簪とのありふれた日常とその周辺   作:シート

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あなたと仲を深めあった日

 休日の日曜日だからなのか今日も学食は賑やか。というか、平日以上に騒がしい。別にそれほど気にならないからどうでもいいけども。

 今はただ、彼と一緒に過ごす静かな食事を楽しむだけ。ちなみに今日の昼食は、彼と一緒に選んだ日曜限定の和食ランチ。とってもヘルシーで、小食な私でも食べやすい。

 学園が選んだプロの料理人が作っているということもあって味は確かで美味しい。

 

「美味しいね」

 

 目の前の席で美味しそうに見ている彼を見ていると、そんな感想がふとこぼれ、彼も頷いてくれた。

 私達の周りの席はとても賑やかだけど、それとは対象的に私達の席はとても静か。基本的に私達が食事中に交わす会話は少ない。

 少ないだけで、全く会話をしないわけじゃない。今みたいに『美味しい』などといった食事の感想や、他に愛のない話はするけど、それでも周りの賑やかさと比べてしまうとやっぱり会話の少ない静かな食事。

 元々、彼はおしゃべりなタイプではないし、私もおしゃべりなタイプじゃない。むしろ私のほうが口数少なくて口下手なのが原因なのかもしれない。別に原因っていうほど大事じゃない。彼は私のそういうところをちゃんと理解してくれて、お互い会話が少なくても居心地のいい過ごしやすい雰囲気にしてくれる。

 だから、別に周りと比べるようなものではないってことは分かっているし、会話が少なくても険悪で重い雰囲気なんてことにはならない。これが私達のいつもの食事風景。二人で過ごす食事の一時というものを楽しんでいる。

 会話が少なく静かでも、彼と過ごせるこういうありふれた一時にちょっとした幸せを感じる。実際、一緒にお昼をしている今も楽しくて幸せ。

 だけど。

 

「……」

 

 私より先にご飯を食べ終え、スマホを弄りながら持ってくれている彼の傍で私は今だご飯を食べながら、彼の様子を伺う。

 心なしか彼が不機嫌に見えるのは私の気のせいじゃないはず。私が怒らせてしまったり、不機嫌にさせたといったこともないとは思う。私が気づいてないだけでだったら辛いけど……うん、思い返してみても心当たりがない。こういう時、カップルによくある喧嘩の可能性も一瞬考えたが、第一私と彼とじゃ喧嘩にならない。しいて思い当たることがあるとすれば、先日のアレかな……。

 

「……」

 

 心なしか不機嫌なように見えるだけで、表情に出ていたり、雰囲気にその不機嫌さが出ているということは一切ない。今の彼はいたっていつも通り。

 彼のことだ。私が気づけたぐらいなのだから、きっと彼も自分が不機嫌なのを気づいている。むしろ自覚しているからこそ、その不機嫌さを決して表に出さないように努めてくれている。それどころか少しでも私に悟られないようにしているのが私には何となくにだけど分かってしまった。彼はそういう人だ。

 私が勝手に気づいただけだから、変に指摘したりするのは躊躇ってしまう。彼の努力や気遣いを無駄にはしたくない。

 彼が不機嫌だからって、それで私も不機嫌になることはないけど、彼が不機嫌なのを気づいてしまうと、やっぱり気になってはしまう。

 

 うっ……一瞬、彼と目が合ってしまった。

 彼が不機嫌なのが分かっただけに、何だか気まずさが芽生えてくる。

 今はほんの少し沈黙が辛い。気まずさを紛らわす為に私は彼にふと思い出したことを聞いてみた。

 

「そういえば、午後からそっちは……自主練だった、よね」

 

 お茶を飲みながら、彼は頷く。

 朝、彼の今日一日の予定を聞いたら、そんなことを教えてくれた。

 ちなみに私は午後から本音を連れて整備室で整備科の子達に協力してもらいながら、弐式のメンテナンス。大掛かりなメンテナンスじゃないけど、かなり時間はかかりそう。

 すると、彼は迎えに来てくれるとのこと。

 

