簪とのありふれた日常とその周辺   作:シート

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簪と過ごしたバレンタイン

 今日は例年とは比べられないほどに忙しいバレンタインだった。

 案の定というか、物凄い数のバレンタインチョコを貰った。全部義理チョコや友チョコとかいう奴なんだろうけど、数がおかしい。

 IS学園に二人しかいない男の片割れ。全員おもしろ半分に渡してきて、特に上級生の先輩方は本命を渡すかのように芝居がけて渡してくるものだから、素直に喜べずただただ困った。

 隣に簪がいるのにも関わらず、堂々とそんな風に渡してくるものだから尚更困った。嬉しいというよりかは疲れた。

 ただ、簪は特に気にしてない様子だったのが印象的だった。

 

 そして夜の自由時間の現在。

 今さっき入浴を済ませ、同じく入浴を済ませただろう簪が俺の部屋に来るのを待つ。

 今日も今日とて入浴は部屋風呂で済ませた。

 一夏と俺、それぞれの男子の部屋には高級ホテルさながらのトイレや洗面所とが一体になったバスルームがあり、入浴などに問題はない。

 漫画やアニメであるお風呂場で女子とばったりなんていう逮捕物のことを未然に防げるのが何よりも助かるし、女子と違って好きな時間に好きなだけ入れるのがまたいい。いろいろなことを配慮されてのことだろうけど、至れり尽くせりだ。

 そんなことを考えていると部屋のドアがコンコンコンっとノックされた。はーいと言いつつドアを開けに向かう。

 

「……こんばんは」

 

 ドアを開けるとそこにはゆったりとした水色のパジャマに身を包んだ簪がいた。

 手に小さな紙袋とミニボストンバックを持っているのが目に入った。

 気にはなったけどドアの前で立ち話するのは何なので部屋へ迎え入れる。

 

「お邪魔します……」

 

 部屋に入り手荷物を置くと、ベットに腰掛けた俺の膝の上に簪が座ってくる。

 人前では簪はこんなことほぼしてこないし、俺もしないけど今は部屋で二人っきり。人目なんて気にせず、密着できる。手を絡ませ甘えるように体を預けてくれる簪を受け止め、後ろから抱きしめる。

 

「ん……」

 

 気持ちよさそうに目を細める簪。

 すると密着しているせいか、視線を少し下げれば、簪の首元が見えた。綺麗な簪の首元の素肌と綺麗なうなじ。簪も今しがた風呂を上がったばかりだからなのかは分からないが、艶っぽく見える。

 オマケに風呂上り独特のシャンプーだと思わしき髪のいい匂いまでしてきて、僅かながらこう……ムラムラっとくるものを感じていた。

 どうして風呂上りの女子ってこんなにもいい匂いがして、来るものがあるんだろう。それは好きな彼女だと尚更強い。

 

「どうかした……?」

 

 ぼーっと見すぎたようで、簪は不思議そうにこちらを見ている。

 すぐさま答えることが出来ず困った。どう答えたものか。彼女とは言え、風呂上り姿を見て、髪の毛のいい匂い嗅いで少しばかりムラムラしていました、なんて恥ずかしさを感じてそう簡単には言えない。

 だが、このまま返答に困っているわけにもいかない。俺は、当たり障りのないよういい匂いがするという他なかった。

 

「そう」

 

 言葉こそは淡白だが、簪は嬉しそうだ。

 その証拠に匂いを嗅いでと言わんばかりに体を預けてくれる。

 そこまで許してもらって今更遠慮するのは簪に対してよくないので、遠慮なく首筋に顔を埋めた。

 

「……ぁ……や……」

 

 くすぐったそうな声が上がる。

 埋めた首筋からする簪の匂い。大好きな匂いだ。先ほどはムラムラと来ていたが、それと同時に凄く心が安心する。簪以外じゃ到底こんな事は出来ないし、こんな気持ちにもならない。こうさせてくれている簪に感謝の気持ち一杯で、何より愛おしくてどうしようもない。

