簪とのありふれた日常とその周辺   作:シート

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簪と仲を深め合った日

 

 休日の日曜だと言うのに、IS学園の学食は今日も今日とて賑やかだ。

 そんな喧騒の中で、簪と俺は静かに昼食を食べていた。ちなみに今食べているものは、日曜限定の和食ランチ。流石はIS学園。お金持ちのエリート学校なだけあって、味は確かで美味しい。限定ランチというだけでその美味しさが増している気がする。

 

「うん、美味しいね」

 

 目の前で同じものを美味しそうに食べている簪も満足そうな笑みを浮かべている。

 周りは賑やかだが、食事中に俺達が交わす会話は基本的に少ない。周りと比べると、とても静かな食事。

 少ないだけで、全く会話をしないわけじゃない。今みたいに『美味しい』だとかの料理の感想や、他愛のない話はするが、それでも周りの賑やかさと比べてしまうとやはり会話の少ない静かな食事だ。

 別に比べるようなものではないことは分かっているし、険悪で重い雰囲気があるわけでもない。これが俺達のいつもの食事風景。二人で過ごす食事の一時というものを楽しんでいる。

 しかし。

 

「……」

 

 小さな口でごはんを食べている目の簪は可愛らしいのだが、心なしか不機嫌なように見える。

 俺が怒らせたり、不機嫌にさせたといったことはないはずだ。思い返しても心当たりがない。喧嘩をしたということもない。第一、簪とはそこまでのことにはならない。しいて思い当たるとすれば、先日のアレか……。

 

「……」

 

 心なしか不機嫌なように見えるだけで、表情に出ていたり、雰囲気にその不機嫌さが出ているといううわけじゃない。八つ当たりなんてことはもちろんなく、いたっていつも通り。

 というか、おそらく簪も自分が不機嫌なのを自覚して、表に出てしまわないように我慢に努めてくれているのが分かる。それだけに、変に指摘したりするのも躊躇ってしまう。

 簪が不機嫌なのは気になるが、だからといってこっちまでそれで不機嫌になるようなことはない。今はただ。

 

「そういえば」

 

 ご飯を食べ終えた簪が聞いてきた。

 

「午後からそっちは……自主練だった、よね」

 

 俺もご飯を食べ終え、お茶を飲みながら頷く。

 午後からの予定はそれであってる。訓練場の使用申請は既に提出しているし、今日は最低でも二、三時間は訓練できそうだ。

 そう言う簪は午後、弐式のメンテナンスだったはず。多分、こっちが早く終わるだろうし、迎えに行くか。

 

「うん、ありがとう……私のほうは多分かなり時間かかると思うから。ごめんね、待たせちゃうことになるかもしれないけど」

 

 それは別に構わない。

 それにしても心なしか簪が不機嫌なように見えるのはやっぱり変わらない。

 簪が不機嫌なのは気がかりだが、先日のアレはもう済んだことだし、今はそっとしておくしかないだろう。

 

 

 

 

 ふぅ、と息をつきながら訓練場脇にあるベンチに腰を下ろす。

 今日も日課である訓練を一通り終えた。それに倉持から送られてきたテストして欲しいと言われていた新装備のテストも終わった。

 時間帯的には日が沈みかけている夕方。昼食を終えてからずっとやってたから、かれこれ四時間以上訓練していたことになる。

 今日の訓練をこのまま終えるには丁度いい時間だし、部屋に戻るか。汗をタオルで拭いベンチから腰を上げた時だった。

 

「やっほ~弟君」

 

 訓練で疲れた体に精神的に鞭打ってくるような聞きなれた楽しげな声が背後から聞こえてきた。

 確認するまでもない。こんな呼び方で呼んで来る人なんて一人しか心当たりない。

 無視するわけにもいかず、振り向くとそこには予想通りISスーツを着た楯無会長と、多分楯無会長の付き合いでいるのだろう虚先輩がいた。

 ここ以外にも訓練場は他にいくつかあるのにどうしてわざわざここに来たんだろうと思ったが、聞くのはやめとこう。別の話もされて長引きそうだ。

 嫌いじゃないし悪い人じゃないのは分かっているが、楯無会長と関わるとめんどくさい。出来れば、あまり関わりたくない人だ。

 軽く挨拶はしたし、さっさとこの場から去りたい。

 

「ちょっと、つれないわね~」

 

 楯無会長にガシッと手を掴まれ、引き止められた。

 掴まれて痛いってことはないが、凄い力だ。振りほどけない。華奢な体の一体どこにこんな力があるんだ。

 

