簪とのありふれた日常とその周辺   作:シート

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※注意
・今回タイトル通り簪本人は出ません(名前や話には出てきますが
・簪シリーズと同様の主人公と一夏のとある話題について話すお話です。
・いつも「」付けで話してない男主が普通に話しています。悪しからず。
・一読して下さり、読んで下さった方が今回の話の内容について何か考えて下さったら幸いです。


簪はいない夜。野郎二人が感じた嵐の前触れ

 

 二月。その月は一年のうちにあるいくつかのイベントごとの一つ、バレンタイデーがある。

 今日はそのバレンタインデーを一週間後に控えたとある日の夜。

 IS学園は一夏や俺といった例外を除けば、女子高そのもの。やっぱり、イベントごとが好きな女子が多く、IS学園も世間の例に漏れず一週間前だと言うのにバレンタインデー一色だ。

 今までバレンタインデーは縁遠いものだった。生まれたこの方、本命チョコなんてものは貰ったことがない。

 でも、今年は違う。今回の俺には簪という素敵な彼女がいる。くれると公言されたわけじゃないが、多分簪から本命チョコをもらえることだろう。期待してないなんてことは嘘でも言えない。今から楽しみで仕方ない。

 そんな期待を胸に今夜も簪と部屋からの外出禁止時間まで話をした帰り、ロビーで一夏を見かけた。

 最近では珍しく、今日は一夏は本音とではなくデュノアと二人でいた。

 

「ね、一夏。だから……」

 

「あ、ああ……」

 

 やけに体と体の距離が近い二人。一夏の奴、デュノアと浮気でもしているのかと思ったが、そういうわけじゃないらしい。珍しく困った顔をしていている一夏はデュノアに捕まっているように見える。

一夏と本音が付き合い始めて早二ヶ月近く。新年を迎えた今では、一夏と本音が付き合った当初よりかは大分周りは慣れて、落ち着いてきた。今では前みたいに二人の後をつけたりといったこともなくなり、一夏と本音が二人でいることが当たり前の風景に一つなりつつある。

 それは篠ノ之達とて例外じゃない。今では前みたいな地獄絵図を繰り広げることもなくなった。心の傷はまだ癒えきってない様子で、決して諦めたわけでもなさそうだが。篠ノ之達は一夏に本当の恋人が出来たこと、一夏が本音と付き合っていることをゆっくりとだけど、受け入れつつある。

 だけど、気がかりなのがデュノアだ。彼女だって、一夏に本当の恋人が出来たこと、一夏が本音と付き合っていることを受け入れつつあるとは思うけど、篠ノ之達以上に一夏のことをあきらめてないというのが男の俺にだって分かる。

 他人の恋路だ。そう簡単に割り込んでいいものじゃない。付き合っても尚一夏のことを思い続けるのはデュノアの自由で、それで苦しい思いをするのはデュノアの勝手。

 でも、今みたいにデュノアはやけに一夏と体の距離が近かったりして露骨な気がする。まあ、自分に振り向かせようと一生懸命なんだろうし、その気持は分からなくはないが、気にはなってしまう。

 皆を『守る』ヒーローでも、周囲の期待を常にこたえ続ける英雄でもない。本音と付き合っていることは一個人としての一夏が心から望んで手に入れた幸せなんだ。親友の一夏には幸せになって欲しいと思うのは当たり前のことで、大事な友達である本音にも同じ様に幸せでいてほしい。

 本音だって、自分以外の女子が自分の男にベタベタとしていてはいい気分はしないはずだ。嫌な思いをして、本音が悲しむかもしれない。そんな本音の姿は見たくない

 ここは一つ困っている一夏を助けるついでに、釘の一つでも刺して置いたほうがいいか。そう思い一夏に声をかけた。すると、デュノアにほんの一瞬だが睨まれた。

 

「……」

 

 こわっ。

 一夏と本音をお膳立てして結ばせたと周囲には知られているから、篠ノ之達に何度か睨まれはしたがあの五人の中でデュノアがやっぱり一番怖い。無言で睨まれただけに恐さはひとしおだ。

 

「じゃあ、ボクもそろそろ部屋に戻るね。一夏、バレンタイン。楽しみにしててね!」

 

「お、おう……」

 

 デュノアが去っていく。

 残された一夏はその場に疲れた様子で深く腰掛けていた。

 

「お疲れさん、一夏。俺達も部屋に戻るぞ」

 

「……ああ」

 

 疲れた様子の一夏を無理やり起すのは何か忍びないけど、もう外出禁止時間間際だ。こんなところで油売ってたら、寮長である織斑先生に怒られる。一夏を連れて、自分たちの部屋へと戻った。

 

「はぁ~~……」

 

