簪とのありふれた日常とその周辺   作:シート

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簪と過ごした冬休み―六

 地元、俺の実家に着いたのは夜大分遅くなった頃。

 日が沈み、あたりは真っ暗。この時間帯に着くことは親にはもう連絡しているから、それは問題ない。問題があると言えば、簪だ。

 

「……すぅ……はぁ……」

 

 インターホンを前にして、緊張を落ち着かせるように、簪は深く深呼吸している。

 地元に着いてからの実家までの道のり。簪はずっと緊張しっぱなしだ。緊張する気持ちは分かるし、緊張するなとは言えないけど、流石に心配になってきた。簪は元々、気が強いタイプじゃないから余計に。

 

「大丈夫」

 

 緊張で瞳は揺れているが、簪がそういうのならそれを信じるほかない。

 インターホンを押した。

 すると、待ってましたと言わんばかりにすぐさま扉が開けられ、家の中から母さんが出てきた。

 

「やっと来たわね。寒いでしょう。中に入りなさい」

 

「……お邪魔……します」

 

 恐縮したように簪は言う。俺と簪は家の中へと入っていく。

 実家は閑静な住宅街にあるごくごく平凡な二階建ての一軒家。

 久しぶりの我が家。こうして帰ってくるのは、IS学園に入学する前以来。懐かしい。

 とりあえず、始めにリビングに入るとさっき会ったばかりの母さんと、そして親父がいた。

 

「おかえり。よく帰ったな」

 

 出迎えてくれた親父。

 母もそうだけど、両親共に元気そうだ。むしろ、以前よりも元気そう。

 ISが使える二番目の男として発見された時は、情報規制こそはされていたもののいろいろと騒ぎになった。その時、両親には大分苦労をかけてしまった。

 だから今、元気そうな顔を見て心底安心した。

 

「して、そちらのお嬢さんがお前の彼女の……」

 

 親父が簪に気づき、リビングの床に二人並んで座り、両親に簪を紹介した。

 俺の紹介が終わった後、改めて簪本人が自己紹介をした。

 

「改めまして新年明けましておめでとうございます。お付き合いさせていただいてます。更識簪と申します。ふつつかものではありますが、どうぞよろしくおねがいします」

 

 淀み無い自己紹介を終えると、正座した簪は丁寧に頭を下げた。

 さっきまでの緊張が嘘みたいに、今の簪は堂々としている。

 両親共に、簪の丁重さと可愛さに、ものの見事に面を食らっている。

 

「まあまあ、これは丁寧にどうも。本当、ろくに自分から近況報告しないこの子が彼女を連れて帰るって聞いた時は嘘かと思ったわ」

 

「まったくだ。それでご両人はいつから交際を?」

 

「えっと……な、夏休みの終わり頃から……です」

 

「ほぉ……それでお前、夏休み帰ってこなかったんだなぁ」

 

 それだけが決して、帰ったこなかった理由じゃないんだけども。

 というか親父のニヤついた顔が最高にムカつく。だが、ここはグッと我慢。

 母さんのいう通り、自分から近況報告したのなんて片手の指で数えても余るほどで、逆に母さんから近況報告を聞かれても適当に答えるだけ。もう高校生なのだから一々言うことじゃないと思ってそうしていたけど、彼女が出来たことを言ったのは去年の終わり頃だった。だから、変に詮索されたりしても仕方ないこと。そう思って我慢しているけど、その我慢しているのが親父達には分かっているようで、ますますニヤニヤされる。余計にムカついてくる。

 

「簪さん、でいいかしら?」

 

「……はい」

 

「簪さんもIS学園の生徒なのよね?」

 

 その通りだと答え、ついでに簪は国家代表候補の一人だということも伝える。

 

「それはまた。息子よ、いいお嬢さんを見つけてきたじゃないか」

 

「そう言えば、簪さんのご自宅にはうちの息子と伺ったと聞いたけど、どうだったの?」

 

「はい。私の親には二日前ほどに会って……その……ちゃんと交際の許可は貰いました」

 

「あら、そうなの。やることはちゃんとやってるのね」

 

 母さんから、俺に向けられる温かい目が今は何だか無性にむず痒い。

 