「うん、ありがとう……私のほうは多分かなり時間かかると思うから。ごめんね、待たせちゃうことになるかもしれないけど」

 

 私用で彼を待たせてしまうのは申し訳ないけど、こればっかりは仕方ない。

 彼も気にしなくていいって言ってくれたことだし、ここは素直にお言葉に甘える。

 それよりも今は、やっぱり彼の不機嫌さは変わってないのが気になってしまう。

 先日のアレが原因だとしても、アレはもう済んだこと。今更蒸し返すのもちょっとなぁ……。結局、今はそっとしておくしかないのかもしれない。

 

 

 

 

「よし……じゃあ、少し……休憩にしよっか」

 

「ん~疲れた~!」

 

 弐式のメンテナンスがキリのいいところまでいき一旦、休憩を入れる。

 お昼ごはんを食べ終え彼と別れてから、ここまで数時間ぶっ通しでやっていたせいか、皆の顔には疲労の色がある。ちょっと長めに休憩取らないと。

 

「ほい、かんちゃんもどうぞ~」

 

「ありがとう……本音」

 

 この整備室にいる皆の分の飲み物を買ってきてくれた本音から一本、ペットボトルのロイヤルミルクティーを受け取り、一口飲む。甘くて美味しい。

 さっきまで作業に集中していて考えることはなかったけど、こうして飲み物を飲みながら体や頭を休めていると、頭の片隅に追いやっていたことを……彼のことを考えてしまう。

 

 彼は不機嫌だった。原因といえるものがあればやっぱり先日のアレしか思い当たるものがない。

 アレとは、『話し合い』のこと。私達は殴りあったりはするのは当たり前にしないけど、言い争ったりする喧嘩もしたことがない。そもそも彼はとても理性的で自分の感情を上手くコントロールできちゃうから、感情的な喧嘩になったことは付き合って今まで一度もない。 

 喧嘩しないけど、だからって全部我慢してるってこともない。万が一感情的な言い争いにならないよう、私達は『話し合い』で解決する。といっても基本的に私のほうが言いたいことをばーっと言って、彼が黙って聞いてくれることがほとんどだけど。まあそれでも、私達は私達なりに上手く付き合っている。

 

「はぁ~……」

 

 だというのに、モヤモヤとして思わず溜息が出てしまう。よくないなぁ。

 私まで不機嫌になってしまいそう。私も自分の中で上手く解決しないと。

 彼が不機嫌な理由がおそらく先日の話し合いだとたどり着いたけど、アレはもう済んだこと。話し合いでお互いの気持ちを確認しあって、お互い一まず納得はしてそこで終わった。でも、全てが全て納得しきれるわけじゃない。それは私だってそう。だからこそ、今すぐには全てを完全に納得しきれなくて、彼は不機嫌になってしまっている。私が気づいてないだけで不機嫌にさせてしまったってこともあるかもしれないけど。

 もっとも八つ当たりされてるわけでも、不機嫌なのが表立って出てるわけでもない。話し合いから数日経っているけど、避けれるなんてこともなく毎日一緒に過ごしているし、パッと見普段通り。

 おそらく彼は彼で、その不機嫌さをゆっくりとでも解消しようとしてくれているはず。やっぱり、今はそっとしておくしかないのかな。

 

 そう分かってはいるけど、彼には少しでも早く機嫌を治してほしい。私の身勝手かもしれないけど、彼に不機嫌なままでいほしいくない。でも実際のところ、今私にできることはなく、ただ歯がゆさみたいなものだけが残る。どうしたらいいんだろう。あれこれ考えをめぐらしてみるけど、具体的な案が一向に思いつかない。

 

「か~んちゃん!」

 

「ひゃっ!」

 

 本音の大きな声が聞こえ、ハッと我に返る。

 

「どうしたの? ぼーっとして」

 

