簪とのありふれた日常とその周辺   作:シート

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※注意
・今回タイトル通り簪本人は出ません(名前や話には出てきますが
・簪シリーズと同様の主人公と一夏のとある話題について話すお話です。
・いつも「」付けで話してない男主が普通に話しています。悪しからず。
・一読して下さり、読んで下さった方が今回の話の内容について何か考えて下さったら幸いです。


簪はいない夜。野郎二人の会話再び

そろそろ日付が終わる時間帯。

今夜もまたいつものように部屋からの外出禁止時間ギリギリまで簪と会話した後、今の今までずっと部屋で勉強をしていた。

 いつもと変わらない日々の生活。新鮮味こそないがそれでも飽きたりは決してない。大変だった今までを思うと平和すぎて心地がいいと俺も簪も感じて満足している。俺達の生活には大して大きな変化はないが、また一人、身近な奴が大きな変化の渦の中心にはまっていた。

 

「う~ん……」

 

 唸り声を上げている同室の一夏。

 ベットの上で上にあぐらを組みながら、考え事をしているのだろう。凄いしかめっ面をしている。

 外では今ほどでもないが、部屋で一人にすると最近よくこんな感じで考え事をしている。

 いや、外でも様子が変と言えば変だったな。あの五人に対して妙に一夏の態度がぎこちなかった。

 

「う~~ん……」

 

 飽きずに一夏は唸り声をあげて考え事をしている。

 考え事……悩みの種はおおよそ検討はつく。悩み事を招いた原因が俺と簪にあることは分かっているし、理解している。

 が、だからといってこっちから一夏に救いの手を差し伸べるようなことはしない。差し伸べるのは簡単なことで、一人で悩むよりも誰かに相談して悩んだ方が解決早いのかもしれない。だけど、そうすることが……最初のうちから手助けするのが正しいこととは限らない。

 薄情者と思われるだろうが正直、一夏がここまで考え事をして悩んでいる姿を見るのは始めてだ。今まで見えてなかったものが見えたからこそ出来た考え事であり、悩み事なのだから今まで考えず悩まなかった分、一度ギリギリまでトコトンまずは一人で悩めばいい。

 傍から見てヤバく見えれば、勿論その時は手を差し伸べるが今はその時じゃない。う~んう~ん唸ってる間はまだ大丈夫だろうし、限界だと一夏が自分が感じたらおのずと言ってくる。最近の一夏はそんな感じだ。

 

「そろそろ寝るけど一夏は?」

 

 考えて悩むのもいいが今夜はもういい時間。寝る準備してそろそろ布団に入らないと明日も学校だから明日が辛くなる。

 

「あ、ああ」

 

 歯切れの悪い返事。迷っているのがもろ顔に出てる。

 

「なに」

 

「あ、いや……その、さ。相談……っていうか。うん、相談……があるんだけどいいか?」

 

 一夏にしては本当に珍しいほど歯切れが悪い。表情も浮かない。それだけ悩んでいることがよく分かる。

 俺は一夏の言葉に頷き、自分のベットに腰をかけ、話を聞くことにした。

 夜もいい時間でこれは何だか長話になる予感があるが致しかたあるまい。

 

「それで相談っていうのは?」

 

「いや……あのさ……何というか、最近……のほほんさんに……避けられてるような気がするんだ」

 

 深刻な雰囲気をかもし出すものだから、深刻なことを言い出すのかと思ったら、それほどのものじゃなかった。いや、本人にしたら深刻なことなんだろうけど、今の一夏がかもしだしている深刻な雰囲気と言ったことのレベルみたいなものがあってない気がした。

 一夏が本音に避けられている、か……そんな風には見えないが。今までと変わらない気がする。

 

「そんな感じには見えないけど、どうして一夏は本音に避けられてると思ったんだ?」

 

「何ていうか……距離みたいなものを感じて。遠いというか何というか」

 

 一夏はそう言うが俺にはそんな風には感じない。これまた今までと変わらない。

 本音は沢山の人に愛される人懐っこいタイプの人間だが決して馴れ馴れしいわけじゃない。相手のほどよい距離感……友達の距離をちゃんと弁えている。それは一夏に対しても言える。俺から、傍から見て、一夏と本音の距離は今までどおり友達の距離だ。決して近いというわけでもないが、遠いというほど遠いってことはないと思う。

