簪とのありふれた日常とその周辺   作:シート

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簪と過ごした11月11日

 さくっ、さくっ……とポッキーを食べている音が木霊する。

後どれくらいなんだろうか。目を閉じているから、実際後どのくらい俺と彼女――簪との間にポッキーがあるのか分からない。

 しかし、目を閉じていても簪が目の前にいて、だんだんとお互いの距離が縮まっていることはよく分かる。

 

「んっ……んっ、んぅっ」

 

 ただポッキーを食べているだけなのに簪の吐息が色っぽく聞こえる。それはきっと目を閉じているせいだ。目を閉じ、耳しか使えない今。脳が耳から聞こえる音をいつもより意識して、聞こえた音をつい厭らしいと思ってしまうのは男の性。

 

 そろそろポッキーの長さ的に唇と唇が重なるのではないだろうか。簪とそういうことをするのは嫌じゃない、むしろ好きなぐらいだ。だが、いかんせん普段してないようなことをしている為、このままそうなってもよいものかとふとした迷いが脳裏を過ぎ去る。

 

 そもそも何故今、こんなことをしているのか、それは簪のある一言がきっかけだった。

 

 

 

「ねぇ」

 

 放課後。学校が終わった俺と簪は俺個人の自室で過ごしていた。

 二人共通の趣味であるDVDを見ている時、簪が問いかけてきたのだ。

 

「……今日がポッキーの日だって知ってるよね」

 

 俺は頷く。知っている。今日は十一月十一日。

 この日、日本では今日の日付に使われている数字の11が某お菓子会社から発売されているポッキーとプリッツに見えるということから、ポッキーの日――正しくはポッキー&プリッツの日と呼ばれることがあり、日本記念日協会でも正式に認定されている記念日だ。

 学校でもポッキーやプリッツを食べている人達を多く見かけ、一夏が多くの女子からたくさんポッキーを振舞われていたのを思い出す。

 

「それでね、ちょっとネットで調べたんだけど……ポッキーの日にカ、カップル同士でする……ポッキーゲームってのがあってね」

 

 頬を少し深く染め恥ずかしそうに言う簪。

 

 そういえば、ポッキーの日にカップルはよくそんなことをするってのは何処かで聞いた憶えがある。どんなことをするのかもちゃんと知ってはいる。

 もっともあれはパーティーゲームの一つでポッキーの日関係なく、そのお菓子さえあればやろうと思えばいつでも出来る。

 確か学校でもそれを知ったラウラが一夏に迫っていたっけか。

 

「ポッキーゲームをカップルですると盛り上がるらしくて……だから、えーっと、ね」

 

簪が何を言いたいのか分かった。したいってことか、と聞けば簪は目を輝かせて言った。

 

「うん!」

 

 やる気満々の様子の簪。

 

 確かにカップルでそういうことをすれば盛り上がるだろうけど、俺の部屋には肝心のポッキーがない。こんなことなら、購買で買っておけばよかった。

 そう思ったが簪の手元を見れば、ポッキーの袋が一つ握られていた。あ……最初からやるつもりだったんだな。

 

「あ……目は閉じといてね。絶対……終わるまであけちゃダメだから」

 

 はいはいと、言いながらポッキーの枝の部分を俺は簪に咥えさせられる。

 簪にはもうさっきまでの照れた様子はない。するということは自分の中での決定事項なんだろう。そうと決まったらそうする、自分の欲望に素直な簪らしい。

 

「じゃあ、ん」

 

 簪はチョコの方を咥え、お互いに食べ始めていく。

 

 ポッキー自体はそんなあるわけじゃないが、二人でこんな風に食べるといつもよりもポッキーがあるように感じてしまう。食べ進めているが目を閉じている為、実際どのくらいお互い進んでいるのか確かめることが出来ない。

 何より――

 

「んっ……んっ、んぅっ」

 

 さっきから聞こえる簪の微かな吐息がいやらしく聞こえてしまう。

 ただポッキーを食べているはずなのにおかしい。でも、目を閉じているせいか余計に聞こえてくる簪の吐息を意識しまう。いけないことをしている気分だ。普通にキスとかじゃれあうのは嬉しさがあっても今の様なやましさは感じないのに、普段しないことをしてポッキーゲームの結末――キスしようとしているのを更に意識して気恥ずかしい。

 

「あっ」

 

 ポッキーが折れてしまった。折れたっというよりかは……状況的に俺が折ったということになるんだろうな。しかし、折れた拍子に目を開けてしまえば、簪の顔は目の前にあり、同じ様に折れた拍子に目を開けた簪と目があってしまった。