「え? あ……ううん、何でもないよ。うん何でもない」

 

 考え事をしすぎてぼーっとしてしまったみたい。

 適当に誤魔化してみたけど、このままじゃいけない。本音に気づかれてしまったんだ。このままだと彼には全て簡単に見抜かれてしまう。そしたら余計に心配とかかけちゃうかもしれない。平静でいないと。

 

「何でもないっていかにも悩み事してますって顔してたのに~ もしかして、彼氏君のことで悩み事かな?」

 

「なっ!」

 

 思わず、声をあげてしまった。わりと大きかったようで、本音以外の整備科の子達の視線も一気に私に集まる。

 これじゃあ、図星だと言っている様なもの。というか、図星だと取られて、目の前にいる本音がニヤニヤとして顔を向けてくるのが、内心すっごくイラっとする。

 ここは我慢しないと。何かリアクションでもしたりしたらもっと認めてるようなもの。本音にからかわれたくない。

 

「まあ、最近のかんちゃんが悩むことなんて彼氏君のことぐらいだよね~」

 

「っ……」

 

「彼氏君のことで悩み事か~ あっ、もしかして~! 喧嘩でもした~?」

 

「本音、声が大きい……!」

 

 視線が集まっている中で本音がそんなことを大きい声で言うものだから、整備科の子達も「何々、喧嘩したの?」と言いながら集まってきて、私は逃げるすべもなく野次馬に囲まれてしまった。

 

「更識さん達でも喧嘩するんだ」

 

「何かいが~い」

 

「や……その、喧嘩じゃないから」

 

「じゃあ、どうしてあんな風に悩んでたの~?」

 

 心配そうな視線を向けてくる本音と皆。

 皆心配してくれているのは私でも分かるんだけど、反面楽しそう。

 まあ、女子は恋話が好きってよく言うから、無理もないのかもしれない。昔は興味なかったけど、私も最近になって興味が少し出始めたから分からなくはない。特に他人の恋話なんていい話の種。学園で男女のカップルなんて私のところと、本音のところぐらい。あんなことあった後じゃ、いい話の種になるのは尚更。

 というか、どうしよう……この状況。出来れば話たくないけど、話さないってのはまず無理そう。言葉通り、取り囲まれてるから逃げ場がない。話すしかない。正直、私にはどうしたらいいのか思いつかないから、話すことで何か解決策みたいなものをもらえるかもしれないわけだし。ここは前向きに。

 

「えっと……その……」

 

「その?」

 

 皆の声が重なる。言いづらい。

 

「本当に喧嘩したわけじゃないんだけど……最近彼、ちょっと機嫌悪くて。別に喧嘩したり、怒らせたってことはない……とは思うの。そういう時、そっとしといたほうがいいってことは分かっているんだけど……早く機嫌治してくて。その為にどうしたらいいのか分からなくて……」

 

「それで悩んでいたと」

 

 こくりと私は頷く。

 

「あの彼氏君が不機嫌ね。いつも通りな感じにしか見えないけど」

 

「うんうん。そんな風に見えないからビックリだよ~」

 

 意外そうに整備科の子達と本音が言う。

 やっぱり、他の人には普段通りに見えているんだ。彼は同じ男子である織斑みたいに分かりやすいタイプじゃないしなぁ。話し合いがあったからこそ、私は気づくことが出来たけど、なかったら皆と同じ様に気づけずにいたのかもしれない。彼は隠すの上手だから。

 

「うーん、彼氏に機嫌なおしてもらうには、か……」

 

「やっぱり、何で機嫌悪いのか聞くとか?」

 

「そんな簡単に言われても……出来たら、もうやってる」

 

 出来ないから、こうして困って悩んでいるというのに。凄くモヤモヤする。

 

「でもさ、それか、話し合いするかなくない? 今時、女の方が男に変に気を使うのはおかしいじゃん。疲れるだけだし、ここは一つ強気に出ないと。それでもほっといてほしそうにしれたら、ほっとくしかないけどね」

