簪とのありふれた日常とその周辺   作:シート

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簪と出かけた日

 「~♪ ~♪」

 

 隣で静かながらも楽しそうにしている簪を横目にしながら、俺達は今いるショッピングモールを周る。

 曜日は日曜。時刻は午後一時過ぎ。

 休日、それも昼間なのだから当たり前のように人は多く、油断していると逸れてしまいそうなほどだ

 そんな今日、ここIS学園へと行ける最寄り駅前にあるショッピングモール『レゾナンス』に来ていた。

 目的はデートと言いたいところだが、なくなってきたシャンプーやティシュペーパーなどといった雑貨品を買いに来ているのが実際のところ。簪は俺の買い物に付き合ってくれて、デートはそのついでだ。

 

「でも、こうして外でデートするのって……久しぶり、だね」

 

 確かにそうだ。

 簪とは毎日一緒に過ごしているけど、こうして外でデートするのは久しぶりだ。いつも簪とのデートは学生寮にある俺の部屋での俗にいう家デートがほとんど。

 むしろ、こうして学園がある人工島から出るのすら久しぶりな気がする。今みたいに学園では買えないようなものを買いに出る以外は基本IS学園にある購買部で買い物すれば事足りる。

 

「ふふっ……何だか一緒に歩いているだけで、楽しい……幸せ」

 

 くすりと隣の簪が楽しそうに、そして幸せそうに微笑む。

 そんな簪を見ていると、俺の方もまた楽しく、幸せな気持ちになってくる。

 ついで、なんて言ってしまったが、付き合っている男女二人が外でこんな風に一緒にいれば、歴としたデートであることには変わりない。

 買い物の為に来たのだからもちろん買い物はしないといけないが、何も急ぐ必要はない。今は買い物よりも簪とのデートを優先だ。それを伝えるべく繋いでいる手に優しく力を入れる。

 

「ぁ……ふふっ」

 

 簪もぎゅっと握り返してくれた。

 

「何だか……見られてるね……」

 

 ジロジロ見られているわけじゃないが、ちらちら見られているのは俺も感じていた。

 無理もないのかもしれない。それは簪が日本の代表候補だからとかそういう無粋なことではなく。

 休日、それも外でのデートだから簪は可愛らしく、尚且つ綺麗にお洒落している。その姿がいつもとはまた違って凄くいい。

 それどころか簪は、そこらへんのアイドル顔負けの人形のように整った綺麗で可愛らしい容姿をしている。だから、お洒落しているのと相まって余計に人目を引く。

 ゆえに当然如くこの視線の数々は簪に集まっているのだが、当の本人である簪の視線は俺に向かっていて、自分に視線が集まっているなんて微塵も思っていない様子。それどころか。

 

「んっ……あなたは、私の恋人」

 

 俺にだけ聞こえる小さな声でそう言うと、その言葉を示すかのようにぎゅっと握りなおされる。

 表情はそうではないが、声色は心なしかむっとしている。

 どうやら簪は、この視線の数々が俺に集まっていると思ったらしい。

 この視線の数々は明らかに簪に集まっている羨望の眼差しだというのに。むっとした声から思うにもしかすると、焼きもちを焼いてくれたのかもしれない。そうだったら嬉しい。

 そんな視線の数々をこれ以上特に気にとめる事はなく、ショッピングモール内をぶらつく。

 

「あ……本屋」

 

 俺達の目についたのはレゾナンスの中にある大型書店だった。

 

「確かここって……前一緒に見たデート雑誌に載ってたよね」

 

 簪が言った通り、この書店はデート雑誌に載っていて、デートスポットの一つでもある。

 一般的な書店としても利用でき、脇には喫茶スペースがあるのでゆっくりできるのだとか。

 買いに来たものを急いで買いにいく必要はない。ぶらつくには丁度いいところだし、折角だから中に入ってみようか。

 

「うん、入ろう。前からちょっと気になってたの」

 

 実は俺もだ。

 早速店内へと入る。

 

「わぁ……凄い」

 

