「でその時おりむーがしてくれたことが本当に嬉しくって!」
「相変わらずアツアツなことで」
「ねーってか、学生の頃より惚気レベルアップしてるよ」
「うん、久しぶりでも変わらない」
本音の惚気話を聞いて皆で楽しく呆れる。
皆というのは清香とさゆか。
今日集まれたのはこの二人。IS学園卒業以来、今みたいにこうして喫茶店とかでお茶をすることが度々ある。前回から久しぶりに集まって、まずはお互いの近況報告。話していくうちに恋バナみたいなものになっていく。
皆恋人がいるので内容はもっぱら恋人とのこと。今話してる本音みたく惚気話になるのがお決まりの流れ。
「そう言えば、清香はどうなの? 文通でやりとりしてたらしい中学の同級生とは」
「簪、それ聞いちゃう? 聞いちゃうか~まあ折角だから話してあげちゃうか~」
「めっちゃ話したそうじゃん」
「折角だから話しちゃいなよー!」
聞いてほしそうな顔をする清香。
それを見て笑うさゆか。催促する本音。
これもいつもの流れ。
1年1組の人達……というか、本音の友達として知り合った皆とはもうすっかり友達。
今では下の名前で呼び合う仲となった。
「ずっと聞いてばかりだけど簪はないの?」
「ないのって……私も惚気ろってこと?」
私がそう言うと皆言葉なく一斉に頷いた。
いい顔してる。言葉がないからこそ無言の圧を感じる。
早く惚気ろと圧が凄い。
「そう言われても……」
困った。急に惚気話なんて出てこない。
惚気話しろって言われてするものではないはず。
皆が聞きたいのは何気なく話したことが惚気に聞こえるって話だろうし。
「惚気話……うーん……」
「悩みだしちゃったよ」
「まあ、簪達は昔から控えめだったからね。本音と織斑君達のほうが目立ってたってのはあったけど」
「そーかな~? そんなことなかったと思うけど~」
「いやあったから! あんだけイチャついてたのに今でも自覚ないとかコワっ!」
清香のツッコミにさゆかと一緒になって頷く。
自覚ないのがまた本音らしい。
でも、ツッコミたくなるほど本音と織斑はイチャついていた。おかげでそっちに注目がいって私達が目立たなかったのはありがたかったけど。
「というか、同じくらい織斑君達男子二人の仲もよく注目の的だったじゃん」
「あったね。同級生には本音や簪との仲は有名だったけどそうじゃない上級生とか下級生には織斑君達男子二人はいい妄想のタネだったよね」
「あ~懐かしいねー」
「あー……」
本音は笑って懐かしんでいるけど、私は何とも言えない声を出すしかなかった。
そんなことあった。確かに懐かしい。
そういう性癖に理解がないわけじゃないけど、私の性癖には刺さらない。というか、そもそも自分の彼氏でそういう妄想は何とも言えなさがある。だからこそのこの反応。
「まあ、男の子はおりむー達二人しかなかったしそういう風に見えるのも仕方のなかったのかもね~IS学園みたいなところだとしぜーんと仲は深まるだろうし、かんちゃんの彼氏君がおりむーの友達でいてくれてよかったって今でも思うな~」
「それは確かにそうだね」
私も織斑が彼の友達でよかったって思う。
IS学園みたいな異性ばかりの環境だと同性の存在は大きく、ありがたいものだと彼は言っていた。それはよく分かる。
それに私が同性の本音なら話せる話があるように、彼にも同性の織斑なら話せる話はある。だから、そういう存在は大切。
なので学園を卒業した今でも変わらず彼と織斑は仲がいい。
ついこの間も二人でご飯食べたり、遊びに行ってたりしてたほど。
「おかげでおりむー昔と比べてよくなってきたもん」
「例えば?」
「気づいてほしくないことには敏感なのに自分の向けられる気持ちには鈍いところとかね。それでいろいろあったんだよー」
「あーなるほど」
「確かに織斑君そういうところありそう」
清香もさゆかも満場一致で納得していた。
そこが織斑の良さではあるけど、本音にすれば心配の種。
優しいと言えるんだろうけど、私にしてみれば甘いだけ。
