時間が刻一刻と過ぎていく。
今夜はもう金曜日。約束の日曜日は明後日にまで迫っている。日曜日――その日は一夏が本音に告白する大切な日。
想いが固まり、告白すると決まってから一夏はずっとそわそわとしていてテンションが上がりっぱなしなのがよく分かる。それ自体はある意味当然の反応だが、学校でもそうなのであの五人に告白が終わってもう一度結果が出るまで悟られないかヒヤヒヤしたのが今日の出来事。それでも今一夏は一人寮の自室で本音への告白の言葉をあれこれ考えているみたいだ。それはいい。部屋にいてくれているから思う存分悩めばいい。
問題は俺のほうだ。『告白の場ぐらいは俺と簪で設けてやる』なんてことをかっこつけて言ったけど、実際どうしたらいいのか考え付かず、今こうして一人寮の外にあるいつも簪と二人っきり時に利用するベンチで一人悩んでいる。
冬の夜だから当然、寒いが分厚い上着と中に着込んでいるおかげで凍えるほど寒くはない。むしろ、夜風が冷たく熱くなりそうな頭を冷やさしてくれて丁度いい。部屋で考えるのもいいが、部屋には同室の一夏が今考えていて、邪魔したくない。それに今は一人で考えたい気分。
さて、どうしたものか。
一夏が告白をするのが始めてのように俺もまた他人の告白をお膳立てするのは始めて。もちろん、告白の経験はあるにはある。簪へしたので一度きりだが。
第一自分がする告白とは少しわけが違う。男に二言はない。今更前言撤回する気なんて毛頭ない。何より、大切な親友の一世一代の告白。結ばれるといういい結果を得てほしいと思うし、自分に出来ることなら自分の持っている力を尽くして協力する。そして、いい結果をより確実に得られるようにしてやりたい。
そう何処か意気込んでしまっているからこそ、余計になのかもしれない。
さて、本当にどうしたものか。そう思いながら夜空を見上げた。
「あ、やっぱりこんなところにいた」
心地のよい愛しい声が聞こえる。
声がした方向を向けば、俺の様に上着を着て、その上着の中も着込んだ簪がいた。
白い息を吐きながら少しだけ寒そうにしている簪。
どうしてここにと思っていると簪は少し飽きれたような表情を浮かべて言った。
「LINE送ったのに既読すらつかないから気になって。部屋に行ったら織斑しかいなくて外に出たって聞いたから……外にいるならここかなって」
経緯を説明されて、携帯を取り出すと簪のいう通りメッセージが数件来ていた。
マナーモードにしていたせいかまったく気づかなかった。ごめん、簪。
「いいよ……別に。隣、座ってもいい?」
頷くと簪は俺の隣へとベンチに腰を降ろした。
「それで……どうしたの? こんなところで。朝からずっと考え事してたみたいだった。今もしてるよね」
開口一番簪からそんなことを言われ、俺はびっくりする。
隠していたつもりはないが、凄いあっさりと見抜かれてしまっている。
「もう、なんでびっくりしてるの。私へんなこと言った?」
いいや、と首を横に振る。
当然と言わんばかりの簪にうれしい様な恥ずかしいような気持ちだ。
見抜かれている以上、今言わないわけにはいかない。
簪には一夏のことを話してなかったので、改めて昨日一夏から悩みを聞いたこと、気持ちが決まりもう一度告白することを一夏が決めたこと、そしてお膳立てすると決めたことを話した。
「へぇ~織斑ようやく腹が決まったんだ。よかった……本音、上手くいくかもね」
どういうことかと聞けば、簪はゆっくりと話してくれた。
同じ様に本音から悩みを聞いたこと。本音が一夏のことをどう思っていたのか教えてもらったこと。そして本音が一夏のことが好きで気持ちが決まったということを。
話をきいて驚いた。多少なりと一夏のことを振って気にしているとは思っていたけど、もしかあの本音が悩んでいたとは思わなかった。それに……。
「二人とも同じように悩んでいるなんて。ふふっ、付き合う前からもうこんなにも両思い……やっぱり、お似合いだね」
微笑む簪に同意しながら俺も笑みを零す。
おもしろいぐらい一夏と本音は同じ様に悩んでいることに簪と気づいてつい笑ってしまった。唸りながら一人悩んでいるのまで一緒だったなんてどれだけ似た者同士なんだか。
でも、二人がお似合いで両思いなのは確かだ。本音は本当によく一夏のことを見ていて、分かってくれている。そしてちゃんと一夏のことを好きでいてくれている。
それだけで二人が結ばれるのは確かだと確信させられる。
「でもね……何でそれをもっと早く言ってくれなかったの? ましてや告白の場を設けるだなんて大事なこと。私も本音のことがあるから余計に早く言ってほしかった。当然協力するから」
少し拗ねた様な表情で簪に叱られてしまった。
怒っているわけじゃないのは分かる。簪も本音には一夏と結ばれていてほしいと思っているのはよく分かっているから、こんな風に叱られても当然のことで言い訳はできない。
簪に真っ先に言わなかったのはまず最初は自分一人で考えたかったからだ。いつくか案を用意した上で、簪に言おうとしたがそれがいけなかった。一人で考えようとしても、いつくか案は出来たがすぐに否定的な考えが思い浮かんで一つも案を決められるずにいるのだから、もっと早くいうべきだったと今更ながら反省する。
「日曜日か……ちょっと気が早い気がするけど……早いことにこしたことはないよね。特に今の織斑をそのままにしてるとおちおちしてると皆に気づかれかねないし」