「簪さんの親御さんの許可があるのなら言うことは何もない。ウチとしても簪さんが息子の彼女なら大歓迎だ」

 

「そうね~早くお嫁に来てもらいたいぐらいだわ」

 

 笑いながら言う母さん。

 場を和ますつもりなんだろうけど、冗談ではすませそうにないのが母さんの恐いところだ。

 それを真に受けた簪が頬を赤く染めて、恥ずかしそうに俯いている。

 

「でも、簪さん。こう言っては大変申し訳ないんだけど、うちの子でいいの? 分かっていると思うけど、息子はほらいろいろと大変よ」

 

 何が、とは言わないのは母さんなりの気遣いなんだろうか。

 

「はい」

 

 簪は躊躇わず返事をした。

 

「大変なのは重々承知しています。私は彼を支えたい。支えられるようになりたい。どんな困難だって二人で乗り越えていきます。彼もそう思ってくれているから……私は彼がいいんです。彼じゃないとダメなんです」

 

「そう……」

 

 母さんはそう感心した声をもらしながらも、嬉しそうな笑みを浮かべて。

 

「なら、ふつつかな息子だけど」

 

「どうかよろしく頼みます」

 

 そう母さんと親父は言った。

 

 簪の紹介をそこそこに、その後は母さんが夕飯を用意してくれて四人で囲むことになった。

 夕飯のメニューは正月らしく、おせち料理。ただやっぱり、簪を連れて帰ると前もって連絡していたせいか、例年以上に気合が入っている。いつもは皿の上に適当に乗せられているだけに今回は重箱に詰められている。凄く豪華だ。

 今ではすっかり母さんも親父も簪を受け入れてくれ、馴染んでいる。というか、馴染みすぎて。

 

「いや~ISの騒動が起きた時は一時はどうなるかと思ったが、息子がこんな美人でいいお嬢さんを連れて来るとは! これで我が家も安泰だ!」

 

「もう~お父さん飲みすぎよ」

 

 酒を飲んだ親父は顔を真っ赤ににしてすっかりできあがっていた。飲んでいる量はいつもと大して変わらないはずなのに、よほど簪のことがが気に入ったのか、ずっと褒めちぎっている。母さんも母さんで口では親父を止めはするが、ずっと楽しげに笑っていて、やっぱり簪をずっと褒めちぎっている。

 そんな両親に簪はただうれしそうにしながらも恥ずかしそうに縮こまっていた。

 親父達、嬉しいのは分かるが流石に騒がしい。仕方ないとは言え、簪にこんな騒がしい両親の姿を見せるのは何だか申し訳ない。

 

「そう? 私はいいと思うよ。私……こんな風に賑やかに家族揃って夕食食べたことも……お正月過ごしたこともないから……楽しい」

 

 そう簪は楽しげな笑みを浮かべて言う。

 まあ、簪がそういうならそれでいいか。

 

「よいしょっと」

 

 笑っていた母さんは、一旦洗物でもする為にか立ち上がる。

 

「あ……わ、私も手伝います」

 

 簪が空いたお皿達をまとめて、母さんの後を追う。

 

「あら、ありがとう。本当、簪さんみたいないいお嫁が出来て嬉しいわ」

 

「あ、ありがとうございます」

 

 頬を赤らめながらも簪は喜んでいる。

 会って初日だけど、嫁姑の仲は中々よさそうだ。

 

「なあ、息子よ」

 

 母さんと簪が台所へ消えると、親父がそう声をかけてきた。

 まだ顔は真っ赤だが、さっきみたいに酔っ払ってる気配はない。何だか真剣だ。

 

「あんないいお嬢さんなんだ。お前が大変なのは分かるが、絶対に二人で幸せになるんだぞ」

 

 言われるまでもない。

 

「男はカッコつけてなんぼのものだ。カッコつけるからには最後まで彼女の前ではカッコつけ通せよ。何、お前は俺の息子だ。出来るさ」

 

 肩に手を置いて親父はそう言ってきた。

 嬉しい言葉。その言葉は頼もしく、曇りなく言える親父が何だかカッコよかった。

 

