「ふわぁ~……」
眠気からくる欠伸を噛みころすように抑える。
今夜も彼とお話できた。話の内容は本当にありきたり。今日あったことや共通の趣味の話題。
私はあまり自分から話をするのは得意じゃない。でも、彼は急かしたりすることなくちゃんと話を聞いてくれて、彼もまたたくさんのお話をしてくれた。部屋からの外室禁止時間までの短い時間だったけど、今夜もまた彼と同じ時を少しでも長く過ごせてよかった。
いつもと変わらない夜の過ごし方で、些細なことだけどそんな些細なことが幸せ。
幸せな気分のまま眠れそうだと思ったのに……。
「う~ん~……」
お肌のお手入れとか歯磨きを終えて、いざ寝ようとベットに戻ってみれば、着ぐるみパジャマに身を包んだルームメイトの本音がベットの上にある枕に顔を埋めて、うーうー唸っていた。
このところ、部屋にいると大体いつも本音はこんな感じで考え事というか悩み事してる。学校ではいつも通りだけど、部屋に戻ると唸りながら悩み始める。主人である私の前でもお構いなし。別にそれはいいし、本音が悩み事するぐらいなら私は気にしない。
むしろ、本音とは幼馴染で幼い頃から知っているけど、悩み事とは無縁の生き方、いつもゆっくりのんびりとしているだけにこうして本音が本気で悩み事をしている姿を見るの初めてで、正直面白い。始めのうちは初めてみる本音の姿が面白かったけど、流石にこう何日も隣でうーうー唸りながら悩み事されるとイラっとくる。私や誰かに相談するわけでもなく、一人で悩み続けているから余計に。
本音がこうなったのはあのダブルデートがあった日からだ。何について悩んでいるのかは大体察しがついている。
「……そろそろ寝るよ」
「う、う~ん……」
返事なのか唸り声なのかどっちなのか分からない声をあげる。
人が折角、幸せな気分に浸っていたのに本音のおかげでもうそんな気分じゃない。
はぁ~……あんまり面倒ごとには関わりたくなったけど、明日もまたうーうー唸られて悩み事され続けたら堪ったものじゃない。それに本音には昔っから散々世話をかけているんだ、たまには私のほうが本音に世話を焼いても罰が当たったりはしないだろう。
私は自分のベットに腰を降ろして、問いかけてみた。
「……本音、悩み事あるなら私でいいなら聞くけど」
「!? な、悩み事なんてないよ!?」
ビクっと肩を震わせ、慌てた様子になる。あからさますぎる。
隠すならもう少しマシな隠し方は思いつかなかったのか。
「何年一緒にいると思ってるの。隠し事しても無駄。どうせ、織斑のことで悩んでいるんでしょう」
「……ッ!」
図星だったのか声も出ないほど驚いて、本音は耳まで顔を真っ赤に染める。
こんな本音見るのは初めて。恥ずかしそうに目を泳がせて照れている本音のその姿は同性の私から見ても可愛いと思う。
こんな反応されると、恥ずかしがるようなことが織斑とあったのかと気になってくる。それに本音の様子が可愛くて、おもしろくてついつい悪戯心が働いてしまう。
「にゃ、にゃんでお、おお、おりむーがッ!? わ、私、本当になにもっ!」
「ふーん……そんなこと言うんだ。へぇ~……」
「うぅ~……今日のかんちゃんいじわるだょ~っ!」
本音は今にも頭から湯気が出そうなくらい真っ赤。
かわいそうなぐらい動揺している本音が可愛くて、からかうのが楽しい。私はどっちかというとからかわれる側だから、こうしてからかう側にまわってからかってみるとその楽しさがよく分かってしまう。こんな可愛い反応されるとからかいたい気持ちが抑えられなくなりそう。
でも、からかうのはここまで。本音の具体的な悩みはまだ聞けてない
「話を戻すけど、本音が悩んでるのは見ててすぐ分かる。こう毎日隣でうーうー唸られたら余計に」
「うっ……」
「無理に話せなんて私は言わない。でも、うーうー唸りながら一人悩むぐらいならさっさと言ってほしい。こういうのって誰かに言うだけでも楽になるものでしょう?」
「で、でも……」
悩み事を話すことに本音は抵抗があるみたい。仕方ないか……悩み事の内容は兎も角、言うことを進められて簡単に言えたらこんなにも悩まない。