そうだな、簪の言う通りだ。
ダブルデートあった日から一夏の様子が前までと比べて変なのは誰の目から見ても明らかで、気持ちが決まって告白することも決まった一夏はそわそわしていてますます変だ。
今は適当に誤魔化しきれているけど、日を置けば置くほど一夏のあの様子なら確実に周囲にバレる。そうなったら面倒。特にあの五人にバレたら、絶対に何かしてくる。そうなってしまえば全てが台無し。
俺達としてはあの五人に今更邪魔されたくない。だから早いことにはことしたことない。
「う~ん……だけど、どうしよう。お膳立てか……改めて考えると難しい」
簪と二人して寒空の下頭を悩ます。
「大切な親友の告白だから何か特別なことでもしてあげたいけど……」
そう俺も同じ様に思うがやっぱりいい案が思い浮かんではすぐ否定的な考えが思い浮かんでしまう。
特別なことを、と意気込んでるのがいけないのか。言葉は一夏が考えるから兎も角、告白の場は俺達が設ける。告白ってどういうシチュエーション、場所でするのが一番いいんだろう?
定番の公園とかか? しかし学校の周辺は勿論、レゾナンスの近くに公園なんてものはない。でも、やっぱり外――外でまたデートしながらのほうがいい気が……。
「それは……やめといたほうがいいんじゃない、かな? 今は適当に誤魔化しきれているとは言え、あの五人最近の織斑を見て気にかけてるみたいだし……外なんて出ようものなら確実に尾行されかねない」
いくらなんでもそれは考えすぎじゃ……そう思ったけど否定しきれない。
今は適当に誤魔化しきれているけど、一夏の様子が今までと比べて明らかに変で違っているのは紛れもない事実。それは誰からもそう見えて、あの五人ですら一夏の様子を気にかけているのは俺にも分かる。一夏を学校の外に出そうものなら確実に尾行されかねない、か……だったら、どうすればいいんだ。
外がダメなら消去法的に中になるが……だからといって学校や寮のほうがかえって危ない気もする。詰んだ。
「あ、そうだ! だったらいっそあなた達の部屋は……どうかな? 日曜日に私達四人で遊ぶっていう体で一旦集まって……頃合を見て本音と織斑を部屋で二人っきりにして告白できるようにするの」
部屋かぁ……
「部屋なら織斑を外に出さなくてすむ。それに周りなんて気にしなくていいから、落ち着いて二人もいえると思う。私達も私達で人払い程度で済む」
それなら一夏を外に出さなくて済むから尾行される可能性はない。部屋から出ないから当然、見られる可能性もない。自分の部屋なら一夏も緊張を和らげることができるだろし、好きなタイミングで告白ができるはずだ。俺達も俺達でやることが人払い程度で済むのなら、それに越したことがない。
でも、告白の場所が俺達の部屋なんかでいいのだろうか。うーん、好きな女子との告白ならもっと場所としてムードや雰囲気がある所のほうが場所としていい気がするけど……。
「部屋なんかっていうけど……女の子としては好きな男子の部屋で告白されるのって……いつの時代も憧れるものなんだよ」
へぇ~そうなのか……始めて知った。簪の言うことなら信頼できるがしかし……と思ってしまう。
「部屋もちゃんと場所としてムードや雰囲気が充分あるから心配しなくても大丈夫だよ。それに」
簪は口角をニヤとさせ、いたずらっぽく微笑んで言った。
「あなたは……私に何処で告白したのか忘れたの? 私はちゃんと覚えているけどな」
もちろん憶えている。それを言われるともうこれ以上場所のことで何も言うことはない。
やっぱり、場所の選択肢としては部屋以外ないか。となると、明日土曜日一日も一夏をなるべく部屋にいさせたほうがいいな。
それに部屋でとなるとやっぱり俺達のほうでちゃんと警戒はしておいたほうがよさそうだ。
「そうだね。私達も部屋に入るまではなるべく見つからないようにするよ」
一学期の頃みたいに万が一、何かの拍子にバレてあの五人とかに無理やり部屋に入り込もうされたら怖いな……。
「それは考えすぎじゃないかな? まあ……万が一そんなことあっても私が四人だけで遊びたいからって断る。それでも過激なことして入ろうとするならそれまでの人達。それに邪魔が入ったところで告白やめてしまうのなら、それまでの思いだったってことだよ。そんな思いの織斑に本音は任せられない」
辛辣な簪の言葉。しかし、簪の言うことはもっともだ。
仮にあの五人がいつもみたいな過激なことしてきたら、それまでの奴らだってことだし、一夏も本音と五人の違いをより一層はっきりと感じるはずだ。邪魔が入ったとしても、それでも告白するぐらいじゃないと意味がない。邪魔が入ったぐらいでたくさん悩んで考えた告白をやめるのならそれまでの思いだったってことになる。
「だけど……心配しなくても大丈夫だよ。二人ならきっと上手くいく。二人のことは二人に任せて……私達は私達でやるべきことしよう」
それしかないよな。
お膳立てとは言え、元々告白の場を設けるって話だったわけだし、出来るのはここまで。
後は二人のことで、それは二人に任せるほかない。後、俺達できることは邪魔が入らないように人払いするぐらいか。
なら、それで決まりだな。
「うんっ」
そう頷く簪は夜空を眺めていて、その表情は何かを懐かしんでいるようだった。
「懐かしいね」
懐かしい?