 驚いたような声を小さくもらす簪。

 のんびり穏やかな店内BGMが流れており、静か過ぎず煩すぎずと、店内は比較的落ち着いたいい雰囲気。

 雑誌にデートスポットとして乗っていた通り、カップルが多い。だがそればかりではなく、友達連れ家族連れなども沢山いて、賑わっているのが一目でわかった。

 立派な建物の外観と同様に品揃えも充実しているように見える。その中でも一際目立つのがIS関連のピックアップコーナー。IS学園近くだからというのもあるんだろうが、凄く大々的だ。男の俺でも知っているような有名操縦者の特集が組まれた専門誌などたくさんの書籍が並べられている。

 それらを脇目に俺達は、とりあえず漫画やラノベが置いてある方へと向かった。

 ここも品揃えが充実している。専門店並みの品揃えだ。こうして眺めているだけで楽しいものがある。 

「これ、新刊出てたんだ。これも」

 

 棚に置かれている本を簪はおもしろそうに物色している。

 新刊が置かれている棚にも沢山の漫画やラノベなどが置かれていた。

 その中には俺がIS学園に入学するまでは集めていたものがいくつかある。懐かしい。昔はよくいろいろな本を買っていたが、入学してからは最低限のものしか買わなくなった。後は全て電子書籍ばかり。

 

「あ……私もそうだね。本だと、かさばるから……」

 

 それが現実問題としてやっぱり一番大きい。

 俺達は寮生活をしている身。実家みたいに自由な置き場所があるわけじゃない。だから、紙書籍類は置き場所に困る。何より、漫画やラノベは一度買って新刊を見かけると続きが気になったりして欲しくなってしまう。結果、数が多くなってかさばってしまう。

 今も現に昔集めていた奴の新刊を見かけて欲しくなっているところだ。まあ、後のことを考えると諦めるしかない。紙書籍のほうが読んでいる感じがして好きだけど、この欲しいやつも電子書籍ですませるか。

 そういう理由で本は買わないが、それでも気になる本は沢山ある。中には俺と簪、どちらも知っている物語も多くあった。

 

「これ知ってるんだ。あのね、これってね」

 

 いつもの静かな様子とは対象的に、饒舌に簪はその作品について話し始める。

 簪がアニメや漫画、ラノベなどを好きなのは知っている。俺もまたそうで、簪が笑顔で今熱心に話してくれている物語についても知っているので、自然と俺達は話が弾む。

 周りの迷惑にならないように気をつけながら話題に花を咲かせた。

 

「ごめんなさい……私ばっかり、話しちゃって」

 

 話が一旦途切れると饒舌に話していたことを自覚したのか、簪はしゅんと表情を沈ませる。

 別に気にするほどのことでものないのに。確かにマニアックな話が多かったけど、なるほどとつい関心してしまうようなおもしろい話ばかりだった。それに本当に好きなんだなぁってのがよく分かった。いつもとは違う簪を、そして何より、楽しそうにしている簪を見れたんだ。適当に入ったとは言え、入った甲斐があるというもの。それだけで満足だ。

 

「ん……ありがとう」

 

 簪は安心したようにニッコリ微笑んだ。

 

 

 

 

 本屋で割りと長い時間を過ごした後、俺達は再びシッヨピングモール内をブラつく。

 その最中、喫茶店を見つけた。長いこと立ったり、歩きっぱなしだったので、折角だから休憩がてらその喫茶店でお茶をすることにした。

 店内に入ると、席に案内され、向かい合うように座る。案内された席は端のほうで、あまり人目のつかないところだった。

 簪は抹茶味のロールケーキとミルクティーを、俺はショートケーキとコーヒーを注文した。

 

「ん~……美味しい」

 

 ニコニコと満面の笑みを浮かべながら簪は嬉しそうに食べている。

 その言葉も仕草もなんだかやたらと可愛く、胸がこそばゆい。

 だから、なのかつい見惚れてしまう。

 

「? どうかした?」

 

 見惚れすぎていたようで、不思議そうに簪は問いかけてくる。

 本当に甘いもの好きなんだなと思って。

 そんな風に嘘ではないが適当に誤魔化し、俺も一口ケーキを食べる。

 