 部屋について自分のベットに座り込むと、一夏は深い疲れた溜息をついた。

 

「んな溜息ついてたら幸せ逃げるぞ」

 

「分かってるけどよぉ……」

 

 浮かない顔の一夏。

 無理もないか。彼女がいるのに別の女子にあんな風にベタベタとされたらかなわない。だからと言って、好意を寄せられているのを知っているだけに、そう易々と邪険にすることも躊躇うものがある。俺だって楯無会長関連で経験あるから、その気持ちは分かるし。それに一夏の性格を考えるなら、その思いは一際大きいのだろう。

 

「まあ、なんだ。そう溜息つくなよ。一夏がバレンタインも相変わらず大変なのは分かるけどさ。正直、羨ましい話だけど」

 

  凰や篠ノ之から一夏が幼い頃からも、それはもう映画やアニメに出てくるキャラみたいにモテていたのはよく聞かされたし、実際一夏のモテ具合の凄まじさは今まで散々隣で目にしてきた。

 

「羨ましいってお前なぁ……バカ言え、ホワイトデーのお返し大変なんだぜ」

 

 疲れた顔で一夏はそう言った。

 もっと気の利いた言葉をかけられればよかったし、一夏の身の上を知っているだけに正直同情してるけど、今の言葉を聞いて一発殴ってやりたくなった。

 そりゃ一夏からしたらその言葉通りなんだろう。くれる全員からちゃんと受け取って、半端ない数になっても生真面目な一夏は律儀に一つ一つちゃんと丁寧にお返ししてそうだ。そんな風にお返ししてたら大変なのは当たり前だけど、そういう細かいところもちゃんとしているのが一夏のよさでモテる秘訣なのはよく知っている。だけど、今の一夏の言葉は最高にムカついた。そんな言葉一度でいいから言ってみたい。

 

「たくさん貰いはするけど基本は友チョコばっかで後はおもしろ半分だぜ、いつも」

 

「モテる男は言うこと違うねぇ」

 

「まあ、今年はお前もいるから安心だけどな」

 

 嫌な笑みを浮かべて言う一夏の言葉に何言ってるのか分からなかった。

 

「IS学園で男は俺とお前しかいないんだ。おもしろ半分でくれるなら俺だけじゃなくて、お前も沢山貰うはずだ」

 

「いやないない。ありえないって。俺一夏ほどモテねぇよ」

 

「お前はいい男なんだ絶対モテるって。でも、たくさんチョコ貰ったら更識さん怒ったりしてな」

 

 ニヤリと笑う一夏。

 おもしろ半分だとしても俺は一夏じゃあるまいし、そんなチョコもらえるわけがない。簪からのチョコ一つだけもらえれば、それだけで充分だ。

 それに何かの手違いで万が一そんなチョコを貰ったところで、簪がそんなことで怒ったりしてないだろう。多分。

 

「あ……でもバレンタインか……はぁぁ~……」

 

 思い出した様に言って、一夏はうな垂れてまた落ち込んだ。さっきまで散々憎まれ口叩いてた癖に忙しい奴だ

 

「俺……本当自分のこと馬鹿だなって思う。のほほんさんと付き合ってからさ……のほほんさんと過ごす毎日が新鮮で楽しくて幸せで。そしたら今まで見えてなかったいろいろなものが見えてきて、いろいろと考えるんだ。だから、余計に今まで俺深くも考えないで本当とんでもないこと言ってたって気づいたよ」

 

 今までの自分を悔いるように一夏は言う。

 まさか、一夏がこんなことを言うなんて。一夏が本音と付き合って、かなり変わった。まず第一に本音のことを思い、考えて、行動するようになった。本音と言う一夏にとっての一番大事なものが出来たからこそ、以前みたいな女ったらしなことをしないよう気をつけ始め、皆……特にあの五人と決して拒絶するわけではなく今の関係で丁度いい距離を保とうとしている。

 それにこの一夏の言葉はそれはきっとデュノアに向けての言葉でもあるんだろう。そんな気がする。

 いっそのこと「彼女が出来たのだからこういうことはやめてほしい」ときっぱり突き放せばいいんだろうけど、一夏はデュノアに対して多分何か大切なことを昔言ってしまって、そんなことはそう易々とはできないようだ。でなければ、今みたいなことにはなってないだろう。

 

「昔の俺に会うことが出来るなら思いっきりぶん殴りたい」

 

 また今までの自分を悔いるように一夏がそんなことを言うものだから、思わず笑ってしまった。

 

「おい笑うなよ。俺は真剣に」

 

「いや、悪い。お前があまりにも面白いことを言うものだからついな」

 

「何だよそれ」

 

 一夏は拗ねてしまった。

 