 だから、なのか俺は気づくと簪の首筋にキスを落とした。

 

「っん……くすぐったいよ……もう」

 

 声からして簪が笑っているのが手に取るように分かる。嫌がってもいない。むしろ、喜んでくれているようだ。

 

「本当……好きだよね」

 

 突然、簪がそんなことを言ってきた。

 否定しようのない事実だから認めるほかない。好きでなければ、今のようなことはしないし、好きだからついついやってしまう。

 ただ、簪がこんなことを言うということはやりすぎてしまったのかもしれない。

 

「あ……ううん。そういことじゃないの。私は嬉しいよ……私の匂い、好きでいてくれること。私も同じだから」

 

 同じということは考えるまでもなく匂いのことなんだろう。

 

「私もね……あなたの匂い好きだよ。いい匂いで……何だか癖になる」

 

 言って簪は、向かい合わせに座り、俺の胸元に顔を埋めて幸せそうにしてる。

 自分の匂いを自分ではいい匂いだなんて到底思えないけど、簪の匂いをいい匂いだと感じるように同じことなんだろう。それに癖になるのは確かにそうだ。俺の匂いでこんなにも幸せそうにしてもらえるのなら嬉しい。

 抱き合いながら二人して、お互いの匂いを嗅ぎあう。何だかこれって。

 

「変態みたい……ふふっ」

 

 声が重なり、二人一緒に笑いあう。

 変態だという自覚がありながらも、やめない辺りかなり重症な気がするけども、今は本当に二人っきり。気が済むまでお互いを堪能すればいい。

 そんな風に楽しんでいる時だった。

 

「ぁ……」

 

 簪が何かを見つけたような声をあげる。

 視線を追うとその先、冷蔵庫の近くには中に入りきらなくなった沢山のチョコが入った紙袋とかがあった。

 しまった。簪の前で今日散々受け取って今更隠す様なものおかしな感じがするけど、簪が部屋に来ることは前もって知っていたんだ。もう少し気を使うべきだったかもしれない。今更ながら反省する。

 

「凄い量だね……お返し大変そう」

 

 淡々という言う簪。

 お返しは量が量なだけに確かに大変だ。貰ったからにはちゃんと一人一人お返しするつもりだが、正直今はお返しについて考えたくはない。毎年これだけの量をちゃんとお返ししている一夏はやっぱり凄い奴だと関心してしまう。

 と、それは置いといて、今は他に考えなければならないことがある。

 簪はパッと見特に気にしてはない様子だが、内心ではいい気分ではないはず。すまないと思う。

 

「謝らなくていいよ……気にしてないって言ったら嘘になるけど……気にしないようにはしてる。これだけもらってるの見るともう……凄いとしか言いようがないよね。それに何だか……誇らしい」

 

 誇らしいか……。

 

「おこがましいかもしれないけど……あの沢山のチョコを見てると……私の彼氏はこんなにも沢山の人に想われてるんだって思えて……誇らしい」

 

 そういう風に思ってもらえているのなら助かるのは事実だ。

 

「それに……今のうちから慣れておかないとバレンタインは来年もある。こんなことで一々何か嫌味いったり、取り乱したりなんてしていられない」

 

 俺を見つめ曇りのない目でそう簪は言った。

 簪の言うことはもっともだとは思う。バレンタインはこれからも毎年あってその度に何か小言を言われたり、拗ねられたりすると、可愛いは可愛いが簪には悪いけどくるものがある。

 それに今からもう来年のことまで考えているなんて。去年の年末の帰省から簪が強くなったと改めて実感させられる瞬間はもう何度目か。今の簪からは強さと、そして頼もしさを強く感る。

 

「だから……謝ったりしなくてもいいよ」

 

 簪に結局、気を使わせてしまったけど、簪がこういってくれている以上、謝ったりするのはもうやめておこう。野暮ってものだ。

 それでも開き直りはせず、俺のことを誠実に思ってくれている簪に対して、これからもしっかり応えていこう。

 