「私じゃ上手い解決案なんて思い浮かばないかもしれないけど……私でも話し聞くぐらいできるから。親友の悩み事ぐらい聞けるようになったし、聞きたい。だから……」
私は今まで本音にずっと世話になりっぱなしで、そんな本音に感謝するわけでもなく顧みず、私はずっと自分のことばかりだった。でも、私は“彼”と出会え結ばれて変わることが出来た。
昔よりかは少しだけでも強くなった。そう思っているし、だからこそ親友の悩みごとを聞くぐらいなんてことはない。
むしろ、今まで主人らしいことはもちろん、友達、親友らしいことは出来なかったからこそ、今この時本音の悩み事を聞きたいとそう思う。
「……分かった。ありがとう、かんちゃん」
優しげな笑みを浮かべると本音は決心したのかゆっくりと話し始めてくれた。
「かんちゃんの言う通り、私ね……今、おりむーのことで悩んでるの」
それは知ってる。というか、本音が今悩むなら織斑のことぐらいしかない。最近、何かあったのって織斑しかいないのだから。
そういえば、織斑も本音みたいに最近様子が変だった。周りとの女子、特に本音と距離を取りあぐねているようで、そしてまたあの五人とも距離を取りあぐねているようで、今までと比べて明らか様子が変。
そうなったのは本音と何かあったからなんだろうことはすぐに分かったんだけど、本音でもこんなにもうーうー唸って悩んでいるから、織斑はもっと酷い悩み方してるんだろう。同室の“彼”も大変そう、明日にでもなぐさめてあげよっと。
「それは知ってる。というか、織斑のことで悩んでるのって……ダブルデートの日からだよね? 何かあったんでしょう?」
「えぇっ!? かんちゃん、気づいてたの!?」
目を見開いてた本音はとても驚いた表情をしている。
何故、気づいてないと思ったのかこっちが驚きたい。ダブルデートが終わったその日の夜から悩み始められて、隣でうーうー唸られたら私じゃなくても気づいているはず。この様子だと本音本人は隠していたつもりなんだろうけど、本音ってのんびり通り越してただの間抜けな気がしてきた。
「まあ、ね。それで……続きは?」
「えっとね……それでダブルデートの最後に観覧車乗ったの憶えてるよね?」
「うん」
「それで……ね」
本音にしては珍しく要領を得ない。
頬を赤く染め何処か恥ずかしがりながらも嬉しそう。その姿はまるで恋する乙女そのもの。どうしたんだろう?
「その時、おりむーに告白されたの」
「告白ってあの付き合ってくださいっていう愛の告白?」
「そ、そうだよ……ちゃんと告白してくれたから」
恥ずかしそうにしながらも言う本音を見て、織斑が言いそうな軽口じゃなく本当の告白をされたんだと分かる。
しかしあの織斑が告白か……正直驚きは隠せないし、始め聞いたとき聞き間違えなのかと思った。織斑は恋を知ったら、気づいたらいろいろと手が早そうだなんて話を“彼”としてたけど、まさかこんなに早いなんて。正直、これ以上どう驚いたらいいものやら。
本音のことを前から好きだったのなら、まだ納得できなくはないけど、織斑に今までそんな素振りはなかった。本音を好きになったのはあのダブルデート中なのは間違いない。一度のデートで惚れて告白するぐらい珍しくもおかしくもないんだろうけど、あの織斑だと何故だか違和感を感じてしまう。
早すぎ……私達ですら告白して付き合うのに二ヶ月近くかかったのに。
「でも、本音は……」
言いかけて私は口を噤む。結果は言うまでもない。
「あっはは……やっぱ、かんちゃんには分かっちゃう? 気持ちは嬉かったんだけど、きっぱり断っちゃった」
本音は苦笑いを浮かべながら何処か少し寂しそうに言った。
思った通りだ。告白を本音が受けたら織斑と付き合うことになっていて、今日までみたいに平穏には過ごせていない。織斑が誰かと付き合うってことになったら、絶対一波乱も二波乱もある騒動になる。
それに納得いったことがある。織斑のぎこちない様子の理由だ。本音に告白して振られたらショックの一つや二つ受けてあんな風に様子が変になっても無理はない。むしろ、ショックを受けず平然としてたら、私が一発頬を叩いているところ。こんなに可愛い本音に告白したのに平然としているなんて信じられないのだから。