「折角会ったんだから姉弟水入らずで一緒に過ごしましょうよー」

 

 楯無会長は腕を抱きしめようとしてくる。

 慌てて腕を引っ込め、楯無会長から離れる。

 何するんだ、この人は。普通、姉弟はそんなことしない。

 楯無会長曰く、親交の証としてのスキンシップらしいけど、毎回同じようにこんなことするのは困るしやめてほしい。本当に苦手な人だ。

 

「ふふっ、逃げられちゃった」

 

「お嬢様、やりすぎです。彼も困っていますよ」

 

 企みが未遂で終わったにもかからず、楯無会長は気にするどころか、とても楽しげに笑っている。

 虚先輩に注意されてるのに気にしてないし、虚先輩は呆れ果ててしまっている。

 

「困るだなんてそんなことないわよね、弟君。こんな美人のお姉ちゃんと触れ合えて嬉しいはずよね」

 

 さも当たり前かのように自信満々に言う楯無会長。

 聞かなかった。何も聞かなかったことにしよう。

 まあもっとも美人なのは事実だけど、自分で言ってしまったら意味ない気がする。

 それに嬉しい嬉しくない以前に何考えてるのか今一正確に読み取れず、ただただ困るばかりだ。

 

「あら、酷い。表情はいつも通りでも内心嫌そうにしてるのは分かるわよ。お姉ちゃん、傷ついてしまったわ」

 

 よよよ、と楯無会長はわざっとらしい泣き真似をする。

 人で遊ぼうとしているのが嫌というほど分かるだけに、内心凄くイラッとする。こういうところがこの人の苦手な原因の一つ。

 表情にはそれが出ないように努めているが、楯無会長にはおそらくそんな内心を読まれているのだろう。まあ、露骨に表情に出てなければいい。

 

「と、そんなことは置いといて。今日は簪ちゃんは一緒じゃないのね?」

 

 また、急に話題を変えて振ってきた。

 楯無会長の言う通り、今簪とは一緒じゃない。

 態々そんなことを聞いてくるってことは楯無会長は簪に用事があったのだろうか。

 だから、俺と一緒にいると思ってここ来たと考えれば、来た理由としてまた新たに納得できる。

 簪なら本音と一緒に整備室で整備科の子達の力を借りて、弐式のメンテナンス中だ。

 

「そうなの。あ、別に簪ちゃんに用事があるってわけじゃないんだけど……」

 

 楯無会長の言葉は歯切れが悪い。

 何かあるのだろうか。

 

「いやね、あなた達が一緒にいないの珍しいなって」

 

 そういうものなんだろうか。

 簪と一緒にいることが多いことは自覚しているけど、何も別に四六時中ベタベタと一緒にいるわけじゃない。一人で用事をすませることもあれば、一人でいることも無論ある。

 だから、改めて珍しいと言われるほどのことじゃないとは思う。

 それに楯無会長の言い方的にこの言葉そのまま以外の意味もありそうな気が。言い躊躇っているみたいだけど、楯無会長らしくない。はっきり言ってほしい。

 

「じゃあ、言わせてもらうけど、あなた達喧嘩してるでしょう」

 

「えっ? 喧嘩してるんですか?」

 

 虚先輩と似たような驚いた台詞が偶然にも重なった。

 喧嘩って感情的になって言い争ったり、最悪の場合は手が出てしまう奴だよな。俺と簪が喧嘩……またどうしてそんなことを言うんだろうか。

 俺の思い違いじゃなければ、女に手を上げるのは論外でしないのは当たり前だが、簪と感情的になって言い争うような口喧嘩を始めとする喧嘩はしてない。

 これを定義とするのなら最近どころか、付き合ってからこれまで特にこれといって思い当たるような喧嘩らしい喧嘩をした覚えはない。

 だからといって全部我慢しているわけじゃない。吐き出すべきものはちゃんと、『話し合い』でお互いに吐き出している。育った環境が違う者同士なのだから、価値観の違いがあるのは当然だ。理解し合ったり、歩み寄ったりするには、話し合いが不可欠。お互い相手を分かろう、受け止めようという気持ちがあるからこそ、相手の話を聞こうという気持ちになるのだと思う。

 その『話し合い』こそは先日にしたばかりだが、喧嘩をしているといわれて思い当たるような節はない。

 

「だったら、何でここのところ弟君と簪ちゃんはそんなに不機嫌そうなのかしら」

 