 

「そうそう。男に舐められたらお終いよ」

 

 そんな自信満々に言われても。それに何かおかしい。いや言っている言葉の意味は分からなくはないけど。

 第一、そういうのじゃない。彼とは舐める舐められるって感じにはならない。

 でも、話し合い、か……そっとしておくのがやっぱり本当は一番だし、済んだ話を蒸し返してしまうようで気が引けるけど、このままってのはお互いによくない気がする。強気ってわけじゃないけど、ここは勇気を出してみよう。

 

「……まあ、そうだね。やっぱり、もう一度彼と話し合いしてみる。ありがとう……皆」

 

「お礼だなんていいよ。ね」

 

「うんうん。更識さんの話きけてよかったよ」

 

 結局、話し合いという初めからある答えにたどり着きはしたけど、私一人だったらずっとうじうじ悩んでいただけな気がする。 こんな風に決心しきれなかった。本当感謝しないと。

 そんなやり取りを皆としているとそれを見ていた本音が何故か微笑ましいそうに見ている。それこそ、子供の成長を見守る親みたいな感じで何か嫌なんだけど、それ。

 

「……何なの、本音」

 

「いや~かんちゃん、本当に丸くなったなぁと思って~」

 

 丸くなった? 

 自分ではそうは思えず、意味が分からなくて私は首をかしげた。

 

「あ、確かに。正直、こんなに素直に話してくれるとは思ってなかったもん」

 

 言わざるおえない状況だったから話したんだけど……とも思ったが、確かに以前の私じゃこんな話しなかったと自分でも思う。

 

「初めて会った時の更識さんは何ていうかこう凄いツンツンしてたもん。正直、昔の更識さんとじゃこんな風に仲良くなれよかったよ」

 

「確かに。でも、それが今じゃこんなに丸くなって。恋人が出来ると変わるって本当だったんだね」

 

「うんうん。今の方が親しみやすいよ。今の更識さんの方が可愛くて好きだなぁ」

 

 今度は本音だけじゃなく、整備科の子達にまで微笑ましいと言わんばかりの目を向けられる。むしろ、ニヤニヤされてる。

 自分でも彼女達と会ったばかりのころはツンツンしていた自覚はある。あの時は心に全然余裕なかったから。でも、それが彼と付き合い始めて変わった自覚もある。

 変わったってことはいい方向にってことでいいことなんだろうけど、こうニヤニヤされては居たたまれなくて素直に喜べない。それに何だか顔が熱い。

 

「おっ、更識さん。顔真っ赤~ひゅーひゅー」

 

「ふふっ。かんちゃん、可愛いね~」

 

「本当。更識さんは妹的可愛さがあるよね~ 更識会長が可愛がるのも何だかよく分かるわ」

 

「もうっ……や、やめてってば~」

 

 その後、作業再開を告げるまで私は皆に猫可愛がりするように遊ばれてしまった。

 

 

 

 

 スマホのバイブが鳴る。

 一旦作業の手を止め、スマホを手に取り、ディスプレイを見てみるとラインの通知が来ていた。

 内容は彼から訓練が終わったから今から迎えにいく、というものだった。

ディスプレイに映っている時間を確認してみれば、もうそんな時間なんだと思った。弐式のメンテナンスは終盤に差し掛かり、作業工程としては後少しだけど、時間はかかって彼を待たせることには変わりない。

 

「かんちゃん、どうかしたの~?」

 

「……うん、ちょっとね」

 

「ん~? それ彼氏君から?」

 

 ラインのことを指して言う本音に私は頷く。

 

「うん……迎えにくるって」 

 

「愛されてるね~」

 

「もうっ、そういうのいいから……さっ、作業作業」

 

 ニヤニヤしてる本音にまたおもちゃにされそうになったので、素早く逃れる。

 数分後、彼はここ整備室にやってきた。

 入ってくるなり、早速彼も本音や他の子達に遊ばれていた。

 