 

「そんなこともないと思うけど。俺から見てだけど、今まで通りにしか見えないけど」

 

「そうか……でもな……」

 

 またしかめ面をして考え込む。

 他人からの客観的な意見を聞いても一夏は納得できない様子。それは分かる。悩み事なんて自分が納得できる答えを得ない限り、悩み続ける。

 しかし、このまま悩み続けられても埒が明かない。野暮なことはしたくなかったが仕方ない。もう少し踏み込んだことを聞いてみる。

 

「一夏、お前自分でどうして本音に避けられてると感じるのか、何か思い当たる節があるんじゃないか?」

 

「……そ、それは……!」

 

 少し驚いた様にビクっとなっている一夏。その態度が全てを物語っていた。

 やっぱり、一夏が本音に避けられていると感じる何か思い当たる節があるようだ。

 何となくだがそんな気はしていた。

 

「……」

 

 言いずらそうにして一夏は黙ってしまった。

 あの一夏がこんな風になるなんて……よほど自分でも思い悩むようなことをしたんだろうな、きっと。

 だからと言って、本音が一夏を避けるなんて事ないと思うが。

 

 一夏は何度か言葉にしようとして何度も躊躇った後、漸く決心したようで言い始めた。

 

「この間、ダブルデートしただろ? んで、最後観覧車に2グループ分かれて乗ったのを憶えているよな?」

 

「ああ、憶えてる」

 

「その時にさ……俺、のほほんさんに告白したんだ」

 

「告白ってあの付き合ってくださいっていう愛の告白?」

 

「そ、それ以外に何があるんだよ……!」

 

 愛の告白という言葉を聞いて、意味がちゃんと分かっているようで、恥ずかしそうに顔を伏せる一夏。

 

 一夏が告白か……今あの時の事実を聞かされて、驚きを隠せない。 

 一夏は知ったら、気づいたらいろいろと手が早そうだと簪と言っていたが、まさか一夏に恋愛がどんなものか知ってもらい、好きな人がいて好きな人と恋愛するってことが具体的にどんなものか知る為のあのダブルデートですぐ告白するとは……気づいたら一直線というか、予想を裏切らないというか。

 

 だけど、今聞かされていろいろと納得いったことも出てきた。

 観覧車が終わった後、二人の様子がどうも親密だった乗る前よりもぎこちなく見えたのはそのせいだったのか。

 何かあったんだろうと感じて、聞くのも野暮だと思い聞かずにいたが、そのせいだったとはな。

 結果は……。

 

「……はぁ」

 

 聞くまでもないか。思い出したのか小さくため息をつい凹んだ様子の一夏を見ると、わざわざ確認の為にでも聞くのは可愛そうだ。

 しかし、告白があったにもかかわらず、本音に変わった様子はない。告白があっただなんて、本音からは聞かされてなかったし、そうだとも感じさせられなかった。本当に今まで通り。一夏との距離も今まで通り友達の距離だ。

 

 逆に一夏のほうが様子が変だ。何かあったのは明らか。

 告白されたことを知った今思えば、一夏のほうが本音と距離を作って自ら遠くしていたんじゃないかと思う。告白をして振られたんだ。気にするなというほうが無理があって、一夏は今までの本音との距離感がどんなものだったのか分からなくなったしまったんだろう。

 それは本音との距離だけじゃない、一夏のことが好きなあの五人との距離も今までの様に自分なりの上手い距離をとりあぐるているみたいだった。

 

……ああ、そうか。

 

「なるほどな……」

 

「何がなるほどな、なんだよ」

 

「お前が本音に避けられてると感じた理由だよ。何となく分かった」

 

「本当か!? 教えてくれよ!」

 

 さっきまで凹んでいたのに顔をバッと上げて期待するような表情を一夏は浮かべている。

 

「一夏、お前は本音との友達の距離に我慢できなくなったんだ」

 

「友達の距離?」

 

「振られてもお前と本音が友達なのは変わらない」

 

「……あ、ああ」

 

「でも、お前は振られても本音と友達でいることを嫌だと感じているはずだ。だけど、本音とお前は今友達なのは事実でそこには当然距離感ってものが出来る。家族には家族の距離、恋人には恋人の距離があるように。だから、友達の距離である本音が遠く感じて避けられてると感じてるんじゃないのか?」