 痛いところをつかれた気分だ。

 言われた通り、簪はここのところ不機嫌だ。思い当たる原因は先の話し合い。話し合いでお互いの気持ちを確認しあって、一まず納得はしてそこで終わった。だが、全てが全て納得しきれるわけじゃない。だからこそ、今すぐには全てを完全に納得しきれなくて、不機嫌になっている。簪をそんな風に不機嫌にさせてしまっているのは俺だ。すまないと思う。

 それに簪は簪で自分が不機嫌なのを自覚しているだろう。自覚しているからこそ、相手に不機嫌なのを見せたりしたら、相手も不機嫌にさせてしまい、悪循環を招くことになると理解して、簪は内に溜め込み、更に不機嫌になってしまう。

 そして俺もまた言われた通り、多少なりと不機嫌だ。理由は簪と同様。自分が不機嫌なのを俺も自覚しているし、だからといって表立って不機嫌なのを見せたりはしたくない。そんなことされたら相手は嫌だろうし、自分がされたら嫌だ。

 だから、なるべく不機嫌なのを表立ってには出さないようにしていたのだけど、楯無会長には見抜かれてしまっていた。本当によく見ている。

 

「当たり前よ。歳は大差なくても私は楯無。あなた達の何倍も濃い人生送っているのよ、見抜けて当然。それに私はお姉ちゃんなんだからね」

 

 確かにそれは説得力ある言葉だ。

 でもだから、喧嘩しているように思われたのか。付き合ってもいる二人が揃って不機嫌だと、喧嘩してしていると思われても仕方ない。

 二人揃って不機嫌なのは事実だが、だからと言ってやっぱり喧嘩しているわけではないし、変に避けあっているわけでもない。いたって普段通り。一緒にご飯べたりするし、一緒に過ごしたりもする。

 あ、でも思い返してみれば、気持ち簪よりも私用を優先してしまっていたのかもしれない。

 

「あなた達……というか、弟君は物凄く理性的だから無意識にいろいろなものを我慢してしまっているのかもしれないわね。それは弟君に強く影響されている簪ちゃんにも言えたこと。あなた達は似たものカップルだから。その話し合い? で一まず納得はしてそこで終わったとか思っていたりしないからしら?」

 

 その通りだ。図星をつかれ返す言葉がない。そんな俺の様子を見て、楯無会長は呆れていた。

 

「はぁ~まったく、あなた達は。我慢は必要なことだけど、あなたたちの場合は我慢しすぎなのよ。その我慢もお互いのことを想い理解してなんでしょうけど」

 

 我慢しすぎ、か……。

 もしかしなくても、そうだ。俺は簪に我慢させすぎている気がする。だから実際、話し合いから数日経った今でも簪の機嫌はよくなっていない。

 しかしだからといって、今できることはないと思う。もう一度、簪と話し合いすれば済むだけの話なんだろうけど、それはそれで済んだ話を蒸し返すだけになってしまう。今は少しそっとしておくしかない。

 とは思うものの、それだと現状維持で何も変わらない。二進も三進もいかない現状だ。

 

「弟君はどうするべきか分かっているんでしょう。考え無しに行動するのもよくないけど、こういう時は考える前にまず行動」

 

 それは……。

 

「四の五の言わない。お互い変な意地張らずに、もう一度話し合いすべきだと思うのだけど。理解しあっていても、言葉にしなくちゃ伝わらないものってあるでしょう」

 

 それもそうだ。

 簪に不機嫌なのをぶつけてしまわないと、迷惑かけまいと、相手を想い我慢するあまり、お互い変な意地の張り合いになっていたのかもしれない。そうなれば、お互い不機嫌なのが長引くのもある意味当たり前のこと。済んだ話を蒸し返すことは分からないが、このままなのはよくない。言葉にしなくては伝わらない想いはやっぱりある。先の話し合いですんだと決め付けすぎていたのかもしれない。自分勝手だ。もう一度、簪と話し合ってみよう。

 楯無会長、虚先輩には要らぬ心配をかけてしまった。悪いことをした。

 

「要らぬ心配だなんて気にしなくていいわよ。喧嘩というより変な意地の張り合いしてる二人の面白い姿見れたことだし。本当、喧嘩なんてしちゃだめよ~」

 

「お嬢様……」

 

 言葉は心配している風なのに、声は嬉しそうなのが、いいこと言われたと思ったのに台無しだ。またもや、虚先輩は呆れている。まあ、楯無会長らしいといえばらしいが。

 それにどうあれ、楯無会長が俺達のことを心配してくれている気持ちは本物だ。

 