まあだからこそ今でも変わらず織斑はモテるのだろう。相変わらず女たらしだけど。
「自分のこと一番後に後回しにして、他の人のことばかり気遣って人一倍自分以外の人の為に頑張るのに、自分のことで他の人が苦労するのとか凄い嫌うからそれでいろいろ揉めたりとかあったんだよね~。おりむー本当幸せになるのが下手な人だから」
「へぇー何か以外」
「本音と織斑君がそういう風になってるの全然想像つかないや。でも、よくなったんだ」
「もちろ~んっ! かんちゃんやかんちゃんの彼氏君達のおかげでね。おりむー自身がどうしたいのかちゃんと考えるようになってくれたし、自分が幸せになることもちゃんと望んでくれるようになってくれてるから。幸せになるのならまずは自分からでしょ? 私がおりむー幸せにするから!」
本音が懐かしんで言うものだから私まで懐かしくなってきた。
織斑がそうなるまでいろいろあったなぁ。本当にいろいろと。
「何か簪まで懐かしんでるけど簪は彼と出会って変わったこととかないの?」
「私……? それは勿論あるよ」
変わったことだらけ。
例を挙げればキリがないけど強いて言うのなら。
「ちゃんと進んでいけるようになれたかな。それから柔軟になれた。こういう考え方もこういう方法あるんだって。許せるようになったってのとは違うんだけどどんなことに対してもそういうものなんだって思えるようになった」
昔の私はあまりにも視野が狭かった。
目の前のことしか見えなくて、これはこうしなくちゃって思いでいっぱいだった。
でも、彼と出会っていろいろな考えや考え方があることを改めて認められるようになって凄く柔軟になれた。世界が広がったって言えばいいのかな。
だから、私は進んでいけるようになれた。前にはもちろん、後ろにだって進んでいける。時には右に行ったり、左に行ったりしながらも渡しく進んでいく。前の進むだけが全てじゃないと彼と出会って知れたから。
「彼は隣を一緒に歩いてくれる人だから自分以外の人と考えを話したり共有できるし、意見を聞いて新しい考え方に気づける。こうしてみると変ったこと多いね」
「考え方似てるもんね~かんちゃん達って」
「そうかな。まあ、付き合い始めてもう何年にもなるから自然と似てくるのかも……こんな感じでいい?」
「全然OK! むしろ、そういうのだよ!」
「そうそう! そういう惚気もっと聞かせて!」
「えー……」
一人だけ惚気話をせず黙秘を続けるのは悪い気がして話したけどやっぱり罠だった。
そもそも自分から惚気話するっていうのは何かこう……言い表せないものを感じる。
今の話はフリがあったから話せたけど、フリもなく自分から惚気るのはちょっと……。
「ドキドキ! ワクワク!」
「焦らさないで早く早く!」
「ほらほら!」
本音を始め皆からの催促が激しい。
一度惚気話をしたから逃げ道はない。
いつまでも黙っているわけにもいかないし、こういう時は素直に話すに限る。彼が私と同じ状況なら話すだろうし。
惚気……例えば……。
「惚気話かは分からないけど……彼の優しいところとか真剣で生真面目なところには助けられてる」
「ほうほう」
「例えば?」
私はゆっくりを話しだす。
「私……頭の中では考えてることとか思ったこととか沢山あるけど表に出すの苦手で」
「うんうん」
「一緒に暮らしてる彼にも上手く伝えられなくてモヤモヤしちゃうことあるんけど、その度に彼は伝えられなかったことをちゃんと待ってくれて、どんな言葉でもはしっかりと受け止めてくれる。時には笑っちゃうような馬鹿なことでも一緒になって真剣に彼らしく生真面目に考えてくれる。彼の誠実さと優しさには助けられてよく嬉し泣きさせられちゃうな……って」
彼と出会ってから昔よりかは自分の思ってることを伝えられるようになったけどそれでもマシになった程度。
今言ったみたいに上手く伝えられなくてモヤモヤしちゃうことは今でもある。いつでも彼は隣で寄り添ってくれる人だから話を聞いてくれて、一緒に考えてもくれる。