もっとも、織斑のあのぎこちなさは単に本音に振られたからじゃないと私は何となくだけどそう思う。
それに関係してか、私の中にある疑問が出来た。
「そうなんだ。だけど、本音……何で断ったの? 織斑のこと嫌い?」
意地の悪い質問だと我ながら思うけど、聞かずにはいられない。
ダブルデートは本音があの会話の場にいていろいろな都合がよかったからと半ば強引に本音には付き合ってもらったけど、傍から見てお似合いな二人だったし、織斑のことを本音は満更でない様子は見て明らかで、正直本音は織斑のことを好きになりつつあるなっていうのは見て感じた。
だから、本音が織斑の告白をきっぱり断ったと聞いてびっくり。
「き、嫌いじゃないよ……そ、そのおりむーのこと正直……」
「好きなんだ。可愛いね、本音」
「好きだけど~……可愛いって! もう~っ! やっぱ、今日のかんちゃん意地悪だよ~!」
恥ずかしそうにもじもじとしながら言う本音。
一々赤くなってるものだから可愛くて、こんな姿の本音を見るとまたからかいたくなる衝動が沸いてくる。
それに随分とあっさり認めたなぁ。まあ、今更否定したしたら結局認めるようなものだから、認めるしかないだけど。
「だったら、どうして」
どうして本音は織斑の告白を受けなかったの?
もちろん断った理由はちゃんとあるんだろうことは分かるけど、それでも好きなら告白を受けてもよかったのに……と、そう簡単に思ってしまうのは薄情にも結局他人事だと何処かで思っているからかもしれない。
「ダメなんだよ。そりゃ始めてデートしたその日に告白されてびっくりしたからってのあるけど、今のおりむーの気持ちを素直には受けられない」
「今の織斑?」
少し考えてみたが本音が何を言いたいのか分からず私は首を傾げた。
「うん。デートでおりむーには目的だった恋をすることや好きな人がいて恋をすることがどんなことなのか分かってもらえたみたいでそれはよかったんだけど、分かったばかりなのにすぐ告白してくるのは盲目的というか……おりむーはまだ私しか知らないからあんな風に告白できた気がして。多分、私と同じようにおりむーにデートでもして一緒に過ごしたら、私じゃなくても誰でもいい気がしちゃったんだ」
盲目的か……確かに言われればそうかしもれない。
本音と織斑のデートはあの五人では考えられないほど優しく、暖かいものだった。普段体験しないような一日を一緒に過ごせば、本音は優しく気遣いの出来るいい子だから場の雰囲気もあって…あの織斑ですらころっといってしまうだろう。事実本音の優しい部分に惚れて告白したっぽいし。
そしてあの日のデートは本音に惚れてもらうためのデートじゃなくて。恋がどんなものなのか、好きな人と恋をするのがどんなのか知ってもらうのが目的のデート。知ってもらってあの五人の気持ちに少しでも気づいてもらうのが最終目的なわけで……織斑が本音に惚れたのはその時に一緒だったのがたまたま本音だったという事と、優しくしてくれたのが本音だったからなんだろうな……。
正直、場の雰囲気といつもと違って優しくされれば織斑は本音じゃなくても誰でも好きになってしまいそうなところがある。まるで某赤い彗星みたいに。立場が某白き流星だから余計にたち悪いけど。
だから、織斑には悪いがこれは盲目的と言われても仕方ないのかもしれない。
だって……。
「好きな人にはやさしいところをだけを好きになってもらうじゃなくて、やっぱり私自身を好きでいてほしいよ。変わりに好きになるかもしれない人がいるのって辛いから」
「そうだよね」
本音が言うことはもっとも。
別の誰かに変わられるぐらいの好きなら、こっちからお断りだ。
「それにおりむーは私の何処が好きで告白してくれたのかよく分かんなかったし……」
「言ってくれなかったんだ。本音の何処が好きか」
「うん。まあ、私が割りとすぐに断っちゃったから言えなかったと思うけど」
「でも、言ってほしかったよね、そういうのは特に」
「うん……ちょっぴりね」
「ああ……」
少し凹んで様子の本音を見て、私は同情したような何とも言えない気分になる。