「ほら、告白。何だか……ついあなたに始めて告白された日のことを思い出しちゃった。懐かしい……夏休みの終わりに整備室で告白されたのが昨日のことみたい」
懐かしむような表情を浮かべて簪は嬉しそうに言う。
付き合う前。俺から告白してそれを簪が受けてくれて今に至る。だけど、俺達の告白の場は整備室――打鉄弐式や俺の専用機を整備、調整する時にいつも使う整備室だった。
今では俺と簪の溜まり場になっている思い出の場所だけど、今思えば告白の場としてムードや雰囲気なんてないようなもの。だから、一夏達の告白の場として自室は整備室よりかは充分ムードや雰囲気があるのは分かる。それだけに今更後悔はしてないが、簪にはもっと告白の場として素敵なところでしたかったと思ってしまう。
「ま~た……一人難しい顔してる。どうせ……あなたのことだからもっと素敵なところで告白したかったとか思ってるんでしょう」
うっ……まったく鋭い。難しい顔していたのは認めるが、そこまで顔に出ていたんだろうか。
「難しい顔してだけだけど私には分かるよ。場所はもちろん大切だけど……場所以上にやっぱり、言葉と気持ちが大切……でしょう? 私は整備室でも充分嬉しかった。それだけじゃない。あなたの告白の言葉、気持ち……全部全部嬉しい」
難しい顔してた俺を励ますかのように簪は俺の手をそっと取って握ってくる。
簪の手は夜風で冷えてしまったようで少し冷たいが、柔らかい簪の手は気持ちよくて心地がいい。
「それにね……ちょっとおもしろかったし」
お、おもしろい……
「がーって私の不器用なところとか私の生真面目なところとかたくさん私の好きなところ言ってくれたと思ったら……急に黙って。と思ったら、『好きです。付き合ってください』って真剣な目で私の目を見て告白してくれて私すっごく嬉しかった」
微笑みながら簪は嬉しそうに言いながら、握っている手にぎゅっと力が篭る。
そんな簪に俺は見惚れてた。確かに懐かしいな……簪の言ってくれた言葉であの時、俺がどれだけ緊張したのか思い出した。一杯一杯で気恥ずかしいけど、本当懐かしい。
「……ッ」
強めの夜風が一つ吹いて、寒そうに簪は身を縮こまる。
目と目が合い、俺達は暖めあうようにどちらともなく抱きしめあった。
厚着していても感じることができる落ち着く簪の暖かな体温。冬の夜風の冷たさなんて気にも止まらない。
「ふふっ」
耳元で簪が小さく笑うのが分かる。こそばゆい。
「私……日曜日がとっても楽しみ。頑張るだろう二人の幸せを祈りながら……私達もちゃんと頑張ろう」
ああ。頷くように抱きしめる力を少し強くする。
俺も日曜日が楽しみだ。日曜日、一夏と本音には上手くいってほしい。幸せになってほしい
だからそうなれるようにと俺と簪は寒い夜空に祈った。
…
最近は一夏の恋物語(仮)ばっかりだったので一夏の恋物語(仮)に絡めつつ簪と“あなた”のお話を一つ。
ずっと冬っぽい話を書きたくて、いつかの感想で二人の馴れ初めの話がほしいとか頂いた気がするので今回の話になりました。
馴れ初めは触り程度ですが
甘くないのでもう少し甘い感じにしてもっと冬っぽい感じにしたかったですね……
今回の話の男主も前回同様に簪の相手である男性はオリ主です。決して一夏ではありません。
無論、主人公は簪が好きなこれを読んでいる貴方かもしれません。
それでは~