 

 一夏は告白して振られたが、まだ諦めるなんてことはできないんだ。だから、本音が保つ友達としての距離が一夏にはとって遠いように思え、また避けられていると感じんだろう。一夏は単純に本音と友達の距離で居るのが嫌になったんだ。そして本音と友達以上の距離でいたい、または傍にいたいと思っているはずだ。これだけで一夏が本音に惚れていることはよく分かる。

 

「言われればそうかもしんねぇ」

 

 納得はした様子だが友達ということを一夏に再確認されたようでまた一夏は落ち込んだ。

 

「でも、そうだとしてさ。どうしたらいいんだよ……はぁぁ……」

 

 深いため息をつく一夏。

 こう目の前でため息つかれては堪ったものじゃない。はっきり言うか。

 

「一夏、ため息つくのもいいがお前はどうしたいんだ?」

 

「どうって……何が」

 

「本音に避けられてる気がして嫌なんだろ? だったらいろいろとあるだろう。ただでさえ友達でいたくないって思ってるんだから。そうだな……例えばもっと仲良くしたいとか。もしくは、付き合いたいとか」

 

「なっ!? 付き合いたいっておまっ!」

 

 お前は恋する乙女か。付き合うって単語聞いただけで顔を赤らめて恥ずかしがるなんて。

 そんな反応をするってことはちゃんと意味を理解して、本音を好きな異性として意識してるってことで、朴念仁だった昔と比べたら成長したってことなんだろうけど。

 

「違うのか? とてもそうは見えないけど……もう一夏には本音と付き合いたいってのはないか? 振られて諦めついた?」

 

「んなっ!? ……ッ、諦められねぇよ! でも、ダメなんだ……」

 

 一夏は暗く沈んだ表情を浮かべる。

 振られたのを否定しないあたり、ちゃんとって言ったら変だけど、やっぱり振られたんだな。

 諦められないという気持ちも今の表情を見ていたらよく分かる。一夏はまだ諦めてない。

 しかし、一夏のこの暗く沈んだ表情を見るからして、かなりこっ酷い振られ方をされたんだな。本音なら一夏が傷つかないようにやんわり断りそうなものだが。

 というか本音、一夏のことを満更でもなさそうだったから告白されてすぐに受けるってことはなくても交際前提の友達付き合いみたいなものを提案しそうだが、一夏が傷つくと本音は分かっていてもきっぱり断ったってことは何か考えあってのことなんだろう。

 

「ダメか……一夏、こんなこと聞くのは悪いと思うんだけど、ちなみにどう告白して、どう振られたのか教えてくれないか?」

 

「えっ……か、観覧車で二人っきりになった時にさ、夕日見てるともう終わりなのかって急に実感わいてきたんだ。このまま分かれるのが寂しいなって……まだのほほんさんと一緒にいたいって思う自分が居ることに気づいてさ。こんな気持ち他の奴ら、友達じゃならないって確信は持てたんだ、その時。お前、言ってただろう? 『単純に一人の人とだけ友達以上に特別一緒にいたい、自分の傍にいてほしいって強く思うことだと』って。だから、また一緒にいたい過ごしたい……今度は二人でデートしたいって言ったら、のほほんさんにどうしてそう思うのかって聞かれて、好きだからって告白した」

 

 告白した理由としてはちゃんとしているとは思う。

 一夏が言いそうな友達感覚で好きだって言ったわけじゃなく、ちゃんと一人の異性として本音のことを意識しての好きを伝えた。悪くはないと思う。

 だが告白したのはいいが、これで振られたんだよな、一夏は。一夏の告白を聞いただけに、どう振られたのか余計に気になってしまう。

 

「で、どう振られたんだ?」

 

「やっぱ、言わないとダメか?」

 

「無理にとは言わないけど、言ってくれないと相談乗れそうにないし、ここまできたら言って楽になれ」

 

「くっ……分かった」

 

 苦い顔していたが覚悟を決めたのかしぶしぶ一夏は話し始める。

 

「俺はまだのほほんさんしか知らない。のほほんさんとしかそういうデートしてないから他の奴ともそういうデートしたら同じ様に感じるかもしれなくて、のほほんさんへの気持ちが変わるかもしれないって言われた」