『ねぇ、私の何処が好き?』みたいな定番ともいえる女特有のめんどくさい質問だ。
めんどくさがられるだろうなと分かっているけど私も度々“彼”によく聞いてしまう。“彼”はその度にめんどくさがらず、ちゃんと日頃から感じていることや私の好きなところをたくさん言ってくれるから嬉しいからいいけど。
本音の場合は告白だ。男にしたら好きだから告白したとかなんだろうけど、何処を好きになって告白しようとしたのかぐらいは聞きたいもの。それこそ、織斑の場合は本音が好きなのか、たまたま本音だったから好きになったのか分からないから聞きたかったはず、本音は。
織斑が告白したのはもう驚きはしないけど、今一つ織斑は本音のことを好きになった決め手にかけてる気がする。
「第一おりむーには篠ノ之さん達のこともあるから……素直に受けられなくて」
「抜け駆けしたくなかったとか?」
「それも少しはあるけど、やっぱり皆のおりむーのこと好きだから皆の思いを無駄にしたくないっていうか。ちゃんと向き合ってほしいから」
本音らしすぎて何も言えない。
本音も織斑の事好きなんだから自分の気持ち優先したらいいいのに、他人に優しくて気遣い屋な本音にはそれができない。そんな本音だから皆に愛されて、私も何度も助けられるんだけども。
っていうか、織斑にはあの五人のこともあったなあ、そういえば。本当めんどくさい人。
「ただ……ね」
苦笑いを浮かべる本音。
「ただ?」
「余計なお節介というか何と言うか……凄い失言しちゃっておりむーに言っちゃったの」
何だか嫌な予感というか何と言うか、本音が何言ったのか察しがついてしまった。
この話しの流れからして本音が言いそうなこと。それは――。
「篠ノ之さん達がおりむーのこと好きってこと」
やっぱりか……本音、織斑に言ったんだ。
まあ、仕方ないか言ったものは。盲目的になってるだろう今の織斑じゃ恋を知っても、本音のことを好きになった織斑なら本音のことばかりに気が言って、それどころじゃなくなりそう。
「ほんとどうしてあんなこと私言っちゃったんだろ~! 頭にきてたとは言え、うぅぅッ!」
後悔からなのかベットの上にある枕に顔を埋めてまたうーうー唸っている本音。
本音はこのことでも悩んでたんだなあ、きっと。
というか、頭にきてたって何があったんだろう、気になる。
「やっぱり、ダメだったよね!?」
「う~ん……どうだろう、私は言ってよかったと思う」
えっ!?と本音は驚いた表情をする。
「今の織斑じゃ恋とか知ってもとてもじゃないけど気づかない。本音が織斑のことで頭一杯なように織斑も本音のことで多分頭いっぱいだと思うから」
「うぅ~!」
「なら、いっそ言った方が早く織斑が知れることができていいと思う。前に本音が言ってた言葉通りだよ」
「?」
「下手したら大分歳いってから気づきかねない、特に今の織斑なら。それにどうせ、知るのが早いか遅いかの話。それなら早いことにこしたことはないよ」
本当それだけの話。
むしろ、今の織斑が早いうちにあの五人からの好意を知れてよかったんじゃないかと思う。
恋を知っても気づかなかったら、見てるしか出来ない私達は織斑の鈍感っぷりに呆れながらも見せられることを強いられていただろうし。
それに本音が織斑にあの五人のことを伝えたから、いつもよりあの五人に対する織斑の態度が困り気味だったんだ、と最近の織斑の様子に納得がいった。
「でもやっぱり、おりむーには自分で気づいてもらった方が……」
「言ったのに今更後悔しても遅い。というか、何度も言うけど鈍い織斑が自発的になんて無理」
「あっはは……」
私の言葉に本音は苦笑いを浮かべている。
「本当どうしてあんなに鈍いのか」
鈍いなんて言葉だけで片付けていいものかと思うほど鈍い。時々わざっと鈍いフリしてるんじゃないかと思ってしまうほどに。
あの五人のことにしてもそうだ。直接言ってないとは言え、あんなにもあからさまに織斑への好意を示しているのに気づかないなんてどうかしている。
「鈍感かぁ……そうだね。多分、私が思うにおりむーのあの鈍さの原因は『自分をないがしろ』にして、自分は後回しで、他人のことばかり気にするからじゃないかな」
どういうことだろう?