「あ……そうだ」

 

 思い出した様に言って簪は、一旦俺から離れ、荷物を置いたところへと行く。そして荷物と一緒に置いてあった紙袋の中から箱を取り出し、それを持って再び膝の上に戻ってきた。

 

「随分遅くなっちゃったけど……どうぞ。ハッピーバレンタイン」

 

 簪から綺麗にラッピングされた箱が差し出される。

 そう言えば、まだ簪にチョコを貰っていなかった。もらえると思っていたから貰えない不安は感じなかったけど、今こうして貰えるとそんな不安が打ち消されたかのように、気持ちが高揚してくる。

 

「自信作……その……あ、愛情……たっぷり込めて作ったん、だよ」

 

 頬を赤く染め、簪は恥ずかしそうにしながらも笑みを浮かべて言う。

 恥ずかしいのなら言わなくてもいいのにと思ったが、折角のバレンタインだから言ってみたかったんだろう。こんな簪も可愛くて、抱きしめたい衝動に駆られる。が、その前に今は簪のチョコだ。聞くまでもなく手作りなのは分かる。早く食べてみたい。

 

「うん。……いいよ」

 

 簪に許可を貰い、ワクワクしながら箱を開けた。

 中に入っていたのは、小さなハート型のチョコの数々。

 普段菓子作りどころか料理すらしない自分でもとても綺麗に作られているのがよく分かる。

 しかし、意外だ。簪はお菓子作りが得意で趣味の一つなのは知っているから、てっきり凝ったものを作ってくるものばかりだと分かっていた。けれど、目の前にあるチョコ達は予想に反してシンプルだった。

 

「あ……うん。いろいろと考えたんだけど……シンプルのほうがいいかなって」

 

 なるほど、そういうことだったのか。

 作ってもらったのに文句なんてない。シンプルイズベスト何ていう言葉もあるわけだし、変に凝ったものよりもこういったシンプルなもののほうがいいのかもしれない。

 俺は一つチョコを取り、早速食べてみた。

 あっ……苦い。それが思わず、口から出た素直な感想。

 

「ビターチョコにしてみたんだけど……どう? 苦さは大丈夫?」

 

 俺は頷きながら、味わう。すると、簪は安心したかのように笑った。

 甘さを感じた匂いとは裏腹に、簪のチョコは苦味がする。といっても、声をあげるほどの強い苦味ではない。市販のビターチョコよりかは少し苦い気はするけど、ちゃんと苦味の中にもチョコの甘さがあって、口の中でゆっくりと広がるこのチョコの苦さが丁度いい。好きな味だ。

 

「よかった。そう言ってもらえて……喜んでもらえみたいで……嬉しい」

 

 頬を綻ばせて安心している簪を見つつ、二個目のチョコを食べようとすると。

 

「ちょっと待って……実はね……トッピングがあるの」

 

 トッピング……辺りにはそれらしいものがないのは確認済みだ。

 どういうことだろうと思っていると、チョコを簪に食べさせられた。

 

「口、開けて……あ、あ~ん」

 

 戸惑いながら言われるがまま口を開け、チョコを食べさせてもらう。

すると簪は、腰に回していた手を俺の頬に添えると、ゆっくりと顔を近づけ。

 

「んっ、んん……」

 

 簪と俺の唇があわさる。

 始めは唇と唇が触れ合うだけの軽いキス。数回も繰り返しているとどちらからともなく、口が開き、舌が深く交わりあう。

 

「んぅっ……ちゅぅ、んむ、ちゅっ……んぅんんっ、んちゅ、んふぅ……んっ、ちゅんんっ……ちゅ、ちゅぁっ……」

 

口内でまだ微かに残っていたチョコが深いキスの熱によって溶け、それをお互い舌を絡ませあいながら味わう。

 

「……ん……ちゅぅ、っちゅ、ちゅッちゅッ……んんァっ……」

 

 舌を絡ませ、唇を重ね、吐息を吹きかけ合う。

 瞬く間に動悸が速くなり、体温と共に性的興奮が高まっていく。

 