「お~い、更識さん。彼氏君が迎えにきたよ!」

 

 わざっと大きい声をあげて、私に声をかけてくる。

 何だか気恥ずかしい。それは彼も同じようで、少し気恥ずかしそうにしながらこっちへやってきた。

 

「ごめんなさい、まだ終わってなくて。もう少しで終わりそうなんだけど……」

 

 私が彼にそう言うと、彼は気にしなくて言いと声をかけてくれた。

 手伝いたそうにしていたけど、弐式のメンテナンスは今専門的なことをしている。彼には悪いけど手伝ってもらうようなことはない。それを彼も分かっているようで、邪魔にならない適当なところに腰を下ろして待ってくれた。

 

「この調整ならスラスターの出力安定してきた」

 

「そうだね。でも、更識さん。これだとやっぱりここの数値が」

 

「あ……うん、だったらこことをこうしたら」

 

 メンテナンスは続けているけど、その最中彼からの視線が痛い。

 睨むような悪い意味ものではなく、何というか……こう暖かい視線。まるで休憩中、本音から向けられた親が子供に向けるような暖かい視線で、嫌な気持ちになったりはしないけどむず痒い。本音といい、彼といい二人してそんな視線向けてくるほどのことじゃない気がするのに。

 それからメンテナンスは一時間近くかかってしまい、ようやく終わった頃には夕食時前になっていて、今日はそのまま解散の流れになった。

 

「ありがとう、皆。今日、メンテナンスに付き合ってくれて……助かった」

 

 皆を前にして、改めて皆に俺を言う。

 このメンバーに弐式のメンテナンスを手伝ってもらうのはもうかなりの回数になるけど、やっぱり腕がいい。何より細かい融通が利くのがいい。正直、倉持の正規メンテナンススタッフとメンテナンスにあたるよりもやり易い。

 私自身彼女達と仲良くなったと思う。彼女達には今回も感謝に尽きない。

 すると、真面目にしすぎたせいか、彼女達は照れくさそうに小さく笑っていた。

 

「いいよ、そんなの水臭い。こっちとしては弐式のメンテナンスはいい勉強になるからね」

 

「そうだよ、更識さん。専用機なんてこうでもしないと関われないから頼ってくれてありがたいよ」

 

「うん、本当……ありがとう」

 

 私はもう一度感謝の言葉を言った。

 いい雰囲気なのは確かだけど、何でまた彼と本音は子供を見守る親の様な暖かい視線を向けてくるんだろう。

 

「じゃあ、お腹空いたしそろそろ帰るかな」

 

「だね~ かんちゃん、彼氏君。またお夕飯のときね~」

 

「アタシお腹ぺこぺこ。あ、後はカップルでごゆっくり」

 

 夕食時近くのいい時間なので本音やメンテを手伝ってくれた子達は早々に帰っていった。

 すれ違い様、整備科の子達がウィンクしてくれた。きっと、気を遣ってくれたんだね。

 その証拠に、整備室には私と彼だけが残った。

 

「……」

 

 場に立ち込める沈黙。

 せっかく皆が気を遣ってれて、状況的にはもう一度話し合い出来るというのに、沈黙を作ってしまったせいか気まずくて言い出しにくい。

 少しでも気まずさを紛らわすために、黙々と帰り支度をしてしまっているけど、感じ悪いのは自覚している。このままじゃいけないことも。勇気を出すと決めたんだから、ここは躊躇せず早く言ってしまわないと。

 

「あの……!」

 

 間が悪く、彼と同じ言葉が重なり、二人して顔を見合わせる。

 どうしよう。余計に気まずくなってしまった。これからどうやって話し出そうか私が迷っていると、彼のほうから先日のことなんだけど、そう話出してくれた。

 

「先日……うん」

 