「心配ね……まあ今更、本気でお姉ちゃんぶりたくて心配してるわけじゃないわ。そんなこと本気でしたら簪ちゃん嫌がるだけだろうし。ただ先輩として後輩カップルが二人揃って不機嫌なのを見かねて余計なお節介やいただけのことよ」

 

  その余計なお世話のおかげで変な意地の張り合いをしていることに気づけた。純粋にありがたい。

  俺達は良き姉を持った。

 

「あら、嬉しいこと言ってくれるじゃない。そういう弟君の素直のところ、お姉ちゃん大好きよ」

 

 またとんでもない冗談を言ってきた。

 まあ、お世辞として受け取っておく。

 

「お世辞じゃないのに。まあ兎も角、仲良くね」

 

 楯無会長は優しい姉の顔をして、そんな言葉を送ってくれた。

 

 

 

 

 楯無会長達と別れた後、ISスーツから制服に着替え、簪がいるだろういつもの整備室に向かう。

 今から向かうとラインを送ったところによると、まだメンテナンス中らしい。

 もう一度、話し合いをすると決めたのはいいものの、どう切り出したらいいのか迷う。そんなつもりはないのだが、客観的に見てやっぱり喧嘩しているということになるのなら、仲直りするべきなんだろう。

 機嫌を直してもらおうにも、そもそもな話そこまで表立って不機嫌なわけではないし、機嫌をなおしてほしいだなんておかしい気もする。うーん、難しい。

 

『考える前にまず行動』

 

 さっき楯無会長に言われた言葉を思い出す。

 行動する前からあれこれ考えすぎだな。ここは一つ率直に聞いてみるか。

 気持ち少し歩く速度を早めると、整備室に着き、中へと入った。

 

「おっ~! 彼氏君だぁ~!」

 

「本当! 更識さんのお迎えかな。焼けるね~」

 

 入るなり出迎えてくれたのは本音と見知った同学年である整備科の子。

 俺も自分の専用機のメンテでよくお世話になっている子だ。

 来た理由が分かっているのか、その子は簪に声をかけてくれた。

 

「お~い、更識さん。彼氏君が迎えにきたよ!」

 

 割りと大きな声だったせいか、整備室に数人いるメンテを手伝ってくれている整備科の子達の視線が一気に集まる。

 慣れた光景だが、人の視線、それも同年代の女子の視線が集まるのは何度体験してもビクっとなる。あらあらまあまあといった感じの暖かい視線を送られるが、気にせず簪の元へ行く。

 

「ごめんなさい、まだ終わってなくて。もう少しで終わりそうなんだけど……」

 

 簪は申し訳なさそうに言ってきたが、気にすることはない。

 元々待つのを分かって来ていたわけだし、

 一瞬何か手伝おうかとも考えたが、かなり専門的なことをやっているようで、門外漢な俺がしゃしゃり出ても邪魔になってしまいそうだ。

 一言声をかけ、適当なところに腰を下ろして大人しく待つ。

 

「この調整ならスラスターの出力安定してきた」

 

「そうだね。でも、更識さん。これだとやっぱりここの数値が」

 

「あ……うん、だったらこことをこうしたら」

 

 目の前では変わらずメンテが進められている。

 こうして、弐式のメンテに立ちあうのは両手では数え切れないほどだが、すっかり簪は整備科と仲良さげ。会話こそは難しい専門的なものをしているが、雰囲気は和気藹々としていて、簪は楽しそう。

 初めの頃、簪は人見知りと内気全開で周りを警戒しまくっていたのが懐かしい。

 不機嫌さが幾分かマシになっている感じがする。

 

 そんな簪の様子見ていると待つのは苦じゃないけども、もう一度話をしようと思っていただけに、出鼻をくじかれた気分。

 すぐに話せるわけじゃないとは分かっていたが、思い立ってもすぐ行動に移せないだけに、また行動する前からあれこれ考えていても仕方ないことが頭の中で渦巻く。何だかモヤモヤする。

 そして待つこと一時間近く。ようやく弐式のメンテが終わり、今日のメンテナンスは解散の流れとなる。

 

「ありがとう、皆。今日、メンテナンスに付き合ってくれて……助かった」

 

「いいよ、そんなの水臭い。こっちとしては弐式のメンテナンスはいい勉強になるからね」

 

「そうだよ、更識さん。専用機なんてこうでもしないと関われないから頼ってくれてありがたいよ」

 