「おりむーは相手のことばかり大切にして自分をないがしろにするあまり『自分がされたらどうだろう』って感覚が鈍いんだよ、きっと。それにおりむーってあんまり自己主張しないじゃん? 周りがおりむーに頼りすぎてそうさせないってのもあるけど、おりむーの中でも自己主張するのは甘えだと無意識にでも思ってるんだろうね。だから自己主張しないおりむーには『自分がどうしたいか』が抜けて、歪んでしまう。『自分がどうしたいか』を持ってない人が『相手がどうしたいか』を分かるのはとても難しいよ」
確かに。
織斑が自己主張している姿って私が見る限り見たことない。いつも話題の中心、沢山の人の中心に織斑はいるけど、それは基本的に巻き込まれて結果的にそうになっただけ。いつも誰かに、五人に引っ張られて、仕方なくってことがほとんど。
そうだよね……自己主張しない人に自己主張する人の気持ちが分かるわけがない。特にあの五人は自己主張がとても強いから。
「……それだと普段からズレたり鈍感になったりするんじゃないの? でも織斑、普段はどっちかっていうと鋭い方じゃない?」
「それは「相手がどうしたいのか」がわからないから、「一般的にどうなのか」で判断するから大丈夫なんだよ。だから普段は困らない。でも、こと恋愛ごとになるとそうはかいない。第一、おりむーはつい最近まで恋愛ごとについて全くといっていいほど知らなかったんだよ? 知らないものを知ってるも同然と思って。『自分がどうしたいか』を持ってなくて『相手がどうしたいのか』がわからない人に鈍感だとか、早く気づけとかって……今更だけど、結構酷いこと、無茶苦茶なこと言ってるよね」
なるほどね。
本音の言葉に私はついつい関心してしまった。
「どうしたの? かんちゃん。急に黙っちゃって」
「……本音って本当よく織斑のことを見てるなって。それにちゃんと織斑のこと考えてるし」
「ううん、そんなことないよ。私はただ知った風な口利いてるだけだよ」
「そうかな? 本音が本気で織斑のこと好きなのがよく分かるよ」
「なっ!? もう、かんちゃん~! またからかわないでよ~!」
「からかってるつもりはないよ。ほんとのこといっただけ」
好きじゃなきゃ、そこまで織斑のことを見て、考えたりはしないはず。
それに私が知る限り、本音ほど織斑のことを想ってる人は見たことない。あの五人もそれぞれでは織斑のことを診て考えてはいるんだろうけど、何処か自分を見ているような気がしてならないっていうのは私が言えた事じゃないし、それに本音ばかりよく考えているのは身内かわいさに、良いように思っているだけなのかもしれない。
とはいえ、好きっていうのを否定しないあたり、本音が織斑のことを好きなのはもう固まりつつあるみたい。
だからこそ……。
「でも正直、本音は織斑に具体的にどうしてほしいの? そして、本音自身はどうしたいの?」
「私は……」
思い悩んだ表情を本音は浮かべている。
「振ってもう織斑のことよくなった?」
「そんなことはないよ……!」
決して大きな声じゃないけど力強い本音の言葉。
本音はまだ織斑のことを諦めてない。織斑のことを思うばかりに今は一歩引いた感じだけど、本音がまだ織斑のことを諦めてないことは今までの本音の言葉の数々でよく分かる。
だから織斑のことを思うばかりに今は一歩引いた態度をしているけど、諦められない織斑への想いの狭間でどうしたら一番いいのか分からず悩んでいる。そんな本音の具体的な悩みの内容は分かった。
でも、肝心の本音は織斑に具体的にどうしてほしいのか、そして本音自身はどうしたいのが見えてこない。
まあ、見得ないというか……決められないから今悩んでいるんだけど、それでも漠然とこうしたいというのはあるはず。こうしたいけどこれでいいのかと迷うようなものが。
「織斑にはあの五人の想いと向き合ってほしいって言ってるけど向き合うって具体的にどういうこと? まさか、五人一人ずつ私達がしたようなデートでもさせるつもりなの?」