 彼が何を言いたいのかはすぐに分かった。

 彼もまた先日の話し合いについて何かまた話したいことがあるのかもしれない。そんな気がする。

 すると、先日の話し合いで彼が私を不機嫌にさせてしまったと謝ってきた。彼の様子は真剣そのもので、かなり気にしている様子。私は慌てて否定した。

 

「謝らないで。あれは済んだことだし……すんだことなのに私が一人で勝手にモヤモヤして不機嫌になってただけだから。というか、あなたも気づいてんだね」

 

 彼に私が不機嫌だと指摘されて、ずっと胸にあったモヤモヤの正体が何なのか、何でモヤモヤしているのか分かった。

 私も彼と同じ様に先日の話し合い関係のことで不機嫌だったんだ。でも、このモヤモヤ、不機嫌さは言った言葉通り、話し合いが済んだにもかかわらず私が上手く自分の中で解決できなくて、私が一人勝手にモヤモヤとして不機嫌になっていただけのこと。

 彼が謝る必要はないし、それでところかあの話し合いからずっと不機嫌だった私を気遣ってくれていたんだと分かって、私のほうが余計に申し訳ない気持ちで一杯。彼も彼で不機嫌なのを自分なりに自分の中で上手く解決しようとしてくれていたのに。

 

「あなたも不機嫌だったよね。でも、不機嫌でも八つ当たり何かせず、普段通りにしようと頑張ってくれて、その……ずっと我慢させちゃったよね。私のほうこそ、あなたを不機嫌にさせちゃってごめんなさい」

 

 申し訳なさ一杯で私は思わず、彼に向けて頭を下げた。

 頭を下げるような大げさなものじゃないけど、なんだか申し訳なさ一杯で頭を下げられずにはいられない。案の定、彼は困った顔をしていたけど、特に気にしている様子はなく。それどころか優しげな苦笑いの笑みを浮かべていた。

 

「じゃあ……お互い様……ってこと?」

 

 彼も微笑みながら頷き、私達は二人して笑いあった。

 何だか肩の力が抜けた気分だけど、それと一緒にモヤモヤとした不機嫌さはもうない。

 すっきりとした気分で、それは彼も同じな様子でよかったと言って安堵の表情を浮かべていた。

 

「あなたのおかげだよ。私のことをちゃんと考えてくれていて、それが分かって嬉しかった。それにあなたも機嫌直ったみたいだね」

 

 私はほっと胸を撫で下ろした。

 結局、二人して同じ様なことで不機嫌になって、同じ様に考え合って謝りあった。おかしな話。

 だけど、彼は不機嫌な時でも私のことを考えてくれていて、それが分かって何だか嬉しい。

 やっぱり、これは仲直りってことになるんだろうかと彼は言う。仲直りか……そ

 

「ふふっ、そうだね。まあ……喧嘩してないのに仲直りってのは変だけど」

 

 まったくだと彼は苦笑いしていた。

 こんな話も、それどころか先日の話し合いも他の人に聞かれでもしたら、呆れられて、それこそいい話の種にされてしまいそうな些細な話。

 だけど、例え喧嘩してなくても彼と仲直りできてよかった。

 だって……。

 

「私はありのままであなたといたい」

 

 いつだって、そう心から素直に思えるから。

 ありままであなたと幸せなありふれた日々を過ごしたい。 

 

 …




前回の話の簪視点。
整備科の子達というか原作で言うところのいわゆるモブ子達と和気藹々と仲良くしてる簪可愛い。
原作でも見たかった……
この物語の簪は、一夏に恋してないので、原作のヒロイン達との関係は原作以上に希薄で中がよくない(不仲ってことではない。
顔見知り程度で、その代わりに4組のクラスメイトや整備科の子達と仲がいい簪。
そんな感じです。

感想、ご意見などを随時受け付けております。些細な一言でも構いませんので、お気軽の書きこんでいただけると幸いです。

今回もまた簪の相手である男性はオリ主です。決して一夏ではありません。
無論、主人公は簪が好きなこれを読んでいる貴方かもしれません。

それでは
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