「うん。だから、こんな風なケーキ……自分でも作れたら素敵だなぁ……って」

 

 手作りケーキか。

 簪はお菓子作り上手だから、きっと美味しいのだろう。

 出来れば、ぜひ食べてみたい。

 

「いいよ……だったら私、腕によりをかけて頑張るから」

 

 小さく意気込む簪。

 そんな話や他愛のない話していると、ふと簪がちらりと俺の手元と俺の顔を交互に見てくる。

 俺の手元にはまだ半分残っているケーキがある。

 そういうことか……簪が何を思って見てくるのかすぐさま分わった。

 俺はケーキを食べやすいよう一口サイズにすると、そのまま簪へとそれ刺したフォークを向けた。定番の台詞もつけて。

 

「えぇっ……ぁ、あ~ん……」

 

 頬を赤く染め驚いた簪は、一瞬迷った様子だったが、ゆっくりとその小さな口を開けて食べてくれた。

 

「……ぉ、美味しいね……」

 

 それはよかった。やったことは幸いなことに的外れではなかった様子。

 顔を俯かせながら、恥ずかしそうにしながらも嬉しそうにしている簪の様子を見れて、大満足だ。何だか大変気分がいい。

 簪の可愛い様子を楽しみながらお茶していると簪が。

 

「……じゃあ、あなたも。お返し」

 

 そう言って自分のケーキを簪は、俺がやったように食べさせてくる。

 一瞬戸惑った拍子に目が合ってしまった。向けられる凄いキラキラとした期待の眼差し。

 選択肢は食べるの一択のみなので、大人しく口を開けて食べる。

 

「美味しい?」

 

 言葉なく俺はただ頷く。

 やり返されることを予想してなかったわけじゃないが、まさか本当にされるとは。

 自分でやっていてアレだけが、こういうのは何度やっても気恥ずかしいものがある。

 

「む、ポーカーフェイスして……無駄なのに。ふふっ」

 

 簪が満足げに微笑む。してやったり、とでも言うかのよう。

 その様子は愛おしい。まったく、敵わない。そんなことをしみじみ思わさせられる。

 ただ、その愛でるような視線はやめてほしい。余計に恥ずかしくなってくる。

 

 

 

 気づけば、日が沈みかけ始めた頃。

 本来の目的であった雑貨品を最後に買った俺達は、門限近くになったので寮へ帰るべく、 IS学園のある人工島行きのモノレールに揺られていた。

 今日一日時間経つのが本当に早かった。素直にそう感じさせられる。

 楽しい時間はあっという間なんて言う暇がないほど凄まじい早さで過ぎていった。

 まあそれだけ、楽しかったということ。

 

「……すぅ……」

 

 隣で簪が気持ちよさそうに小さな寝息を立てて眠っている。

 久しぶりの外でのデートを簪も楽しんでくれたみたいだし、珍しくはしゃいでいたから、疲れてしまったんだろう。

 眠くなるのも仕方ない。駅に着くまでの短い間だが、ゆっくり寝かせといてあげたい。

 別の車両には学園へと帰る生徒が乗っている様子だが、幸いことに俺達が乗っている車両には俺達のみ。だから、こうして寝ている簪と寄り添っていても特に問題はない。

 

「んっ、ん……んんっ……」

 

 本当に気持ちよさそうに眠っている。

 だというのに、繋いだ手は握ったまま。オマケに口元が嬉しそうに笑っている。きっといい夢でも見てるのかもしれない。

 




一夏とのほほんさんカップルのデートの話は書いたのに肝心のこの二人のデートの話を書いてないなと思い脳内整理の為に投稿。
簪とはこんな風にデートしたい。しくたない? したい。

読者の皆様には可愛い簪を楽しんでニヤニヤしてもらたいけど
このカップルまたはこのカップリングで行われるひとコマを読んでいただき、二人のやりとりでニヤニヤして楽しんでもらいたい今日この頃。

今回もまた簪の相手である男性はオリ主です。決して一夏ではありません。
無論、主人公は簪が好きなこれを読んでいる貴方かもしれません。


それでは
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