 そして簪と母さんが洗物をしている間に俺は風呂を済ませ、その後に簪も風呂を済ませた。

 実家についたのも夜遅かったせいか、気づけば日をまたいでいた。

 明日特にこれと決まった予定があるわけじゃないが、学園を後にして、電車移動が長かったこともあって、そろそろ寝ることにした。俺の部屋で、簪と二人一つのベットに。

 てっきり、簪にちゃんと客間を一部屋用意していると思ったのだが、母さん達は俺達が俺の部屋で一緒寝ると思って用意しておらず、今まで通り一緒に寝ることになった。

 

「狭い……よね」

 

 遠慮気味にすぐ傍にいる簪はそう聞いてきた。

 狭いか狭くないかで言うと確かに狭い。部屋のベットはシングルベットだから、二人一緒に寝れば狭くなって当たり前だ。だが、簪が遠慮する必要はない。どんな形であれ一緒に寝るのはやっぱり、嬉しい。

 それに、ひっついていれば狭さなんて気にならない。そう俺は簪を抱き寄せた。

 

「そうだね」

 

 嬉しそうに頷いて簪は体を密着させてくる。

 

「素敵なご両親だね」

 

 簪にそう言ってもらえるのなら何よりだ。

 

「私……頑張らないと」

 

 何を頑張るというのだろうか?

 母さん達は、簪のこと大歓迎してくれて、めちゃくちゃ喜んでくれているのに。

 

「それは嬉しい。でも……もっとご両親とも家族……になれるように私は頑張りたい」

 

 顔を埋めていて表情は分からないけど、簪の声音は真剣だというのはよく分かる。

 好きな人の両親とも家族になりたいというのは分かる。俺だってそうだ。

 簪ならきっとなれる。大丈夫。

 

「うん……私頑張る。おやすみなさい」

 

 おやすみ。

 俺達は寄り添いあいながら眠った。

 

 

 

 

 翌日。一月三日。

 新年を迎えて、まだ初詣に行ってないことを思い出した俺と簪は、二人で実家の近所にある神社へと初詣をしにやってきていた。

 元旦を過ぎたとはいえ、今日はまだ正月三が日。参拝者はそこそこ多く、気を抜いてるとはぐれてしまいそうだ。なので、はぐれないように俺達は腕を組む。

 

「こうやってするの……久しぶり」

 

 ここのところはいろいろとあって手を繋ぐことすらままならなかった。

 確かに久しぶりだ。腕に当たる胸の感触も。

 久々の胸の感触を楽しんでいるとそれに気づいた簪は嬉しそうに笑う。

 

「くすっ……私の胸好きだね。好きなだけ……どうぞ」

 

 腕を胸の谷間で抱きしめる簪。

 大人しく俺はされるがままにする。まあ、人前ではあるが今日ぐらいはいいんだろう。別に騒いでるわけでもないのだから周りの人らは俺達なんて気にしてない。それに簪の胸が好きなのは否定しようがない事実なわけだし。

 ちなみに俺達はというと今、お参りをする為に賽銭箱のある神社本殿まで並んでいる。と言ってもそこまで長い列にいるわけじゃない。後五分ほどすれば、俺達の番。以前元旦に、かなりの時間並んだことを思えば、正月三が日とは言え、かなり進み具合は早い。

 本殿、賽銭箱の前までやってきた。自分達の番となった俺と簪は二人横に一列に並んで、賽銭箱へと小銭を投げ入れ、手を合わせてお参りする。

 ひとしきり神頼みが終わると、後ろで待っている次の参拝者に譲るように、その場から離れ、おみくじやお守りが売られている本殿横の売店近くへと行った。

 

「……なんてお願い事をしたの?」

 

 それを言うとお願い事した意味が薄れる気がしなくはないけど、簪一人ぐらいなら言っても問題ないか。第一、お願いごとをしてないのだから。俺がお参りの時、心の中で言ったのは神に向けての誓い。昔、どこかで元旦のお参りは本来、「お願いごと」ではなく、「誓い」をするものと聞いた覚えがある。神頼みしたいことならいくらでもあるが、それは神頼みして叶うようにするのではなく、やっぱり自分達自信の力で叶えたい。

 だから。

 

――去年一年も幸せだった。だから、今年一年も簪と共に幸せに過ごせるよう努力する。その姿を見守ってください。

 