 

「まあ、何だ……本音らしい言葉だな。それにその通りだと思う」

 

「なっ! お前!」

 

 本音への気持ちを疑われたと思ったのか、一夏は語気を荒げる。

 

「落ち着けよ。お前だっていくら友達でも一日デートしただけ好きだって告白されても気持ちは嬉しいけど困ったりするだろ」

 

「うっ……そ、それはそうだけど……」

 

「それに本音は一夏にもっと周りを見てほしいから言ったんじゃないか?」

 

 一夏の気持ちを疑いたくはないが、本音が言うことはもっともだ。

 本音としかあんな風なデートをしておらず、恋愛対象とした今の一夏はまだ本音一人しか知らない。一度のデートで惚れて告白するのは悪いことじゃないが、一夏の場合は生まれたてのヒヨコが始めて目にしたものを親と思い込む刷り込みのようなもの。

 本音が最初だったから本音に思いを寄せているだけで、本音以外の相手が本音と同じ様なことをすれば今の様になる可能性は否定できない。本音はそれを危惧して言ったのかもしれない。

 それに何より、本音はもっと周りを見てほしいんだろう。恋愛が……大きく言うと愛がどんなものか知っただろう今の一夏なら、篠ノ之達の気持ちに気づく可能性は前以上に高い。

 

「もっと周りをか……」

 

 何か思い出したような顔をしている一夏。

 やっぱり本音に何か言われたみたいだな。

 

「そういえばさ、俺……のほほんさんに告白した時に言われたんだ。俺のことを好きな奴が居るって」

 

 まさか……!

 

「俺ずっと知らなかった……箒達が俺のこと好きだったなんて……」

 

 マジか……本音の奴、一夏に言ったんだ。

 まあ男の俺からは言いにくいことだが、女の本音だから逆に言えることでもあったりする。それに本音なら抜け駆けしたくないとかで言いそうだ。恋愛を知っても一夏が自分からあの五人からの想いに気づくとは限らないし、知るのが遅い早いかだけの問題か。知るなら知るで早いことにこしたことはないことだし。

 

「って……お前、あんまり驚いてないな。もしかし……お前も知ってたのか?」

 

「まあ、な。というか、知らない奴の方が少ない。多分知らないの一夏ぐらいなもの」

 

「なっ!? そんなに!? 俺一人だけ知らないとか……」

 

 驚いたと思ったら凹んだ様子の一夏。

 あの五人の一夏への態度は傍から見てもあからさまに一夏のことが好きだと分かる態度だし、こういうのって案外好意を寄せられる本人は気づかないもの。第一、本人が気づいてたらこんなことにはなっていない。

 

 本音が一夏にあの五人のことを伝えたから、いつもよりあの五人に対する一夏の態度が困り気味だったんだ。

 

「俺……あいつらの気持ちと向きあわねぇといけねぇよな……」

 

「それも本音が?」

 

「ああ。のほほんさんはあいつらの想いを無駄にしたくないって……俺にあいつらと向き合ってほしいって」

 

 本音が一夏を振った理由に納得がいく。まったく、本音らしいというか何と言うか。

 

「でも、向き合うってどうするんだ? やっぱり、デート?」

 

「うーん、難しいな。でも、デートはちょっと危ない気が……」

 

「そ、そうだよな……う~ん、ああ~! 分からん!」

 

 布団へと倒れこむ一夏。

 何が危ないと聞かない辺り、一夏でも察しているみたいだ。別に馬鹿にするわけじゃないが、あの五人とそういう意味でデートとなったら、ドタバタして一夏がボロボロにされる未来の姿が容易に想像できてしまう。前科というか前例みたいなものがありすぎるからな、あの五人。

 というか、ぶっちゃけ。

 

「あの五人のこともいいが一夏は結局本音とどうしたい、どうなりたい?」

 

「どうって……」

 

「諦められないんじゃないのか? じゃあ結果は兎も角、やることは一つ」

 

「何だよそれ」

 

「言わないと分からないか? もう一度告白するんだよ。こ・く・は・く」

 

「告白!?」

 

 だから、ざわわざ言葉一つで顔を赤くするのやめろ。

 