「うん、本当……ありがとう」

 

 片付けを手伝いながら、そんな光景を目にする。

 本当に和気藹々としたいい感じだ。簪の成長に胸がじんと熱くなる。

 

「じゃあ、お腹空いたしそろそろ帰るかな」

 

「だね~ かんちゃん、彼氏君。またお夕飯のときね~」

 

「アタシお腹ぺこぺこ。あ、後はカップルでごゆっくり」

 

 夕食時近くのいい時間なので本音やメンテを手伝ってくれた子達は早々に帰っていった。

 そして、その場に残される簪と俺。皆、気を遣ってくれたのかもしれない。感謝しないと。

 これで話せる状況にはなったが。

 

「……」

 

 場に立ち込める沈黙。

 簪は黙々と帰る準備とかをしている。それに何か言いづらそうにしている。

 俺もこの雰囲気で言いづらいが、それを簪に伝えてしまったかもしれない。ダメだな。ここで躊躇わず、さっさと言ってしまおう。

 

「あの……!」

 

 偶然、運悪くも簪と言葉が重なり、二人して顔を見合わせる。

 更に気まずい。どちらも余計に言い出しにくくなる。よくない。ここはやはり男の俺から言わないと。

 俺は、先日話したことについてなんだけど、と話を切り出した。

 

「先日……うん」

 

 何のことかは言わずとも伝ったらしい。

 先日の話し合いですんだとは言え、あれでやっぱり簪を不機嫌にさせてしまったのかもしれない。すまない。もう少し言葉を選ぶべきだったとか考えたが、言えたのはそんな言葉だった。でも、これが俺の率直な思いでもある。

 

「謝らないで。あれは済んだことだし……すんだことなのに私が一人で勝手にモヤモヤして不機嫌になってただけだから。というか、あなたも気づいてんだね」

 

 も、ってことは簪も。

 

「うん。あなたも不機嫌だったよね。でも、不機嫌でも八つ当たり何かせず、普段通りにしようと頑張ってくれて、その……ずっと我慢させちゃったよね。私のほうこそ、あなたを不機嫌にさせちゃってごめんなさい」

 

 申し訳なさそうな表情を浮かべると、簪は頭を上げた。

 頭を上げてほしい。というか、謝られても困ると……。

 俺のほうも済んだことなのに一人で勝手にモヤモヤして不機嫌になっていただけのこと。簪に何も非はない。

 

「じゃあ……お互い様……ってこと?」

 

 ああ、そうだな。俺達はお互い笑いあった。すっかり簪からは不機嫌さは感じられない。

 

「あなたのおかげだよ。私のことをちゃんと考えてくれていて、それが分かって嬉しかった。それにあなたも機嫌直ったみたいだね」

 

 俺の方もまた不機嫌さがなくなり、すっきりとした気分。

 結局、二人して同じ様なことで不機嫌になって、同じ様に考え合って謝りあった。おかしな話だ。

 でも、簪は不機嫌な時でも俺のことを考えてくれていて、それが分かってうれしいと俺も思う。

 やっぱり、これで簪と仲直りできたということになるんだろうか。

 

「ふふっ、そうだね。まあ……喧嘩してないのに仲直りってのは変だけど」

 

 小さく笑いながら言う簪に同意する。まったくその通りだ。

 そもそも先の話し合いの内容にしたって他人に聞かせでもしたら、あきれられてしまうような犬も食わぬ些細なこと。ここであえて言うまでもない。

 でもやっぱり、こうして簪と仲直りできてよかった。

 仕方ないとはいえ、不機嫌なままで簪といたくない。

 

「うん……私はありのままであなたといたい」

 

 そんな嬉しい言葉を簪はさらっと笑みを浮かべながら言ってくれた。

 

 …




今回の話のテーマは『喧嘩して深まる仲』。
といっても、二人は感情的に喧嘩するどころか、まず喧嘩しないのでこんな感じに。
相手を思うばかりに、意地の張り合いになるっていう感じ。

鼻血ブーちょろいんよりも、ちゃんと先輩やお姉ちゃんやっている楯無さんのほうが好き。
ヒロインの楯無さんも嫌いじゃないが、楯無さんにはお姉ちゃんでいてほしい。
後、今回の話もうちょっと虚先輩の出番増やしたかった。

今回も簪の彼氏君は例の如く、オリ主――「あなた」です。
決して一夏ではありません。
無論、主人公は簪が好きなこれを読んでいる貴方かもしれません。

それでは
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