 恥ずかしさから二人して少し離れる。

 

「……えへへ、私の勝ち、だね」

 

 折れて残ったポッキーを簪は食べ、恥ずかしそうにでも嬉しそうに言った。

 ポッキーゲームの一応のルール的に言うと先に折ってしまった俺の負けで、簪の勝ちとになる。

 しかし、俺としては一安心だ。ドキドキとして仕方ない。

 

「でも、残念……後、少しだったのにな」

 

 気のせいか簪は名残惜しそうな瞳をしている。

 気のせいってことはないな、経験則から言って……というか、すっかり簪のスイッチが入っていることは俺には容易に分かった。

 

「……ねぇ」

 

心なしか艶っぽい表情で簪は上目遣いで見つめてくる。

 

「まだポッキーはたくさんある……よ。次、しよ?」

 

 ポッキーのことだよな?と聞きたくなるほど艶っぽい声。簪を見ればポッキーを咥え、目をつぶって待っている。その表情がまた可愛らしく、俺には簪に従うしか選択肢が残されてないことを実感さられる。

待たせるのはよくないので俺も残るもう一方の端を咥えると再びお互い食べ始めた。

 

「んっ、んむ……んむっ……」

 

 だんだんとお互いの距離が縮まっているのが分かる。さっきよりお互い食べる速度が早いのは気のせいなんかじゃない。二人してポッキーゲームの結末――キスに辿りつきたいそんな思いがあるのは確かだ。

 簪の顔が近い。おそらく目を開ければ、簪の可愛い顔は本当すぐ目の前にあるだろう。むしろ近すぎて、簪の甘い吐息がかかっている。いつまでもこうしてたいと思える幸福を、嗅覚で感じていた。しかし、このままではいけない。この一時はそろそろ終わる。キスによって。

 

 ポッキーがなくなり、必然的にそっと唇同士が重なる。

 

「んんっ! ちゅっ、はぁっ……ぁっ、んちゅっ」

 

 触れ合うだけでは男のサガもあって我慢できなくなり、確かにするキスに簪は始め、体をビクっとさせていたが次第にキスを受け入れてくれ、触れ合うようなキスから舌を絡め、唾液のやり取りをする深いキスになっていく。

 ポッキーを食べてた後なので微かなポッキーの破片はあるが気にならない。それどころか、二人を隔ててある種の境界線となっていたポッキーがなくなったことで、二人が混じりあいそのまま溶けていきそうだ。

 甘く痺れるような長く深いキスをしてから、そっと唇を離す。

 

「んっ、ぁ……も、もう! 突然っ!」

 

 頬を赤く染めてポカポカと俺の胸板を叩きながら怒る。痛くはない。じゃれているかのようだ。怒っているのも照れ隠しの為だろう。決して嫌がって怒っているわけじゃないと分かっている。

 そんな簪が可愛くて、ちょっと意地悪っぽく聞いてみた――嫌だったかと……。

 

「い、嫌じゃない……むしろ、嬉しい」

 

 と、誰が見ても幸せだとわかるくらいの笑顔で簪は言った。

 簪は二人っきりの時だけだが、素直でちゃんと自分の思いを伝えてくれるのだ。

 それは恋人である俺だけが見れる特権。なんて至福。

 

「あ……で、でも、どうしよう……貴方のせいで、私……どんどんえっちに……なってる」

 

 確かに。簪は欲求に忠実な分、多分俺よりもそういう欲求が強いからなんだろう。

 

「だね、あなたの言う通りかも。だから……あなたの好きにしていいから。たくさん愛して……私を、私だけを。ちゃんと責任とってよ、ね」

 

 ここまで簪に言われて、断れば男が廃る。

 正直、もうポッキーゲームなんてお互いどうでもよくなってる。

 俺達の身体はどんどん熱くなって――ただ、好きな愛しい相手をむさぼりたいという感情一心。

 俺は返事をするように簪を抱き寄せ、今一度深いキスをした。

 

「ふっ……んちゅっ、んぅ……んんんっ、あなた……んむぅ、愛してる……ちゅっ……」

 

部屋の明かりで出来た二人の影が一つに触っていく。

そうして、俺と簪は一つになるかのようにまるでチョコのように甘く溶けていった。

 




11月11日の昼11時11分には流石に間に合わなかったので
11月11日の夜11時11分に投稿しました。

設定?は前作のお話と一緒です。
なので今回も前回同様に簪の相手である男性はオリ主です。決して一夏ではありません。
無論、主人公は簪が好きなこれを読んでいる貴方かもしれません。

それでは
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