その度に私の好きな人が彼でよかった。隣にいるのが彼でよかったと心底思う。
「ほお~ん」
「おおっ、中々威力のある惚気するねぇ~簪」
「いいね! いいね!」
本音、さゆか、清香から微笑ましいものを見るような視線を向けられる。
それどころにめちゃくちゃニヤニヤされてる。
こうなるのはなんとなく分かっていたけど、恥ずかしいやらなんやらでいたたまれないなぁ。
「でも」
本音がぽつりと話を切り出す。
「こうやって惚気話聞いてるとかんちゃんは本当に彼に助けられてるんだなってしみじみ~」
「確かに。打鉄弐式の完成とかも彼氏君がいなきゃダメだったんだよね?」
「それは……まあ、うん……」
「あら、意外な反応」
清香の言葉を聞いて彼に言われたある言葉を思い出し、つい微妙な反応をしてしまった。
「確かに打鉄弐式が完成できたこととかいろいろ彼のおかげだと私も思うんだけど……彼に言われたことのあるの」
「なんて?」
「別におかげって言うほどのことはしてないし、きっかけさえあれば簪は自分がいなくても打鉄弐式を完成させて救われてたって。言われた時私納得しちゃった」
言われて驚いたけど、彼ならこんなこと言ってもおかしくない。
何よりも納得が強かった。
「えっ? 納得しちゃったんだ」
「だって私、諦め悪いから」
「あー……なるほどね」
皆納得した。
私は諦めが悪い。
打鉄弐式の完成やお姉ちゃんに追いつくとかいろいろと目指していたことはあの時の私にとって全てだった。そう簡単には諦められない。なんとしてでも絶対に成し遂げようと必死になっていた。
だから彼と出会わなくても救われなくても、私はどうにかして完成させてた。そうすれば代表候補として経験を積み、今と同じように国家代表だってなっていたかもしれない。そう私自身思えるからこそ言われた時、素直に納得することが出来た。
それこそ極端な話、助けてくれたのが彼じゃなくても私は救われていたのかもとすら思う。それでも。
「だとしても私を救ってくれたのは彼だった」
彼じゃなくてもっていうのはもしもの話。
もしもの話は嫌いじゃないけど、結局考えの範疇を越えない。もしもの話だとしてもそれを今すぐ現実にできるものでなければ、もしもを確かめるすべもない。何より、私にとっての現実は今。
あの時整備室に来たのは彼だったし、彼に話しかけたのは私からだった。それは今へと続く代えがたい大切な事実。
「今こうして隣にいてくれてるのが彼でよかった。生真面目な彼だけどやらなきゃいけないことはちゃんとやれて、今をよくしてこれからをもっとよくしていける尊敬できる人。これからも彼と一緒に生きていきたいって私はそう思うな」
彼と出会わなくても私は打鉄弐式を完成させていたとしても。
彼じゃなくても私は救われていたとしても。
私は彼がいい。彼の隣が私が今いる幸せの場所だから。繋いだ彼の手を離したくない。何度だって彼と手を繋ぎ続けたい。そして、今をよくしてもっと彼と幸せになっていくんだ。
それからちょっとした我が儘が許されるのなら彼も私がいいって思ってくれてたら嬉しい。
「……って……」
ハッと我に返り、周りの様子に気が付いた。
どうやらすっかり語ってしまったみたい。
皆静かだ。というか、皆して口を手で覆って何してるんだろう?
「何やってるの?」
「何ってこっちの台詞だよ!」
「本当それ! 今日一番、いや過去一の惚気聞いた!」
「何だか聞いてるこっちのほうが恥ずかしくなっちゃうよー!」
皆悶えながら一様に好き勝手言ってくれる。
別に惚気たわけじゃないけど、そう言われると段々恥ずかしくなってくるけど。
「何とでも言って。別に隠すようなことじゃないもん」
「おおっ! 言うね!」
茶化されるけど今更もう恥ずかしがったりはしない。
それに言うなら言うでちゃんと言っておきたい。
「だって、大切のことだから」
言いかけて誤魔化すようなことは大切にできてないみたいで嫌だ。
言うならちゃんと言って大切にしていきたい。
言うことで彼との今を、そして彼を大切にできるから。
…