、後このカップのバニラアイス一つ」

「はいよ。お兄さんの分は?」

 

 聞かれて、今選んだアイスを二人で食べることを説明する。

 

「二人でか~仲良し夫婦やね。だったら、こっちのほうがええと思うよ」

 

 そう言って出してくれたのは某アイスが二つくっ付いて一つになったミルクキャンディー。

 地方限定アイスらしい。こういうタイプって今でもあるところにはあるんだ。そんなに大きくはないからこれだと二人で半分こにしても丁度いいサイズになる。

 

「今日は暑いから溶けるのには気を付けんさい。お二人さん見てるだけでラブラブのアツアツやから早よ溶けてしまうかもしれんしね」

「はぅ……ど、どうもっ」

 

 突然の不意打ちにはまだまだ弱い簪。

 驚いて照れたように頬は赤い。

 なんてからかわれたりしたが無事購入。

 元いたところに戻って早速開けてみる。

 

「本当に二つくっ付いてるんだ……」

 

 不思議そうに見てくる簪を横目にアイスをパキンって割り半分こに。

 

「いい音。ん、ありがとう。じゃあ、いただきます……はぁ~、冷たくて甘い」

 

 受け取ったアイスを一口食べるなり簪は頬を蕩けさせた。

 口の中に広がるミルクは甘くて優しい。つられて口角が上がった。

 

「こうして暑い日に駅のホームでアイスって何だか乙だよね」

 

 簪が嬉しそうに笑っていうものだから、こちらまで嬉しくなって笑う。

 遠くの方から聞こえる蝉の鳴き声、夏の音。

 ただ外でアイスを食べているだけなのに、他のことで時間を潰しているよりも二人でこうしているほうがどこか楽しい。

 

 

・

・

・

 

 

茜色、車窓から簪までを染めて照らして

 

 

 ガタン、ゴトン。

 電車が揺れる。目的地へと向けて走る。

 

 カタン、コトン

 窓から見える景色は続く。外はもうすっかり夕暮れ時。夕日が景色を茜色に染める。

 

 アイスを食べた後電車に乗り、また乗り換えを繰り返してようやく最後の電車。

 次で目的地の駅に着く。

 

「すぅ……すぅ……」

 

 長旅で疲れてしまったのか隣にいる簪は眠ってしまっている。

 こちらの肩に頭を預け寝息を立てながらぐっすりだがそろそろ着く。可哀想ではあるが起こさないと。

 見てほしい景色もある。

 

「ん……んんっ、ぁ……ごめんなさい、寝ちゃってた……」

 

 すんなり起きてくれただけで充分。

 それよりも外の景色を見てほしい。窓の外を指した。

 

「外ぉ? わぁっ……!」

 

 眠そうな目をしている簪だが外の景色を見るなり、ぱぁっと目を輝かせた。

 

 車窓から見える海は夕日に照らされ、水面がキラキラと宝石みたいに輝いている。

 水面に映った夕日が一筋の柱のように伸びて綺麗だ。幻想的な光景がそこにはあった。

 

「……」

 

 あまりの絶景に言葉を失うほど簪は見惚れている。

 楽しみにしてたもんな。見せられてよかった。

 

 こちらに気づくと簪はくすりと笑う。

 

「海……凄いね、本当幻想的で綺麗。凄すぎてあんまり言葉出てこない。こんな風にオレンジ色で染まるんだ」

 

 本来青いだろう海はオレンジ色のスプレーを吹きかけたように色づき目を奪ってくる。

 だが、それよりも目を奪われるものがあった。

 

「宿からの景色もいいらしいから楽しみだね」

 

 夕陽の光で受けてキラキラと輝く簪の瞳のあまりに綺麗さから目を反らせないでいた。

 

…




活動報告に書き込みの合った旅行途中の旅情をテーマに描きました。
旅行、旅先で云々はたくさん書いた気がするのでこんな旅の途中だったらいいなってな感じで。
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