「避けられている気がしてそれが嫌で、告白したけど振られて、だけど諦めきれない。なら、やることは一つしかないはずだ」

 

「で、でも、俺は……箒達の思いと向き合わなくちゃならねぇ。やっぱ、デートしか……」

 

 一夏らしくないうじうじとして悩んだ様子。

 ことがことだからそうなっても仕方ないのだろうけど、頭が固いというか本音の言葉に囚われすぎてる。

 それだけ本音に言われたことがインパクト大きかったってことなんだろうけど。

 

「本音の言うことも正しいのかもしれないけど、本音がいったからするってのも変じゃないか? 本音が言ったからするなんて言いなりになってるようなもの」

 

「まあ……確かに」

 

「それに何もデートするだけが向き合うってことじゃないはずだ。それに一夏はもう既に向き合ってるだろ?」

 

 俺の言葉に一夏は分からないと言った表情で首をかしげる。

 

「あいつらの思いを知ってお前は悩んでる。それはもうあいつらの思いと向き合うってことだと俺は思うよ。それとも何? あいつらの思いを知って本音への思いは変わった?」

 

「そんなわけねぇよ! あいつらの気持ちは嬉しい、それでも俺は本気でのほほんさんのことが好きだ!」

 

「なら、結局することは一つかないだろ。もう一度、告白だ。あいつらの思いを知ってそれでも本音を好きだという気持ちは分からないってことを伝えるしかない」

 

 一夏の気持ちが固まりつつある以上、やることは結局変わらない。今はそれを何度も一夏に伝え続けるしかない。

 

「流石は彼女持ち。経験が違うな」

 

「茶化すな。それでどうなんだ? それしかないだろ?」

 

「そうだけどさ……でも、あいつらの気持ち直接聞かなくていいのか?」

 

「聞きたいなら聞いたらいいと思うけどオススメはしない。下手すりゃ嫌味になるかもしれないからな。俺のこと好きなのか?なんて。好きという気持ちを受けるなら別にいいかもしれないけど五人ってなると普通そうはかない。少なくても4人は振ることになるし、振るかもしれないにそんなことしたら余計に傷つけることになる。まあ複数人と付き合う、俗にいうハーレムなら気にしなくてもいいけどさ」

 

「気にするわ。それはいくらなんでも無茶苦茶だろ。俺は一人としか付き合うつもりはない」

 

 きっぱりと一夏は言いきった。

 と思ったらまた一夏は悩み始めた。

 

「でも、振るか……俺でもこんなに辛いのに……あいつらを傷つけたくない……」

 

「はぁ……告白なんて受けるか、振るかの二択しかないだろ。振られたら多少なりと傷つくのは避けられない。それぐらいは覚悟しろ。ましてや本音以外の気持ちは受ける気ないんだろ?」

 

「そうはそうだ。俺が好きなのはのほほんさんだけだから」

 

「だったら……」

 

「いや、だけどさ……」

 

 うじうじと一夏は悩み続ける。

 はっきりしない奴だな……もう答えは出ていて、後は覚悟を決めるだけ。

 優しいというか……『守る』ことに固執してる一夏らしい悩みで、悩むのは結構だが。悩むだけ無駄だ、結局本音以外振ってあの五人の気持ちを受けられないのなら結果的に傷つけてしまう。

 もっとも、一夏が本音にもう一度告白して振られる可能性がないわけじゃないが。

 

「はぁ……お前が本当に欲しいものは何だ? 本音? あの五人? どっちも欲しいなんて言うなよ。二兎を追う者は一兎をも得ず。二つに一つ。覚悟を決めろ、一夏」

 

「覚悟」

 

「そうだ。お前がそううじうじ悩んでいる間に状況は変わっていく。本音がいつまでもフリーとは限らない。もう一度告白するなら今しかない」

 

 一夏を急かしているのも分かっているけど、一夏にこのまま悩ませていても事態は進展しない。その場で足踏みし続けるようなもの。これは俺個人的なことだけど、俺としては一夏には本音とくっついてほしいというのもある。一夏には早く幸せになってほしいから、こう急かすように余計なお節介をやいてしまっているのかもしれない。