 と、神頼みするのではなく、神に向けて誓いをたてた。

 そんなことを伝えたと教えると、簪は驚いたような顔をして、嬉しそうに小さく笑っていた。

 どういうことなのかと思えば。

 

「同じだね」

 

 そう簪は言った。

 

「私も……ね。神様に誓ったの。今年は幸せだった去年よりももっとあなたと一緒に絶対幸せになるから。どうか神様……その頑張りを見ていてください……って」

 

 こんな時まで、俺と簪の気持ちは一緒だった。

 こういうのは照れくさいけど、同じだということ。それがまた嬉しかった。

 そしてその後、売店で売り物でも適当に見ているとあるものが目に入った。

 

「あ……あれって絵馬……だよね」

 

 簪が指したのはたくさんの絵馬。

 そう言えば、去年高校受験の合格祈願で書いたな。

 初詣で神社に来たんだ。せっかくだから書いてもいいかもしれない。

 

「うん……そうだね。書いてみたい」

 

 ということで売店で、人数分買おうとした。

 

「カップルさんですか? よろしければ、こちらの絵馬がオススメですよー」

 

 売店の巫女さんに勧められた絵馬はいかにもカップル用の絵馬。

 裏面を見せてもらえれば、ピンク色で『縁結び』と書かれている。

 こんなのあったんだ……知らなかった。折角、勧められたて、値段も普通のものと比べて百円高いだけ。

 まあ、勧められたことだし……。

 

「そうだね。えっと……じゃあそれで」

 

 俺達はカップル用の絵馬を一つ買った。

 なんでも二人で一つの絵馬に書きたいことを書くものらしい。

 絵馬に書くスペースに場所を移す。さて、何を書いたらいいのやら。

 

「……うーん……ちょっと耳貸して」

 

 簪は耳打ちで絵馬に書く内容を伝えてきた。

 思わず、驚いてしまった。そんなこと書くのか?

 

「ダメ……?」

 

 ここぞとばかりに上目遣いできかないでほしい。ダメじゃないが、流石に恥ずかしい。

 だが、簪がいいのなら別にいいけど……そう言うと簪は嬉しそうにして、絵馬にその内容を書いた。

 絵馬に託すことを書き終えると最後、名前の欄に俺の下の名前と簪の名前を書いて、絵馬をかけに絵馬掛け所へと行く。

 ずらりとかけられた沢山の絵馬。かけられそうな場所を探していると、いくつかかけられた絵馬が見えた。この時期、定番の受験合格祈願が圧倒的に多いが、中には家族の健康祈願や就職祈願などいろいろな絵馬がある。その中には当然の如く、他のカップルもすすめられたんだろう俺達と同じ種類の絵馬がいくつか飾られていた。

 

「ここ……空いてる」

 

 簪が空いている場所を見つけてくれて、そこにかけた。

 

「まあ、こういうバカップルぽいの……本音と織斑のほうが書きそうな内容だよね」

 

 確かに、と俺達は苦笑いする。

 でも心なしか、簪は満足そうにしている。

 俺達のかけた絵馬にはこう書かれていた。

 

――二人一緒に幸せになる

 

 シンプルだけど、神頼みするのならこれに限る。俺達の嘘偽りない気持ち。

 正直、こそばゆいものがあるけど悪い気はしない。

 

「私も悪い気はしない。こういうのもいいよね」

 

 幸せを噛み締めるように言う簪に頷いて、俺は簪の手を取り繋ぐ。

 新しい年の時は、ゆっくりと流れていく。

 こうして俺達は新年改めて神に誓いを立て、互いを想うそれぞれの想いをちゃんと確かめあった。これからも迎えていく、ありふれているけど大切な人との日々に想いを思いを馳せて。

 




これにて冬休み編はおしまいです。
今回は婚約の挨拶みたいになったけど、またイチャイチャできてよかったです。
簪と過ごした冬休みは波乱万丈だったけど幸せだった……
簪可愛い 可愛い簪ヤッター!


誤字・脱字などの報告をしてくれた方々、ありがとうございました。
お手数おかけします。

今回の話の男主も前回同様に簪の相手である男性はオリ主です。決して一夏ではありません。
無論、主人公は簪が好きなこれを読んでいる貴方かもしれません。

それでは~
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