「うっ……」
「ああ……言ったんだ」
「あ、あくまで例えばだよ~!」
慌てて弁解する本音。例えでもそれはどうなんだろう。
私、あの五人のことよく知らないから私見でしか言えないけど、あの五人一人ずつデートなんてしたらただ事ではすまなさそう。ただでさえ織斑はまだ本音のこと好きだと思うから、デートなんて私達の時ほど上手くはいかなさそうな気がする。
第一、五人一人ずつデートなんて現実的にしんどいだけ。かといって五人まとめてなんてすると結果は怖いぐらいはっきりと見えてる。
「べ、別に私は何も本当にデートしてほしいだなんて思ってないよ。デートは一人の人とするのでさえ、大変なんだから。だからって、オルコットさん達の気持ちを確かめろ何てことも言わない」
「そんなことしたら織斑冗談抜きで確実に死ぬよね」
「……あっはは、そうかもしれないね。かんちゃん、私が言う向き合うってことはね……五人、皆の思いを知った今、篠ノ之さん達のことについてちゃんと悩んでほしい。『他の選択肢』を『ほとんど知らない』のに『盲目的』に私だけを見るんじゃなくて、おりむーにはもっと沢山の『他の選択肢』があるんだから、もっ周りを見てほしい。皆本当は優しくていい子ばかりだから。だから皆の好意を知ってたくさんたくさん悩んで、それでも私を選んでくれるのなら」
本音は決心したような顔をして言った。
「私はもうおりむーの想いから逃げない。私もおりむーと……ううん、織斑君と
本音の気持ちは固まったみたい。その証拠に本音の表情に迷いはもうない。
「何かすっきりしちゃった。ありがとう、かんちゃん。話聞いてくれて」
「お礼なんていい。本音がすっきりしのなら私はそれで」
「よぉ~し、私頑張るよぉ!」
「うん、頑張って。応援してる」
私でも少しは本音の役にたてたみたい。よかった。
後は本音の頑張り次第。本音ならきっと必ず織斑をものにできる。私に後出きる事は微力ながらの応援ぐらい。
こんなにも織斑のことを見て、考えて、思ってるんだ。もしも織斑が本音を泣かして、悲しませるようなことがあったら、絶対許さないんだから。
「あ……」
「かんちゃん、どうしたの?」
「本音、頑張るのはいいけど、何も頑張るのは告白の時だけじゃない。というか、付き合ってからのほうが頑張ることは多いかもしれない。それは多少なりと覚悟はしておいたほうがいいよ」
「どういうこと?」
「本音はあの織斑と付き合うかもしれないんだよ。政治的な問題は抜きにしても織斑はモテるし、あの五人は織斑に恋人が出来てもそう簡単には諦めそうにないよ」
「ぁ……そう、だよね……返って叩きつけることになるよね」
その辺ことはちゃんと本音は分かっているみたい。
未来のそんな光景を想像してか、困った顔している。
本音と織斑が付き合うとはまだ決まってないのに今のうちから不安を煽るようなこと言ってるのは分かっている。でもこれは先人として……じゃないけど、一応言っておかないと。
世界で二人しかいない男性操縦者と恋人関係を続けるのは思っているよりも大変なこと。政治的な問題も勿論あるけど、アイドルを独占するようなものだ。周りから嫉妬や羨望とか様々な思いをたくさん寄せられる。事実私もそんなことは体験済みだ。
それに織斑の場合はあの五人のことがある。織斑からケジメをつけようとしても彼女が出来ようとしても、あの五人はあきらめたりしない。ケジメなんてことで諦められるなら最初っから諦めてる。五人が特別ってわけじゃなく一般的にも女の子はあきらめたりしないはず。むしろ、余計に燃え上がって何とかして自分を見てもらおうと頑張ったりする。
そうなったら大変さが大きくなる。
「あ……ちなみにね、かんちゃんはどうしてたの?」
「私?」
「ほら……楯無様」
躊躇しながらある人物の名前を言う本音が何を言いたいのか分かった。
私もその大変を現在進行形で私は目の当たりにしている最中。織斑のように五人なんて大人数じゃないけど、私の“彼”を付き合ってもお構いなしに狙っているどうしよもないくらい諦めの悪い人が一人いた。