 それに一夏にはもう既に答えは出ている。例え何かを犠牲にしようも本当に得たいものを得る為の覚悟をするだけ。

 後、俺が出来るのはそんな一夏の背中を押すぐらいのこと。結局行動するのは一夏自身だから。お節介なのは今更百も承知。一夏には今という絶好の機会を逃してほしくない。

 

 一体どれほど一夏は思案していただろうか。短いようで長い、長いようで短い思案の後、一夏は決心した顔で言った。

 

「そうだな。俺、もう一度のほほんさんに告白してみるよ。デートから日が経っても変わらない俺の気持ちを」

 

「そうか」

 

 一夏の決心は決まったようだ。

 後は一夏の頑張り次第で結果はどうにでもなる。真摯な一夏だ。ありのままの思いを伝えれば、きっと本音にも今度こそ思いは伝わり、結ばれるだろう。俺は一夏の告白を祈るばかりだ。

 

「あ、でも」

 

 漸く話が終わったと思い、やっと寝れると思ったのに話はまだ終わってなかったらしい。

 一夏は何かに気づいたように表情をしている。

 

「告白ってどうするんだ?」

 

 一夏の言葉の意味がよく分からない。何言ってんだこいつ。

 

「いや、どうするも何も本音に改めて気持ちを伝えるだけだろ。簡単のように思えて難しいのは分かるけど、一夏は一度告白したんだろ?」

 

「それはそうだけど……あの時はその場の雰囲気というか流れというかそんなんでしたからよ。改めて告白するってなるとどうしたらいいのか分からない」

 

 分からないって何だ。俺はお前の言っていることが分からない。

 

「一夏が本音に思ってることを想いを本音にありのまま全て伝える。それだけ」

 

「それだけって……告白の場所とかいろいろとあるじゃん? シチュエーション?とか……告白の言葉もそうだ。なぁ、教えてくれよ~!」

 

「アホか。告白の言葉は自分で考えろ。意味がない。というか、そんなことまで人に頼ろうとするなよ」

 

 えー!といった顔を一夏はする。

 余計なお節介でアドバイスしすぎたかもしれない。

 それにさっきまでわりと真面目な話しをしていただけにこう間の抜けた話をされると気が抜けて、疲れを感じてくる。いい加減眠くなってきた。

 

「まあ、告白の場ぐらいは俺と簪で設けてやる。だが、その場の雰囲気作りや告白の言葉は自分のことなんだから自分で考えろよ」

 

「わ、分かった……! だけどよ、いつ告白するのが一番いいんだ!? 明日かっ!?」

 

 相変わらず気が物凄く早いな。一夏の首根っこ攫んでいる様な今の状態でその首根っこ離したら本音へ一直線を猛ダッシュしてそうな勢いだ。

 

「明日って……ていうかもう今日だがそれはやめといたほうがいいんじゃないか? 気持ちが高ぶったままじゃ告白の言葉も上手くまとまらないだろ。日を置いて、いろいろと整理して考えたほうがいい。数日ぐらい日を置いてもお前の気持ちはぶれないだろう?」

 

「当たり前だ」

 

「が、あまり長く日を置きすぎるのもよくなさそうだし……今日は金曜日になったから明後日の日曜日にでも告白するのがベストじゃないか?」

 

「日曜日……分かった! そうする! 俺頑張る!」 

 

 告白からくる緊張でテンション上がっているだけなんだろうけど夜中なのにテンション高いな。

 まあこれで一夏の覚悟は決まり、告白の日にちも決まった。後はその日に備えるだけ。後は本当に一夏の頑張り次第だ。

 

「本当、助かったよ、お前にはこの間からずっと何から何まで世話になりっぱなしだ。お前がいてくれて、お前が友達でよかったよ、感謝してる。ありがとうな!」

 

「やめろ、改まってだなんて気持ち悪い。まあまた相談に乗るのはいいがこんな相談はこれっりな。一夏らしくなくうじうじ悩まれるのは疲れる」

 

「うっ……すまない」

 

「まあ、何だ。その……本音と結ばれることを祈ってるよ。頑張れ」

 

「おうっ!」

 

 一夏は元気よく頷いた。

 





今回の話の男主も前回同様に簪の相手である男性はオリ主です。決して一夏ではありません。
無論、主人公は簪が好きなこれを読んでいる貴方かもしれません。

それでは~

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