「ちゅっ……ど、どう……? お、美味しく……甘くなった、でしょう……?」

 

 伏せ目がちながらも簪はしっかりとこちらを見つめて言う。

 顔を真っ赤にして、その恥ずかしいのを我慢している姿がたまらなくそそられる。

 

 頷きながら答える。

 トッピングってこれのことか。確かに美味しくなったし、甘くもなった。

 まったくやってくれる……これではチョコよりも、簪のほうがもっと食べたくなってくる。

 

「私? ふふっ……いいよ、たんと召し上がれ」

 

 目を閉じ顔を上向かせている簪の唇を唇で塞ぐ。

 

「んぅ……ん、ちゅっ、んぅっ、ちゅぅ……んんぅちゅっ……んぅふっ……んむぅ……」

 

 たんと召し上がれ、なんて簪は言っていたけど、我慢できなくなりつつあるのは簪もらしい。

 熱心に舌を絡ませてくる。

 俺も負けじと簪にこたえ、深いキスを続ける。

 

「ふっ……んぅ、ちゅっ、んぅ……んんんっ、ん、気持ち、いい……んっむぅ、ちゅっ……好きぃ……んんぅ……」

 

 正直もう口内にはチョコはない。

 ただの深いキス。しかし、口内にはチョコのエキスが多少なりと残っていて、口内にしみこんだその甘さを吸い取るように舌が動き回りあい、互いの口内で唾液が循環しあった。

 チョコの苦味のある甘さを感じるには感じるが、正直頭の片隅。愛して止まない相手をむさぼりたいという本能的欲求に取り付かれた興奮する獣のようになってた。

 

「はぁ……はぁっはぁ……」

 

 呼吸すら忘れてキスをし合っていたが、流石に辛くなり、二人して荒く呼吸をしながら息を整える。

 簪は既に事後の様な恍惚と至福が入り混じった色っぽい表情をしている。だが、物足りなさそうにもしているのが簪に更なる色気をまとわせている。

 

「ねぇ……いいよね」

 

 懇願するような目で問いかけてくる簪。

 何がとは簪は言わないし、俺もまた聞かない。ただ頷くのみ。

 何を求められているのかなんて、簪のトロンとしたスイッチの入った瞳を見れば分かる。簪の奴、かなり興奮している。それは俺とて同じだ。

 俺としてもここまで興奮していると流石にキスだけでは満足できない。それは男のサガというもの。

 

「よかった。今夜は泊まりだからね……」

 

 そう簪は今夜俺の部屋に泊まる。その為のあのミニボストンバック。ちなみに明日は休みで、泊まるのは何も始めてのことじゃない。

 本来あまり許されることではないが、ご愛嬌ということで。一応、ちゃんとそれ相応のアリバイ工作はしているから抜かりはないはず。

 だから、気にすることは何もないし。あったとしても今の状況では野暮ってものだ。

 

「ふふっ」

 

 妖艶な笑みを浮かべて簪は俺のほうへ倒れてくる。

 すると俺は簪に押し倒されるような体勢になり、簪は艶めかしい表情で下になった俺を見る。

 

「今日はバレンタイン。だから、私に任せて……? 私が……たくさん尽くして気持ちよくしてあげる」

 

 そう言うのなら、今夜は簪の気がすむまで任せよう。

 今日はバレンタインチョコを貰ったり、簪まで貰えて至れり尽くせりな気分だ。

 嬉しい気分いるとそれが簪に伝わったのか、今だ色っぽい差を残しつつも満足そうに顔をほころばせた。

 

「じ、じゃあ……始めるね」

 

 そうして簪は衣服を脱ぎ乱しながら、俺に尽くし始めた。

 




簪とイチャイチャしまくっただけのバレンタインだった……

今回も簪の彼氏君は例の如く、オリ主――「あなた」です。
決して一夏ではありません。
無論、主人公は簪が好きなこれを読んでいる貴方かもしれません。

それでは~
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