「でも、笑われても仕方ないよな……俺一人で何とかしないと。お前にも、のほほんさんにはもう迷惑かけられねぇ」

 

 こいつはまた一人で全部抱え込もうとしている。一夏らしいと言えば、一夏らしいけど。

 

「そう何でも一人で抱え込もうとするなよ、一夏。お前自身の力で何とかしないといけないことなのかもしれないけど、何も全部自分だけの力でどうにかしようとしなくてもいいだろ。周りをもっと頼れよ。俺ならいくらでも力を貸す。そりゃ勿論どこまで力になれるか分からないし、力になれないかもしれない。それでも、話……それこそ愚痴ぐらいいくらでも聞いてやる」

 

「お前……」

 

 一夏が変わっていく姿や新しいことを楽しんでいる姿を見れるのは、幸せになっている姿は、純粋に友達として嬉しい。そして変わっていくことで、新しい悩みや困難な壁ができるのはある種当たり前のこと。それを乗り越えようと悩んでいる今の一夏の力になりたいと思う。近くにいるのにただ隣で見ているのは歯がゆいものはがある。

 それはきっと――。

 

「俺じゃなくても、少しは彼女の本音ぐらい頼ってもいいじゃないのか?」

 

「でも、それは」

 

「何も全部、頼らなくてもいいし、一夏が自分のことに本音を巻き込みたくないってのも分かる。彼女の前では情けない姿見せずにカッコいい姿でいたいからな」

 

「それはな」

 

「男がカッコつけるからには最後までかっこつけ通さなくちゃならねぇけど、別に頼るのはダサくはないだろ。何でも一人でって意地張ってる方がかっこ悪い。一夏は少しぐらい周りに、それこそ本音に甘えることを知ったほうがいい」

 

 正直、一夏は誰かに甘えるということを知らないんじゃないかって思う。

 まあ、それは両親が居らず、唯一の肉親である姉の織斑先生は昔っから忙しくて、家にいないことが多かったといつか一夏から聞いたから、そんなんだと甘えるような相手がいないし、知らなくても無理もない。

 

「甘える、か……」

 

 随分と一夏は苦そうな顔をしている。

 

「いきなりは難しいだろうけど、ゆっくりでも知っていけばいいさ。それにあんまり男だからってカッコつけて一人で背負い込んでると彼女怒らすぞ」

 

「体験談っぽいな」

 

「まあ……体験談だからな」

 

「そうか」

 

 俺と一夏は苦笑いしあう。

 

「女子の本音に言いにくいことなら、男の俺がいくらでも聞くだけ聞くし。女子の意見がほしいなら、簪も聞いてくれるはずだ。口では凄い嫌がりそうだけど」

 

「ははっ……そうかもな。何か悪いな」

 

「気にするな。今に始まったことじゃないだろ、こういうのは」

 

「確かに。本当、お前と出会えてよかった。やっぱ、お前のこと好きだぜ」

 

 寒気がした。なんっつう気持ち悪いことを言うんだ、この馬鹿は。

 

「気持ち悪いこと言うな。そういうのは口にするんじゃなくて思ってればいいことだし、第一本音に言ってろよ。そういうのは」

 

 まあ……どういう意味の『好き』は分かるし、言葉は気持ち悪いが、その好意自体向けられるのは悪い気はしないと思わせられるのが、こいつの悪いところ。

 女ったらしは気をつけていても、根っからの人間ったらしはまだなようだ。

 

「そうだな。本当にありがとうな。でも、まずはもう一度、自分でじっくりどうするべきか悩んで考えるよ」

 

「そう。まあ、言いたくなったら言えばいいさ」

 

 結末としては二つに一つしかなくて、一夏の気持ちは結局悩んでも考えても変わらないんだろうけど、それでも悩まないよりかは悩んだほうがいいと思う。第一、悩まないのなら、もうとっくに答えは出て、一夏がこんなことにはなってない。一人でダメな時は、一人で背負い込むなと釘を刺したから、まずは大丈夫だろう。それこそ今の一夏には本音がいることだし。

 

「十四日、楽しみだけど出来れば、のほほんさんと平和に過ごせたら一番いいんだけどなぁ……」

 

「無理だろ。一夏は特に」

 

「即答かよ。はぁ……でも、俺もそんな気がするよ……」

 

 うな垂れる一夏。

 バレンタインは楽しみだが、俺達は確かに嵐の前触れを感じていた。

 




修羅場。

今回からバレンタイン編です。
まずは導入編、男子から。
次は女子。どうなることやら。


今回の話の男主もこれまで同様に簪の相手である男性はオリ主です。決して一夏ではありません。
無論、主人公は簪が好きなこれを読んでいる貴方かもしれません。

それでは~
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