楯無、更識楯無――私の実の姉。私の“彼”を狙っていたのはお姉ちゃん一人だけど、お姉ちゃんは楯無の名を継ぐ人。しつこさは格別。あの五人のアレさ加減が一つになったような存在。
私達の仲を認めてはくれているみたいだけど、その上で“彼”を狙っていた。まったくどうしようもなかった人。
過去形。それは前までのこと。最近ではようやく諦めはじめたのか、私達に必要以上に近寄ってこなくなってきた。
それを本音は知っているから聞いてきたんだね。
「私の場合は“彼”との仲を見せつけ、差に気付かせ、諦めさせたよ」
至極簡単なこと。
あんまり他人に見せ付けるような事はしたくはなかったけど、あればっかりはしないといけなかった大事なこと。
「『あれが居る限り手は出せ無い』と思わせられるように頑張り続けるしかない」
「そんなのでいいんだ。私、てっきりかんちゃんが楯無様を説得したんだと思ってた」
「そんなのって、本音。同じ様なこというけど説得して聞く人間なら最初から諦めてる。言っても分からない人には行動あるのみ。簡単なことのように思えるけど……見せ付けるのって結構勇気いるし、それにこれは根気が重要。途中でやめたらダメ」
私は言い聞かせるように言うと本音はメモするようにうんうんと頷いていた。
あれは大変だった。と今では懐かしめるけど、見せ付けるのは本当に勇気がいった。私達が人前でそういうことしないのも原因の一つではあるんだろうけど、物凄く恥ずかしい思いをした。
これでもかってわざっとらしいこともしたし……本当に根気が重要。流石のお姉ちゃんも一度や二度見たら満足するか諦めるだろうと思っていたけど、逆に“彼”の寝込みを襲ってきたとかなり時間がかかったのが今ではいい思い出。
実際、諦めさせるのは勿論、相手も相手で好きな人を諦めるのってかなり時間がいることだと思う。本当に想っていたのなら、想っていたぶんだけ時間はかかる。だから、途中でやめたりなんてできない。やめたらそれこそ、私の恋人の想いはそれまでって、逆にこっちのほうが恋人のことを諦めることになりかねない。
もっともこんなことして諦めさせようとしたら逆上して暴力的なことをしてくる可能性が少しはあるかもしれないけど、そんなことしてくる人には話通じないし、その人は所詮それだの人っていうことを向こうが勝手に自己証明してくれる。
だから、勇気を持って根気強く途中でやめたりしないで行動あるのみ。それしかないと私は思う。
「それに困難の一つや二つ二人で一緒に越えないと。後、困難を利用してしたらいい。そうしたらもっと仲を深められてラブラブになれるよ」
私の体験談。
本音に私がやったことを押し付けるつもりはなかったけど、何処か押し付けがましかったかな……と思っていると、本音はいつも感じで感心したような表情をして言った。
「何だかかんちゃん、とっても強くなったね」
「そうかな……昔よりも本当に強くなれてると嬉しいな。私は強い“彼”とずっと一緒に生きていきたいから」
「惚気だ~」
「なんとでも言って。本音も早く惚気られるように本当頑張ってね」
今まで散々私が惚気話を本音にしてきた。
でも、これからはもしかすると本音に惚気話を聞かされるそんな未来がすぐ目の前にあるかもしれない。
そうなることを望むのは私の我侭なのは分かっているけど、そうなる未来が私は楽しみ。
だから、私は本音の幸せを思って祈る。
「もちろん。かんちゃんに背中押してもらったからね。そうなったら頑張る」
笑みを浮かべて決心したように言う本音。
本音が望み、納得できる未来が得られるようにと私はそっと本音の幸せを祈った。
…
この物語初めてになる女性視点&簪視点。
“あなた”は今回いませんでした。ご了承を。
さて本音も動き出して、某赤い彗星系男子の一夏も動き始めました。
なのでこの話題でもう少し話は続いていきます。
お楽しみにしていただければ幸いです。
それでは~